第二話―聖&コメット&リフレク side 1『6ixコンボ』―
三日分連結しますた。
遅れてごめんさない。
ちょっとした出来事。
クラレント城は明日の事で大混乱に見舞われていた。
まさか『トーナメンツ』に参加するほとんどが、城または騎士のモノで、これでは出来レースをしているように見えてしまう。
困り果てた彼らは誰に、責任があるだの、なんでお前も出たのだと言い争うが堪えなかった。
不毛な言い争うに興味なく、明日のために少しでも体を動かしたい第三王女シシェル・サードラウンドは従者兼幼馴染みのナエトに言う。
シシェ「早く抜け出したいんだけど」
ナエ「だ、だめに決まってるしょう!?」
シシェ「こんなの不毛だぜ、もう決まったことじゃないか」
ナエ「お、怒られます!!」
相変わらずオドオドするナエトにうんざりしながら、配られてきた紙をもう一度見る。
するとそこには、あと5チーム空いていた枠が名前で埋まっていた。
つまりこれで決定のようだ。
その中の1チームの名前が目にとまり、シシェルは突然立ち上がると会議を無視して外に出ていった。
ポカンとする重鎮達。大臣もシシェルの兄弟も、王様もみんなポカンとしてしまう。
慌ててナエトが追いかけるとシシェルは刃が潰された訓練用の剣を振るっていた。
ナエ「ど、どうしたのいきなり!! みんなビックリだよ!!」
シシェ「ん? あれだよ、戦いたい人が出てきたんだよ!!」
ナエ「え?でも、チーム名しか分かんないよ?」
紙をみて唸るナエトに、剣を振るのを止めて呆れたように言う。
シシェ「ほら、ここ」
ナエ「え? こんな簡単なチーム名にするかな、だってチームだよ?」
シシェ「私が間違えると思うのか?」
むっとした顔をナエトに向ける。
ナエトはよく考えるが、正直シシェルの言う通りだとも思っていた。
ただ楽観するのはよくない。
違ったら落胆は凄まじいものだ。
困ったナエトは笑ってごまかすことにした。
ギルドにある個別の談話室から出てきた聖とコメットは、大広間に戻ってきた。
大広間では先程より人の数が増えていた。
時間は夕刻。
仕事も終わり、祝勝会やら、反省会をやっているテーブルがある。
炒めた料理に、肉の丸焼き、揚げ物などが出ている。
夕食には丁度いい時間帯だ、夕食を兼ねているのかもしれない。
大広間では食欲をそそられる美味しそうな香りと、その香りに混じる酒気。
先程よりも騒がしいのにギルド職員は何も言わない。
いつもの光景なのだろう。
ただ、美人揃いの受付嬢達は酔った冒険者に絡まれ辟易していた。
そんな光景に二人は、
『………だめですよ』
「ま、まだ何も言ってないだろ!?」
食事をしているところを羨ましそうに見ていた聖にコメットは釘を刺していた。
コメット達は、まず新しくパーティーに加わった魔女のリフレクにあることを説明しなければならないし、それにコメットはリフレクを待てずに目の前で広げられる食事を聖が手を出すだろうと思って釘を刺したのだ。コメットにしても、折角成り行きとはいえパーティーに入ったリフレクを無下に扱うつもりはない。出来れば、このまま固定で組んで欲しいと思っていた。
そもそも、雰囲気的にあっち(リフレク)はそのつもりではないだろうか。
とも思える。
だからこそ、ここは待つべきだろう。
(それに、受けた『あれ』について勝手に決めてしまったので、謝らないといけませんね)
伝えたリフレクが、血の気が引いてフラッと倒れるところを想像できたコメットは、ため息をついた。
「………だ、めだろうか?」
『だめです、来るまで待ってください』
「ちょっとだけ!! ちょっとだけ、ちょっと味見するだけだから!!」
『だめです、来るまでまってください』
「……………あ、あぁわかった」
聖はなんとかしてコメットに許しを得ようとするが、二回目に言われた全く同じ言葉には、何かの圧力を感じ、引き下がり大人しく待つことにした。
コメットの表情は笑顔だが、明らかに怒っていた。
(なにイライラしてるんだ?)
しかし、何に怒っているのか見当がつかない聖だった。
♯♯
時同じくして、夕日が沈む時間帯の城下町の一角では、焦って逃げる一つの影と、それを追う光が3つあった。
終われる影は、人の姿をしているが違うところもあった。
息を切らして走る影の頭部にちょこんと尖ったでっぱりが二つ。
「はぁはぁ、くっそ! なんでだよ!? お前ら!!」
叫ぶ声は高いソプラノ。
荒らしい言動には憎しみも込められていた。
裏路地を走り続ける影は、軽やかな身のこなしで、距離を詰めてきた3つの気配から逃れるために、さらに速度を上げる。もっと、もっとはやく。
粘り付くような視線に晒されたくない一心で。
「私が何をしたって言うんだ!? 」
手の届く範囲にある積み上げられたモノを後ろに突き飛ばし、少しでも時間を稼ごうとしながら叫び問い掛ける。
しかし、効果も空しく幾ら早く進もうとも一向に距離は開かない。
寧ろ不自然な程同じペースで追いかけてくるのだ。
その行為も影を精神的に追い詰めていた。
つまり、遊ばれているではないか?
いや、そうなんだろう。
しかし、それでも『あいつら』には捕まることは出来ない。
捕まったら間違いなく死を意味するからだ。
ただの死ではない。尊厳を奪われた後の惨い死だ。
影はそれだけは嫌だった。
ちらっと後ろを振り返ると、侮蔑の視線と舐め廻すような視線とが合わさって鳥肌が全身を駆け巡るのを感じた。
「っ!!」
頭上から夕日に紛れて落ちてくる気配を探知してその場を飛び退く。
その際に全身を隠していたマントは、ぼろ雑巾に成り果て役目を果たさなくなった。
もし、その場に自分がいたのなら真っ二つになっていただろうことにゾッとする。
姿が顕になった影は、白い猫耳と白い尻尾を持つ変わった人族そっくりの種族。
獣人族だった。
本来なら輝くように綺麗な白い髪も、肩辺りでバッサリ切られ、華奢な身体の至るところを血で染めていた。
プロポーションもけして悪くはないだろ。血で濡れる身体が寧ろ妖艶に誘っていると勘違いしそうな程蠱惑的だった。
さらに顔立ちは美しいく、街中で見掛ければ自然と視線を吊られてしまうだろう。
しかし、今だけは憎悪の視線を追ってきた光を纏うモノに向ける。
赤い瞳の瞳孔は縦に割れていた。
しかし、その射殺さんばかりの視線を受けても3つの光は、ヘラヘラとしているか、嫌悪しているか、虫を見る目を寄越すかのどれかだった。
『おーおー、怖い怖い! 白猫ちゃんおいかけっこは終わりでしゅかぁ?』
『やめろガラルハルド、挑発するな。 他に嗅ぎ付けられたら面倒だ、特にシシェル様の派閥連中は行動が早い』
『はぁあ? ペデュリル。お前バカか、これを注文したのはシシェルの男女じゃなくて、それより上の王子だろ? だからちゃんとフォローされてんのよ』
ヘラヘラした男は舐めるような視線を白い猫の獣人に向けていたが、隣の仲間に止められてイラついたように返した。そのときにモノ扱いされて憤ったが、話をしていてもこの三人に隙はなかった。
なんとか逃げ出したいが、会話に参加しない三人目がこちらの様子をじっと見ていて動けない。
『…………はぁ、諦めたら?』
その声は三人目から放たれた。
ため息と見下すような視線と虫を見るような雰囲気を同性に向けられ、全身がぶわっと殺気だった。
獣人の彼女は、男からの視線はある程度は仕方ないと思っているが、まさか同性で、明らかに自分よりも年下の少女に言われてプライドを傷つけられた。
こいつらに連れてかれ、変な奴の元で奴隷のように暮らすのなら、ここで一人にでも手傷を負わせて死んでやる。
決死の覚悟で、未だ動こうとしない3人に向かって駆け出した。
相手は所詮人族。
基礎身体能力では種族として獣人の方が上だ。
しかし、それでも勝てないのは自分の身体に刻まれた痛みが知っている。
十代半ばの少女に言われた言葉は真実だ。
――諦めれば?
無理だ、逃げ切れるわけ無いのは百も承知だった。
――諦めれば?
目の前の少女と侮蔑の視線を寄越す男二人にありったけの思いを込めていう。
それでも、お前ら人間のおもちゃにされるのはごめんだ。
そういう思いと、自分の人生の理不尽を呪って。
「聖騎士だからって、あまり私を舐めるなよ……ガキ共」
向かってくる白猫の獣人に対して、少し驚いた表情をする男二人。
そのまま剣を構えた。
『まさか、いやいや、まだ遊べるとはねぇ……楽しいねぇ!!』
『くそっ、だから挑発するなと言ったんだ、お前のせいだ! お前が何とかしろモルディナ』
『チッ、これだから――』
白猫は真っ直ぐ少女に向かって駆け出していたのだ。
モルディナと呼ばれた聖騎士の少女は対応せざる負えない。
白猫が飛び上がり、腕を振り上げその爪先に魔力の爪を顕現させた。
長さは1m以上あり、その作り上げた爪が真っ赤に燃え上がる。
モルディナは剣を抜こうとも、その場を動こうともしない。
「食らえ!!」
白猫の獣人は容赦なく爪を降り下ろす。
魔力で出来たその爪は容易く少女を切り刻み、燃やし尽くすだろう。
油断した己を呪うがいい、とニヤリとする。
しかし、腕を振り切った白猫獣人が見たものは、こちらに回し蹴りをしようとする無傷の少女だった。
通常あり得ない結果に唖然として動きを止めたが最後、腹部に掛かる圧力と、パキッと折れる体内での音。
『畜生ごときで私が傷を追うハズないでしょうが!!』
とイラつく少女の声を最後に意識を失った。
♯♯♯♯
「なぁ、これって騒ぎ大きくなんねーかな? 」
「ならないだろ、裏路地ではよくあることの一つにすぎん」
街中での戦闘は結構目立つ。
それをやっているのがこの街に12人しかいない聖騎士となれば注目されるだろう。
しかし、今回は隠密任務を言い渡された3人だから、自然と周りの様子を気にしだす。
結果。
大きな戦闘痕といえば、先程の爪の形の燃え後と、同じく抉られた地面の二つくらいだ。
それを確認した二人に、さっき戦闘を行ったモルディナが声をかけた。
「いいから、アレ担いでくんない? 私触り無くないので」
そう言って顔を向けた先には、壁を大きく砕いたその下に倒れ込む白猫の獣人がいた。
気を失っているのか、全く動かない。
獣人はボロボロだった。
血まみれで、衣服はとりあえず死か形を成してなく、瓦礫を被り土を被り、惨めな姿だ。
二人の男性は嫌そうな顔をするが、結局は依頼完遂のために運ばなくてはならない。
じゃんけんで運ぶ方を決めて、早速ここから離れることとする。
「っと、軽いな。
王家からの依頼とはいえ、罪も犯してない女性を連れていかねばならぬとはな」
担いだのはぺデュリルに決まったようだ。
屋根の上に飛び上がり、その上を走っていく。
ポタポタと垂れる血が顔に付くのを嫌そうな顔をしながら、意識を外したいが為に話を振るった。
そもそも、ここまで痛め付ける必要は全く皆無である。
話をしてなんとか説得するべきだと思っていたぺデュリルだが、この二人は話を聞かなかったのだ。
ぺデュリルの呟きにガラルハルドは悪びれもせず答えた。
「んなん言ったってなぁ、暴れるなら仕方ないっしょ?
それに、必死で逃げる姿とかマジ受けるじゃん、そうでしょ?そう感じるよねモルディナっち」
隣を並走するガラルハルドは飄々としていた。
話を振られたモルディナは、気安く自分の名を呼んだガラルハルドを睨み付ける。
「話しかけるな、近寄るな、お前は嫌い」
そう言って拒絶を示す。
それでもしつこく近寄ろうとしているガラルハルドと、それを避けるモルディナ。
「えー、仕事した仲間でしょ?」
「……屑がっ」
「なにか言ったぁ?」
「失せろ、私が全部やりたかったのに」
「えぇ、早いもん勝ちじゃん」
その二人にため息を吐くぺデュリル。
(俺を巻き込みやがって……)
心の中で愚痴を溢した。
今回、逃げ出した迷宮モンスターを追って街から離れていたが、突然の呼び出しで一番早く戻ってみれば、仕事を押し付けられたのだ。
この仕事を取ってきたのは、残虐非道のガラルハルドだった。
仕事内容を聞いたのはつい先程で、その内容に唖然としてしまった。
しかし、相手が聖騎士の位を与える王家となっては、今さら引き返すことはできなかった。
やむなく今に至るのだが、早々に街に戻ってきており、買い物をしていたモルディナが、言い争いをする自分達に嬉々として参戦したのも驚きだが、モルディナの豹変を見て、ペデュリルはこいつもガラルハルドと同族なのだと理解したと同時に、なぜ聖騎士でいられるのか不思議で堪らなかった。
そういえば、と突然ガラルハルドが声を上げる。
「いえ、こういう裏でやるのもいいんだけど、表立ってヤりたくない?
ヤりたいよね! なんとね、明日開かれる王家勅命の『大・魔導・武術トーナメンツ』でね、ウチの5位のランスロードちゃんが出るんだよね!いま城下町じゃそれで大盛り上がりさ」
若干距離を置いたモルディナが言う。
「だからなんだ? アレが目立ちたがりなだけでしょ?」
「あっっれー、もしかして意識しちゃってるの?嫉妬? 嫉妬っしょ?」
「………殺す!!」
ガラルハルドに飛び蹴りをし、避けられ舌打ちをするモルディナ。
「あっぶないよねぇ? ランスロードちゃんは有象無象のことを気にかけてるからねぇー。
きっと雑魚冒険者が迷宮に入れないから、話題性と盛り上がるようにと自分も出場したんじゃないかな?」
「はっ、そうやって媚びてるだけでいいなんていい仕事ね!」
まぁまぁ、とイラつくモルディナを落ち着かせるガラルハルド。
モルディナがランスロードを意識していることをガラルハルドは知っていたのだ。
「実はそのトーナメンツは他種族の参加も出来ちゃうんだよ?
どう思うかな、モルディナっち」
ふっ、と鼻で笑うモルディナだが、雰囲気が剣呑になっていた。
「何ってるの? 人様の催し事に畜生どもが出ていい、とかあるわけ無いでしょ?」
「これ見なよ、どこにも出てはいけないって書いてないね」
ガラルハルドは紙を取り出してモルディナに投げつける。
渡された紙には出場要項と、禁止されている事が書かれていた。
そこにモルディナが望んだ他種族の参加は不可とは書かれていなかった。
紙を握りつぶし、ガラルハルドに視線を送る。
「で? 何がしたいの?」
ガラルハルドは、その突き刺すような視線と放たれる言葉に、自分の思い通りに行くことにゾクゾクしてニヤリと口を歪めた。
「じゃさ、いっそのことランスロードちゃんも、ゴミ共もさ――――――」
♯
「………」
二人の会話を黙って聞いていたぺデュリルはため息を吐き。
しかし、同じ権限を持つがゆえに自分で止められないことに歯がゆさを覚えた。
王家の報告しようとも、背中の無実の獣人を注文したのは王家の人間だ。
誰が信用できるかわからないため、黙って静観することにした。
背中に抱えてるため拳も握りしめられないが、代わりに移動速度はぐんと延びた。
そんなぺデュリルを慌てて追いかける二人。
「なんだよ、ぺデュリルもやる気なの?」
「聖騎士三人だと私の楽しむ分がない」
追い付いてそう言う二人に、吐き捨てるように言う。
「安心しろ、邪魔はしないし、参加もしない。
ただ、お前らのチームには金は銅貨一枚も賭けん」
「おお、いうね!」
「散財すればいいわ」
そう言って城の方向へ走っていった。
♯♯♯♯♯
「な、な、なななななんいえあ? ……うっ」
聖とコメットは冒険者ギルドに現れたリフレクにすべて話すと、リフレクはフラッと倒れ込んでしまった。
話した内容は『大・魔導・武術トーナメンツ』に参加するということ。
もちろん優勝を目指すということ。
チーム参加だからリフレクも登録したということ。
受付嬢に聞いたら、聖騎士も参加するらしく楽しみだということ。
そこまで話してリフレクは倒れ込んでいた。
「王家主催なら、王族チームも出るのかな? 出るとしたらシシェルとか?」
『どうでしょうか? ここ一年会っていませんし、会いたくはありますね』
「でも、敵だからぼこぼこにするけどな! それも慕ってくれたシシェルのためだ」
『さすがです、聖ちゃん!!』
テーブル囲む聖は周りからみたら一人で話しているようにしか見えない。
明らかに魔女と思われる少女ががテーブルに突っ伏し、もう一人のロリータ服のエルフは声を発していないからだ。
実際はコメットは喋っているが、それが聞こえるのはこの場は聖だけだ。
というわけで、不気味な光景に三人のテーブルからは一回り距離を取られている。
だからこそ、三人の方向向かう人物に視線が集まるのもしょうがない。
向かっていくのは少し空いた隣のテーブルから、金髪碧眼で長身のエルフだった
気配に気づいたリフレクも起き上がり姿勢を正した。
三人も視線をこっちに来るエルフに送る。
ちょっと気まずそうな顔をしたエルフは髪を掻きながら、
「えっとさ、トーナメンツにでるの?」
「……そうだが? 」
キョトンとして答えるとエルフはコメットをチラチラとみていた。
見られていることは、このギルドに入ってから気付いていたが、接触してきたということはなにかしら理由があるのだろう。
そう判断し、さらに言いづらそうにしていることから、他人には聞かれたくないことではないか、と当たりをつけたコメットは行動に出た。
コメットがすっと立ち上がり、手を横に切る。
そうするとその軌跡にエルフしか使わないエルフ文字が浮かび上がった。
浮かび上がったエルフ文字を今度は腕を上からしたに降り下ろし分断する。
すると文字が勝手に動き出して、このテーブルよりも少しだけ広い範囲の天井と地面にくっつき吸い取られていった。
終わりに空間にピュインという音がなった。
この行動を近場で見ていたエルフとリフレクは呆気に取られたが、聖は眉を寄せていた。
「これは、結界精製……この速度なの」
「初めて見ました、これがエルフの秘術」
二人は驚きお互い顔を見合わせるが、
「コメットなんでわざと面倒な手順踏んでるんだ? いつもこうパチっと一瞬じゃないか?」
聖が指を鳴らす真似をしていた。
「え?」
「え?」
『………!?』
それにはさすがにコメットも動きを止めて固まってしまった。
せっかくコメットが下手に実力を見せつけることなく、正体を悟られることなく済まそうとしたのにその方針は一瞬で砕けてしまった。
さすがに相手が、元精霊のエルフィ・ユエリエの元から放れたエルフだとしても、バレるときはバレるのだ。
「ユエリエ様の………」
驚き震えるエルフは、耳をせわしなくピコピコさせていた。
魔精として生まれ変わってもエルフィは行動をあまり変えなかった。
ただ、迫害された自らの種(子)と同じく迫害されたダークエルフにハーフエルフなどの面倒を見てきたのだ。
エルフにとっては信仰すべき神なんていうのもいるらしい。
その配下、つまり、魔精の配下とバレてしまったに等しい。
魔精は人類全体の敵である。
その事実は変わりようがない。
その手下とバレたのだ。
バレたことにため息をつくコメット。
音断ちと認識阻害の結界を張っていたので、中の様子は分からないようにしていたために知っているのはこの中の4人だけだ。
こういうことがないように、あとで聖に注意しようと心に誓うコメットだった。
して、エルフの名前はサレアナというらしく。
昔、この迷宮で一番始めに常識はずれのアイテムを持ち帰ったパーティーの一人らしい。
その事を知らなかった聖は驚いていた。
実際聖が生まれる前の話だから仕方ない。
「本当にでるんですか?
あまりお勧めしません、特に私達、他種族にとってはいい結果にならないからです」
正体がバレたコメットに対して伺うように言うサレアナ。
ギルドはたいしたことないって思ってますけど、この街の騎士団やその上の連中は、他種族に対して扱いが酷いと、いい、今回のトーナメンツに参加する冒険者は人族だけで組むか、よっぽどの実力者か、バカのどれかだが、他種族のエントリーはいまだ聞かなかったのだ。
ここに来てその話を聞いて心配になって話しかけたらしい。
「じゃぁ、仕方ないですし、取り止めましょう? そうしましょうか!!」
嬉しそうに紙を奪い取ろうとするリフレクの頭を押さえ届かないようにする聖は、ハッキリと言った。
「だが、断る」
「なんでよ!アホ闇エルフ!!」
聖に対しては突っ掛かるサレアナ。
「あ、あほ? ふっ、私があほなら私以外の連中はもっとアホだな!!」
呆気に取られたがやはり、あまり気にしてない聖だったが、
「くっ、てに負えないバカな闇エルフになんでアステリア様、が―――――っ!?」
『帰りなさい、サレアナ話すことはありません』
言葉は通じてない筈だが、怒気は通じたようだ。
尋常じゃない怒気に、やり取りを見なかったことにしていたリフレクの持っていたコップが割れた。
熱湯に慌てるリフレクがいたがこの際省く。
サレアナはビクッとして冷や汗をかきながら、頭を下げて放れていった。
それと同時にコメットが結界の機能を切った。
周りの喧騒が再び聞こえ始める。
聖は何が起こったか分からなかった。
「おい、コメット何が?」
『なにもありません』
「うそだろ、なにが」
『なにもありません』
「……………」
『……………』
「そ、そうか」
そうして、冒険者ギルドを後にして、明日の『大・魔導・武術トーナメンツ』に備えることにした。
魔精エルフィがやっている『エルフの秘店』に行く、とリフレクに告げると涙を流しながら、
「魔精が店番とか、気づかなかった私とか、馴染んでる状況とか、もう、私の常識が崩壊しそうなんで、別行動させてくださいよ!!」
そう言った。
仕方なく、聖が許可を出すとリフレクはクリエイトの元に行くらしい。
相談事でもあるのだろう。
コメットと聖が迷路のような通りを抜けて店に付くと、店の中が騒がしかった。
『そういえば、アンタ聞いたわよ、子供を苛めて泣かしたそうね!!』
『な、なぜそれを!?』
『ふっ、ルゥトちゃんは見ていたのよ!』
バンバンッ!(何かを叩く音)
『まさか、種族的にありえない奥手なダークエルフの子のことですか!!』
『なぜかしら、私が弄りたいのに、私の子がものすごくバカにされてる気がするわ』
『脳筋種族にはしては珍しいとは思いましたが、バカにはしていません』
ドタガタ(なにかが移動する音と倒れる音)
『してんじゃない、外に出なさいよ、幼児いじめエルフ!!』
ガシャガシャッ(割れやすいものが割れる音)
『て、訂正しなさい!』
エルフィと誰か知っている気がする声との楽しそうな話し声が聞こえた。
コメットは、その部屋の側で緊張気味に立ち続けるエルフの少女にニコリと微笑むと、その部屋に突撃をかまそうとする聖の首根っこを掴み、奥の部屋へと連れていった。
「ちょっと、なんかムカつく声が聞こえたんだ! 中を見せろ!」
『行きますよ? 聖ちゃん』
「や、やめぇぇあああ」
そうしていつの間にか夜が明けて、『大・魔導・武術トーナメンツ』の一日目がやって来た。
配られた対戦表に書かれたチーム名は、まだ誰と当たるかは決まっていないらしく白紙のトーナメントがあるだけだ。
その下に参加リストがる、つまり直前に決まるようだ。
参加は16組と少ないようだ。
まぁ、5位の聖騎士相手に敗けが決まっているというのもあるし、自分の手の内を世界に知らしめる羽目になる可能性もある。故にこの人数だった
参加リストには――――――――
聖騎士ランスロード
学院連合騎士団見習いA
学院連合騎士団見習いB
アルベリー
ジウェル
DRF
正規騎士団『第一王子親衛隊』
正規騎士団『第二王女親衛隊』
セブンスウェル
エルフィナ・ユエリー
ブラック・パラディン
リスペクターズ
ファーストキングA
シシェナエト
聖騎士ガラルハルド
聖騎士モルディナ
の16組が会場や街の至るところに張り出されていた。
王家からの参戦と騎士団の参戦は予想されていたが、まさか、聖騎士がランスロードを含めて3人も参戦するとは思っていなく、物凄い反響の元朝から、会場は大混乱だった。




