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【第1章完結】つなガール!~つながらない二人のバレーボール~  作者: 松竹梅竹松
第1章 わたしとあたしのはじめまして

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第1章 第17話 はじめましてのやりなおし

「ねぇ水空さん、どこ行きたい?」

「……アパレルショップ」


「あ……あぱ……?」

「服屋さんです」


「あーブティックね! 水空さん服買いたいの?」

「いえあたしのじゃなくて……ていうかブティックってなんですか……?」



 半ば……というか完全に脅迫の形でショッピングに付き合うことになったわけだけど……早くも帰りたい。会話が噛み合わないのは前提として、根本的に性格が真逆だと思うんだよな。小野塚さんは熱血系で、あたしはクール系。陽と陰というか、光と影というか……こう表すとなんかあたしが陰キャみたいで嫌だけど、とにかく合わない。趣味の合わない人と一緒にいても疲れるだけだ。



「あ、パフェ! わたしパフェ食べたい!」

 げんなりしていると、唐突に小野塚さんがモール内にある喫茶店を指さした。どうせショーウインドーにあるパフェの食品サンプルを見て惹かれたのだろう。単純な人だ。



「水空さんは甘いもの好き?」

「好きですけど……こういうのって歩き疲れた時に寄るもんじゃないんですか?」

「食べたい時に食べればいいんじゃない? すいません二人なんですけどー」



 まだ了承もしていないのに勝手に店内に入っていく小野塚さん。今日は付き合うと言ってしまったので別にいいけど……なんだかなぁ。



「どれにしよっかなー。水空さんはなに食べたい?」

「おまかせで。ただあんまり大きいのはなしで。バレーのためにも体重増やしたくないんです」

「ふーん。店員さんすいません、チョコレートパフェ一つと、ウルトラデラックスパフェ一つ」



 メニューは見てないけど馬鹿っぽい名前……。まぁ何でもいいや。小野塚さんは勝手にさせていればいい。あたしはあたしのやるべきことを。スランプ脱出のことだけ考えてれば……。



「それと『ラブラブ! あなたのことが大好きなのセット』! 以上で!」

「はぁっ!?」



 せっかく小野塚さんのことを気にしないよう努めていたのに、さらに馬鹿っぽいというか、聞き捨てならない台詞が飛び込んできた。店員さんがメニューを持っていこうとしたのをひったくり、内容を確認する。



「な、なんですかこれ……!」

 メニューに書かれていたのはパンケーキとドリンク……それはいい。でもこのドリンクについてるストロー! ハート型になってて飲み口が二つついている、どこからどう見てもカップル専用のものだ。



「なんでこんなものを……!」

「ほら書いてあるじゃんここに。今スポーツフェアやってて、あのバレーボールのマスコットのキーホルダーがもらえるんだって。わたしこのキャラ好きなんだよねー」



 ……確かに書いてある。書いてあるけど、さぁ……!



「あたしこんなの飲みませんからね……!」

「えー、おまかせって言ったじゃん。頼んだ後に断るのはズルだよ。それにちゃんとカップルってわかるようにしなきゃだめって補足もあるし、飲まないのはなしだからね」


「そう言われても……こんなの誰でも嫌がりますって……」

「美樹なら絶対協力してくれるんだけどなー」


「あたしを馬鹿扱いしないでください……」

「いまナチュラルに先輩のこと馬鹿って言った?」



 あーもうなんでこんなことに……。こんなことなら黒歴史を公開してでも帰るべきだった……。



「……水空さんってさ、言うほど子どもっぽくないよね」

 背もたれに寄りかかり大きくため息をついていると、小野塚さんがテーブルに頬杖をつきながらつぶやいた。



「いや双蜂さんが言ってたんだよ、水空さんは子どもだって。わたしもその時は確かにって思ったんだけど、いざちゃんと話してみたらイメージよりずっと大人っていうかクールっていうか冷たいっていうか……なんかバレーしてる時と全然イメージ違う。普段はもっとかわいげがあるよね」



 ……なにその言い草。それはそうだろう。



「バレーは楽しいですから。……でも今は楽しくありません。何度も言ってますけどあたしはバレーをやってれば……」

「そういや今日バレーの話禁止だった! ……でも考えてみればその通りだよね。普段の自分とバレーをやってる時の自分。違うのなんか当たり前だよね。違うことをやってるんだから」



 小野塚さんが何を言おうとしているかはわからない。でも確かに違和感はあった。普段、小野塚さんはここまでうざくなかった。こんなに楽し気に話しかけてくることも、ここまで自由奔放なこともなかった。バレーをやっている時は一生懸命で、いつも余裕なくて、もっと熱血って感じだったのに……今は違う。



「わたしはわたしなりにさ、水空さんのことをもっと知ろうって思ったわけだよ。そのために慣れないショッピングモールに来たり、無理矢理喫茶店に入ったり。どんなのが好きかなーって訊いてみたりもしたけど、ちょっとうざかったよね。ごめんごめん、ちょっと反省」



 気まずそうに、でもわたしを気にかけながら微笑む小野塚さん。こんな表情は見たことなかった。いや、見ようとしなかっただけだ。バレー以外はどうでもいいからと、先輩として後輩であるあたし個人を気にかけている小野塚さんを。



「考えてみればわたしたちってお互いの部活の時の姿しか知らないわけじゃん? 色々……色々ありすぎたからさ。部活の時はぎくしゃくしちゃうし、同じポジションを狙うライバルなんだからどうしても仲良しーってわけにはいかないと思う。でもずっとそうしてなきゃいけないってこともないでしょ? せめて部活の関係ないところでは先輩らしくって……思ったんだけどね。中々上手くはいかないなー。やっぱ絵里先輩はすごいや」



 ……小野塚さんはあたしのことを大人っぽいと言った。でも違う。子どもなのはずっとあたしの方だった。バレーのことばっかり考えてて、小野塚さん個人を見ようとしなかった。



 こんなあからさまに冷たい態度を取っているのに、それでも話しかけてくれる小野塚さん。本当はあたしを怨んでいるはずなのに、それでもあたしのことを知ろうとしてくれている小野塚さん。



「……やっぱり飲みたいです、ラブラブセット」



 そんな先輩のことを、もっと知りたいと思った。

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