第57話:セデナの領主
オレたちを乗せた馬車は途中冒険者ギルドに立ち寄ると、リリーとルルー、リルラの三人を拾い、そのまま領主館へと向かっていた。
その馬車の中では……。
「ジル様……あれはいくら何でもやりすぎですよ。私でもそれぐらいはわかります」
「そうです。ジルさん、あれはありえないです……にゃ」
「ジルさん……めっ! ……にゃ」
ジルへのお小言が行われていた。
最後のルルーはどうかと思うが、今回はジルも悪いと反省しているようで、リルラの膝の上で小さくなっている。
と言っても、フェアリードラゴンよりはちいさくなれないので実際のサイズは普段と変わらない。
「話を聞くかぎり、ジルが単独で動かなければ結局オレたちは魔王軍との戦闘は避けれなかったとは思う。だから、ジルに感謝している部分はあるんだけどな。ただなぁ……今この街で話題騒然の『星落とし』はやりすぎだよな……」
もしジルが動いていなければ街が滅んでいた可能性が高い。
仮にオレたちが協力したとしても、後手に回ってしまい、この街には相当な被害が出ていただろうし、最悪の場合は防げなかったかもしれない。
街から離れていたあのタイミングだったからこそ、ジルも大魔法で一掃できたのだ。
攻め入られてから対応していたのでは、物量に押し切られて被害は確実に出ていたはずだ。
ただ……だからと言ってジルの今回のやり方を褒めてしまうと今後が怖い。それはもう国が滅びるレベルで怖い。
≪うむ……人の考えというものは難しい。我はちゃんと地形が変わらないように結界も施してから使ったし、衝撃が拡大し過ぎないようにもしたので、もう何やっても問題ないと思ったのだがな≫
「あぁ……何やっても問題ないが無かったらすごく良い感じだったんだがな……。まぁでも結界施してから殲滅してくれたのは本当に助かったよ……」
本当に助かった。精神的な意味でも物理的、人的被害的な意味でも、いろいろな意味でな。
ちょっとした結界が大勢の人命に直結しているのはどうかと思うが……。
でも、この一ヶ月ほどでいろいろと学習できたほうだろう。ただそれを上回るほど、ジル自身の持つ力が強大過ぎて、その匙加減が難しいようだった。
「それよりコウガ様。今までは私もジル様も力を隠して来ましたが、これからどうされます? コウガ様もある程度までしかお力はお見せしていないですよね?」
たしかにジルやリルラだけでなく、オレも本当の実力は明かしていない。
ジルの加護や装備を使って本気を出せば、すでにS級冒険者クラスの強さはあるかもしれない。
それこそ普段受けているC級冒険者向けの討伐依頼など、本気を出すまでもなく、いつも完全にオーバーキル状態になってしまっている。
ただ、依頼は討伐だけでないので、できればもう少し経験を積みたいところではある。
「私たちだけ隠していないの……にゃ」
「そもそも隠すほどの力がない……にゃ」
リリーとルルーがちょっと凹んでいるが、二人ともギリギリA級冒険者に届くぐらいの強さはあると思うから胸を張ってくれとフォローしておく。
しかし、実際問題これからどうするかな……。
今回の件で確実にオレたちの力はバレてしまった。
≪主よ。我が街の住人まるごと記憶操作の魔法で……≫
「き、記憶操作!? ぜったい却下だから!」
記憶を消去するだけでなく、操作する魔法まであるのか……。
と言うか、街の住人まるごと記憶操作とか恐ろしすぎるわ!
「もうこれ以上隠すのは無理か。これからはある程度は情報を公開して堂々と振る舞おう」
パーティーとしての実力と実績、あと名声などがついてからと思って実力を隠してきたが、そろそろ良いだろう。今回の件でも街を救ったことになるだろうしな。
≪おぉ。そうか、それは助かるぞ! 我は普通にすれば良いのだな!≫
「「絶対だめ!! ……にゃ!」」
「いやいやいや! 悪いがジルは今まで以上に全力で手加減だからな!」
≪そ、そうか……≫
その後も馬車の中でこれからのことについて、いろいろと話をした。
そして話がある程度纏まったところで、気を使って御者台に移ってくれていたウィンドアさんからちょうど声がかかった。
「みなさ~ん。そろそろ領主館につきますよ~」
さて……ちゃんと説明できるだろうか……。
◆◇◆◇◆◇◆◇
この学術都市セデナの領主様は、善政をひいているようで評判もよく、人格者だという話を聞いていた。
領主館も豪邸には違いないが、贅を尽くしたといった感じではなく、年季の入った洋館といった感じで、どこか趣があり、落ち着いた雰囲気の気品のある建物だった。
話のわかる領主様だったら助かるな。
まずはどこから、どういう順番で話そうか……。
学院での出来事から繋がっているし、そこからだよな。
などと、いろいろと話を考えていたのだが、ウィンドアさんの一言で全部吹っ飛んだ。
「ただいま~。あなた帰ったわよ~」
は? 今なんて?
「あららら? いないのかしら~? あなた~」
「「「えぇぇ~!?」」」
「お、お婆ちゃん!? お爺ちゃんは亡くなったんじゃ!?」
驚くオレたちをよそに、ウィンドアさんは平常運転だ。
「あららら? 言ってなかったかしら~? お婆ちゃん五〇年ほど前に再婚したのよ~?」
と両手を頬に当てて、腰をクネクネさせて照れていた。
いや、見た目は三〇代前半の美人さんなので違和感はないのだが、あんたいくつだ……。
「お婆ちゃん、再婚したの!?」
「そうなのよ~。人族の子で年の差婚なんだけど~。あ、いくつ離れているかは秘密よ~?」
そう言って「ふふふ」と笑うウィンドアさん。
いったいいくつ離れてるんだ? すごく気になる……。
「あららら? 気になるの~。コウガさんにだけなら教えてあげましょうか~?」
リルラとの参考になるでしょうし~などと言いながらこっそり教えてくれたのだが、ここは二人だけの秘密なので伏せておく。
中国うん千年の歴史も真っ青とだけ言っておこう。
ウィンドアさんの話で驚いていると、ようやく執事らしき人が現れて部屋に案内してくれた。
そして今、オレたちは領主様の執務室のソファーに座って話をしている。
話している相手はウィンドアさんの夫であり、リルラの義理のお爺ちゃんでもある、この街の領主様。アラン・フォン・セデナ様だ。
その領主様に呼ばれて、ここでもう三〇分は話をしているのだが……一向に話が進まない。
「そうかそうか~! 儂の孫になるのあかぁ! 嬉しいの~♪ リルラよ。これからは本当のお爺ちゃんと思って接しておくれ」
アラン様は親バカならぬ、爺バカと化していた……。
頭は真っ白に染まり、顔に刻まれた皺はアラン様の生きてきた歴史を物語っており、その精悍な顔つきと眼光は領主としての威厳を備えている……のだが、さっきからもうそこらにいるお爺ちゃんにしか見えない。
アラン様は、五〇年前、まだ二五歳の時にリルラのお婆ちゃんであるウィンドアさんに出会い一目惚れ。その後、猛烈にアプローチして結婚し、今は七五歳なのだそうだ。
しかし、エルフと人との間には子供が出来にくいらしく、そこだけが唯一寂しい思いをしてきたそうで……そこに突然見た目もまんま孫のような容姿のリルラが現れたのだ。
だから気持ちはわかる。わかるのだけど……これで良いのか領主様……。
「アラン様、そろそろ本題に入りませんか?」
とうとう見兼ねてリルラがそう切り出す。
「うむ。そうじゃな。儂としたことが申し訳ない……ではリルラよ。最後にちょっとお爺ちゃんと呼んでくれぬか? そしたら本題に入ろう!」
「もう! 仕方ないですねぇ……お、お爺ちゃん」
リルラがしぶしぶそう呼ぶと、アラン様は急に立ち上がって拳を天にかざし。
「わ、儂はもう……我が生涯に一片の悔いはない!」
そう叫んで涙を流したのだった。なんだこれ……?
いや、まだ死なないでくれませんか!?
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