第43話:隠された真実
封印が解かれてる? それって聞いた話とちょっと違うような?
「あららら? やっぱり間違いないみたいね~。私が一〇〇年前に施した結界が解かれてしまっているわ~」
まぁどうしましょう~? と言って手に頬を当てている姿は緊迫感の欠片もないのだが、ビアンカさんの様子を見るに一大事のようだ。
「そ、そんな!? 昔、学院長が長い時間をかけて施した結界が……」
あれ? やっぱり聞いた話と違う?
たしか封印の施された扉があって先に進めないから、攻略が一〇階で止まったって言ってたはずだ。
「あ!?」
あ? なんだろうか?
「あぁぁぁ!? あなた達! このことは絶対に他言無用よ!」
オレたちはビアンカさんに他言無用だと何度も約束させられた上で真実を聞かせてもらった。
いや、別に教えてくれとは言っていないのだが?
もう正直、いろいろと隠し事多くてしんどいんだけど……。
でも聞いてしまったものは仕方ない。
話はこういうことだった……。
◆◇◆◇◆◇◆◇
昔、トリアデン王国は、当時有名だった高ランク冒険者たちを雇い、大勢の兵士とともに大々的にこの塔の攻略を始めた。
攻略は国が主導で行なっていたこともあり、豊富な人材と資金が投じられて瞬く間に七階まで進めることに成功する。
それに気を良くした王国は、塔の攻略状況を市民や他国にも喧伝し、それはいつしかこの国の威信をかけた大プロジェクトとなっていた。
順風満帆に九階まで攻略を進めるが、その攻略が一〇階に到達した時に風向きが変わる。
大量のゴーレムが押し寄せ、攻略部隊ははじめて惨敗を喫することになったのだ。
今まで順調だったことを喧伝していただけに、ここで引くわけには行かないと沢山の兵が投じられた。
しかし、ストーンゴーレムを中心とした魔物は武器では攻撃が通りにくく、かといって魔法で与えた傷も、生半可なものでは時間経過で回復してしまい、泥沼の様相を呈することになってしまう。
その後も様々な手を尽くした王国だったが、事態は完全にこう着状態になってしまった。
このままでは駄目だと、その状況を打破するために白羽の矢が立ったのが、当時大陸で勇名をはしていたS級冒険者のウィンドアさんだ。
そしてウィンドアさんは実力を遺憾なく発揮し、攻略部隊はたった一日で一〇階の石の魔物たちを討伐することに成功する。だが……勢いづいた攻略部隊はウィンドアさんの制止も聞かず、そのまま十一階の攻略に向かってしまったのだ。
攻略部隊には、他にもS級冒険者の剣士や、その冒険者に匹敵する強さの王国戦士長などが揃っており、物理攻撃が普通に通る敵であれば負けるはずがなかった。
しかし……攻略部隊は十二階への階段目前、扉の前に現れたたった一匹の魔物に全滅させられてしまう。
いや、正確に言えばウィンドアさんを除いて全滅させられたのだ。
ウィンドアさんは最後まで攻略部隊と共に戦い、魔法であらゆる支援を行なった。だが、頼りのS級冒険者の剣士と王国戦士長が倒された後は、もう流れを止めることはできなかった。
ひとりになったウィンドアさんは、逃げながらも幾重にも結界を張って追っ手を妨害することで何とか一〇階まで辿り着く。そして、そこからは時間をかけて自身最強の結界魔法を施し、事の顛末を王国に報告した。
だけど、王国は真実を公表するのを嫌がり、あくまでも解けない封印があったために攻略は一〇階で打ち切ったということにして、真実は王国の重鎮とウィンドアさんだけのものとなったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「なるほどな。でも、ビアンカさんが言ってた一年がかりで封印っていうのは?」
「あららら? それは~ビアンカさんが目をキラキラさせながら話を聞いてくれていたので、つい盛ってしまいましたわ~」
鳩が豆鉄砲を食ったようなとは、きっと今のビアンカさんみたいな様子をさす言葉なんだろうな……。
「えっ……」
リルラのお婆ちゃんの自由奔放振りがすごい……。
涙目になって学院長に抗議するビアンカさんがちょっと可愛くて、可愛そうだった。
ちなみにこのあたりのことは本当は学院の生徒であろうと秘密らしいのだが、ビアンカさんが封印について興味を持って調べているうちにバレてしまったそうだ。
それで下手に誤魔化すぐらいなら真実を教えて秘密にしてもらったほうが安全だと判断したらしい。
「そ、それより! 今の話で理解してもらったと思うけど、封印が解けてるなら早くもう一度張り直さないと危険なの。あなたたちが冒険者でしょ? 後で指名依頼として処理してもらうようにするから、詠唱中の学院長の護衛をお願いしていい?」
まぁリルラのお婆ちゃんだし、オレたちに断る理由もない。
「わかった。じゃぁウィンドアさんとビアンカさんの護衛ってことで受ける。結界を張るのはすぐに始められるのか?」
「わ、私まで護衛する必要なんて……いいえ、わかったわ。あなたたちが私よりずっと強いのはさっき見たものね。じゃぁ、私も含めてお願いするわ」
さっきから全部ビアンカさんが決めてるけど、ウィンドアさんはそれでいいのか? 学院長だよね?
などと思っていると、ジルから声がかかった。
≪主よ。ちょっといいだろうか? すこしの間隠蔽を解くぞ≫
「え? 急にどうしたんだ?」
先に理由を聞こうと思ったのだが、次の瞬間にはもう隠蔽を解いてしまっていた。
「へ? ……ど、ドラゴン!? なんでこんな所に? あれ? さっきからいたわよね? え? ……いったいどういうこと?」
「あららら? 私の目まで欺く隠蔽魔法なんて初めて見たわ~。しかもお話までできるの? すごいドラゴンさんね~」
ビアンカさんが理解が追いつかず混乱し、ウィンドアさんは自分が見抜けないような隠蔽魔法や話せることに驚いている。いや、これでも本気で驚いているようなんだ……。
「す、すみません! 後で説明しますので、ちょっとジルと……あ、えっと、このフェアリードラゴンと話をさせてください。テイムしてあるので安全ですから」
「い、いくらちいさくてもドラゴンをテイムしてるなんて……」
「あららら? ドラゴンテイマーなんてお伽噺みたいね~」
本当はいろいろと聞きたそうだったが、二人ともひとまずは待ってくれるようだ。
「それでジル。急にどうしたんだ?」
≪主よ。すまないな。ちょっと手遅れになっては不味いと思い、先に行動に移させてもらった≫
「それはいいんだが、手遅れってなにか起こってるのか?」
≪主は我が抑えているステータス強化を解放すれば死なないかもしれぬが、他の者が危ないのでな≫
ジルはそう言うと膨大な魔力を解き放ち……。
≪喰らい尽くせ『次元の顎門』≫
迫るなにかを呑み込んだ。
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