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エリオットside.
あれから、一カ月間、エリオットはルーカスからの報告もなく悶々とする毎日を過ごしていた。
しかも、あんなに領地経営の勉強をしていたのにここ最近は全く身が入らなくなっていて。
原因はなんとなくわかっていたのだが。
今だに目を覚まさないハンナとの婚約を解消した方が良いのでは? と、エデュール伯爵家内で話が上がり、エリオットはあんなに情熱的な言葉を言ったはずなのに今では「絶対に解消はしない」と、否定できなくなっていたので。
それどころか内心でどこかホッとする自分を認識を。もやもやしたものが何かわかってきて……いや、無理矢理気づかないフリを……
「エリオット様ぁ、今日、うちに寄ってかれますかぁ?」
残念ながら今日は授業後にフィナが現れ、エリオットに声をかけてきたことで再び思い出してしまったが。
特にハンナとよくお茶をした客室を。
そして、こうやって途中で声をかけてくるフィナの姿も。
「婚約者でもないのに流石にまずいだろう。僕じゃなくルーカス様を誘ったらどうかな?」
こう言えばしばらくは何か言うが結局は退散してくれると、エリオットは小さく息を吐き。
「ええーー! 私はエリオット様が良いんですけどぉ」
ただ、今回フィナにそう言われた直後、エリオットはここが学院内であるためギョッとしながら辺りを見回してしまったが。誰もいない事がわかるとホッと胸を撫で下ろしも。
「フィナ嬢、流石に今のは心臓に悪い。ルーカス様は侯爵家の方なんだから言葉には気をつけた方が良いよ」
でなければ、フィナだけでなくエリオットも目をつけられてしまうので。それこそ他の貴族にも。エデュール伯爵家は貴族としては失格だと。
「別に卒業したら貴族籍を抜けて平民の商人になるんだから大丈夫ですよぉ」
この会話を聞かれてしまったら。
特に本人だったら……
ただ、フィナが続けて「それより、いつまでお姉様の事を待つつもりですかぁ?」と、質問してきたことで、先ほどの心配よりエリオットが抱えている不安の方が勝り「それは……」と、言葉に詰まってしまうが。
「いつまでも、起きない人を待つより婚約者を私に変えちゃった方が良いんじゃないですかぁ」
フィナが周りなんて気にせずにそう言ってくるまで。
「な、何を言ってるんだ! 君はルーカス様の婚約者だろう!?」
「将来、平民になる人より私はエリオット様の方が良いんですよぉ」
「ぼ、僕の方が良い? でも、僕だってハンナと結婚できなかった場合は立場的にはルーカス様と一緒だよ……」
「全然、違いますよぉ。だって、ルーカス様は仕事の話ばかりで全然面白くないんだもん。その点、エリオット様は優しいし素敵じゃないですかぁ。それに……」
フィナは最後の方に何か小声で言ってくる。
ただし、ルーカスより素敵だと言われた事に気を良くしたエリオットは舞い上がってしまい聞こえていなかったが。
僕が学園中で人気者のルーカス様より素敵か……
こんなことハンナにも言われたことはなかったな。
そう考えながら。
けれども、すぐに……
いや、違う。
ハンナはルーカス様に興味なんてなかっただけだ。
そう考え、冷静になることができ、エリオットは首を横に振ったが。既に気を許してしまっているフィナに。
「いいや、やっぱり駄目だよ。だって、フィナ嬢だって将来はキリオス伯爵家から出なきゃ行けないだろう?」
「ふふ、そこはお父様に言って私がキリオス伯爵家を継げるようにすれば良いんですよぉ。いつまでも起きないお姉様に変わって泣く泣く私を次期当主にしたって言えば、ルーカス様も納得して婚約解消してくれますのでぇ」
しかも、そんなことを言ってきても先ほどのような反応はせずに優しい口調で「でも、そんなことをしたらソニアさんから金銭面の援助をしてもらえない可能性があるんだよ」
そう言ってしまって。
「大丈夫ですよぉ。昨日、お姉様にどんな事があってもキリオス伯爵家には金銭面の援助はするって言ってくれましたからねぇ」
先ほどからフィナの言葉に悪意があるのを気づかず。
「えっ、そうなのか?」
「ええ、だからエリオット様は何の迷いも持つ必要はないんですよぉ。それに醜くなってしまったお姉様より可愛い私の方が良いですよねぇ」
そう言って甘えるような仕草で近づき、体を密着させてくるフィナにエリオットは初めて異性として意識し、生唾を飲み込んで。ハンナの事がゆっくりと頭の中から薄れていく感じながら。
「……わかった。今日、フィナ嬢の家に寄って行こう」
「さすがエリオット様ですぅ、それと私の事はフィナで良いですよぉ」
「……ああ、フィナ」
そして、エリオットは頷くなかりしなだれかかるフィナを拒否するどころか寄り添うように馬車の方へと……
ジッと見られていることも知らずに。
◇
ルーカスside.
ルーカスはエリオットとフィナが仲良さげに歩いている後ろ姿を心底冷たい目で見ていた。
やはり、自分で探しに行く気もなかったか。
馬鹿な奴だな。
まあ、おかげでこっちからあの馬鹿女に婚約解消を言わずに済みそうだが。
ルーカスはフィナの後ろ姿を見て笑みを浮かべる。
それから、急いで自分の馬車に戻り、整備をしていた御者に指示を。
「例の病院へ行ってくれ」
「坊ちゃん、声をかけにいかれた方はいなかったのですか?」
「いいや、もうその必要はなくなったよ」
そう言いながら肩をすくめて。
ただ、馬車に乗り込み一息つなりルーカスは真顔になったが。
「ふう、しかし、調べた情報とあの女の行動を見ていたらキナ臭くなってきたな」
これからは更に慎重に行動をしなければと考え。それこそ、いつもエリオットに微笑んでいたハンナを思いだせば。
何しろ、今後のルーカスの行動次第ではハンナを再び危険な目に合わせてしまうかもしれないので。
だからこそ、ハンナ嬢の安全を早めに確保しないと……
ルーカスはそう判断すると、ハンナが入院しているであろう病院へと、急ぎ向かうのであった。




