第66話:グランドギルドマスター
「ははは。本当はこういう意味で助けてやるって言ったんじゃねぇんだがなぁ。まぁこのパターンもありそうだと思ったのは確かだが」
ナギさんは頭を掻き、苦笑いしつつ呟く。
そして「じゃぁ起こすからちょい待ってな」と言うと、身に纏う雰囲気を一変させた。
すると、それまでのどこかチャラチャラした雰囲気は一瞬で消え去り、まさに覇気とも呼べるものを発した。
「くっ……」
これは……殺気か!
眼光を鋭く光らせ、グランドギルドマスターに向かって常人ならそれだけで気絶してしまいそうな殺気をぶつけたのだ。
「ちょっとナギさん!?」
オレは慌てて止めようとしたのだが、どうもその必要は無かったようだ。
「ったく……おちおち昼寝もできんではないか」
グランドギルドマスターはようやく目が覚めたようだ。しかも、どうやったのかナギさんが放った殺気を手に持った杖で完全に霧散させていた。
「ちっ、相変わらずの狸爺いだな」
ナギさんは初めからあのくらいの殺気は軽く対応できるのがわかっていたようで、どうも今までもこの方法で何度も起こしているようだった。
寝る方も寝る方だが、なんてはた迷惑な起こし方だ……。
「ほっほっほ。まだまだ弟子に負けるつもりはないぞ?」
「え? グランドギルドマスターってナギさんの師匠なんですか?」
まさかの話に驚いて尋ねるも、返ってきたのは肯定の言葉。
「まぁムカつくがそういうことになるな。この爺いが俺の師匠だよ」
つまりS級冒険者であるナギさんの師匠ってことは、グランドギルドマスターも相当な実力者ということか?
この数ヶ月の冒険者生活で、相手の実力はある程度わかるようになったつもりだったが、グランドギルドマスターは強さがまったくわからなかった。
ステータスなどの単純な強さだけでなく、オレはまだまだ鍛えることが沢山ありそうだな。
「師匠なだけでなく、儂はナギ坊の育ての親じゃよ。そうじゃ! そいつ孤児院でも浮いておってな。ぜんぜん友達がいなかったから、仲良くしてやってくれると嬉しいのぅ」
「なっ!? ななな、何言ってやがる!? ととと、友達ぐらい山ほどいるってぇの! それとナギ坊言うな!!」
ナギさん、ボッチだったのか~。
顔を真っ赤にして否定しているが、どうみてもこの反応はそういうことのようだ。
「「友達いないんだ……にゃ」」
うん。リリーとルルーは傷口広げないであげて。
それはともかく、なんだか収集がつかなくなってきたな。
そろそろ話を進めたい。
「えっと……ボッチの件はおいておいて、とりあえず話を進めて頂いてもよろしいですか?」
「おっと、そうじゃったな。実はな……」
「おう……実は何なんだよ?」
みんなの視線を集めるナギさん。
「あん? な、何だよ?」
「いつまでここにおるつもりじゃ!! さっさと出ていかんか!」
また振り出しに戻って師弟対決? 親子喧嘩? がはじまる。
まぁ攻撃ではなく口撃の応酬だし、とりあえず受付嬢に出して貰ったお茶菓子を食べて時間をつぶすことにするか。
そして一〇分後……。
「いやぁ、すまんかったのぅ。あいつは何にでも首を突っ込んでくる面倒くさい奴でなぁ」
とりあえずグランドギルドマスターが、ナギさんの黒い歴史を語りはじめたことでようやく決着が着いた。
聞いた内容はナギさんのためにも、ここでは触れないでおこう。
ちなみにグランドギルドマスターの自己紹介を受けたのだが、名前はネギと言うらしい。
それで、周りからは普通にギルドマスターと呼ばれているそうなので、オレたちもギルドマスターと呼ぶことにした。頭に「グランド」をいちいちつけなくていいそうだ。
「はぁ、まぁそれはいいのですが……それでどういった用件なのでしょうか?」
さすがに遠回りしすぎでぜんぜん話が進まないので、直球で用件を尋ねてみた。
「おう。そうじゃったな。すまんすまん。実はお主らにギルドに来てもらった件じゃがな。国王からの連絡を受けてな。聞けばお主らに『月下の騎士』の称号を授与するというじゃないか。しかし、そんな救国の英雄に贈られるような称号を授与される冒険者のランクが、まだC級冒険者ではないか。それは非常に不味いのじゃ。冒険者ギルドのランク判定にケチがつけられかねん」
なるほど。たしかにC級のまま叙勲すると、称号の価値が低く見られたり、逆に冒険者ギルドのランクの信憑性が疑問に思われるかもしれない。
「そうなのですね。私としては急いでランクを上げるつもりは無かったのですが……」
最終的にSランクになることを目標にしているけれど、まったく急いではいない。
しかし、思ったままにそう答えたのだが、なにが面白いのかギルドマスターは楽しそうに笑い出した。
「ほっほっほ。面白いのぅ。愉快じゃ。急ぎはしないがランクが上がっていくのは、まるで決定事項のようじゃな」
ん~たしかにはたから見れば、思い上がりや傲慢に捉えられても仕方ない言い方だったかもしれない。そもそも冒険者の大半は頑張ってもC級止まり、才能に恵まれなければD級で終える者も多い。
でも、オレの場合は元々母さんと同じA級になるのが目標だったし、ジルと出会ってからは当たり前のようにS級になるつもりでいた。
あれ? 気付かないうちにジルやリルラの影響を受けて、普通がわからなくなっている気がするぞ……。ほんとに気を付けなければ……。
「なんか、すみません」
「ほっほっほ。謝る必要などないぞ。それでじゃ、とりあえずA級は先日の魔族の企みを潰した件で十分なのじゃが、さすがに高ランク依頼の実績の無い者にS級を与えるのはギルド的には不味くてな」
冒険者ギルドのランクは直接的な強さをあらわすものではあるが、実績も必要とされている。
それに、いくら国から報告を受けていたとしても、その強さが確認できるような依頼を一つも達成していない者にいきなりS級を与えることは出来ないということか。それは当然だろうな。
「それはつまり、何か高ランクの依頼を受けて欲しいということでしょうか?」
オレも聞こうしていたことを、先にリルラが聞いてくれた。
「お嬢ちゃんは理解が早くて助かるのぅ」
そしてギルドマスターは嬉しそうに顎の髭をひと撫ですると、オレたちの目を一人ずつ見つめてから口を開いた。
「ただし! S級の判定に使う依頼はすべてソロ依頼となっておる! かなりの危険を伴う依頼となるから、受けるかどうかは各自で判断するように!」
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