表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第四章『迷宮への道のり』
45/75

第四十二話『終局③』

聖が放った黒い粒子が閃光となり壁を貫いた光景に、唖然とした。


『まじかよ......』


あいつが放ったのは確か初級の闇魔法だった筈だ。

あんな光線になるわけがない、ましてや、そこまでの威力をもった魔法でもない筈だ。

それにあれは聖なのか?


俺は、禍々しいオーラを纏い佇む少女を見た。


いままで、それこそ生まれたときから見てきたが、こんな聖は見たことはない。

ラノベでいう【覚醒】イベントか?

しかし、それにしては......雰囲気が全く違うんだが、もはや別人だろ。


俺とコメットは、変わり果てた聖に戸惑い、立ち尽くすばかりだったが、腹を撃ち抜かれた影人は怒りを増大させていた。


「ぐっ、貴様っ、俺の闇魔法【ダークネス】で侵食を引き起こさせた筈だ! なぜ、生きている!?」


叫ぶ影人は、歴戦の格闘家の姿を変化させ、金髪碧眼の美男子に姿を変えていた。

もしかして、耳が尖っているからエルフにでもなったのかもしれない。


姿を変えた影人は、腹部に開いた穴が消え去り、声の質も纏う雰囲気すら変化していた。

しかし、黒いオーラを纏う聖は無表情に静観しており、落ちている愛剣を拾って構えている。

奴の問いかけには無言を返している。


「まぁ、いいですよ、あなたはダークエルフ.....闇属性に耐性があっても不思議ではないでしょう、それに先程は面白い事も言っていたようですし」


しゃべり方も変わるのか?

いや、そういえばこいつ、『我々』とか『我ら』とか、一人称が安定してない気がする、もしや、沢山の魂を取り込んで、いろいろと混濁してるのか?

しかし、それ以前に、聖は【ブラック・パラディン】なんだけど.....


無言で剣を構える聖の眼には、何を写しているのか俺には分からないが、いつもの聖なら、『違うぞ! 私は【ブラック・パラディン】だ』という筈なんだけど、今はそんな気配もない。

まるで本物の聖騎士のような雰囲気だ。


「.......」


聖がチラッとこちらに視線を寄越してきた。

(っっっ!?びびったぁ、まさか読心術か?)


しかし、違ったようだ、聖は俺たちに手を向けて魔法を唱えた。

先程、闇色の閃光を放った手が向けられて、コメットが腹部を押さえつつ身構えたが、時すでに遅く、溜めもなく放たれた真っ白の閃光が、コメットの腹部を正確に貫く。


「なんですか?それは、味方を攻撃するなんて......あははははっ貴女、暴走しているのでしょう?」


それを見ていた影人は、味方を無差別に攻撃する聖に高笑いをしている。


『......!?』


貫かれた驚きに体を硬直させるコメットだが、腹部の痛みが消えている事にさらに驚き、自分のお腹を触って確かめていた。

今の一撃でコメットの傷を治したらしい。

しかし、問答無用とは.....聖らしいが、なんだろうか.....気に食わん。


『......(ほっ)』


コメットは今の一撃で、あれが聖であることは間違いない、と確信したみたいだ。

いや、コメットさんお腹を撃たれてましたよ!撃たれて、『ああ、いつもの聖だ』みたいなため息吐かれても......いや、なに、コメットと聖はいつも迷宮でどういう回復方法を取っているんだよ!!

それにあれ、いつもの聖じゃねーじゃん。どう見ても別人じゃねーの!?


「なんですって、回復させたのですか? 」


笑っていたエルフに化けた影人は、怪訝な顔をする。


「今のは光属性の魔法......それがなぜアレの回復に?」


再び剣を構える聖は、考え込んでいる奴に攻撃を仕掛けなかった。

あくまで、相手が交戦の意を示したら戦うつもりか?

構えをとるとか、殺意をだすとかが、該当するのかもしれん。

それに今の聖が何を考えているのか、わかんねーし、纏っているオーラはなんだ?

パワーアップか?


「同じ型の奴はあの子以外全て取り込んだ筈ですが、そんな吸収スキルありませんでしたし」


影人はその間に、色々と思考を纏めている。

話からしてコメットのことだろうが、コメットが光の小精霊の進化個体だと知らないのだろう。

当然、光限定の魔法吸収スキル【魔法吸収(光)】を持っている。

まぁ、俺はコメットと喋れないから、ダルフからの又聞きになるんだけど。

それによる回復方法だろう。


「そもそも、なぜダークエルフが【呪術】以外の力を使えるんでしょう?」


こうしている隙だらけの奴に攻め込めば良いのに、聖は行動を起こさない。

いや、もしや、奴は攻めてくるのを誘っているのか?

俺が試しに攻めてもいいが、軽々かわされるのが眼に見える。

下手したら足を引っ張りかねない。

ここは様子を見るしかない。


「この体の持ち主の魔法適正は闇以外全てにありますが、それはエルフゆえの適正ですね、それに比べてダークエルフの貴女の適正は、闇のみのはずです......さぁ、光属性を使った貴女は何者なのでしょうね?」


ゆったりとした翠色の民族衣装を着たエルフ擬きが、優雅な振る舞いを見せていた。

その問いかけに、今まで無言で構えていた聖がついに行動を起こした。


「......よく喋る口だ、切り落とす」


体に力を入れ、奴に向かって物凄いスピードで飛び出す聖に、待ってましたとばかり口を歪める影人は、聖の進行方向に障壁を展開した。


「言ったでしょう?あの子と同じ者は取り込んでいると、つまり、私にも出来るのですよ!!」


聖の正面に展開する障壁は、まさしくコメットがいつも使う障壁と同じものだろう。

剣を振りかぶる聖相手に展開する障壁は、【物理障壁】に【反射障壁】の複合型だった。

あれは、かなりの強度を持つ障壁で、さらには破られないかぎり、そっくり反射するものだ。

飛び道具や近接武器など物理攻撃に対しては無類の強さを誇る。

それに、ああやって喋っている間に、魔力を物凄く練ったのだろう、障壁の厚みが段違いだ。

これを破るのは流石に、別人みたいな聖といえど無理だろう。


『......っ!!』


コメットが何かしら呼び掛けているが、聖は止まらず、愛剣をバットのように水平に持ち障壁に向かってフルスイングするようだ。

そんな様子に、さらに口許を歪める影人。

エルフでもあんな顔はしないだろうレベルだ。


「バカなんですか?そうなんですねぇ、いいでしょう、そのまま自分の攻撃を跳ね返されて死ぬがいいですよ」


影人は両手を広げ出迎えるようにしていてた。

どう見ても勝利は揺るがない。

そんな仕草だ。


俺やコメットも攻撃を跳ね返される光景しか頭に浮かばない。

せめて跳ね返された後に、聖をなんとか助けようかと悩んでいた。

すると、聖の冷たい呆れた声が聞こえた。


「.....バカか?死ぬぞ」


ついに聖が剣を振り抜いたのだ。

その後の光景に、聖以外の全員が唖然とした。


『が、な、んですって.....』

「ふんっ」


そう、聖は剣を弾かれることなく振り抜いたのだ。

振り抜いた姿勢から体を起こし、冷めた目を影人に向けていた。

影人は、訳が分からないという顔をしていたが、それが見えたのも一瞬で、頭と胴体を切り裂かれていた為に、頭部が落下し表情は見えない。


張られた障壁は剣に切り裂かれた所以外はヒビすらないきれいなモノだ。

しかし、その剣技の威力は計り知れない。

影人の背後にあった石柱を軒並み両断し、さらには神殿の壁についた大きな太刀キズ。

その傷跡から外の風景が覗いていた。


なんていうバカ威力。

本当に、何回もいうが聖なのか?

それに奴は死んだのか?


『おい、聖だよな? 影人を倒したのか?』


俺がおっかなびっくりに別人のような聖に問いかけると、聖は、こちらを振り向かず、天井付近に剣を構えていた。

俺のことはむしか.....

なんか悲しくなってきた。


「不意打ちするつもりなら残念だが無意味だ、お前達が後6体いることは理解している」


聖の威圧感を込められた声に、俺とコメットは何度目か分からない驚きに包まれる。

聖が言ったことがまるで正解とでも言うように、柱の影、玉座の裏、天井の壁画の一部、瓦礫の下など、様々な所から、影で出来た塊がモゾモゾと現れた。


『な』

『んだよ』

『見つかってい』

『た』

『のか、残』

『念ですわ』


影達は、様々なシルエットをつくり、交互に喋り出す。

まるで魂は繋がってるかの如く。

これが、影人の本当の力なのか?

全部を倒さないと死なないとでもいうのか。


さらにどれもが全く違う声質にしゃべり方だった。

混乱する。

相手の本質は一人だというのに、多人数に見えてしまう。

これが、100、いや1000人なんていたら、一人で町を落とすのも出来るのかもしれない。

まさか、ここ以外にも沢山いるんじゃないか?

それに戻ってこないダルフ達は数の力に、やられたんじゃ.....

不安になっている俺に、聖の声が聞こえる。


「ふっ、どうせ、先の奴と同じくらいの実力だろう? 敵ではないな......まとめて来たらどうだ?」


剣を床に刺して余裕を見せる聖に、膨れ上がった殺気が突き刺さっていくようだ。


『言って』「くれるわね」


始めに飛びかかったのは、女性っぽいシルエットの人物だった。

その人物が、実体化して、両手に持った双剣で襲い掛かる。

双剣の繰り出される速度は、明らかにベテランの冒険者の域に達するが、聖はかわすこともせずに、剣撃を身体で受けた。

その際、甲高い音がうるさく響く。


「なに?口だけなのかしら?」

女性が双剣を繰り出しながら言う。

聖は攻撃を受けながら、気にせず剣を振り抜く構えを取った。

そんな聖と発せられる音に違和感を覚え、今まで切り刻んできた聖の身体を見ると、その異常性が見て分かった。


「なによ、それ!?ふざけっ.....がっ」


聖が剣を振り抜き、胴体をまっぷたつにされた女性が、黒い粒子となって消えていった。

剣を振り抜いた聖の身体には、あんなに切り刻まれたのに、服にすらキズらしいキズがなかった。


「一人目.....二人目か?」


その光景を見ていた残りの影達は、次の行動に移る。


『物理は余り効かないか.....』

『ならこれはどうかな』

『そうだなこれだね』


二つの影がくっつき一回り大きくなる。

その影がローブを纏ったシルエットを写し出した。

そして実体化する。


「伝説にあと少しでなれた魔法使いの魔法なら、どうかな?」


実体化した子供っぽい声をもつ人物。

全身を隠しているため性別は分からないが、大人ではないだろう。

その子供から莫大な魔力が発生して、巨大な魔方陣を上下左右に描き出す。

別人と化した聖を軽く上回る魔力量だ。

それほどの魔力が、展開される4つの魔方陣から感じとることが出来る。

多分放たれたらひとたまりもないだろう。


『コメット退避するぞ!あれはヤバイ』


ぼけっと聖を見つめ、付いていけないでいるコメットをチャクラムを使って無理矢理押していき、なるべく距離を取った。

が、大丈夫だろうか.....


少年は、自信満々に杖を翳し魔法を詠唱していく。

詠唱が完成した。


「それじゃあ、いっくよ、消えてなくなってね【エレメント・フォース......】あれ?」


少年が杖を聖の方へ向けようとしたとき、その場に聖がいないことに少年も、俺も気がついた。


「まさか、待って貰えるとでも思っていたのか?」


少年のすぐ側に、剣にまばゆい光を纏い、両断せんと構える聖がいた。

あせる少年は文句を口にする。


「な、ずっる~い!!さっきは待ってたじゃん!」

「......戦場で甘ったれるな【アークセーバー・リュミエール】」


展開していた魔法をキャンセルした少年に剣が迫る。

振られる光の剣に、少年は障壁を展開するが、光の質量に押し流され、神殿の壁を破り、遥か遠くまで飛ばされていった。

高威力な光の斬撃.....多分生きてはいないだろう。


剣から上がる煙を振り飛ばし、再び剣を残りの影に構える。


(......気のせいかもしれないが、聖が言い逃れをした気がするんだが)

イラっとしたが、なぜかアレが聖であることに間違いないと感じてしまったぞ。


聖が剣を向ける。


「......さぁどうする?」


周りの影は残り3つ。


『『『......』』』


影達はシルエットだが、お互いを見ていた気がする。

3つの影がひとつに纏まり、ある形を作り出す。


それは、小柄な体型に、慎ましい胸、腰まで流れる銀の髪。

褐色の肌が、その銀髪をよりいっそう引き立てている。

蒼い眼は、くりりっとして宝石のようにだ。


「これならどうだ?」

『なっ、そっくりかよ!?』


そう、そこにいるのは聖だった。

まるで生き写しだ。

口許を愉快に曲げる聖......の姿をした影人。


判断するには服装を見るくらいしかない。

声までそっくりだからだ。


聖にそっくりになった影人は、身体の調子を確かめるように手を開いたり、閉じたりしていた。


「なるほど、この身体、武具によって身体能力が向上するのか.....」


即座に気づいたらいい。「それなら」といい足元の影から武具を取り出した。

金色の鎧やきらびやかな剣、装飾された盾。

どれもが、相当な業物に神器にせまるものだろう。

色々と作り出した俺ですら、深いため息を溢すほど、美しいと思う武具だ。

その武具を身体に纏った聖に、微妙な気持ちになる。

アレだけ、俺が作ったもの以外着けないと言っていたのに、偽物とはいえなんだろうか、この浮気されたような気持ちは。


「くはははは、これで、武器の性能は間違いなく私の方が上だな」

「......」


無言で構える聖。

おい、もしや、その通りだと思っているのではあるまいな!!

まてこら、いいか、帰れば相当な壊れ性能の武器があるんだぞ!

そんな見た目だけの武器より、俺の方がいいに決まってるだろう!

あ、だめだ、今侵食されてるんだった!くそ、そこまで計算していたか!?

まさか、俺の心にキズを負わせるためだったとはな。

認めてやるぜ、お前のことを。


『.....ふっ、さすがだな』

「? なんのことかわからんが、そうだろう?」


くっそ、そういう反応すらそっくりなんだよ!!

こてんと首を傾げたあと、うれしそうに胸を張る聖.....の偽物。

だいたい、その武器どこで.....あっ、多分ここか。

武具を見てわなわな震えるコメットから俺は察してしまった。


「強さがまさか武器の性能で決まる、とでも思っているのか?」


先に行動を起こしたのは聖だった。

『俺作』の剣に闇色の魔力を纏い振り抜くことで、闇の斬撃を放つ。

斬撃は加速して、キラキラした剣を持つ聖の元に.....しかし、一つ言いたい。

お前は自分のステータスを見直してこいと。


「はっ、その程度か!!」


飛ばされてきた斬撃に豪華な盾を構えた。

斬撃は盾にぶつかった瞬間に、かき消されてしまう。


そこから、一進一退の攻防が続き、らちが明かなくなってきたとき、金色の鎧を着た聖が、聖らしからぬ攻撃に出た。


「これはどうだ、【秘術―コンフリクト】!!」


秘術、それは呪術と同じく一部の種族しか使えない種族特有の力。

呪術はダークエルフの、秘術はエルフの秘法である。

それを使ってきたのだ。


聖の身体に接触して放たれる魔法。


「くっ」


聖は顔を歪め、動きが鈍ってくる。

聖の纏っていた黒いオーラが弱くなり、消えそうになってきた。


「どうだ?この魔法は、反転系の魔法、お前の身体の魔力の受け皿の属性を反転させた!」


聖から距離をとり、苦しそうな聖を指差す聖。


「はぁ.......はぁ、うっ」


胸を押さえる聖。

黒いオーラが不規則に揺らめいていた。


「つまり、闇属性と光属性が使えるからと言って.......ん?あ!」


もう一人の聖は何かに気づいたようだ。

ぶつぶつと何か言っている。

しかし、あの顔なにかやらかした後の聖にそっくりだが、まさかそこまでは似ていまい。


「くっ......(しまった!そういえば、光魔法の適正もあるってことは反転させても意味無いじゃんか!)」


若干、後退りする聖にになぜか親近感がわいてくるぞ?

悪態を付きながら数歩さがった。


「ふっ、まさか、思考パターンを似せたことによる副作用か!?」


膝をつき踞る聖が、ゆらりと幽鬼のように立ち上がった。

立ち上がった聖から、再び禍々しい黒いオーラが溢れだし、さらに、今度は真っ白なオーラも点滅して現れた。黒と白の交互の点滅をするオーラを纏っていた。


「くそっ、こいつの思考パターンはバカなのか!?」


悪態をつきながら、脅威を感じたのか離れる金色の鎧の聖に、オーラを纏い、剣を構える聖の戦いが幕を開けた。

しかし、戦いと呼べるものではなく、一方的な攻防に成り果てていた。



しばらく、攻防が続き、鎧の性能だろう、なんとか生き残った影人の上に足を聖が乗せていると、ダルフ達がやってきたのだ。


――――――――――――――――――――


そうして、ややあって、黒炎に包まれた二人は、即座に飛び出した。

出てきたのは、身体の半分がシルエットに戻っている聖、つまり影人だ。

やつは膝を着き、剣を床に突き立てるが立てないでいた。


「くそが! 魔精は配下を簡単に切り捨てるのか.....」

「一緒にされたくはありません」


悪態を付く影人に、ダルフと一緒に現れたエルフィが訂正を促す。


もう一人の聖は、ダルフ目掛けて壁走りをして剣を振りかぶっていた。

振りかぶる聖からは今まで纏っていたオーラが消えていた。


「おい、よく分からんが【黒の護符】が破けたってことは殺したな!」

「おかしいわね、あっちは死んでないじゃない、同じ威力よ....」


ダルフはその場から動かず、呪符を使い迎撃していた。

呪符から黒い雷が発生している。


「嘘をつくな、余り覚えていないが、それは嘘だ!」


黒雷を剣で弾き、盾で吸収し、接近していく。


「言いがかりね、まったく」


接近を許したダルフは体術で応戦する。

剣を振るう聖の手をとり、投げ飛ばし、空中に浮いたところを鳩尾に蹴りを叩き込む。

カンっという甲高い音を響かせながら遠くまで飛ばされ、瓦礫に埋もれていた。

埋もれている聖に向かいぼそりと言う。


「(.....7:3くらい)」

「おい、聞こえたぞ!」


いつも通りの聖を見て、さっきまでの聖の豹変はいったい何なんだ?

疑問に思うが、まぁ今は.....

再び、争いあう二人を放っておき、身体が黒い粒子となる擬態影人(ドッペルゲンガー)にチャクラムを近づけていく。

奴の身体には、光の鎖が巻かれ胸に光の槍が刺されていた。

エルフィが、ダルフと聖のやり取りの間に、しっかりと止めを刺したのだろう。


「あれれぇ、ちょっとヤバイことになってるかもしれませんねぇ」


そう言うのは、いつの間にか聖の影からいなくなり、ダルフの方に行ったベルベットだ。

コメットもエルフィの側にいるため、俺の声も届く位置にいるベルベットに話しかける。


『なにがだ? こいつで本体は最後だろう? 』


段々と消え逝く影人を見ると、奴は口が裂ける笑みを浮かべていた。

しかし、話すことはないとこの場から完全消滅する。

変わりにベルベットが答えた。


「そうじゃないみたいなんですよねぇ.....あの手紙の魔方陣の侵食能力ってどうやらアレ系らしくてですねぇ」


口を波線にして言い辛そうにするベルベット


『アレって?』


ん?侵食?汚染?何が侵食?侵食元は......

俺はある可能性に至るが......いや、まさかな


しかし、ベルベットが答えを告げる。


「あいつ自身を侵食の核にしてるので、言いづらいんですけどぉ、御体の方に.....」

『くそがぁぁぁ!!あのやろう!』


俺の叫びはむなしく響く。

つまり、あれか、俺がいない俺の身体がピンチってことだろう。

しかも、ここは南大陸!

行くまでにドンだけかかると思っているんだ。

最悪だ。

下手したら迷宮すべてが乗っ取られるんだぞ

ここと同じく。

しかも今はダルフもいない。

アイツを対処できる奴なんて、いるわけない。


ベルベットは争う二人にも説明をした。

先に説明された、エルフィとコメットは、エルフィは難しい顔をして、コメットは目に涙を溜めておろおろとしている。


して、ダルフと聖は......


「ぶっ殺してくれる!!」

「ちょっと待ちなさい」

「なんだ!デカ乳腕斬られ!」

「ぶっ飛ばすわよ!?」


聖は激昂し、どこ構わず走り出そうとするが、ダルフはそんな聖の首根っこを掴み、制止していた。

ダルフは言った。

あからさまにエルフィを見ていった。


「ふっ、私の配下はこことは出来が違うのよ」


その言葉で、エルフィのほうからピシリという変な音がなり、ダルフとエルフィが暴れだして四日間足止めされるのだが、ダルフの自信を信じるしか、もはや希望は残されていなかった。


『俺の身体.......無事でいてくれ!!』





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ