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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
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第二話―聖&コメット&リフレク side 2『一回戦終了』―

お待たせしました。


ちょっとした出来事。


対戦相手をどんどんと呼び出すコカトリア。

しかし、頭を抱える。


コカ「いえ、アレはどうしようもないことは知っていましたが、貴女もですか……」


コカトリアが呼び出した先程呼び出した上司チーム、いや上司一人のぼっちチーム(そう紹介したら泣きそうな目で睨まれた)は控え室で見かけたからそうは驚かないがまさかこの方もとは思わなかった。


??「勘違いはよく有りませんよ? 私はちゃんとチームを組んでいます。どこぞのボッチと一緒にしないでください」

コカ「……いや、連れてるエルフ達なんか嫌そうですよ?」

??「え?」


??が後ろにいるエルフに視線を送ると首を振るって違うと意思表示するエルフ達。


??「嘘じゃないですか、コカトリア」

(いやいや、めっちゃ私後ろのエルフに睨まれてるんですけど!?)


試合は??のチームの圧勝だった。



先程までの大歓声が嘘のように静まり返る会場。

音がないのは、会場の人すべてが一瞬一秒1コンマさえも見逃さないようにと、集中した結果なのか。

注目する舞台の上では、刀を納める音を鳴らす侍と数メートル先に立つダークエルフの騎士の姿。

時間の感覚が可笑しくなったのか、一秒二秒と経っても何も変化がない。


止まった時の世界にいるように感じ始めた頃。


何かが起きた。

それは赤い変化。

流血。

もはやはっきりと勝敗を分けるレベルの致死量が舞台を色づけた。


それにより、止まった時が動き出す。

戦いはまだ終わっていないが、大歓声が会場いや、街全体を包み込む。


舞台で血が流れたことに恐怖はない、あるのは興奮だけだ。

街中で、しかも人同士の真剣勝負など戦時下を除いて今までなかった。

それが、目の前で繰り広げられたのだ。

ひとつ間違えば即死だ。

命が終わる。

命の奪い合いには観客を魅了する何かがあるのだろう。


大歓声の視線の先には、


バッサリと斬られ褐色の肌を露出させる少女。

肩口から入った刀の軌跡は、袈裟斬りに腰元に抜けている。

それに合わせ、着ていた衣装は下着すらバッサリ斬られている。

少女の表情は唖然としている。

もはや服として機能しない冒険者衣装が、申し訳程度に胸を隠しているだけの痴女のような状態だが

、少女は動きを止めたままだ。


よく見ると褐色の肌にうっすらと赤い線が出来ていた。


少女は溢す。


ばかな―――と。



少女の視線の先には刀を鞘に仕舞ったまま動きを止めていた侍。

侍も少女を見て、顔を驚愕に染めている。

まるで存外の化け物を見るような視線だ。


しかし、視線に戦っていたときの強さは感じられない。

歓声が上がった先程から彼の足元に水溜まりが出来ている。

真っ赤な真っ赤な赤い水溜まりが。


両者の視線はお互いに驚いた相手のか顔が見える。

隙だらけな二人。

しかし、その隙をつくものはいない。


侍やダークエルフの仲間も起きた現象が信じられず、行動を起こせないでいた。

彼らは自らの仲間を信じていた故に硬直してしまった。

彼らの頭には、なぜ?と何が? という疑問で一杯になっていそうだ。


侍から流れる血は止まらない。

血が流れ出すのは肩口から腰元に掛けて入る太刀傷からだった。

鏡のようにダークエルフと同じに入っている斬られた後。

滑らかな切り込み。

まるで自分の太刀筋のようだ。


喉に詰まる血の固まりを吐き出して侍は問う。


「ゴホッ、なぜ、お前はそこにいる?」


いる筈がない、いる筈がないのだ。

いるのなら舞台の外の筈だった。


渾身の一撃。

自らのスキルと特殊な刀を用いた魂を燃やす一撃。

本来なら使えば魔王すら絶てる必殺の剣技の筈。

代償として死を前提としている禁忌の技。

今回使えたのは、ここがかの迷宮と同じ蘇生の秘術が組まれているからだ。

故にちょっとした無茶ができる。

道づれ技として使えるということがわかる。


だが、現状可笑しなことが起こっている。

攻撃したのは侍で、無防備に受けたのはダークエルフ。

本来起こりうる結果としては、

どんな防御方法を取っているのか知らないが、居合い【―(ことわり)―】は、自身の命と引き換えに相手を斬る技だ。防御に使っていたスキルや、魔法を無視できる。

いや、それは正しくはない。

本人は知らないが、正確には展開されている【スキル】や【魔法】を自らの魂の力を尽くし世界の事象に介入して両断するのだ。

結果としての認知は間違ってはいない。

つまり、防御を無効にして魂を賭けた一撃を届かせる必殺の技で、ダークエルフは謎の防御も虚しく絶命する筈だ。

道連れは成功の予定だったのに。


「なぜ………ごはっ!? 」


侍は理解できなかった。

確かに攻撃は通った感触がある。

肩から入り腰元まで振りきった愛刀の感触。

先程までと違い軟らかい肌を斬った感触。

かわされる要素は全く無かった。

いや、かわせる筈はないのだ。

東大陸の迷宮で手に入れた【三鉄】は居合いモーション中に間合いにいる相手の動きを一秒の半分止める効果がある。

これは魔法と違い、無効化はされない概念武具だ。

神速の抜刀術に相手の動きを止めてくれる刀。

さらには、確実に息の根を止める剣技。

どこに相手を倒す以外の結果があるのだろうか。


なぜ、なぜ、なぜ―――。


身体が前のめりに倒れていく。

感覚が薄れ、死が近づいてくる。

視界が狭まり、真っ白に塗りつぶされる最後。

侍は改めてダークエルフに視線を送る。


ちらっと見える慎ましい胸。

俯いているので表情は分からない。

刀を一度握った筈の手には傷がなく。

あるのは魂を込めた一撃による素肌を走る薄く斬られた後。


斬った感覚はなんだったのだろうか。

ああ、せめて、一人は道連れにしたかった。


そうして意識を失い。


若干の浮遊間の後、舞台の外に立っていた。

舞台に張り巡された結界秘術の外側にいた。





『おおっと、ここでセブンスウェル、リーダーの彼が戦線を離脱したようです。

まぁ、結構容赦なのない攻撃でしたが、詰まるところ反動により死亡って所でしょうね。

いやはや、恐ろしい攻撃ですね。しかし、それにしてもそれを受けて軽微な黒木選手!

いったいどんな能力で凌いだのでしょうか』


コカトリアの声に会場も乗ってきた。

コカトリアの声に合わせたヤジと歓声。


騒がしい歓声の中、侍と一騎討ちをしたダークエルフが膝から崩れ落ちた。

両手を地面につき立ち上がることも出来ないようだ。

侍の仲間は、その様子に気を持ち直した。

仲間の与えたダメージは確かに通っている。

命を削った一撃だ。

向こうも瀕死な筈。

崩れ落ちたのがその証拠だ。


「チャンスを逃すわけにはいきません!!」


巫女が弓を引き絞り、練気を矢に溜めていく。

放たれる矢は着弾後に爆発する弓術【爆砕弓】。


崩れ落ちたままこちらに注意を向けないダークエルフに矢が放たれた。

他の三人も第二、第三の策を巡らして行動を開始する。

忍者は未だに結界に籠っているエルフと魔女の足止めを。

もう一人はダークエルフに接近して拳を振るうために。


―――――――――


『おおっと、これは……侍がが繋いだチャンスを活かすいい連携攻撃だぁ!!

チーム『ブラック・パラディン』黒木選手に援護にいけなぁい!!これで決まってしまうのか!

先程まで戦いの中心にいた黒木選手ここで退場なのか!?』


実況を続けるコカトリア。

笑顔を振り撒き、緊迫した声を飛ばしたりとしているが、頭の中では別のことを考えていた。


(ふむ、あの侍の技は見たことありますね。何年前でしょうか? しかし、それにしても黒木さんマジチートじゃないですか! たまにダルフさんから耳にしますけど、死にやすいなんてデマなのでは?)


迷宮198層を守護する幹部コカトリアの実況は続く。



――――――――――


『はだ、みられ、ころ、す、さむら』


動き出した相手から飛び道具が、マシンガンのごとくコメットの張った結界に突き刺さる中、結界の中では慌てるコメットとそれを引き気味に見るリフレクがいた。

聖が崩れ落ちる前、丁度刀を鞘に侍が納めた辺りから、コメットが慌て出した。

壊れたロボットのように何を言っているのか理解できないリフレク。

リフレクは、そんな状態でも結界を維持する精神力に尊敬している。


「だから、援護に行った方が良かったと思うんですけど」

『ふ、服、聖ちゃんの服、胸』

「…………だめですね聞いてません」


リフレクはちょっぴり落胆した。

しっかり者とちょっと暴走気味のダークエルフの2パーティーだと思っていたら、この有り様だ。

仲間で援護して、協力すればあそこで倒れ伏すことも、ここで足止めされることも無かったのに。


この試合はもう負け確実だ。

冷静さを欠いているし、相手の練度も高い事も分かっている。


視線を黒木さんに向ければ、度重なる爆発に巻き込まれ、その中にもう一人の男が走っていった。


「コメットさん、ここまでのようですね……どうしましょう、私達だけで残りの相手をしますか?」


リフレクは黒木さんが死に戻りするのは時間の問題だろうと思い、自分達でどうするのか提案すると―――。


『え?』


心底驚きましたよ!って顔をされた。


「え?」


逆にリフレクが驚いているとコメットは言う。


『何をいってるんですか? 聖ちゃんは元気ですよ?』


リフレクはいやいやと手を振り、きっと混乱しているのだろうコメットに説明するように指を爆発が起こる真っ只中に向ける。


「あれ見てください、コメットさん。あれでは黒木さんも即死ですし、先程だって斬られたじゃないですか……」


顔をコメットに向けて言うとコメットは、


『あっ、服剥ぎ取ってますよ! 裸のままだったらどうしようかと思いましたけど、それは聖ちゃんやりすぎです!!』


驚いた顔をして聖に注意していた。


「はい? なに言って」


リフレクが振り返ると、こちらに転がり粒子になって消える塊と、白と水色の袴を着崩す黒木聖の姿があった。

まるで、先程の爆発や、侍の攻撃など無かったかのようだ。


「なに!? 仕方ないだろう! 大事な服が破かれたんだぞ!? 大事な!! これ以上損害を出して堪るか!! それに落ち込んでいたら攻撃してきたのはあっちだ! 爆発の中着替えるのは大変なんだぞ!」


「何をいっているのか分かりたくありません」


「なんだと!?」


リフレクが現実逃避をしようとした。

侍の攻撃で服が斬られたから落ち込んでいたといっているのだろうか?

しかも、試合中に追い剥ぎをかますとは。

この人は、どこまで私を驚かすのだろうか?

しかし、なぜか先程までと違い元気で煩いこの人を見ると頬が緩んでしまう。



『おおっと、あれだけの攻撃にさらされておきながら全くの無傷!! 驚きだ!そして私は堂々と相手の衣服を剥ぎ取る手慣れた手口に驚きだ!! 同郷の者とはいえ、なんたる悪行、見損ないましたよ鉄壁のエロフ!』


「だがルールには自分らしく戦うことと書いてあった。

勇者はタンスを開ける者。盗賊は奴隷を捕まえる者。冒険者は素材を剥ぎ取る者の筈っ!?」


『いや、なんで知らなかった!? みたいな顔をしてるんですか! 誰ですそんな事を教えたのは…………いえ、なんとなくわかったぞ!』





戦闘は終盤に差し掛かる。


人数を二人に減らした『セブンスヴェル』に未だにピンピンしている『ブラック・パラディン』のメンバー。



数分後。



舞台に立つのは4人。

進行役のコカトリア。

あとは『ブラック・パラディン』の3人だけだ。


『勝者………………『ブラック・パラディン』!!

勝者チームはこのままトーナメントの番号に入って貰います。

そして、おめでとうございました』


ここまでくれば、結果は見えたもの同然だ。

戦闘の最後には、格闘技の試合のように勝者の代表の手を審判が持ち上げて、大歓声の中終了する。

腕を持ち上げるコカトリアは、隣に聞こえるくらいの小声でボソッと言う。


「チーム戦なのになに一人でやってるんですか? 」

「むっ」


結局最後まで一人で戦い抜いた聖。

ジト目で見られ言い返すことができない。


その近くにいるリフレクは声が聞こえたのか苦笑い。

コメットは早く服を返させますと、上半身裸の袴の人物に頭を下げていた。

袴の人物は、スッキリした顔立ちでコメットの相手をしていた。

着替えがないのか、それとも目覚めたのか、いったいどっちなのだろうか。


リフレクの抱える謎がまた一つ増えてしまった。


「あ、あれだ隠し玉はとっておいてこそだ!!」

「取って付けたような言い訳を………まぁ、いいでしょう」


観衆に気づかれないように、しらっとした視線を浴びせるコカトリア。


「それより、あの技喰らいましたよね?」

「居合いか………ああ、もう絶対挑発に乗らんぞ」

「どうやって防いだんです? 」

「ん? 防いでないぞ? 喰らった」


そう言って聖が取り出したのは、真っ黒い紙屑。

沢山の文字が書かれている物珍しいものである。


それは聖が水無月にもらった身代わりの護符であったものだ。

ダメージを肩代わりしてくれるこの護符。

水無月が作り出すチートアイテムの一つである。

聖の装備は全身の至るところの防具、アイテム、武器

全てが水無月製だ。


この街でもこれほど揃えた奴は居ないだろう。

あちらの命を賭けた一撃をこんな紙媒体で防ぐなんて、なんか侍が可哀想である。


(………えぇ、となるとあの宝物庫の装備持っている方が有利じゃないですか……それってどうなの?)


コカトリアは大暴走時にこの街にばら蒔かれた装備品がどのくらいだろうか、と考えてしまう。

出場者にあの宝物庫の武器を所持したパーティーがいったいいくついるのだろう。


そうしてゾッとすることになる。


(迷宮に挑む冒険者のすべてがそんなチート装備で挑んでくるとなると、迷宮もひとたまりもないですね……あの宝物殺しますか)


聖に感づかれないように思ったことを頭の隅においておく。


『それでは次の試合まで待っていてくださいね! 』


聖達が会場から引き上げていく。

コカトリアは、先程の戦闘でボロボロになった舞台を直すために、控えていた運営の魔法使いに指示をだして、その間に次の対戦相手を呼び出すことにした。


『さてさて、盛り上がっいきましょう! 第一回戦第二試合相手は………』


空中ディスプレイでは左端のトーナメントに『ブラック・パラディン』の名前が入っていた。

その隣のトーナメントは空白だが、そこを拡大表示して再びそれぞれの名前がルーレットされる。

ここで勝ったチームが次に聖達と戦うことになるのだ。


そうして表示された対戦相手を呼び出していく。

コカトリアは表示されたチームを見てホッとしていた。


(なんで出場してるんですかねぇ、しかも若い姿で…見つけたときビックリしましたよ)


コカトリアの知り合いがこの大会に出場しているのだ。

知り合いというか上司の間柄である。


試合は続く。

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