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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
54/75

第一話―斜めに全力―3

偽宝箱改め、『偽装宝箱』に進化していた俺は、体内に存在するアイテムの数々を整理しながら、話を聞く。


「何て言いますか……今の御方が、彼の恐れられる迷宮の主『呪殺のレファンシア』なのでしょうか?」

「恐れられる?迷宮の連中は迷惑がってるが……デカ乳か?と言われれば、そうだな!」

「迷惑?でかちち?」


声を震わせながら、聖に訪ねたのは、とんがり帽子に琥珀の眼、人族で言えば平均的な身長に天パーぽい髪、服装は漆黒のローブにで見えないが、素足がチラリズムしていることからスカートをはいていると思われ、魔術師然とした華奢な身体をもつ少女だ。


「で、ですよねぇ……」


そう言って、手に持っている札を、なるべく身体から遠ざけようとしていた。

しかし、捨てないらしい。

聖は不思議に思ったのか首を傾げていた。


「いや、さっき説明と一緒にそれを渡されていたじゃないか?」

「夢っていう可能性は……」

「ないだろ」


欠片のような望みを託して遠くを見つめる少女に、聖はバッサリ切り捨てた。

事実、夢ではないが、まぁ、本人としては夢であって欲しかったのだろう。


少女が持っている札は、ダルフから渡されたものだ。

いつもとテンションの違うダルフは、たぶんだが、俺に話に来たのだろう。

しかし、俺の部屋には帰れなくて困り果てた少女と、聖の二人がいた。

少女はダルフを見た瞬間、聖とダルフへ視線を交互に送っていた、もしかして姉妹かな?と思ったのかもしれない。

いつもなら、聖が「何しに来た!」と剣を向けられると、言い合いが始まるのだが、今日のダルフは上機嫌に聖をあしらっていた。聖がキモがったのはそれでだろう。

ダルフは、部屋の隅に逃げようとする少女に気づき、声高らか名乗りをあげ自己紹介をすると、挑むように指を突きつけてた。

確か、


『我こそは、うんちゃらかんちゃん、汝の望みはなんだ!?』


的な、お前七つの玉を集めると出てくる龍か!?って内心突っ込んでいた。

すると、びくりと震えた少女は、決死の覚悟で名乗りかえした。

こんな感じだったか?


『私の名は『反射の魔女リフレク』この世界の全ての叡智を求める魔女の一族、私がここに来た望みは―――』


て良い所で、いつもの御方が―――被せるように割り込んだのだ。


『この迷宮にあ―――』

『仲間が欲しい!!』


動きを止める魔女と俺。

いや、おれ動けないけど。


するとダルフは、首を傾げていた。


『仲間?あんた『達』の望み?』


魔女さんの望みを言う声は、聖と被ったことで一緒にされたようだ。


『え!?ちが!!』

『聖はどうでも良いとして、魔女リフレクは…ぼっちなのね、それなら仕方ないわ』

『だ、ちが、う』


必死に訂正しようとしているが、相手はあの恐れられる魔精。

きっと強く出れなかったのだろう。

ダルフの暴走は続く。


『仲間もいなく、この部屋に来るくらいだものね』

『あ、その、ですね』


優しい眼をするダルフ。


『でも、安心して、けして裏切らない仲間を紹介するわ』

『え!?裏切らない……』


ダルフ、なんて的確なポイント突いてくるんだ。

魔女も満更でもなさそうな顔をちょっとしていたぞ、すぐかぶりを振るったが。

今日のダルフはどうしたのだろうか?

おい、聖!失礼だから、後ずさりで下がるのは止るんだ!

しかし、裏切らないで反応するって、この少女の星の巡りか、余程の事があったのか。

いや、一緒にいたパーティーを見ると分かる気もするが……

とはいえ紹介って?

最近街に増えてきたエルフやダークエルフの事か?


するとダルフが聖を指差した。


『あの子のパーティーに入りなさい、あ、これ『特殊通行符』ね』

『え、あの、えええええ!?』

『じゃあ、渡したわよ、それは、この迷宮の『対勇者仕様』の……ってその話は別に良いわね』


そういった。

いや、よくはないんだけど、詳しく教えて欲しかった。

颯爽と自らの部屋の扉に戻っていくダルフ。

それを止まったまま見送ってしまう少女と俺。

最後にダルフがコメットを呼んでいた。


『コメットに言っておかないと』


そういって扉が閉まった。

そんなことがあったのだ。



少女はため息を吐き、身長ほどの杖を支えにしていた。

魔精相手に無事でいたとはいえ、状況が状況か。

彼女が纏う雰囲気はどん底よりも深そうだ。

自由に動けたとしても俺なら近づかないな。

(【擬態】スキルを使えば一応近づけるけど……)


「なんだ、嫌なら嫌ってダルフに言えば良いじゃないか?」

「それが出来なかったから、落ち込んでるんですよ!」


聖が近づき少女の肩を叩くと、少女はその場に崩れ落ち、床を転がり悶えていた。


「大体、なんですか?なんなんですか?いえ、ついこないだの戦闘で、ヤられたのはこっちですけど、なら素っ裸でも良いから送り返しておいてくださいよ!それならこんなことになることなんて無かったですよ。確かに『裏切らない』って言葉に惹かれましたけど、けど、結論が早すぎですよ、長生きしているくせに、短気なんですか?せめて私の思いを聞いてくださいよぉ。それもこれも、宝物庫の『気絶転移』機能が切れるから!切れるから!!」


聖が、こちらをちらちら見ながら言う。


「ああ、本当にな!まったく、迷宮の機能を停止させるほどのことをする奴がいるとはな!」


ぐぬぬぬ、こいつ誰に言ってやがる、あの時俺のお陰で死なずに済んだくせに。

でも、言っていることが間違ってないだけに何も言えぬ!

ちなみにこの少女、俺の部屋に二回も訪れた幸運の持ち主でもある。

さらには、魔族の魔女型つまり、魔女族(ウィッチ)で、仲間にいつもハブられていたお方だ。


「迷宮の部屋の魔力が切れる現象ってなんなんですか!もう、それにあの魔法間違いなく【アイオロスの魔導書】ですよ!!『バニッシュ』め死ぬ間際に魔導書を迷宮に捨てるなんて余計なことを――」


いまだに悶える魔女を見るが、子供が駄々をこねているようにしか見えない。前世の俺と同い年くらいだと思っていたが、精神年齢は低いのか?

しかし、こんな状況の原因を作ったのは、ここで戦闘を始めたこの魔女と聖にもあるが、俺にもあるのだ。

どっちかと言うと、俺のせいらしい。そう【サポート・アシスタント(AA)】が告げるが、俺は認めないぞ。けしてだ!


「あ、ありがとうございます……って!?」

『………ッ!?』


転がっていた魔女を、捕まえ抱き起こしたのはコメットだ。

少女は自然と礼を言った後、警戒して、コメットから勢いよく離れた。


『………』


コメットは、まさか拒絶されるとは思っていなかったらしく、音で言うと『ずーん』と落ち込んでいた。


「え?あの、ちがっ、いえ、違わな、いえ……ごめんなさい」


警戒してても、コメットの落ち込み具合に罪悪感があったらしく、魔女は一定距離を保ったま弁解をしていた。そんな光景を俺の側にいた聖は……笑っていた。


「あははは、こめっ、コメット『新入り』に拒否られてるじゃないか!!しかも慰め――ぐほぁ!?」

『ッ!!』

「もう、仲間扱い!?」


笑った聖に、なにかが直撃したようだが、周りを見るとそれをやったのは一人しかいなかった。


『!?……ッ!!』

「ぐわぁっ、やめろ!障壁を投げてくるな!」


見えない障壁をどうやってか分からないが、聖に投げつけてくるコメットは、ちょっとだけ怒った顔をしているように見える、逃げる聖を追いかけまわすコメットの様子から、物凄く怒っているのではないだろうか?


そんな光景をポカンと見つめる魔女は、がっくしと肩の力を抜いていた。


「なんですか、本当にこの方達は、これが世界の敵?魔女集会(ミサ)で報告しても、信じてもらえないでしょうね」


そう呟いていた。



――――――――――

コメットに追いかけ回された聖は、俺の上にぐでっと身体全体でのし掛かる。

慎ましい胸で上蓋を圧迫される。

感触?だからそんな機能はないんだ!!くそっ。

舌か!舌を使うか!!


「それで、なんですけど、今後のことを話しませんか?」

「うぅ……ん?」


俺にのし掛かる聖に、魔女リフレクは杖を抱きつつ話し掛けた。

【魔】と分かったら、敵対するのが一般的だが、魔女の中では違うのか?

それとも、本当に仲間に飢えているのか?

なんか、かわいそうになってくるぞ。


『………?(じー)』


コメットが、リフレクをじっと見つめているが、あれはどういう意味なんだ?

リフレクも視線に気づいたようだ。


「あっ、そうですね、ちょっと待ってください」


そういって魔法を発動した。

発動に用いられた魔力が、魔素になり四散していた。

すると、リフレクの頬に白いアザが浮かび上がる。

アザは何かの文字を印していた。見たこともない文字だ。

『9』という数字に似ている。

それが、どういう意味かはすぐに分かることになった。


『……!?……!!』


コメットがそわそわとして、リフレクの頬に浮かんだ文字を見ていると、リフレクはまるで返事をするようになタイミングでしゃべる。


「大丈夫ですよ、痛みはありません。副作用ですか?それもないですね、しいて言えば、魔力をちょっと多く消費した所でしょうか?」

『……(ほっ)………?…………ッ!?』


そう言われコメットはホッとしたのか、胸を撫で下ろすと、動きを止めてリフレクの顔を見た。

その顔はいつもの無表情ではなく、驚きに染まっていた。

どうやら、意思の疎通が出来るようになったようだ。

面白い魔法だ。

俺も使ってみたいけど、覚えるにはその魔導書を取り込まないと駄目だ、そして、目下その魔導書は、リフレクが所持している。というかリフレクが書き記しているらしい。

魔女族とはそういうもんだと【サポート・アシスタント(AA)】から言われた。


「ええ、わかりますよ、私のもうひとつの得意魔法の『意思疎通』です」

『………!(ぱちぱち)』


リフレクはそういって胸を張る。

そんなリフレクを、ぱちぱちと拍手して誉めるコメット。


「なに、私と同じことが出来るだと!さすがだ!新入り!!」

「新入りはやめてください、私はリフレクですよ」


聖が自分のことのように誉めるもんだから、リフレクは照れっとしていた。

俺から起き上がった聖は、ニッコリ笑い、握手を交わしていた。


「わかった!リフレク、私のことは『リーダー』と尊敬して呼んでくれ!」

『…………(ふるふる)』

「え?調子に乗って問題行動ばかり起こすから、けして呼ぶなって………分かりました、では『聖』とよび―――」

『……ッ!?』

「なっ!?呼び捨てはダメって……」


なんか握手したままコメットに説教されていた。

結局、リフレクは聖の事を『黒木さん』コメットのことは『好きに呼べ』と言われ、悩んだ末『コメットさん』と呼ぶようだ。

コメットを見て、

(しゃべれると意外に厳しいところもあるんだな)

と思った。


結局パーティーを組むようだ。

よかったな聖、後方の火力メンバーが入って。

そしてリフレクは、よかったな『聖』バカだから裏切るとかまず無いぞ!


そこまで考えていたとは、ダルフはやはり俺の出来る上司なようだ。

愚痴をのぞけば。

――――――――――――――


しかし、未だにこの空間の魔力が復旧しない。

【サポート・アシスタント(AA)】が


―迷宮権限復旧まで残り(13%)―

―魔力最低ラインまで復旧―

―『魔精の気まぐれ』再起動まで2日―

―『結晶』による設置陣消失しています―

―【ブラック・パラディン】黒木聖のリスタートポイントが一階層に戻されました―

―新たに上質な『転移結晶』が必要です―


と言っている。

転移結晶自体は俺の中にあるが、ちょっと思い付いたことがあるから、そのままにしておく。

さらに、俺は新たに加わった仲間の為に、お節介をすることにした。

俺が没頭している間、聖とリフレクは時間があるため、のんびりとお茶をしていた。

白塗りの丸テーブルにセットの椅子。

引かれたテーブルクロス。

その上に置かれたティーセット。

どれもが、俺が内部で作り上げたものだ。


リフレクが上品に飲むのに対して、がちゃがちゃと音を立てる聖。


「む、そういえば、あの時なんの魔法を使おうとしたんだ?水無月が五月蝿かったから気になったぞ」

「あれはですね、相反する二つの属性をぶつける『複合魔法』ですよ、詳しくは教えられません」


リフレクは、聖の後ろに控えるコメットが、手をワキワキさせて、即座に聖に手を出したそうにしているのに気づいてないふりをしていた。


「そうなのか?秘密の魔法なのか?」


テーブルクロスにちょっと中身が飛び散ったが、気にしない聖は考え込む。

コメットが自分の手を自分で押さえていた。

なんか耐えてるらしい。


「ま、まぁ、そういうことにしておいてください。仲間と言えど、そう簡単に手の内に明かせませんよ」


カップに口をつけるリフレクは笑みを作る。


「そういえば、みなづきって言うのはだれでしょうか?」


俺はびくっとしてしまう。

あれ、魔法を打ち上げた時からバレてるもんだと、思っていたがそうでもないのか?

いや、結局モノを渡すときにバレるか、なら早い方が良いだろう。

聖が紹介してくれると思ったがあてが外れた。

聖は足を組み、両腕をテーブルで合わせるように組み、その手で口許を隠した。


「ふっ、それは秘密だ」


(いや、そこ秘密にするの?数時間後にはバレるのに?)

対抗意識というか、張り合いたかったようだ。

だが、いい加減にしないと……


リフレクも気づいているようだ。

ちらちらと聖の後方に視線を送っていた。


「そ、そうなのです…か」


しかし、聖は気づいていない。

自信満々に振る舞うばかりだ


「ああ、そうだ!…………あ」

「あ」

(あぁ~あ、し~らねぇ)


聖は手を動かしたとき、近場にあった自らの紅茶を溢して、テーブルクロスを染めていた。


聖はあまり気にした様子はなく、倒れたカップを立てて、「よし!」という。

よしじゃねーよ……

あと後ろ。


聖の後ろからすっと延びてきた手が、聖の手を優しく掴みとった。


「?どうしたんだコメッ……!?」

『………(にっこり)』


そうして、部屋の隅まで連れていかれた聖は、その場で正座させられていた。

テーブルと一緒の椅子に座るリフレクは、視界に入れないようにしているようだが、手が震えているぞ。

コメットが怒るのを見るのは初めてじゃないが、まさかやらかすとはな。

さすが聖だ。


「マナーだと!?わ、わたしは」

『ッ!!……!?………?』

「ぐぅっ」


相当しぼらているようである。ドンマイ聖。

そこで聖は俺を指した。


「水無月は何も言わなかったぞ!」


おい、ばかやめろ、俺に矛先がくるだろう!!


『………?』

「いいのがれとかじゃなくてだな!」


しかし、コメットは信じてない様子。

ありがたいが、後の期待がでかそうだ。

これで、なんとかなったのか?

そう思ってため息を付くと、目がない俺とリフレクの視線があった気がした。


「みなづき?」

(あ!)

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