第71話:月下の騎士
更新再開遅くなってすみません!
これから2,3日に1度ぐらいのペースで更新していきますので、
第一章後半も引き続きお楽しみ下さいませ!
◆◇◆◇ これまでのあらすじ ◆◇◆◇
冒険者として順調に依頼をこなすコウガたちパーティー『恒久の転生竜』は、遅れて冒険者になったハイエルフのリルラのC級へのランクアップのために護衛依頼を受けて学術都市セデナへと向かう。
護衛依頼を無事に終え、観光目的で叡智の塔へと訪れた一行だったが、そこで神に準ずるモノの模造品『神造機兵メグスラシル』なる古代の存在と戦いに。
その後も魔族の陰謀により立て続けに大きな事件が巻き起こるのだが、蓋を開けてみれば、そのすべてが『恒久の転生竜』の活躍により叩き潰されたのだった。
その結果、国王によってその功績が認められ、一行は『月下の騎士』の称号を授与されることになったのだが……。
◆◇◆◇◆◇◆◇
オレたち『恒久の転生竜』に『月下の騎士』の称号が授与される式典でのことだった。
「ぐぬぬ。しかし待て兄上! 聖エリス神国で勇者召喚の神託がおりたと聞いても、その考えは変わらぬか!」
デリアベル公爵がオレたちの前に立ち塞がり、神託などと言い出した。
その後もオレたちを置いて国王様と話が進んでいくので、一度引っ込んではダメかなぁなんてぼんやり考えていた。
「勇者とは別に、我が国に『女神の使徒』が現れるそうなのだ!! だから、その者を召し抱えるためにも『月下の騎士』の称号はとっておくべきなのだ!」
歓声が巻き起こる中、それなら普通に話し合って中止にしろよなどと思いつつも、この時はまだ他人事だと楽観視していた。
「あぁ! その者の左手の甲には竜の紋章が刻まれているそうだ!」
この言葉を聞くまでは……。
オレは嫌な予感に咄嗟に左手をポケットに突っ込んだのだが……。
リリーやルルー、リルラたち『恒久の転生竜』の仲間たちから集まる視線を気付かないふりをしてそっとそっぽを向く。
「あ……」
すると、逸らしたその先で……国王様と目があった。
そう言えば、ギフトの話を聞かれて紋章を見せた気がしないこともないような……。
「あ~サインよ。ちょっと確認したいのだが、その者の左手の甲には『竜の紋章』と呼ばれるものがついているのだな?」
国王様がオレから目を離さずにデリアベル公爵に尋ねた。
「そうなんだ! 左手の甲に竜をモチーフにしたような紋章があるらしい!」
デリアベル公爵は興奮した様子で懐から手紙のようなものを取り出すと、それを広げて国王様に向けて掲げてみせた。
「左手の甲にこのような紋章を持っているらしい!」
うわぁ……なぜだろう……すごく見覚えのあるデザインだな……。
「神託を受けた巫女がその時見たものを模写して魔法郵便に添えてくれたのだ! だからこのようなどこの馬の骨かも知れぬようなものに『月下の騎士』を授与するなどもってのほか! すぐにこの紋章を持つ者を探し出さなければいけないのだ!」
それを聞いた国王様は、憐れむような視線をデリアベル公爵に向けると、溜息を付きながら語りかけた。
「なるほどのぅ。それは探し出さねばならぬな。しかし、サインよ……。すごい偶然なのじゃが、儂はその紋章を持った者に心当たりがあるのだが?」
その国王様の言葉に、静まり返っていた会場がまたもや大きくどよめいた。
「なな、なんと!? ほ、本当なのか!? 兄上!!」
「あぁ本当じゃとも。なにせ……ほれ。そこにおるしの」
そう言って呆れた顔でオレを指さす国王様……。
はははは……国王様? 人を指差すものじゃありませんよ?
って、さすがにもう無理か……。
「な、なにをこんな時にふざけた冗談を……」
乾いた笑みを顔に張り付かせ、ぎこちない動きでこちらを振り返るデリアベル公爵。
そしてオレに集まる会場中の視線……。
「こんな場面で冗談など言わぬ。コウガよ。左手の甲を見せてみよ」
見せなければダメだろうか……? ダメだろうな……。
「えっと……はい……」
隠していた左手をポケットから出すと、ジルとの契約時に現れた紋章がみんなに見えるように軽く掲げてみせた。
その手の甲には、デリアベル公爵が持っている紙に描かれたものと瓜二つの紋章が浮かび上がっていた。
「うわぁ♪ コウガ様は女神様の使徒だったのですね!」
リルラがキラキラした目でオレを見つめてから嬉しそうに声をあげると、静まり返っていた会場が騒然となった。
なんでこんな面倒なことに……と項垂れていると、突然ある記憶が蘇った。
『紅雅 穿輝よ。後に勇者が現れたら手助けしてあげてください』
それは、転生した時の記憶だった。
この言葉ってどう考えても女神様のものだよな。
となると、さすがに無下にはできないか……。
でも……オレが女神様の使徒って話は、絶対に初耳だと思うんですが~!!
そんな心の中の叫びをよそに話は進んでいく。
「それで、やはりコウガが女神様の使徒ということで間違いないな?」
「それはわかりませんが同じ紋章のようですね……はははは……。はい。使徒みたいです」
国王様のその言葉にもう認めるほかなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
それから式典は驚くほどスムーズに進行した。
それはそうなるだろう。
一番反対していたデリアベル公爵が、手のひらをくるっくる返して、賛成も賛成、大賛成にまわったのだから。
「コウガ殿! 私はコウガ殿を全面的にバックアップさせていただくぞ! どんな些細なことでも遠慮せずに相談してくれたまえ!」
さっきまでどこの馬の骨とも知れぬと罵っていた記憶は、綺麗さっぱり消し去ったらしい。
「はぁ……ありがとうございます」
現在オレたちは、式典での『月下の騎士』の授与が終わり、今はパーティーの場で質問攻めにあっていた。
そこへ遅れてとある人物がやってきた。
あまりこの場に似つかわしくない風貌だが、もちろん誰もその人物を止めようなどとはしない。
「お~おったおった! 仕事がなかなか片付かなくてのぅ。無事に授与式は終わったようじゃな!」
やってきたのはこの国の冒険者ギルドのトップ、グランドギルドマスターのネギさんだった。
ちゃんと仕事してるんだって驚いたのは内緒です。
「無事にかどうかはわかりませんが、称号はちゃんと授与していただききました」
「なんじゃ? 何かあったのか?」
苦笑いを浮かべながらそう答えるオレを見て、どうしたのかと聞いてきた。
この一連の出来事をどう説明するかなぁ……なんて思っていると、横から話に割り込んできたデリアベル公爵が嬉しそうに代わりに説明し始めてくれた。くるっくる。
そうして興奮しながら説明すること数分。
「なんとまぁ。それなら、これから忙しくなりそうじゃのぅ」
「えっ? 使徒って何か使命とか、やらないといけないことでもあるのですか?」
この世界でも例に漏れず、勇者は「魔王を倒す」という使命を課せられるようだが、使徒はそのような話を聞いたことがない。
「うむ。使徒の場合は何かが起こった時のために備えて鍛えるぐらいだな。その時になれば女神様からの導きがあるはずだから、それまでは力を蓄え、あとは己の信じるままに行動すればよい」
オレの疑問にデリアベル公爵がこたえてくれたのだが……もしかして、やたらいろんな事件に巻き込まれるのは、すでに女神様に導かれていたとかってオチじゃないですよね? 女神様? そこのところどうなのでしょうか……?
しかしデリアベル公爵は最初の剣呑な雰囲気はどこへやら。
満面の笑みをたたえてご機嫌な様子で、ひと時もオレの側を離れようとしない。
男にくっつかれて喜ぶ趣味はないのでほどほどにして欲しいのだけど、公爵様にそのようなことを言える訳もなかった。
「それなら勇者が現れるまでは自由に出来そうですね。そういうことなら予定通りでいいのか。ギルドマスター、S級昇級のための依頼は決まりました?」
その問いにギルドマスターは表情を真剣なものへと変えると、すぐに答えてくれた。
「もちろんじゃ。それならもう決まっておるぞ。すこし早いがここで伝えておくか」
「それならぜひ。リルラ! ちょっと来てくれ!」
他のメンバーは国王様の所でビアンカさんと話を弾ませていたので、声をあげてリルラにこちらへ来るようにと声をかけた。
「コウガ様、お呼びですか。どうされたのです?」
呼ばれたのが嬉しいのか、ニコニコしながら走ってきた。
「S級になるための昇級試験に使う依頼が決まったそうなんだ。一緒に話を聞こう」
「ほう。もうS級に挑戦するのか」
「はい。国王様。せっかくのチャンスですので挑戦してみようと思っています」
リルラと一緒に、メンバーだけでなくゼシカ様や国王様までぞろぞろとついてきてしまった。
それにしても国王様がそんなフットワーク軽くていいのだろうか。
こういう場って、普通は国王様はでんと構えて向こうから来るのを待っているんじゃ?
「もう決まったのですね……にゃ」
「ジルは私たちに任せて頑張る……にゃ」
「あぁ、ジルを頼んだよ」
世界の平和のためにも。
ちなみにジルは今も側に控えているのだが、会場では絶対に隠蔽を解かないように言い聞かせてある。だから今日は誰もその存在に気付いていない。
「あなたたちといると驚くのにちょっと慣れてきた気がするわ……。その歳でもうS級の試験を受けるなんて前代未聞じゃないかしら?」
「それでネギよ。S級の試験とはどのようなものになるのだ?」
ビアンカさんも国王様もS級の試験内容に興味がある様子だ。
国王様はギルドマスターに堅苦しいのは無用だと言って、続きを促していた。
「はい。まずリルラリルスには、深き森の『静寂の丘』に最近住み着いた『トロール』たちの討伐に向かってもらおうと考えております。そしてコウガには、同じく深き森にある『欺瞞の迷宮』に現れたイレギュラー、『ドラゴンゾンビ』の討伐をもってS級冒険者への試験としようかと」
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