六十二話 決着
クリープ・ピラーを軽く超える巨大な門が開き続けている。
そこから覗くのは門の三分の一ほどの大きさの目だ。
形は人の目のようだがどろりと濁ったような怪しい様子をしている。
それを見たソールズはすぐさまアルマの大盾を全力で蹴りつけた。
バキャァ! と大盾が割れ砕けアルマ自身も吹き飛ばされる。
『くっ⁉』
アルマが吹き飛ぶのと同時にソールズはジンへと飛び掛かった。
「お前さえ仕留めれば……っ!」
あの門が開くのはまずいと直感的にわかったのだ。
ソールズは焦りを覚えながら上空を見上げるジンへと剣を振るおうとし——
『■■■■■■■■』
上空から、大気を震わせるような声が降ってきた。
声というより野太い絶叫だろうか。
それが辺り一帯――いや、恐らくは街そのものへ広がっていく。
あらゆるものの心を脅かすように。
それを聞いた瞬間にソールズの動きが止まる。
いや動きが止まるだけではない。
震えている。ソールズ自身が。
ソールズは――恐怖を感じていた。
これはゲームだ。心からのものではない。
だが肉体が震え、怯え、竦んでいる。
体のコントロールが効かず、その場に座り込んで勝手に体を抱えてしまった。
辺りのNPCも似たような、いやそれより遥かに強く恐怖に蝕まれている。
座り込み、叫び、天を仰ぎ、絶叫する。
悲哀。絶望。叫喚。発狂。
ソールズのスキルによる恐怖など全て踏みつぶすような、圧倒的な怖れがNPCたちの心を埋め尽くしていた。
その頃、館と工房では。
「こ、れは……!」
リングたちもまた体が震え、言うことを聞かなくなっていた。
たか丸が完全に光の塵となったのを確認した後、リングは他に襲撃を受けた場所を探そうとした。
だがその時、不吉な鐘の音と共に巨大な門が上空へ現れたかと思えば、突如降ってきた声によりこんな状態になったのだ。
未知の現象に、リングは震えながらも好奇心を発揮している。
「なん、でしょうねあれは……!! 敵の、攻撃なら相当……ヤバそうですが! 味方の援護でも、それはそれで恐ろしい……!!」
リングはちらりと館の近くを見下ろす。
そこではプレイヤーとNPCのどちらもが、震えて体を抱いたり、天を仰いで絶叫したり、明らかに恐怖に支配されている。
「《大悪党》のスキル、ではなさそうですが……ふふ、全く面白いですねぇ……!」
「うぅむ……これなんであるか……?」
ギガ・ボウへと止めを刺そうとしていたヴァンパイアは、突如として降ってきた声により地面へうずくまっていた。
「体がだるいのであるー……というか、ギガ・ボウまでなんか震えてるであるな……」
弱っているとはいえ、ギガ・ボウもまた震えながら体を縮こまらせていた。
多少生き残ったモンスターたちも全く動こうとしていない。
「なん、なんです……こりゃあ……!!?」
「おぉ?」
聞き覚えの無い声にヴァンパイアがそちらを見ると、ギガ・ボウの近くにだぼっとした服の男が倒れていた。
その近くに《魔寄せの忌鏡》が落ちているのをヴァンパイアは発見する。
「あー、お前がモンスター寄せたやつであるか……ん? じゃあ、これ敵の仕業ではない、ってことであるか……?」
「知らねぇよ、こんなスキル……! 何が、起こって……!」
「まあ、吾輩はちょっと体動くであるから……とりあえずお前は殺すである……」
「こ、の……!」
だるそうにしつつヴァンパイアはふらりと立ち上がり、必死の形相を浮かべるホタテの顔を踏み潰した。
門から降ってくる重低音の声と、人々が上げる絶叫が混ざる街の中。
ジンだけがその影響を受けず大通りへ佇んでいた。
辺りの地獄絵図に冷や汗を流しつつ、ジンはすたすたと歩きソールズの傍に立つ。
「これで、もうお前のステータスは上がらない……ていうか、動くことすらできてなさそうだな」
「ぐ……ぅ……っ!!」
見下ろすジンを、ソールズは僅かに顔を上げて睨みつけてくる。
「われ、われは……とま、らん……!!」
歯を食いしばりソールズはその体を立ち上がらせようとする。
「……お前の目的がどうとか、それがただのロールプレイだったのかとか、正直気になってたけど……もう、どうでもいい」
ジンは《ピニオン・クロウ》を装備から解除。
体を抱えたままどうにかふらりと立ったソールズへと、拳を握った。
「お前、に……我々の邪魔は……!!」
「許せねぇのはぁ!! 復興のクエストを邪魔したこと!!」
「ごぉっ⁉」
ソールズの顔面へと拳がめり込み、その体ごと吹き飛ばした。
「その時に60万ギルも使って借金までしたこと!!」
「がっ!」
吹き飛んだソールズへと一瞬で追いつき地面へと殴り倒す。
そして馬乗りになりひたすらにその顔を殴り続ける。
「NPCたちを苦しめたこと!!」
「スケルトン呼ぶために100万ギル使わせたこと!!」
「ユノたちを危険にさらしたことぉ!!」
「ステータス増やすのと!! 『手』を呼ぶのに150万ギル使わせたこと!!」
ジンはその体を蹴り、宙へと浮かせた。
「そして最後はァ……!!」
その顔には悲しみや激怒、喪失感、諦観、達成感。
そういったものが全て混ぜ合わさった複雑な、だが爆発するような感情が乗っていた。
その表情に、ソールズがハッとしたような顔をして。
「所持金!! 全部!! 使い切らせたことだァァァァァ!!!!!」
ジンの拳は、最後にその顔面を思いっきり殴り飛ばした。
「ごぉっ……!」
殴った勢いそのままに拳を振り切り、ソールズの体は大通りを吹っ飛んだ。
ドッ! と道を跳ねて広場にまで突っ込み、ゴロゴロと転がって。
ソールズの体は、光の塵となって消えていった。
光の塵が完全に消えたのを確認し、ジンは大通りの真ん中に座り込む。
短くとも濃厚な戦闘に頭がぼーっとしていた。
「はぁー……ユノ、大丈夫かな……」
息を吐きだし、ジンはここへと逆転のための金を持ってきてくれた少女を気に掛ける。
その時、ガシャンと大通りの端から音がした。
驚きと共にジンがそちらを向くと、アルマが震えながらほふくでジンへと近づいてきている。
『じ、ジン……!』
「あ、アルマさん! 大丈夫ですか⁉」
『大丈夫、じゃない……あれを、止めてくれ……!!』
アルマがぷるぷる震えながら上を指す。
上空にはまだ巨大な門と、そこから覗く巨大な目が存在している。
辺りのNPCもずっと発狂し続け、限界を迎えたのか泡を吹いて気絶している者すらいた。
さらに『手』やスケルトンが辺りのNPCの懐から金目のものをすり取っている。
ジンはさぁーと顔を青くしてバッと立ち上がる。
「門閉じろ!! 終わり!! もう戦闘終わったから!! 全員今取ったもんそこに置いて帰れ!! 早く帰れぇーーー!!!」
ぶんぶんと手を振り、スケルトンや『手』が持ち去ろうとする金品を取り返しながら、ジンはさっさと帰れと叫び続けた。
■ ■ ■
NAME:ジン
ジョブ:《金の亡者》Lv1
▽ステータス
HP:300/300
MP:50/50
SP:100/100
STR:10
END:30
AGI:10
DEX:5
LUC:0
〈スキル〉
:〈餓者の取り立て〉Lv10(Max)
:〈亡者の激怒〉Lv10(Max)
:〈ライフ・イズ・マネー〉Lv10(Max)
:〈血の涙〉Lv6
:〈亡者の執念〉Lv1(Max)
:〈地獄の門は金次第〉Lv10(Max)
『所持金 0ギル』
■ ■ ■




