第44話:神に準ずるモノ
ジルの放った見えない何かは、オレたちに向かって飛んできた物体をまるで何事もなかったかのように呑み込み咀嚼した。
「あららら? 驚いたわ~。『次元の顎門』と言えば、竜王クラスの竜しか使えない竜言語魔法のはずなのにね~?」
「ジル! 今こっちに向かって飛んできたのは何だ!?」
と尋ねると、ジルはなぜかすこし嬉しそうにこたえた。
≪あれは『古代エヴァストーク』の『神造機兵メグスラシル』が放った『血の渇き』だ≫
まさかこのような場所で見ることができるとは……となんだか一人懐かしそうにしている。さっぱりわからん。
ただ、なんとなく単語から伝わってくる雰囲気がやばそうなのはわかる。
「なんか不穏な単語がいっぱい並んでる気がするけど、もうすこしわかりやすく言ってくれ」
≪そうだな。『神に準ずるモノ』の模造品だからな。模造品と言っても自我を持たないだけで、オリジナルとそこまで強さは変わらぬので侮るなよ≫
ジルが侮るなとかいうぐらいだから、これはかなり危なそうだ……。
この説明聞いて侮る奴がいたら紹介して欲しい。
「侮らないようにするから、もうすこし詳しく教えてくれ。その血の渇きやメグスなんとかってのはいったいなんなんだ?」
≪なんだ。そんなことも知らぬのか≫
くっ……ジルに言われると、なんかすごく悔しいんだが……。
かと言って説明を聞かないという選択肢はないので我慢して聞くことにする。
≪『血の渇き』というのは主でもわかるように言うと実体を持った魔力による衝撃波だ。『神造機兵メグスラシル』が上階から放ったのだろう≫
その衝撃波が血を求めてここまで届いたらしい。何それ怖い。
で、『神造機兵メグスラシル』というのは『古代エヴァストーク』という国かなにかで造られたゴーレムのようなものらしいのだが、それが『神に準ずるモノ』の模造品らしく、かなり危険らしい。やっぱりわからん……。
とりあえず、すごいゴーレムがすごい技ですごい離れた所から攻撃してきたことだけはわかった。
「え? え? もう私の頭ではついていけなくなってるのですけど……もしかしてそのドラゴンは噂のフェアリードラゴンなのかしら……? でも、フェアリードラゴンって話せるの?」
オレ自身が混乱している状況なので、ビアンカさんに説明したりする余裕は無いんだが……。
どう説明しようかと悩んでいると、リリーとルルーの二人が代わりに答えてくれた。
「ビアンカさん、私たち一般人は避難すべき……にゃ」
「私たちも『神獣の加護』を得ているけど、そこの三人は別格だから……にゃ」
「一般人って……そもそも一般人はストーンゴーレムを短剣で切り裂いたりできないですわよ……。あなたたちも大概だと思うのですけれど……あっ……ちょっと待って、引っ張らないで下さい!」
ビアンカさんの主張を華麗に無視し、手を取って引っ張っていく二人。
大ホールを戻って九階への階段付近までビアンカさんを連れて下がってくれるようだ。
ビアンカさんがちょっと教えてよー! とか叫んでいるから後で説明しないといけなそうだけど、今はとりあえずリリーとルルーの二人に任せておこう。
ウィンドアさんはリルラのお婆ちゃんだし大丈夫だろうけど、ビアンカさんはちょっと色々見られすぎているので、仲間に引き込むなり対応を考えないといけないかもしれない。
「お婆ちゃん。神造機兵って言ったらエルフの里の惨劇で伝わるアノ……?」
「あららら? 一〇〇〇年会わない間に物知りになったのね~」
なんか「ちょっと」の一言がすごく重い気がするのだが……。
しかし惨劇ってつくぐらいだから、壮絶な戦いでもあったのだろうか?
「それって『はじまりの四精霊』が四人がかりでなんとか倒したと言われているアノ巨人ですよね……」
いつも堂々としているリルラが、珍しくすこし顔を強張らせている。
≪主よ。悪いのだが話はその辺にしておこうか。そろそろ来るぞ≫
◆◇◆◇◆◇◆◇
古代エヴァストークの遺物『神造機兵メグスラシル』は、この一〇階大ホールの高さ一〇メートルの天井に届きそうなほどの巨躯となって現れた。
どうやって階段を降りてきたのか? それはジルと同じように体の大きさを変化させたのだ。
このホールに現れた時は二メートルほどだったのに、ホールに入った瞬間に巨大化した。
体の大きさを変化させる魔法は今じゃ失われた魔法の一つなのだが、人がこの世に現れる前に神の手によって造られたモノらしいので、ごく普通に使えるようだ。
もしかすると外で出会っていたら、もっと巨大化したかもしれない。
それにしても、最近オレの周りでは失われた魔法のワゴンセールでも行われているのだろうか。ぜんぜん失われてねぇじゃねぇか……。
「おぉ~まるでアニメに出てくる装甲機兵みたいだな」
思わずそう呟いてしまうぐらい、その姿は特徴的だった。
本当に前世の記憶にある某ロボットアニメを思い出す。
「コウガ様? アニメとは何でしょうか?」
リルラが興味深そうに聞いてくるが無難にこたえておく。
「あぁ、すまない。忘れてくれ。あの姿が夢で見たものにすこし似ていただけだ」
リルラなら別に説明してもいいのだが、するにしても後だ。
とりあえず銃のようなものを持っていないことにホッとする。でも、良く考えればさっきの『血の渇き』とかいう衝撃波を飛ばしてくる攻撃があるので、下手すると銃よりたちが悪いことに気付いてちょっとげんなりする。
装備は巨大な槌と盾だけのようだが、近接攻撃の長大な間合いも油断できないだろう。
「あららら? 一〇〇年前も思ったのですけどほんと大きいわね~。私はこの塔が壊れないように結界を張って守ってるから、あとは頑張ってね~」
くっ……ウィンドアさんの決して崩れないマイペースが恨めしく感じる。
というか、それって丸投げなのでは……!?
「コウガ様! ど、どうしましょか? 私も本気出さないと不味いですよね?」
「あぁ! ウィンドアさんが結界を張ってくれるのならシグルステンペストを頼む! それまではオレが時間を稼ぐ!」
そしてオレは大きく深呼吸をすると、覚悟を決めてジルに伝える。
「ジル! 加護の力の抑制を解除してくれ!」
相手は『神に準ずるモノ』だ。多少の無茶はしないとダメだろう。
「ステータスフルブーストだ!」
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