第四十六話ー偽装宝箱ー『妥協判断』
今日訪れた冒険者は、なんと昔出会ったことがある人物だった。
俺の宝物庫が出現する確率は1000分の1。
そして、魔精ダルフの部屋に繋がる確率も1000分の1である。
つまり、俺の部屋とダルフの部屋に繋がる確率は同じであり、そんな場所に何度も訪れることは、まさに奇跡と言って良い。
まぁ、ダルフの部屋には俺の部屋にある扉から行けるので、俺的にはお隣さんなわけだ。
冒険者は利用できないようだが.....ってそんなことはどうでも良い。
今は目の前の魔女を凝視していた。
俺が今まで見た女性冒険者の中でも、身長は平均くらいで、人目を引くほど美人てわけではない気がする。目が綺麗だったが、そんな魔女は、地味で普通俺も忘れると思うが、なぜか覚えていた。
実際、始めにここに入ってきた冒険者集団で彼女を見たとき、俺は、
(ああ、なんか見たことあるな.....)
位だったが、今は久々に親友に会った奴みたいに、大声を上げたい衝動が襲ってきたのだ。
なんとか事なきを得たが......
気づいたのは彼女の魔女っぽい見た目でも、珍しい琥珀の瞳でもない。
なにか爆発に巻き込まれたのか、所々跳ねた髪でもない。
そう、気づいたのは.......
「みなさん、いいですか!それは危険です!!」
身ぶり手振りで、必死に伝えようとする女魔法使い。
「ザック、彼女はそういうけど.....」
「ああ、ここまできて開けない手はないだろう」
俺の周りをじっと見つめたり、大理石の床を寝転がり耳を当てたり、さらには【サーチ】や【ソナー】などの探知魔法で慎重に調べている男性は、後ろで女魔法使いの言うことを、どう判断して良いか迷っている青年の声に淡々と答えた。
「アスト、お前はここまできて挑戦もしないのか?それとも......俺を信用してないのか?」
「っ!?そんなわけない!!」
「なら.....」
アストは目を見開き強く言い返すが、ハッとして、女魔法使いと線の細いザックに視線をいったり来たりさせていた。
「で、でも.....ほら、フェルミさんがそう言ってるし.....」
おい、お前、アストと言ったな、そんなチラチラと赤い顔で見てたら、恋愛経験がない俺でも勘づくぞ。
俺の身体をペタペタと触っていたザックは、俺の側で立ち上がった。
「罠の存在は俺のスキルでも魔法でも、ましてや経験からでも感じられない」
「聞いたかい?フェルミさん!!」
ザックの出した結論に、嬉しそうに女魔法使いを見るアスト。
「で、ですが!それは予想の外側の存在です!いえ、理の外にいる悪魔ですよ!!」
それでも、信用してないってよりは、俺への警戒心が高い女魔法使い。
おい、だれが悪魔だ!!
俺から5mは距離を取る女魔法使いに、俺のすぐ側にいるザックはため息をつき、肩をすくめていた。
「そうは言うが、俺の事もパーティーとして信用してほしいものだがな」
「信用はしていますが、それについては譲れません」
即答する女魔法使い。
「はっ、信用しているって?嘘ばかりだな、現に今信用してないだろうが?」
「っ、そ、それは......」
殺気を込めた視線を浴びせるザックにビクッとする女魔法使い。
おいおい、なに?なんなの?この修羅場!?
俺は、中間に立つ優男アストの反応を見るが......
「あわわわわわ.....」
口に手を当てておろおろするばかりだった。
っておい、せめて、さぁ.....
かっこよく間に入って、
『やめるんだ!二人とも、二人の言うこともわかる......だから、代わりに僕が開けよう』
『な!?』
『あ!?それは俺の仕事だろアスト』
詰め寄る二人に、イケメンスマイルを振り撒いて、
『罠がないんだろ?なら俺でも大丈夫な筈だ』
『そうだが....』
『もし何かあっても俺は耐えて見せるよ』
『で、ですが』
『まかせてくれ!!』
って感じに丸め込んで、はっはっはっ、って俺に手をかけてパカッと開け、メンバーに羨望の視線を向けられ、恋する乙女の視線も向けられて、
『ほら?簡単でしょう』
ってドヤ顔を決めるべきだと思う。
てかしてほしいぜ。
まぁ、そのあと、ぐしゃぐしゃべしゃばきごきんって、なる......かもしれないけど。
そういう理想を妄想していた俺の目の前で、状況は動いた。
「おい、アストお前はどっちの味方なんだ!!」
「アストさん!信じてください!!」
「あわわわわ」
詰め寄る二人にアストは、完全に困り果てていた。
ダメだこりゃ.....
言い争いに発展していく様を呆れながら見ていると、ぼそりとした声が届く。
「だから、魔法もスキルの常識も効かないんだっての.....」
そして、このパーティー最後の一人である魔女姿の少女は体育座りをしたまま、遠くを見ていたが、
パーティー内では相変わらずの空気らしい。
そう何を隠そう、彼女こそ俺の宝物庫に二回目に挑戦する珍しいお方だ。
最前線で何かしらのスキルを用いて、何度も俺のところに来る黒髪美人ぼっちと、一番最初の冒険者は数に含めないことにしているから、この子が初だ!!
しかし、なぁ......
彼女の言うことは、どう見ても優柔不断のアストにすら無視されている。
始めに彼女が、
「あ、来たことあります」
と言ったとき。
嘘だと思い、メンバーは信じていなかったし。
まぁ、わかるぞ、確率の低いこの場所に何度も来れるわけがないという思いも。
次に、ちょっと勝手が知っているから、説明をするが.....
「あの周り以外は基本的に安全です、罠があるとしたらあの宝箱だけでしょう」
というが、一歩一歩確認して牛の歩みのメンバーに、四隅の一角にある財宝の山に向かって実践して見せたら、
「ばっかやろう!!これだからは魔女は!!」
「何してるんですか!リフレクさん!やめてください」
「あ、あんたバカですか!?」
と財宝を手に持って振り返った魔女は、彼らの反応に唖然としていた。
「ご、ごめんなさい?」
まったくもって信用されてなかったようだ。
そうして、何かと貢献しようとするが、軽くあしらわれていた魔女を見ていたら、昔、話を聞いて貰えず、一人だけ生き返った魔女の少女を思い出したのだ!
というかだな、なんで魔女さんはそんな信用されないパーティーばかり入ってるか不思議なんだが、まぁ、どうやってパーティー組んでるのか知らねーし、大方、この三人組に実力を買われて参加してみたら、この展開になったって感じだな。
昔も思ったが、ソロでやれば良いのに......
遠い目をしている魔女は、周りの財宝にも手を出せず、もはやこのやり取りが終わるのを待つばかりのようだ。
―――――――――――――――
あれから数分経つが、未だに言い争いが続いている。
魔女さんは、土属性魔法で俺の宝物庫の床を改造し、背もたれを作り寄りかかって休んでいた。
というか、意外に余裕だな魔女さん。
「いいか、俺の方がアストのことを知っているし、信用も勝ち取っているんだぜ?」
「は?はぁ!?私の方に決まっているじゃないですか!そんな勝ち誇って、私の方のが信用してますよね!アスト!!」
「あわわ、わわわわ」
こいつらも懲りねーな。もう、なんか知らんが優柔不断な男を取り合っているようにか見えないんだが.....
ここで今まででも予想外なことが起きた。
俺としては大助かりだった。
救世主といって良いのかもしれない。
けして言わんが。
ーダルフの部屋からアクセスを確認ー
ー反応は1ー
ー接続完了ー
ー扉の出現ポイント後方に設定ー
ー扉開きますー
ギィイ。
そして開いた扉から、見た目ダークエルフの少女が飛び込んできた。
「おい、帰ったぞ!!」
俺を見つけ歩いて来る【ブラック・パラディン】の聖は、俺が声を返さないことに表情をムッとさせていたが、俺の周りにいる冒険者を見て、ポンっと手を打った。
「あ、そうか、そういうことか!!」
なに納得してるんだコイツ。
とりあえず、こうして冒険者達もスイッチが変わったみたいだ。
「こいつ、ダークエルフ!?」
「【魔】に堕ちたダークエルフが迷宮側に付いたって言うがこいつが.....」
「そ、そんな、ここで戦闘なんて」
即座に、俺の後ろから現れた聖から距離をとり各々武器を構え、魔法をスタンバイする冒険者達。
だが、一人だけ、孤立した魔女さんに俺は目が離せないんだが......確実に見捨てられているね。
壁端まで連携して後退する冒険者三人と、身動きを取れば、ターゲットにされかねない魔女さん。
俺の側に立った聖は口許をニヤリとさせる。
うわぁ、なにかやらかす気だわ.....
「私は、この宝物庫の守護者!宝が欲しければ私を倒すことだな!」
剣を冒険者に突き付ける聖から殺気が放たれる。
それを受けた冒険者な覚悟を決めたようだ。
「っ!?」
「やるしかないのか!」
「相手は一人だ恐れるな!俺たち三人ならやれる!!」
お互いを激昂する三人。
そして、なぜか俺までいたたまれないが、しょんぼりして、その場で『の』を書きいじける魔女さん。
よくわかんない内に戦闘が始まってしまった。
――――――――
まぁ、聖が圧倒的勝利を納めていた。
「他愛もない」
そういって剣を鞘に戻し、決まった!と喜んでそうな顔をする聖。
簡単に戦闘の背景こうだ。
先制魔法が飛んでくる→体に当たるが『カンッ』と弾かれる。
接近戦を仕掛ける二人の剣技を身体に受けるが、激しい金属の撃ち合う音が響くだけで、防御を無視して闇の斬撃を飛ばす技【ダーク・セイバー】を三人まともに受け、その場で消滅現象が発生していた。
入り口に送り返されただろう。
そして、
「炎よ、氷よ、背反する二つの属性よ、」
魔法を詠唱する魔女さんに向かってドンと来いと、剣を俺の側の大理石にぶっ刺し.....あとで直させてやろう。
真正面から魔法を受け止めるようだ。
「ふ、今の私は魔法は効かない」
自信満々の聖。
しかし、言わせて貰おう。
確かにそういうスキルと特性を聖は持っているが.......あれは、無理じゃね?
「いま、ひとつの奇跡を我、『反射』の魔女の元に具象させよ」
魔女は杖を直立させ、両手にそれぞれの属性の魔法を集めだした。
ヤバイ魔力上昇を感じ、聖に話しかける。
『おい、ヤバイぞあれは受けるもんじゃない!』
「なに!?私が負けるだと!!」
『とりあえず、俺のそばから離れて受けろよ!』
巻き込むんじゃねーよっと、言うと、余計不機嫌になる聖。
「嫌だ!ここを動かんぞ!」
こいつ、あの魔法はヤバイことがわかんねーのかよ!?
いや、そうかもしれないな。
おれだって漫画とかでそうなるんじゃねーかと思うくらいだが、見たこともない魔法は、強いのか弱いのか想像ができないのも無理はない。
そして、絶対の自信を持っている聖は退かないか......
仕方ない、俺は手を出すつもりはなかったが、こうなってくると話は別だ。
もし聖が俺の側を離れて、俺に害がないなら、なにもしなかっただろうが.....
ため息を吐きつつ、俺の視界上に表示される一つのフレームを選択する。
ーアイオロスの魔導書を参照ー
ー魔法を選択してくださいー
ー選択【マジック・ゼロ】ー
ー効果は密室空間の魔力消失ー
ー実行しますか?ー
ー是。承認ー
ー魔法展開ー
俺はガバッと口を開け、箱内部からポンと魔方陣を打ち上げた。
うち上がった魔方陣は、凄まじい輝きを放ち、効果を発揮した。
魔導書に記される高難易度の最上級魔法。
俺は【サポート・アシスタント】のスキルのお陰で苦もなく展開できるのだ。
「な!?なに、が......」
魔女は脱力感と共に倒れ込んだ。
そうして、その効果を受けたこの部屋は完全に魔力が消失していた。
一時的なものとはいえ、急激に消失したことで、彼女が溜め込んだ膨大な魔法も消え、突然魔力が消えた反動で昏睡状態に陥った魔女にほっとしていると、俺の側でどさっという大きな音も聞こえた。
「な、にゃにぎゃ?」
目を回している聖だった。
.........すまん、聖については考えてなかったわ。
許せ、聖。




