四十九話 指名手配と捜索
突如声を上げたプレイヤーへその場の全員が注目する。
そのプレイヤーは第二陣のうち、落とし穴にはめられた前衛の一人だった。
「どうされました?」
「あ、え、えーと。一個思い出したことがあって」
集まる視線に狼狽えながら前衛のプレイヤーは語る。
「落とし穴はたか丸って奴一人で掘ったんじゃないらしいんです。なんか『うちのボスが人手を用意できる、数百人で掘った』みたいなこと言ってました」
「数百人だと⁉ それほどの組織なのか……⁉」
街長が一気に表情を険しくした。
「いや、しかしそれ程の数が街や平原に出入りしたとしたら誰かが気づくはずだ!」
「普段なら気づきますが……現在は復興大祭中です」
ギルド長もまた厳しい顔になる。
「数百数千の冒険者が常に街を出入りしている現状では、十数人ずつ間を空けて出ていけばそれを何か企んでいるなどとは考えられません。作業風景も、さっき言った幻術により隠されれば気づくことは難しいかと」
重鎮二人が焦燥を言葉に乗せ始めた時、もう一人の第二陣のプレイヤーが手を上げる。
「あ、あのー、僕も一つ思い出したことがあるんですけど」
こちらは荷馬車側に残っていた後衛である。
「爆発で消し飛ばされる前に僕、一回荷馬車の方を振り返ったんですよ。そしたら……整備の人たちがずっと遠くにいたんです。しかも交易路を戻って逃げ帰るとかじゃなく、交易路を外れたずっと向こうに」
そしてその直後に爆発が起きたという。
後衛のプレイヤーは言いづらそうにしながら自身の考えを口に出す。
「だからなんか、あの人たちまるで爆発するのがわかってて避難したみたいに思えて。……あの人たちが爆弾仕掛けたんじゃないかなーとか」
「なんだと……?」
その人員を手配したのは街長たちだ。
まさか裏切り者がいたのかとさらに顔つきを厳しくし。
「なるほど!!」
そこでリングががたんと椅子を蹴って跳びあがる。
「数百人という人手! そしてNPCの不可解な行動! わかりましたよ、そのボスとやらのジョブは——ずばり《大悪党》!! NPCを恐怖で縛り従えるスキルを持つジョブです!!」
リングはびしっと指を立てて宣言し、そしてぐるんとジンの方を振り向く。
「さらに! ジンさん!」
「おぇ⁉ お、俺⁉」
いきなり話を向けられジンは肩を跳ねさせる。
「クエストの出発前にあったことを覚えていますか⁉」
「出発前……? あっ」
リングの問いかけに悪い意味で印象的だった出来事がジンの頭に蘇る。
それはある男がリングに絡んできた時のこと。
その男は次にユノへと標的を変えて、さらにNPCとわかるや突如乱暴な手段でユノを害そうとした。
「あの時! ユノさんは不自然な程恐怖に震えていました! あれがもし《悪党》系のジョブによるものであれば⁉ 流石に憶測の域は出ませんが、あの男がこの一連の騒動を仕組んだ可能性があります!」
「憶測でもいい。その男の名は?」
「――ソールズ」
それはリングではなくジンが呟いた言葉だった。
名を聞いた街長はすぐさまギルド長へと指示を出す。
「では《忍者》たか丸、そして推定《大悪党》ソールズ、推定《扇動者》名称不明。これらの人物を捜索する。特に《忍者》たか丸は今すぐに指名手配を行ってくれ」
「かしこまりました」
「さらに、その指名手配もまた冒険者たちにクエストとして発令する。捕まえた者には大量の貢献度と賞金を出そう」
「冒険者たちに捕えさせるのですか?」
「今回の大失敗により復興大祭へのやる気まで失われては困る。犯人には怒りの矛先を向ける生贄となってもらおう。〝祝福〟を受けた者であれば死にはすまい」
街長はさらっと腹黒いことを言う。
「よっしゃあいつぶっ殺してもPKペナルティなしだ!!」
「首洗って待ってろよ《忍者》ぁ!!」
しかし直接被害にあった第二陣のプレイヤーはしっかりやる気を出していた。
そこでリングがバッと手を上げる。
「それと今回のクエストの貢献度について!! 第二陣の人員の護衛は失敗しましたが、モンスターの討伐は相当数行ったのでその分の貢献度はいただけませんか!!」
「うむ……話を聞く限り第二陣の人員は《大悪党》に連れ去られた、ということだな? 《雷公》よ、彼らは死んでいると思うか?」
「わざわざ連れ去ったからには生きているでしょうね。人質なのかただの人手なのかはわかりませんが」
「うむ。では、まず【交易路の整備】における貢献度と報酬は半分を渡そう。そして第二陣の人員の捜索もクエストとして出し、彼らを発見し保護した場合には残りの半分を報酬として与える。それでどうだ」
「十分です!! うちのクランも捜索に駆り出しましょう!!」
リングも交渉を終えて、ここでできる話は終わった、と。
そんな雰囲気が漂ってきた時ふと街長は呟く。
「しかし、奴らはなぜこんなことをした……?」
街長の呟きに他の面々が注目を向ける。
「今回の祭りは全ての街に、人に利益のあることだ。それを邪魔する意味などあるのか……。盗賊行為にしては、物資を完全に損なわせるというのもおかしな話だ」
「第二陣の人員が人質として連れて行かれたとするなら、近いうちに声明が出されるかもしれません」
真剣に目的を重鎮たちは考えている。
それに対しプレイヤーとしてのリングたちはもっと気楽な意見を上げる。
「ただの愉快犯、という可能性もありますよ」
「つーかたか丸は絶対そうっすよ! 腹抱えて笑ってましたし!」
生きている人といってもプレイヤーにとっては一つのゲームのAIだ。
それができることなら面白半分でクエストを邪魔して、街を破壊する者もいるだろう。
「今は考えてもわからんか。それよりも目の前の事態への対策だな」
街長は思考を脇に置いたようだ。
「冒険者たちよ。奴らの目的は今だわからず、《忍者》たか丸以外の襲撃者はまだ確定していない。故に信頼できる者以外にはその情報を漏らしてくれるな」
ジンたちは頷き、街長はパンと手を叩いた。
「それでは話は終わりだ。我々は捜索を始める。冒険者らは己の仕事をこなしてくれ」
そうして《忍者》たか丸の指名手配と、他二人の捜索が始まった。
「ふふふ、貢献度の半分どころか条件付きで全て貰えることになるとは! 街長は太っ腹ですね!」
「なあリング」
冒険者ギルドを出てすぐ、ご機嫌なリングへジンが声を潜めて話しかける。
その様子に首を傾げながらリングも同じく声を落とす。
「はい、なんでしょうジンさん」
「さっきの《大悪党》ってNPCを無理やり従える感じ、なんだよな」
「はい。確か〈蝕む恐怖〉というスキルによって、『言うことを聞かなくてはならない』という状態にさせるものです」
「それって……仲間状態のNPCにも効くのか?」
リングは一瞬沈黙する。
そしてちらりとジンの後ろにいるユノたちを見て、頷く。
「はい。仲間のNPCですら自身の手駒にしてしまえるのが《大悪党》の恐ろしい所です」
「そうなのか……」
あの時、ジンが何もしなければ。あるいはあそこにリングがいなければ。
ソールズはユノを攫えてしまったということだ。
さらにソールズはまだこの街にいる可能性が高い。
ユノやアニカを二人だけで行動させていいものか。
そんな風にジンが思い詰めていると、その視界にリングの顔が突然ドアップで現れる。
「おぁぁ⁉」
一瞬でジンは顔を赤くして仰け反った。
それに対しリングは微笑んで人差し指を立てる。
「悩んでいますね。しかしそう問題はありません」
「も、問題ないって何が⁉」
「まず〈蝕む恐怖〉は時間が経てば自然と解けます。まあその前にかけ直せば持続するんですが」
「じゃあ問題あるんじゃ……」
「しかし! 〈蝕む恐怖〉を受けたNPCは、《大悪党》を一度倒せば解放されます。さらにそのプレイヤーからの〈蝕む恐怖〉へ耐性がつくんです。もしユノさんたちが受けたとしても、ジンさんが相手を倒せば解決しますよ」
「へ、へぇ。取り返しがつかないってわけじゃないんだ……」
その情報にジンは安堵する。
なんとなく、ユノたちが離れてもう二度と戻らないような想像をしてしまっていたのだ。
「ありがとう、リング」
「いえいえどういたしまして」
ジンが表情を緩めて礼を言い、リングも微笑んでそれを受け取る。
そんなやり取り中にぐんっとジンは両腕を引っ張られた。
驚きと共に腕を見下ろすと再びユノとアニカが抱き着いてきていた。
「ふ、二人とも……?」
「もう話は終わったんですし、いいですよね」
「ジンには感謝してもし足りない! あたしの武器がちゃんと役に立つって証明してくれてありがとう……!」
ジンは再び固まり、ユノはリングへ対抗するような目を向け、アニカは笑顔で礼を言う。
「おぉ……ここまでNPCの方たちから好感度が高い人は始めて見ましたね!」
そしてリングは好奇心に目を輝かせていた。
さらに好奇心全開のままリングはぽんと手を叩く。
「そうです! ジンさんは今回数百体の魔物を殲滅したとか! ではレベルやスキルにも何か変化があったのでは⁉」
「え、あ、あー。どうだろ、所持金しか確認してなかった」
「何故⁉」
「いやだって本当にマジで死ぬ程お金増えてたし! そう! マジで滅茶苦茶増えたんだよ!!」
ジンは興奮と共に迅速に、しかしユノを振り払わないよう気遣いながらステータスを開く。
■ ■ ■
NAME:ジン
ジョブ:《金の亡者》Lv48
▽ステータス
HP:2800/2800
MP:50/50
SP:100/100
STR:10
END:280
AGI:10
DEX:5
LUC:0
〈スキル〉
:〈餓者の取り立て〉Lv2
:〈亡者の激怒〉Lv10(Max)
:〈ライフ・イズ・マネー〉Lv10(Max)
:〈血の涙〉Lv6
:〈亡者の執念〉Lv1(Max)
:〈地獄の門は金次第〉Lv1
『所持金 7470000ギル』
■ ■ ■
「見てこれ! 747万ギル!! アルマさんに返す分引いても727万4800ギル!!」
ジンが満面の笑みを浮かべて所持金を見せる。
だがリングが見ているのはスキルとステータスの欄だった。
「そんなことより二つもスキル増えてるじゃないですか!」
「そんなこととはなんだよ! え? スキル増えて……あ、ほんとだ⁉」
ジンはようやくそれに気づき、そのスキルを見る。
「〈餓者の取り立て〉と〈地獄の門は金次第〉……?」




