第40話:ストーンゴーレム
昇降魔道具から降りたオレたちを待っていたのは、ゴーレム系の無数の魔物だった。
そのほとんどはストーンゴーレムで、二メートル近い体のほとんどが石で出来ているのでなかなかの迫力だ。それに、こちらに向かってくる歩みを見る限り、その動きは思いのほか機敏に見える。
ストーンゴーレム以外にも、羽のないガーゴイルのような姿をした巨大な魔物も遠くに見えるし、さらにその奥には大ホールの天井に手が届くのではないかというような石の巨人のような魔物までいる。
「なかなかの数だな」
「コウガ様、コウガ様! 私も参加したいです!」
ちょっとした遭遇イベント程度にしか思っていなさそうなリルラが嬉しそうに確認してきたので、加減するように念を押してから許可をだした。
「じゃぁまずはオレとリリー、ルルーの三人で切り込むから、抜けてきそうなものとか手が回らなそうなのを頼む。でも加減を忘れないようにな!」
と言って切り込もうとすると、ビアンカさんが慌てて止めに入った。
「なにを言っているのですか!? ストーン系の魔物には武器がほとんど効かないのを知らないのですか!?」
まぁ確かに普通の武器だと効き目は薄いし、武器が破損する恐れがあるので前衛泣かせの魔物ではある。だけどオレたちの武器だと話が違ってくる。
オレの雷槍ヴァジュランダはもちろん、リリーとルルーが使っている短剣でも同じだ。
それは二人が今使っている短剣が、先の戦いで騙された偽物の秘宝級ではなく、本物の秘宝級の短剣だからだ。
その名を『鋼の四重奏』。
短剣四本で発動するセット装備だ。
一定範囲内でこの四つの短剣で攻撃を重ねていくと、数を重ねれば重ねるほど、切れ味が増していくというリリーとルルーのためにあつらえたような効果を持っている。
先日試し斬りで大きな岩も斬っていたのでストーンゴーレムなんて余裕だろう。
ちなみに『恒久の転生竜』の装備は、すべて秘宝級の武器や防具に刷新されている。
ジルがとんでもない量の装備を次元収納に溜め込んでいたので、それをすこし放出した。
本当は伝説級のものを使おうとしたのだが、そんなのを持っているのがバレたら余計に命を狙われて危ないということになり、妥協して秘宝級のものを渡してある。
武器のランクは下級、中級、上級、最上級、秘宝級、遺物級、伝説級、神話級と分けられているのだが、遺物級以上は国宝レベルだということなので、個人で所有されている最高ランクの秘宝級を渡す形になった。
ただオレの槍は……やっぱり強い武器って浪漫があるからな。槍だけは偽装魔法をかけてもらって神話級の雷槍ヴァジュランダを使い続けることにした。
オレの場合はだいたいジルと一緒にいるから問題ないだろう。
「知っていますよ。でも武器がいいので大丈夫です。じゃぁ、ちょっと片付けてくるのでビアンカさんはここで待っていてください」
ビアンカさんにそう言い残し、オレはゴーレムの群れへと駆け出した。
「ま、待ってください! ちょっと武器がいいからってゴーレム相手に攻撃が通るわけが……へ?」
ゴーレムたちを槍の間合いにとらえて横薙ぎの払いを一閃。
上下二つに斬り裂かれたストーンゴーレムたちがバラバラと崩れ去った。
よし。やはりまったく問題ないな。
どんどん倒していこう。
「黒闇穿天流槍術、【閃光】!」
ガガガガガガガガガガガガガガガッ!
ステータスの上がったオレの【閃光】は、一息で一五の突きを繰り出せるようになった。数体のストーンゴーレムを一瞬で粉微塵に砕くと、次は【雲海】を繰り出してゴーレムの群れに突っ込み、当たる側から粉砕していく。
「な、なんなのですの!? 彼はいったい! ……え!? 双子の女の子も短剣でゴーレムを倒していますわ!?」
リリーとルルーの武器はもちろん短剣だ。ゴーレムを倒すには一番不向きと言っていいような武器で次々とゴーレムを仕留めていく姿に驚愕している。
「えっえっ? あ、ありえないですわ……この人たちはいったい……」
ストーンゴーレムを短剣で倒すだけでも普通はありえないのに、次々とスパスパ斬り裂いていく姿に二度見して驚くビアンカさん。
しかし、オレたちがゴーレムの群れを圧倒しているのをみて最初こそ呆然としていたが、我に返ると慌てて呪文の詠唱を始めだした。
「私も負けていられませんわ!」
責任感が強いのだろう。腰にさげていた短めの杖を掲げると、魔力を高めて魔法を詠唱し始めた。
≪野に眠りし万物の源『水』よ≫
≪仮初の奇跡を以って『槍』と成し、我に仇名す敵を穿て!≫
ビアンカの朗々と読み上げる詠唱により、短杖の前に三つの魔法陣が現れる。
≪『穢れなき槍』!≫
その魔法は水の槍を放って敵を貫く攻撃魔法だった。
水しぶきをあげ回転しながら飛ぶ三つの『水槍』は、横から回り込もうとしていた一体のストーンゴーレムに全弾命中して吹き飛ばした。
「やったわ!」
しかし残念ながら、倒れたストーンゴーレムは何事もなかったかのように起き上がってしまう。
ビアンカの魔法が弱いわけでない。
それこそ短剣じゃないが、ストーンゴーレムに水属性魔法はあまり効果的とは言えないのだ。
「うそ……」
特にゴーレム系の魔物は、中途半端に壊しても一定時間で自己修復してしまう。
ビアンカの魔法によって欠けていた肩やひびの入っていた胴体も既に直りかけていた。
戦力的には問題ないがちょっと不味いかな。
近寄ってくる複数のストーンゴーレムにビアンカが恐怖で固まってしまっている。
オレはとりあえずビアンカに接近していたストーンゴーレム二体に【雷鳴】を放って破壊すると、放心状態のビアンカに安心させるように声をかけた。
「ビアンカさん大丈夫だ! うちの最大戦力の二人が側にいるから安心して!」
オレは近くで静観しているリルラとジルに溜息をつく。
いくらオレ達が危険に陥らない限り極力手を出すなと常々言っているとはいえ、もうすこしだけ融通が利かないだろうか……。
「とりあえず数が多くて面倒だからリルラも参戦だ! 手加減忘れないように!」
「はい! やっと私の出番ですね! 任せて下さい!」
さっきからずっとうずうずしていたのはわかっていた。
でも、嬉しそうなリルラを見ると……ちょっと不安だ。
「あとジル! ビアンカも仲間だから敵が近寄ったら適当に撫でてやってくれ!」
≪承知した。ビアンカも仲間として守ろう≫
うちの二大戦力に参戦してもらったので、もう時間の問題だろう。
後はやり過ぎてしまわないようにだけ注意しなければ……。
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