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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
58/75

第二話―水無月side 2『育成Ⅱ』―

遅れました。

ごめんなさい。暑くて暑くて体調が悪かったのです。なんとかこっちだけ更新。


ちょっとした出来事


エルフの秘店にて、

こじんまりとしたお店。

それが人目見て誰もが思う感想だろう。

城下町では珍しい木造の造り。

店内は木の香り。

まさに森にいるように心安らぐ店内の雰囲気である。

カウンターに座り本を読む金髪碧眼のエルフにそっくりの人物は

エルフ達に崇められている元精霊種だ。

現在は魔精という人類の敵としての存在になっているのだが…………


「あっ、エルフィのおねぇちゃん!!」

「エルフィだー」

「エルフィが店番なの?」

「えぇ、ちゃんとできるのぉ」


誰もいない店内。

緩やかな安らぎは瞬く間に壊された。

それは入り口から駆け込んできた上は10歳、下は4歳の小さな子供達だった。


エルフィは読んでいた本を閉じ、目頭を押さえる。


「アナタ達、また来たのですか……」


店内にある色々な物に触る少年少女にため息をつく。

この子達は、近くの家に住まう子供達で、なぜか最近ここに入り浸ってくるのだ。

さらにいえば、どうもバカにされている気もする。

エルフィが店のカウンターで店番をするのは、自らの種(子供)達が現在買い出しに行ってしまったためだ。

最初は、店の様子を奥の部屋からのんびり見ているだけの日々だったが、一緒に店を始めたエルフ達の為に何かしようとして、買い出しに行こうとしたら、


「だめです!そんなことさせられません!!」

「私たちが行ってきます!エルフィ様はそこに座って待っていてください」


と拒否されてしまったのだ。

とりあえずは、人族の子供達に怪我がないように注意しておくエルフィ。

危ないものは軒並みその場に固定させているので、大丈夫だが、子供ゆえに注意しなければならない。


「店内では走ってはだめですよ、あとふざけるのはもっとダメです」


「「「「はぁーい」」」」


という元気の良い返事に頷くエルフィ。

そんなエルフィに話しかける一人の幼い少女。


「どうしましたか?」

「あ、あのね、エルフィは何歳なの?」


歳を聞かれたエルフィは、『なんかそういうこと久々に聞かれました』と思いつつピュアな心をもつ少女を騙すのも忍びないの本当の事を教えることにした。


「6307歳ですよ」

「え!?」


ニッコリ微笑み答えるエルフィに少女は俯き震えだした。

真実を告げただけだが、なにか悪いことをした気になるエルフィは困ってしまった。


「あ、あの、大丈夫、どうしたの?」


少女は涙目な顔をキリッとさせ、エルフィに指を突きつけた。


「嘘だ!そんなあからさまな嘘で、ワタシ騙される安い女じゃないんだからね!!」


そう言って店から走り去っていく少女と、『うわぁ泣かしたぁ』『いけないんだぁ』『エルフィは全くもう』と言ってその後を続く少女の友達に、エルフィは時が止まったようにその場から動けなくなった。


「なんでよ……」


どこから突っ込んで良いか分からないエルフィはぼそりと呟き、カウンターのテーブルに突っ伏した。

その姿勢は買い出しに行ったエルフが戻ってくるまで続いていた。

因みにその光景を、銀髪のおかっぱ頭で褐色の肌の5歳くらいの少女が目撃しており、後日いつの間にかダルフの元まで話が届くことになる。


聖達がクラレントの城下町に行ってから、丁度一日が経過した。

俺の予想では、聖達は金策に走ってる頃だろうか?

『上質な転移結晶』って入手困難らしく値段がスゴいからな。

モンスターに分類される聖だが、俺が昔渡した『黒い護符』によって認識阻害があるから、余程の事がなければバレることはないだろう。

そもそも、普通にダークエルフとして、受け入れられている気がしないでもない。

コメットもいることだし、無理はしないだろう。


「魔女リフレクが振り回されていなければ、良いけどな」


さて、こっちの状況は相変わらずだな。

宝物庫に充満する筈の魔力は増えてはいるが、迷宮の機能を取り戻すほどではないようだ。

つまり、今日ものんびり過ごすことが出来ると言うわけだ。

意外に訪問者がいない日があると、はっきり言って休めて良いと思う。

ここ最近は、聖が行ったり来たり、ダルフが来たりと冒険者関連でなくても忙しかったのだ。

この時間を満喫しないことはあり得ない。


「宝具や魔石、魔力を産み出すか、それとも『こいつ』をからかうのか……」


俺の視界に表示される、デフォルメされた可愛らしい『飛竜(ブラス)』に視線を送る。

そこは『 』の名前と現在の状態が表示されていた。

さらには、狭そうな画面の前に、色々とアイコンが点滅している。

表示されているのは現在の要求のようだ。

『食事』『清掃』『訓練』『じゃれる』の四つ全部が発光していた。

言えるのは、あまり放置すると性格が悪いヤツになってしまいそうだ。


視界の端に『飛竜』を示すデフォルメドラゴンを写した画面では、ドラゴンが足に荷物を持って飛び回っている。

ほんわかする可愛らしい表示に癒されながら、今日やる餌を考えてることにした。


「杖とか魔石系は食べないから、今日はどうするかな」


昨日調子に乗り、俺が持っている様々なモノを与えてみた結果、杖や魔石には興味を示さず、食べることも無かった。

その時、好感度が下がった。

実際ログでそう表示されるとめっちゃ悲しいよね!

何て言うの? ゲームじゃない分余計に痛い。


と言うことで、ある程度好き嫌いを予測して与えなければならないようだ。

唯一の救いは、時間を限り無く加速させているのに、食事の要求が少ないことだろう。


「これにしてみるか……」


そう言って、盾を与えることにした。


銘:ルーサルファ・聖

盾形状:六角型ベース

スキル:【対魔法領域(アンチ・フィールド)】【光属性強化(低)】【聖属性強化(低)】



この盾は、聖がもつ【ルーサルファ・聖】を作る際、検証スキルで出現したパターンの一つだ。

これを渡すか、それともスキル構成が【魔法無効(中)】【魔法反射(中)】【闇属性強化(低)】のどっちを渡すか悩んだ品の片割れでもある。


聖が盾を壊した際の予備で備えていたが、盾を与えてから一度もそういう話が聖から上がってこないし、時おり盾の状態を見ても心配は無用と分かったので与えることにした。

あとはもしかしたら、なんかスキルが発現してくれれば良いな、という下心のためだ。


結果。


―ルーサルファ・聖を与えました―

―『 』は食べた―

―なかなか砕けないようだ―

―なんとか食べた―

―『 』の防御力があがった―

―……噛む力があがった―

―スキル【D・フィールド】を覚えた―

―……好感度があがった…ように見える―


となる。

おおぅ、盾系統はやはり硬いらしい。

上がったのは防御力か。

ステータスは詳しく表示されないし、どれだけの防御力かは未だに不明だ。

総合的にどれだけ強いのかは、外に出してみないと分からないようだ。

そして、これで4つ目のスキルを獲得できた。

得られたスキルは【D・フィールド】という。

D? ドラゴンかな?

たぶんそうだろう。

そして、好感度はあが…………っていないようだ。

悲しい。


と、とりあえず、気を取り直して今まで獲得したスキルを見ていこう。


ラビンス(ハルバード)からは【バレッド・ブレス】

炎刀・炎銃(双剣銃)からは【ガトリング・フレア】

フラガランス(槍)からは【スラッシュ・テール】

ルーサルファ・聖(盾)からは【D・フィールド】


となっている。

【バレッド・ブレス】は竜の咆哮による空気砲で、見えない圧縮空気弾をを飛ばすものだ。威力は今のところ不明だ。

【ガトリング・フレア】はブレスとは違い、口から炎の弾丸を連射するスキルで、最大7発まで連射出来る。しかし、それ以上はスキルの再使用までに時間が掛かるようだ。こっちも威力は不明。

【スラッシュ・テール】は尻尾の先端を槍に変形させて斬りかかるスキル。突くことも斬ることも尻尾の動くままに。切れ味は不明。

【D・フィールド】は全展開することが出来る防御膜らしく、ドラゴンが自然と纏う魔力を固めて障壁を作るスキルのようだ。どれ程守れるのかは不明。


さて、不明のところが多いのは、実際に検証しないと分からないことだ。

【サポートアシスタント(AA)】もそろそろ、外に出しても知的に行動できる筈だというので、早速ここに、召喚してみよう。

召喚といっても、俺の口から出てくるだけなんだけど。

そういえば、出た瞬間に戦闘準備をしておくように【サポート・アシスタント(AA)】に言われたことを思い出す。

なんでも、竜属は強い奴に従うようで、一目で実力性が分からない場合襲ってくるようだ。

つまり、俺は自らが産み出した『飛竜』と戦わなくてはいけないらしい。

しかしだ。

どうやって戦って認めさせれば良いんだろうか?

とりあえず、緑とオレンジの刃先が発光するチャクラムを展開させておく。


「まぁ、実力を調べるのに良い機会だな」


そう言いつつ、ドラゴンと戦闘できることにわくわくを隠せない。


―『 』の排出をします―

―『 』が排出されました―


俺の上蓋が勢いよく開き、そこからこの迷宮に本来ならいない筈のドラゴンが飛び出した。


―『 』大きさがもとに戻ります―


出てきて飛び回るドラゴンは、身体が段々と大きくなり、全長5mくらいになった。


「ガッァァァァァ―――――」


厳つくも凛々しい頭部に広がる翼に弱々しさはなく、寧ろ切り裂けるような鋭さがあり、尻尾に至っては槍の穂先のように尖っている。

『飛竜』に腕はない。

どちらかと言えば、ゲームでいうワイバーンといわれる種にそっくりだ。


そのドラゴンが俺に向かって威嚇の咆哮をする。

昔の俺なら今ので気圧されてガクブルしていただろう。

しかし、今は。


―『 』の威嚇咆哮―

―【エニート(複合)】によりレジストに成功―


難なく防ぐことが出来るのだ。


「へっ、家族に就職の心配をされるよりは全然効かないぜ」


そういうのだが、咆哮より自分で吐いた言葉に胸が痛む俺であった。

威嚇が効果なしと見なした『飛竜』は、さらなる咆哮をあげて俺に向かってきた。

金の瞳には警戒を隠そうとしない。


「グルルルルァァァアアア!!」


「しゃあ、こい!完全部位破壊したるで!!報酬はでかいぞ!」


ドラゴンとバトルロマンに興奮状態の俺は、完全にこいつをなんのために育てたのか頭から抜けていた。


―『 』の【ガトリング・フレア】―

―損傷………0%、よって無傷です―


「はっはっはっ、効かぬぞ!」


―『 』へチャクラムによる攻撃―

―飛び回り回避されました―


「なんだと俺の思考操作の先を行くというのか!?」


戦闘の火蓋が切って落とされたのだった。


















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