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フィナ、エドモンド、ドナside.
「お父様ぁ、また新しいドレスと宝石が欲しいのよぉ」
そう言って、いつもの様に食事中にフィナがおねだりをするとエドモンドは苦笑しながら答えてくる。
「こらこら、この前もドレスは買っただろう。流石にクローゼットの中は一杯じゃないか」
内心ではいくらでも買えばいい、そう思いながら。
「大丈夫よぉ。お姉様の部屋をクローゼットにすれば良いんだものぉ」
フィナのその言葉を聞くなり、「さすがはフィナだ。私に似て頭が良いことを思いつくじゃないか」と、エドモンドは誇りに感じて。
「えへへぇ、お父様の許可はもらったからお母様もお揃いのドレスを買いましょう」
「うふふ、良いわよ……と言いたいけれど、そろそろお腹の子の事も考えてあけないと」
「ああ、そっかぁ。うーーん、じゃあねぇ、お姉様の部屋をクローゼットじゃなくて赤ちゃん部屋にしようかなぁ」
「あら、それはいい考えじゃないの。ねえ、あなた」
孫のことを考え、そんなことを言ってくるならなおさら。
そう思いながらエドモンドは笑顔で頷く。
「そうだな。生意気なハンナの部屋はもういらないだろうしな。はははっ」
ただし、突然、壁を強く叩く音でエドモンドの笑顔は消え、飛び上がるほど驚いてしまったが。フィナやドナと共に。
「な、なんだ!? 地震か!?」と、辺りを見回して。
視界に執事ゼバスが壁に手を当てている姿が入るとすぐに舌打ちをしたが。それは侍女達が凄い形相で三人を睨んでいても。
何しろ、このタウンハウスの主はエドモンド達なのだから。
「ねえ、何か文句あるの?」
そして立場的にも。
そのことを理解しているフィナが高圧的な態度で質問をする。ゼバスは物怖じせずに冷めた口調で答えてきたが。
「ハンナお嬢様の部屋を弄らせるわけにはいきません」
「なんでよ! お姉様はどうせもう起きないんだし、私が有効的に使ってあげるわよ!」
「そうよ、フィナはこれから子供ができるの。だから、部屋が必要なのよ!」
「他の空き部屋があります」
「そんなの駄目よ。あの部屋が良いんだもの」
「本気で言っているのですか? 旦那様はどう思われているのです?」
「ふん、当然、フィナの意見を尊重するに決まっているだろう」
エドモンドがそう答えるなりゼバスは心底呆れた表情にも。
「やはり、ハンナお嬢様の事は心配されていないのですね……」
そう呟きながら。
「当たり前だ。あいつは私にいつも生意気に意見するんだぞ! 全く、母親にどんどん似てきよって!」
エドモンドがそう言ってくるなり「失礼ながらそれは貴方様が領地経営を上手く回せていないからではありませんか?」
そう冷めた口調で言葉を返しも。
わざと馬鹿にするように大きく溜め息を吐いて。
なのでプライドを傷つけられたエドモンドは顔を真っ赤にしながらゼバスを怒鳴ったが。
「なんだと! 使用人のくせに生意気だな!」
それこそ唾が飛ぶほどの勢いで。
ただ、ゼバスの怒りのこもった「我々は貴方達の使用人ではないのですがね……」
その言葉を聞くなりエドモンドは先ほどよりも威勢が削がれてしまったが。
「う、うるさいぞ! 伯爵である私に意見するな! お前らはクビだ! 出ていけ!」
なんとか虚勢は張る事ができたが。
「……ほお、よろしいのですか?」
「構わん。資金援助はするってあの商人の女が言ってたから金はある。お前らの代わりに新しい使用人を雇えば良いんだからな」
そう言っているうちに再びエドモンドは自信がついてきて。それこそ隣で愛する妻ドナが何度も頷いてくれれば。
「そうよそうよ。いつもこうるさくしていたから、あなた達がいなくなるのは清々するわ」
「お父様ぁ、お母様ぁ、私格好良い従者っていうのが欲しいなぁ」
「おお、良いぞ良いぞ」
「私は新しいネックレスが欲しいわね」
「金ならいくらでもあるから大丈夫だ。何しろ金はいくらでも入るのだからな」
家族の絆は凄い力をくれる、エドモンドはそう実感もしながら。
ただ、「何を言ってるのよ。お前達にあげるお金はもうないわよ」と、声が聞こえてくるなりエドモンドは目を見開いてしまったが。
「はっ?」
そして、声の主を必死に探しも。
三人を蔑んだ表情で見るソニアを見つけるなり再び、エドモンドは勢いを戻し、怒った表情を向けたが。
「なっ、ふざけるな! 貴様はキリオス伯爵家に資金援助をすると言ったろう!」
そう怒鳴りながら。
ただし、「ええ、キリオス伯爵家にはね。だから、キリオス伯爵じゃないお前には援助なんてしないのよ」
そう言ってソニアが見せてきた蜜蝋が押された印璽のある手紙を見るなりエドモンドは再び目を見開いてしまったが。
「国王陛下からの手紙……」
そう呟いて。
「あら、さすがにこの印璽はわかるみたいね。読みなさい」
そして、ソニアの言葉に従順に手紙を受け取りも。
まるで、死刑宣告を受けた表情で。
何しろ、ソニアの態度できっと自分達にとって悪いことが書かれているのがわかってしまったので。それこそ、もう二度とこの生活に戻れない。
ただ、エドモンドにとって手紙の内容はそれ以上に残酷なことが書かれていたが。
「う、嘘だ……」
「……ね、ねえ、あなた、何が書いてあるの?」
それこそ、エドモンドのプライドをズタズタにするほどに。
なので、心が折れて答えられないエドモンドの代わりにソニアが答えてあげることにしたが。
不敵な笑みを浮かべて。
「不正に横領、そして不当な税の値上げをして民を苦しめた事により、そこの男は逮捕され奴隷落ち。そしてキリオス伯爵の爵位はハンナに移すって書いてあるのよ」
「はっ、なぜハンナなのよ? フィナでしょう!」
「なぜ、その小娘がなれるのよ?」
「フィナは私とエドモンドの娘だからよ!」
「あら、違うでしょう。あなたと酒場で働いている男との間にできた娘じゃない。ねえ」
ソニアがそう言ってある方向を向く。いつの間にかいた騎士に挟まれたバツが悪そうにする男の方を。
ただし、エドモンドにはそれで十分だったが。
何しろ、男が黙っていても折れた心を粉々にしたのだから。
「そっくりだ……」
そして、エドモンドのその言葉と男を見るドナの表情でフィナは嫌でも理解してしまって。
ただ、そのことよりも「小娘、お前はそもそもキリオス伯爵家とは関係ない存在なのよ。なのに随分とハンナにふざけた事をしてくれたわね。だから覚悟しておくのね」
そう言ってくるソニアの言葉に絶望してしまったが。
何しろ、きっとハンナにした仕打ち以上のことが自分に返ってくると理解したから。ソニアの怒りの形相を見ながら。




