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女化町の現代異類婚姻譚  作者: 東雲佑
最終章 来つ寝

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63/70

18.出自もバラバラな数々のチャームとジンクス

 見えないタイムリミットは刻一刻と迫り、僕の焦燥もまた加速する。



 一度帰宅して、本棚から文庫本を一冊引っ張り出して、すぐにまた家を出た。


 持ち出したのは古今東西のおまじないをざっくりと網羅した一冊だった。

 読み物として楽しんでいたこの本を、まさか実用的な意図を持って紐解く日がくるなんて。


 書物だけじゃなく、webサイトにも(えい)()を追い求めた。

 ブラウザのアドレスバーに『呪い、解き方』と大真面目に打ち込み、命がけの真剣(シリアス)を込めて検索(ググ)る。

 そうしてヒットした方法の中で実践可能なものはあらかた試した。信憑性の検討や優先順位を付ける(いとま)さえ惜しんで、とにかく目についたものを片っ端に。


 鹿児島伝来の魔除けの歩法で往来を行けば軽トラにクラクションを鳴らされ、繰り返し唱える東北地方の呪文はすれ違う奥さんの眉をしかめさせた。

 (だい)(おん)(じよう)の発声を伴うブードゥーの()(とう)は平日の公園に不穏な空気をもたらし、チベットの邪気払い体操は邪気ではなく子連れのお母さんを退散させる。

 その他様々な出自を持つ(あるいは一切出自不明な)蠱物(チヤーム)迷信(ジンクス)の数々が、僕の社会的な生命力(ヒツトポイント)を覿面に削っていく。


 だけど、こうなればもうヤケクソだった。

 なりふり構うのは大団円のあとにしろ。


 夕声を取り戻せるなら、警察沙汰(ポリスざた)だって安いものだ。そう自分に言い聞かせる。



   ※



 昨日歩いている時に見かけたバイパス沿いの落花生直売所に足を運んだ。

 殻付きの落花生を一袋手に取り、最短距離の動線を辿ってレジに向かう。


「ありがとござまし――」

「ぶつけてください」


 技能実習生だろうか、東南アジア系とみられる若い店員さんに買ったばかりの落花生を突き出して、有無を言わさぬ口調でお願いした。


「日本では落花生に魔除けの効果があると信じられているんです。二月には節分という行事があって、その日には魔を払う為に豆をぶつけ合うほどです。

 だから、さぁ」


 ぶつけてくださいと、もう一度目を見て頼む。

 時間がありません、さぁ早く。


 それから二分後、涙目になりつつも力いっぱい落花生を投げつけてくれた店員さんに厚くお礼を言って僕は店を出た。



 拾い集めた落花生を食べながら、県道バイパスを南に向かって歩きはじめる。

 昨日見かけたあのお婆さんは、今日も椅子に座って車の流れを見つめていた。


茨城県は全国二位の落花生産地です。

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― 新着の感想 ―
[一言] まじないのちゃんぽんとはなりふり構ってませんなあw 奇人変人の出没情報が出回りそうだ 掘りたての落花生を塩茹でにするとこれがまたうめーんだ
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