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≪21≫ 平穏の代償

「なるほど! リーダーここからは私が」

「お、おう」


 ビン底眼鏡の女魔術師(ウィザード)ビオラが、何故か手帳と筆記具を取り出しつつ身を乗り出した。


「単独生活するドラゴンは一般的に言って子育て中は行動範囲が狭まります。

 これはもちろん子どもを守るためですね。子どもが多く弱いほどこの傾向は顕著です。

 ですが更に稀な事例として虚弱な子が生まれた場合ドラゴンは巣の近辺で『変異体』を狙った狩りをする場合があります」


 頭の中に学術書を丸ごと放り込んでいるのかという勢い。立て板に水で彼女は語り倒す。


「この理由は主に三つです!

 まず虚弱な子を強くするために最良の餌が自らの力を受けた『変異体』であるということ。

 第二に強力な『変異体』は更なる力を求めてドラゴンの雛すら食らうため! 要するに間引きで雛の脅威を減らしているんですね。

 第三に単純に巣を離れずに狩りができるためです。

 こう言うと合理的にも思われますが普通はやらない苦肉の策です。何故ならドラゴンにとって『変異体』は都合の良い用心棒でもあるためです」


 全てには理由があった。

 ルシェラが急に強くなったことにも。

 幸せな生活を送れたことにさえ。

 

 あの平穏のためにカファルがどれほどの代償を支払っていたか。

 知るほどに、何かの決意にも似た重い感情が腹の中に溜まっていく。


「実際かのレッドドラゴンはクグセ山では狩りをせず離れた場所へ出かけて狩りをしては戻って来る生活をしていたそうです。

 ところが最近はずっと山に籠もりきりでした。卵を抱いているらしいという情報はギルドも掴んでいましたので虚弱な雛が生まれて雛を守ろうとしているのではないかという可能性は私も考えておりましたよ」

「……最近、急にカファルは遠くに出かけるようになった」

「だとしたらそれは『変異体』の減少によって雛竜の脅威が薄れたためでしょうね。

 いえこの場合は雛竜と申しましてもあなたのことですが」


 付け加えるなら、『変異体』を餌とし続けたルシェラが充分強くなったから、というのも、カファルが今になって遠出をするようになった(できるようになった)理由だろう。


 ルシェラは最近、巣から少し離れて歩くようになった。

 『変異体』にあまり出遭わないのは、自分が巧く忍び歩いているからだと思っていた。

 魔物に出遭っても戦えるのは、運良く弱い魔物と遭遇したからだと思っていた。


 違った。


「この魔物マニアめ」

「でへへへ……ありがとございます」

「褒めてねえ、ちょっとは聞く側の気持ちを考えろ」

「うへ?」


 ティムはビオラを小突いて黙らせた。


「もしかして、最近冒険者が入れるようになったってのも?」

「セトゥレウの冒険者ギルドは『変異体』の減少を受け、クグセ山の脅威度等級を引き下げて禁域指定を解いた。

 わかりやすく言うと、特別な事情が無くても冒険者がこの山に入れるようになって、探索や採集の依頼クエストも受け付けるようになったんだ。

 竜気の満ちた山は良い薬草が育つし、『変異体』も上手いこと狩れるなら解体バラして売って大儲けできるから、俺たちにゃ大いなる恵みだ」


 ティムは苦い表情だ。


「俺らも麓の方に迷い出た『変異体』を三頭ほど仕留めた。

 良い金になったと喜んでたが、それどころじゃなかったんだ。

 ……マルトガルズが動き出した」

※作者の過去作に似たようなキャラが居ますが、別世界の別人です

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