六十四話 これからも
騒動が収まってから三十分ほどすると、〝全土の探索者〟に助けられた街長たちがギルドへと戻ってきた。
街長が攫われたという噂が広まったことで、ギルドに集まったプレイヤーたちも多くいた。
彼らは「イベントがどうなるのか」という不安の声を上げていた。
それに対し、街長は疲れた様子ながらも威厳を保ってこう告げた。
「当然、祭りは続ける。
そのために一刻も早く街を復旧せねばならん。力を貸してくれ」
街長はすぐに指揮を執り街の様子を確認し始めた。
まず住民たちの状態。
ソールズの支配下にいたNPCたちは、ソールズが倒されたことで既に解放されている。
怪我は残っていたが、これは〝全土の探索者〟含めたプレイヤーや、回復系のジョブに就くNPCたちにより完治していった。
大通りや広場にいたNPCはプレイヤーによって殺された者もいたが、プレイヤーの中にはアイテムやスキルで蘇生した者がいたようだ。
死者の数は0だったらしい。
さらにソールズへの恐怖に関してもほとんど薄らいでいるようだ。
NPCの医者が言うには、恐怖を遥かに越える衝撃を受けた影響だろう、とのことだった。
そして次に物資。
船や馬車、物資の集積所にもソールズは襲撃を仕掛けさせていた。
特に船には大量にNPCが迫ってきたようだ。
しかしこちらはNPCだけの襲撃だったことでプレイヤーがほとんど撃退出来ている。
船の建造にずっと携わっていたプレイヤーなど、「可愛い我が子を壊させてたまるかァァ!!」と身を挺して船を庇ったりしたプレイヤーもいたらしい。
結果、損害は軽微に終わったようだ。
日の落ちたころから始まった復旧作業は、多くのNPCとプレイヤーの協力により爆速で進み。
やがて日付が変わるころには、イベントの進行に滞りが無くなるほど復活したのだった。
【交易路の整備】もまた行われるようだ。
ただ今度こそは失敗させまいと、〝全土の探索者〟など信頼できて、かつ強いプレイヤーには直接護衛をしてほしいと依頼が来ているらしい。
そして復旧途中ジンたちは再びギルドへ集められた。
指名手配犯を倒したことへの礼と報酬の受け渡し、そして事情聴取だ。
結局ソールズの目的は何だったのか。
どのようなジョブに就いていたか。
スキルや武器の影響は。
そんなことを聞かれて、ジンやアルマは自分がわかるだけの状況を答えていった。
が、ただ一つ。
「あの巨大な門と……そこから降ってきた声、あれは何だったのかわかるかね」
「ソールズが追い詰められた直後に出てきました」
ここに関してだけは曖昧な言葉でゴリ押しをした。
何なのかわからないだとか、ソールズが出しただとか、そういうはっきりとした言葉は使わずにだ。
見ようによってはソールズよりヤバい事をやっているのだ。
それが自分のせいですと伝える勇気はジンに無かった。
アルマやリングにも口裏を合わせて貰っている。
ただ、街長からは意外な事実が伝えられた。
「どうもあの門による恐怖は長引かんようでな」
「長引かない?」
「町民たちはしばらくすると何故あれほど怖がっていたのかわからない、と首を傾げておったよ。喉元過ぎれば……というには不自然な程あっさりとな。まあそれでソールズへの恐怖も一緒に洗い流されたのだ」
街長はジンをまっすぐに見る。
「我々はあれを出現させたことを罪として数える気はない、ということだ」
「そー……う、なんですかー……」
お前がやったんだろと言外に伝えられ、ジンは頬を引きつらせて返事をした。
その横ではリングとアルマが笑い声を漏らしていた。
事情を聞かれた後は報酬の話だ。
たか丸とホタテはどちらも高位ジョブの二つ持ちだったらしい。
その危険性を加味し、最も貢献した者に1000万ギルが与えられる。
さらに協力者がいればそちらも希少なアイテムをいくつか貰えるようだ。
そしてソールズだが、こちらは最高位ジョブであることが判明した。
歴史上でも英雄か偉人と呼ばれるような者しか就けないのが最高位ジョブであるらしい。
それを倒したジンと、攻撃を防ぎ続けたアルマには、それぞれ3000万ギルが与えられることになった。
また抵抗したプレイヤーたちも同じくアイテムを選べるらしい。
3000万という金額を渡されたジンは、その時奇声だか歓声だかを上げてからの記憶がない。
ただ辛うじてソールズたちの今後については記憶の片隅に引っかかっていた。
指名手配となったプレイヤーは、倒されるとログイン地点が牢屋に変わるらしい。
死んだたか丸とホタテは現在それぞれ隣同士の牢屋の中にいる。
たか丸は最初悔しげにしていたが、「脱獄ゲームはこれはこれで面白そーだな」と呑気に笑い。
ホタテはそんなたか丸に「お前がちゃんと引き付けてりゃ」「船の方をほったらかしにしやがって」など、ひたすら愚痴や文句を言い続けているらしい。
二人ともアカウントを作り直したりする気はないようで。
「ところでソールズいねーの? 負けてショックなのかねー、また一からガンバりゃいーだけじゃん」
「あいつへの文句だっていくらでもあるんだ! さっさとログインしろってぇのに!」
ソールズが来ることを待ち望んでいるようだった。
だが肝心のソールズはそもそも牢屋の中にいないらしい。
光の塵となった時にログアウトし、その後一度もログインしていないのだろう、とリングは語った。
それが目的を達成できなかったことによるショックなのかは、わからない。
そうして、翌日の日曜日からイベントはまた通常通りに動き出した。
――そして、一か月後。
「ただいまー」
ドアを開けた迅は、玄関から三歩で台所に入る。
「おかえりー」
すると机の奥側にイヤホンをした早稀が座っていた。
携帯端末をスタンドに置いて何かを見ているようだ。
「何見てんの?」
「最近始まった刑事ドラマ。面白いよ。一話になんかラスボスっぽい人出てくるんだけど、その表情がさ、凄い複雑なんだけど迫力あって」
「へぇー、どんな人よ」
「えーっとね、ここから見て。もうちょっとで出てくるから」
見せられたシーンは、主人公である刑事のバディが事件を解決して、逮捕した犯人を連行しようとしていたところらしい。
しかしその犯人が突如苦しんだかと思えば倒れてしまった。
主人公たちが倒れた犯人を抱え「しっかりしろ」と叫んでいる。
その後画面が引いて、近くのビルからそれを眺める男性が映った。
黒いコートを着た細身の男性は、少しぼさっとした黒髪をしている。
その表情は、悲しみや激怒、喪失感、諦観、達成感……そんな様々な感情が混ぜ合わさっているようだった。
「この黒コートの人?」
「そう。どう?」
「立ってるだけなのに、確かになんか迫力あるな。なんて名前の俳優さん?」
「石見翔だって。直近のインタビューでさぁ、撮影直後までスランプだったって言ってたよ。けどゲーム遊んでる時になんかインスピレーション得たんだって。それでそのゲーム好きになったらしくてさ、『また時間が取れたら、ゲーム内でできた仲間と色々活動をしたいです』って」
「ゲームかぁ。息抜きって大事なんだなぁ」
「お兄ちゃんがやってた奴だったりするかな。あったことあったりして」
「『ランコス』ー? まあ可能性はあるだろうけど、中の人が誰かなんてわからんしな。詮索も普通しないし」
「そりゃそうか。そういえばその『ランコス』って、もうちょっとでイベントなんだっけ」
「そう。ちょうど夏休みだからバイトもゲームもしやすい! 楽!」
「前のイベントの時は珍しく徹夜とかしてたね」
「少しでも高い順位入ろうと思って……でもおかげで100位以内には入れたぞ! アイテムも大量に貰えたし!」
「1位は全部トップの人が取ったんだっけ」
「あーそうそう。後夜祭でリングが『私がトップオブトップです!!』って宣言して全員から歓声とブーイング食らってた……」
「お兄ちゃんがまさかこんなにハマるとはねー」
「俺もここまで楽しいとは思ってなかった……あ、ヤベ。今日フレンドと待ち合わせしてたんだ!」
迅は自分の部屋へと入って、すぐにヘッドマウントディスプレイを装着する。
「今日こそ次の街行きたいなー。前は俺がボス戦で足引っ張ったし……ユノとアニカも新しい素材楽しみにしてたしな」
そして『ランド・オブ・リコンストラクション』へとログインした。
この作品はひとまずここで完結となります。
これまでご愛読いただきありがとうございました。
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