第49話:神具
「え? 『破戒の宝玉』ですか……。かなり物騒な名前ですけど、その効果は?」
「実際にかなり物騒な代物ですわ。その効果はあらゆる防御魔法や結界魔法を破戒するというもので、今はここの七階で秘密裏にその魔法効果の研究がされていますわ」
この世界の重要拠点では、そのほとんどの場所に結界魔法や防御魔法がかけられている。それを破戒できる魔道具となれば、それがどれほど危険なものかは考えるまでもない。
「塔の安全を揺るがすような魔道具を同じ塔内の施設で研究してるんですね……」
「あららら? 痛いところをつかれてしまったわ~。でも~、その宝玉は正確に構造を理解しないと発動できないので、今までは私にしか使いこなせなかったのよ~。だから油断してしまったわ~」
そもそも私は研究すること自体に反対したのよ~? と、学院長の一存では研究を中止させられないのよアピールをしてきた。
それは確かにそうかもしれない。
国にいろいろ出資してもらっているようだからね。
≪奴は物品鑑定系のギフトを持っておった。物品鑑定の高位のギフトは、扱うための情報まで得ることができる。覚えておくといい≫
なるほど……そういうことか。
ドアンゴがその破戒の宝玉とやらを使って結界を破ったので間違いなさそうだ。
「お婆ちゃん。もうジル様の証言でドアンゴという男が犯人なのはわかっていますし、捕まえた方がいいんじゃないですか?」
「そうね~。それじゃぁ『恒久の転生竜』のみなさん、お願いね~」
う……丸投げしてきた。うん、でも、薄々そんな気はしてたよ。
「わかりました。乗りかかった船ですし……ジル、頼めるかな?」
まぁオレも丸投げなんだけど。
ジルの千里眼を使えばドアンゴが今どこにいるかぐらい、すぐに見つかるだろう……と思っていたのだが……。
≪主よ。すまぬ。どうも隠蔽系のかなり高位の魔道具を使っているようでな。今の奴がいる場所は掴めなかった≫
予想外の言葉が返ってきた。
「あららら? 名探偵廃業ね~?」
ウィンドアさん、ジルはそもそも名探偵じゃないから……。
そんなことより、ジルの千里眼を防ぐ魔道具があるなんて予想外だ。
「驚いたな。ジルの千里眼で見れないなんて相当な魔道具なんじゃないのか?」
≪そうだな。奴が魔のモノ達と合流した所までは掴んだのだが、それ以降の居場所がわからぬ≫
「魔のモノって魔族や魔物が絡んでいるのか?」
≪うむ。その魔族は宝玉を使って既にこの街の結界を超えて街に入り込んでおるぞ≫
なんか、どんどん事が大きくなっていっているな……。
◆◇◆◇◆◇◆◇
学院から冒険者ギルドとこの街の領主様に急いで連絡をしてもらい、オレたちは先行して魔族の対応にあたることになった。
だが、移動を始めようとしたその矢先、ジルから新たな情報がもたらされた。
≪主よ。このセデナの街の南にある広場に魔界門が現れた。このまま魔族を追って大丈夫か?≫
え!? 街の中になんてものを出現させるんだ!?
もしかして、また骨骨ファンタジー……大量のスケルトンが?
「くっ!? こっちが動く前に……それってあの時のスケルトン軍を呼び出した門だよな?」
≪いや。どうやら先日のアモンとやらが出現させたものとは別種のもののようだ。何が召喚されるかはわからぬ故、油断せぬ方が良いだろう≫
「門から敵が溢れ出してくるまでわからないのか。厄介だな……。それにさっきの言い方からすると、魔族は別の所に向かっている?」
≪うむ。衛兵をなぎ倒して北の貴族街に侵入したようだ。む……北の貴族街にも魔界門を出現させおったぞ≫
「不味いな!? 魔族はそこに留まってる?」
あんな危ないモノをそんなホイホイ設置出来るのって反則だろ!?
≪いや。もう移動し始めた。この方向は……冒険者ギルドがある方だな≫
え? まさか、まだ魔界門設置するつもりじゃないだろうな……。
「コウガ。手分けして対応するしかない……にゃ」
「私たち二人で南の門をなんとかするから、後はよろしく……にゃ」
後手後手に回ってしまっているな。
戦力は分けたくないのだけど……仕方ない。
「わかった……。だけど絶対無理はしないでくれ。命大事にだ」
「大丈夫。コウガたちほどじゃ無いけど、私たちも『神獣の加護』ですごく強くなった……にゃ」
「安心してまかせる……にゃ」
確かに今の二人なら並のA級冒険者より強いかもしれない。
やっぱり心配なものは心配だけど……ここは信じて任せるか。
「わかった。二人を信じるよ。ジル! 二人を南の広場前まで転移してやってくれ! あと、二人が危なくなったらすぐにオレに教えて欲しい!」
≪うむ。承知した。リリーとルルーも気を付けるのだぞ≫
ジルはそう言うと、何でもない事のように二人の足元に魔法陣を無詠唱で展開し、南の広場に送り届けた。
「よし。じゃぁ後は、北の貴族街の魔界門と冒険者ギルドの方に向かっている魔族か」
正直ジルを一人で向かわす選択肢はない。偵察ぐらいならいいが、戦闘が絡むのはまだもうすこし人目線の常識を身につけてからだ。いや、まじで街が崩壊しかねないから……。
しかしかと言って、戦闘経験が浅く接近戦が不得意なリルラを一人で送り込むのも避けたい。
「コウガ様。私は一人でも大丈夫です」
「だけどな……」
まだこれがもっと開けた場所での戦闘ならいいのだけど、街中で戦闘になった場合には不覚をとりかねないと思うんだ。
やはり一人でリルラを送り込むのは却下だろう……と思ったのだが……。
≪主よ。では我の持っている神具の一つをリルラに与えてはどうだろうか?≫
なんだシングって? 初めて聞くんだが?
「しんぐ? それは魔道具とは違うのか?」
≪わかりやすく言えば、神が創った魔道具のようなものだ≫
「え? え……神? え……?」
≪古代の神が創ったものの一つに『慟哭の首飾り』と言う神具があってな。身につけた者の代わりに一定威力以下のあらゆるダメージを防いでくれるというものだ≫
と説明しながら、次元収納から『慟哭の首飾り』を取り出した。
え? 待って……理解が追いついてな……い、いや、落ち着けオレ……いつものことだ。一旦置いておく。うん。山積みになった置いておいた案件は全力で無視する。
「そ、それが神具なのか?」
ジルが取り出した神具は、シルバーっぽいチェーンに翡翠のような綺麗な石が付いた品のあるペンダントだった。
ぜったい素材がなにかなんて聞かない。
当然のようにチェーンはシルバーじゃないだろうし、宝石も翡翠ではないはずだ……。
わかってる……なにか伝説級の素材なんだろ……。
≪うむ。低位のドラゴンの攻撃ぐらいなら防げるはずだ≫
低位とはいえドラゴンの攻撃ぐらいなら防ぐって……まぁ確かにこれならリルラを単独行動させても大丈夫そうだ。
というか、鬼に金棒? リルラに鉄壁防御? ほぼ無敵じゃない……?
「そ、そうか……それならリルラに片方を任せるか……。ジル、リルラに渡してあげてくれ」
神具ってとんでもないな。
でも、ある意味こんなのが人の手にわたったりしたら大変だ。
他にどんな神具を持っているのか今度確認しておくか……。
あ! この首飾りが複数あるなら、リリーとルルーにも持たせておけば良かった!
「しまったな……あとで……ん? リルラ?」
ちょっと考えを纏めていると、なぜかジルから首飾りを受け取ったリルラが「はい」と言って今度はオレに首飾りを渡してきた。
「え? オレは大丈夫だ。リルラがつけて欲しいんだけど?」
オレは先の『邪竜の加護』全解放で体の構造が強化されたようで、低位のドラゴンの一撃ぐらいならなんとか耐えられると思うんだ。もちろん無傷とはいかないけど。
「いえ。コウガ様が不要なのはわかっております。そうではなくてコウガ様の手で私に付けて欲しいのです」
ダメですか? と言ってする上目遣いは破壊力がありすぎる……。
ちょっと一〇歳ぐらいの見た目の子相手にドギマギして情けないが、こんな美少女にされたら誰だってドキドキすると思うんだ。うん。
「あ、そ、そういう事か。わ、わかった。ちょ、ちょっと待って……」
オレは冷静を装いつつ、手間取りながらもどうにか首飾りをつけてあげた。
「ありがとうございます! 大事にしますね! それじゃぁ貴族街の方は任せて下さい!」
そう言うとリルラは、嬉しそうに頬を染めながら足元の魔法陣に吸い込まれて消えていった。
たまに見せるリルラのこういう行動や仕草は心臓に悪い……。
いや、こんなことをしている場合じゃない!
これから戦闘なんだから気持ちを切り替えていこう!
「じゃぁオレは魔族の向かった冒険者ギルドの方に向かう! ジル、転移を頼む!」
本当は一緒に転移で向かうのがいいのだが、ジルは本当に転移が大っ嫌いなんだよな……。
説得に時間を割くだけ無駄だから、オレだけでも先行してギルドに送ってもらう。
≪承知した。転移したら我もこのまま後を追おう。あと、言い忘れたのだが『慟哭の首飾り』で攻撃を肩代わりすると、ちょっとうるさいのだが害はない。気にする必要はないが一応伝えておく≫
「え!? ちょ、めっちゃ気になるんだけど!!」
ジルが残した不安な言葉を聞きつつ、オレは足元に現れた魔法陣に吸い込まれたのだった。
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