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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
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第二話―聖&コメット&リフレク side 1『1stコンボ』―


ちょっとした出来事。


武器屋にて。

厳つい店主と青年の冒険者が話し込んでいた。

内容は、何でも槍と盾の話らしい。


店主「だから言ったろう? 片手に長槍、片手に大盾なんて戦闘には不向きだと」

青年「くっ、確かに重すぎて振り回せないし、突くことしか出来ない」

店主「せめて、槍を振り回すなら、盾は小盾にして腕に取り付けるんだな」

青年「だが、折角の異世界でゲームの再現が出来ると思ったのに……」

店主「げーむ??? まぁ、大盾と長槍の着眼点はいいと思ったが、重量を考えろよ」

青年「魔法でなんとかならないかな? 」

店主「ならんこともないが、毎回軽量化を掛けるのか? 半端無く魔力無くなるぞ」

青年「う、うーん、魔導師タイプじゃないし、それは無理か、でも諦められない!!」

店主「……そんなに気に入ってんのかよ、ならいっそ槍と盾がくっついているヤツでいいじゃねーか」

青年「はっはっはっ、そんなキモいのあるわけ無いじゃないか!」

店主「………槍の石突きにある宝玉が『障壁』を発生させる槍が迷宮から出ていたな」

青年「分かったそのロマン武器をくれ」

店主「変わり身はえーなぁ、おい、値段は――――――Gだな」

青年「ローンで頼む」

店主「一昨日来やがれ、貧乏異邦人」

青年「くっ、この世界では珍しい『これ』をつけるからなんとか」

店主「ああ?『シャーペン』がどうしたって? とっとと帰んな」

青年「あぁぁれぇぇぇ、あるのぉ?文明結構すごいのかな?」


しっしっと手を振る店主に頭に疑問符を浮かべる青年。

青年は知らなかった。

迷宮から出てくる謎の日常品シリーズが異世界のものだということに。


水無月の宝物庫から一階層の門番前まで転移してきた【ブラック・パラデイン】―黒木 聖―に【小精霊(光)】―コメット・アステリア―と【反射の魔女】―リフレク―の三人はレファンシアの迷宮入口に向かって歩き出した。

肩まである毛先が跳ねた銀髪に褐色の肌を持つ勝ち気な雰囲気の少女は、冒険者らしい服装をしていた。端から見ればダークエルフの冒険者だが、実際は、迷宮の第三層の階層主になる予定だった【ダーク・ナイト】が進化した【ブラック・パラディン】の―黒木 聖―だ。

聖は、小柄で華奢な体型で整った顔立ちをしている。

本人は自覚無いがそこそこの美少女である。

なぜ、そこそこというのかと言うと、何かと残念な行動や言動がマイナス要素として出ているのかもしれない。つまり、喋らずに佇んでいれば結構な美少女であろう。

じっとしていられれば、の話だが。


そんな聖は、さっそく走り出したそうにソワソワしていた。


「パッと行ってパッと帰って、私のクエスト達成の速度を見せつけてやろう!」


『ダメですよ? 聖ちゃん。

今回はリフレクさんとのパーティープレイですので、いつものように動いては駄目です』


聖の脳内に直接聞こえてきたのは、優しく軽やかな音色のような声。

その声を発したのは、聖の少し後ろからだ。

ヒラヒラした白基調で、黒の装飾のゴシックドレスを着た金髪碧眼の耳が尖った人物だ。

腰に手を当て少し屈み、顔の前に指を立てて表情をキリッとさせていた。


「むぅ、コメットが言うなら仕方ないな……」


聖は、金髪碧眼のエルフのようなコメットに言われ、渋々引き下がるようだ。

対して、コメットはニッコリ微笑む。

その時コメットの周りを光の粒子が舞っていた。

コメットが歩き出すと、その動きに合わせて細かな粒子が光っている。

なぜコメットが行動すると光るのかと言うと、エルフだからではない。

エルフの種族特徴にはそんな効果はないのだ。

コメットは【光の微粒子】から産まれた【微弱精霊子】が意思を持ち、長い年月を掛けて高まった神聖力により進化した【小精霊(光)】である。

つまり【小精霊】として取り込めない属性魔力が溢れだしたことで起こる現象が、コメットが動くと発生するキラキラエフェクトだ。

そして【小精霊】はこの世界に『火』『水』『風』『土』『光』の5体しか居ない自然を司る自然精霊になれる可能性を持つ存在だ。

そして【小精霊】も同じく5体しか居ない。

そのうちの一人がコメットだ。


そしてこの場にもう一人。


「黒木さんのいつもが凄く気になるんですけど!?

目的をもう一回確認しませんか? 私なんか不安になってきましたよ!」


自身の身長と同じくらいの大きさの杖を持ち、黒い衣装に尖り帽子とマントという、いかにも【魔女】の格好をしたリフレクが声をあげた。


リフレクは、格好の通り【魔族】の内の一つの種族である【魔女族】であり、また【魔族】と【魔】の存在は全くの別物である。


【魔】は人類にとっての敵対者であり、世界の抑止力の一つである。文明が急激に発達しないように、他種族を惨殺することもある。現在では【魔】の者の殆どが、神から使わされた尖兵と言うわけではなく、自分からだったり、流されていたり、やむ無い事情により、他種族が【魔】に堕ちる数が多い。

そして、【魔族】とは、この世界に古くから住まう種族の一つだ。

昔は大きな括りで【魔族】【人族】【獣族】【魔】の4つだった。


【魔族】は身体の中に魔核(コア)を持ち、高い身体能力や膨大な魔力を持つ種族の総称だった。

【人族】は当時最大の数を誇った種族で、他の種族に比べて、身体能力、魔力で遅れを取るが、技術の発展によって渡り合ってきた種族だ。

【獣族】は魔族に匹敵する身体能力と、部族による団結力をもつ種族である。人族そっくりになれる『擬人化』耳や尻尾等、身体的特徴を残した『通常時』と爆発的な身体能力を会得できる『獣化』

の三形態を使いこなさ無くてはならない。


そして【魔】である。

【魔族】と【魔】のもっともの違いは、即座に転生するか、どうかだ。

【魔】は死んだ場合、世界のどこかで同じ【魔】として再生する。

【魔族】は魔核があることは一緒だが、死んだらそれまでだということだ。


「ん? 目的はまず『上質な』転移結晶の値段を調べて買えるなら買って、ギルドでパーティー申請して……」

『パーティーの連携も見ないと駄目ですよ。 あとは、のんびり観光です』


聖が指折り言ったことに、コメットが付け加えた。


「ああ、そんな感じだ!! なんだリフレク知らなかったのか? ちゃんと説明しただろ? 」

『そうですね! 聖ちゃん。 リフレクさんは聞いてなかったんですか? 』


疑いの眼差しを向けられたリフレクは、


「え!? 聞いてましたけど、なんですこれ? 私が駄目な雰囲気なんですけど!!」


納得いきません! と杖を振り回して叫んだ。


そうして迷宮の出口が近づいてきた。

パーティーリーダーが【魔】の聖。

【小精霊(光)】のコメット。

【魔女】のリフレク。


世にも変わったパーティーの一日目が幕を開けた。


「煩いぞ! リフレク、私に負けたくせに……」

『そうなんですか?』

「え? 私、黒木さんに負けた記憶無いんですけど……」


「「………」」


………解散は近いかもしれない。



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