第35話:カリンちゃんの憂鬱 その2
◆◇◆◇ 時は遡ってカリン視点 ◆◇◆◇
今日も一日頑張って仕事を終え、妖精の呼子亭に帰ってきました。
毎日のことですが、たくさんの可愛い妖精たちに迎えられると一日の疲れが吹き飛びます。
「うん! 私が集めた妖精コレクションは、いつ見ても可愛いな~♪」
この宿が繁盛しているのも、きっと私の妖精たちがお客様を迎えてくれているからでしょう!
「また雑貨屋さん巡りして、妖精グッズをいっぱい買わないと♪」
でも、さっきまでの楽しい気分は消えて沈んでしまいました。
「お母さん、今日もコウガさん帰ってきていないの?」
コウガさんは昨日に続いて今日も宿に帰ってきていないようです。本当に心配です……。
「心配しなくても大丈夫よ~。あらかじめ三日ぐらいは帰らないと思いますって聞いてるんだから」
お母さんはそう言うけど、街の外で一夜明かすのがどれほど危険なことかわかっていないのです!
え? リリーさんとルルーさんも帰ってきておらず、なにも聞いていないって!?
これは、こちらの方が心配です!
これは緊急事態です!
いろいろな意味でコウガさんも危険かもしれません!
私もギルドの受付嬢ではなく冒険者なら……とちょっと二人が羨まし……いえ、そうじゃなくてみんな心配です!
私は決めました!
もうこれ以上は待てません!
そう! カリン捜索隊を組織し、コウガさんを探しに行くのです!
「と言っても、見習いの私に捜索隊を出す権限なんてないですし……どうしよ……」
自室でオロオロしながらも何か良い案がないかと必死に考えます。
「おろおろ~おろおろ~おろおろ~」
考えても考えてもいい案が浮かんできません……。
知恵熱で頭が痛くなってきたその時でした。
「リリリリ~~♪」
どこかから鈴の音のような澄んだ綺麗な音が聞こえてきました。
「ん? いったいこれは何の音……?」
耳を澄まして音を頼りに探ってみると、どうやら窓の外から聞こえてくるようです。
私はそ~っと窓に近づくと、カーテンを開けて窓を開きました。
「リリリリ~~♪」
すると……何かが勢いよく飛び込んで……!?
「きゃっ!? あいたっ……」
私は驚き、尻餅をついてしまいます。
「あいたたた……いったいなにが……?」
お尻をさすりながら立ち上がった私でしたが、今度は別の驚きで固まってしまいました。
「リリリリ~~♪」
だってその音の正体は……。
「よ、妖精さん……!?」
驚くことに、私の周りを羽の生えた可愛い女の子が、ぐるぐるぐるぐると飛び回っているではないですか!?
この世界では妖精さんは幸せを運んでくる実在する生物としてとても有名です。
私がまだ子供の頃、亡くなったお父さんに貰った絵本に出てくる妖精のお話が大好きで、お母さんに毎晩のように読んで貰っていました。
しかし妖精さんは昔の書物にはよくその名を残してはいるものの、実際に会うことはないだろうとあきらめていました。それなのに、まさか妖精さんの方から私の部屋に飛び込んで来てくれるなんて! まるで夢のようです!
……あれ? これって、本当に夢?
「もしかして夢? そうだ! ほっぺた抓ってみればわか……いっ!? いたーーーい!!」
頬を力いっぱい思いっきり本気で抓ってみましたが夢ではなかったようです!
でも、もうすこし加減してつねれば良かったですね……。頬が真っ赤になってしまいました。
「で、でも……本物の妖精さんだぁ~♪」
妖精さんはキラキラとまるで鱗粉のような光の粒を振りまきながら、嬉しそうに私の部屋の中を飛び回っています。
しばらくその幻想的な光景に見とれていましたが、もしかしてこれはチャンスなのでは?
「妖精さん! 私と友達になってもらえませんか?」
私は「お願いします!」の言葉に続け、右手を前に出して頭を下げました。
物語に出てくる少女のように、友達になってもらえたら最高なのですが……。
本の中では妖精さんと友達になることが出来れば、いろいろなお願いを聞いてくれるとありました。
「リリリリ~~♪」
「これって……」
差し出した右手はするりと躱されましたが、無防備にあげた左手の甲に妖精さんが腰掛けたではないですか!
これは、本当に友達になってくれるってことでしょうか!?
え? 何でわかるのかって? なんとなくそう言っている気がするんです!
いや、本当に言葉には発してないけど「いいよー♪」って……。
「リリリリ~~♪」
「え? 契約? 良くわからないですが友達契約ですね! もちろんOKですよ!」
やっぱり私は妖精さんが言ってることがわかるようです。
そこの疑った人! 本当なんですから反省してください!
おっと……話がそれましたね。
「リリリリ~~♪」
私は妖精さんの言う通り、左手の甲を上にして手を水平に伸ばします。
すると妖精さんは一度飛び立ち、くるりと宙を舞うと私の手の甲の上まで飛んできて、そっと口づけをしたのです。
「……え? ひ、光った……」
左の手の甲が光ったかと思うと、なにか可愛い紋章のようなものが見えて、そのまま手の甲に吸い込まれるように消えていったではないですか!
「リリリリ~~♪」
妖精さんも凄く喜んでくれているようで、部屋の中を舞うように飛び回っています。
私も妖精さんと何か絆のようなものが繋がった感覚があります。
まさか御伽噺でしか会えないと思っていた妖精さんと友達になれるなんて! 今日は何て最高の日なのでしょう♪
「そうだ! 妖精さん妖精さん! 私のお願い事を聞いてくれませんか?」
ちょっと友達になったばかりで図々しいかと思いましたが、背に腹は代えられません。
「リリリリ~~♪」
よかった~。妖精さんも喜んできいてくれるそうです。
「実はですね。私の大切な冒険者さんの行方がわからないのです……」
私が事情を話すと、妖精さんは「任せて!」って気持ちを伝えてきました。
どうやら妖精さんは『妖精の眼』というギフトを持っているようで、いつでもそっと気付かれずに思い人の様子を伺うことができるそうです。
残念ながら私が直接覗き見ることはできないようですが、これで四六時中いつでもコウガさんの様子がわかります!
「担当受付嬢たる者、しっかりと状況を把握しておかないといけないですからね!」
これは受付嬢としての責務です! 義務です! 使命です!
うん、とりあえず双子の姉妹と一緒にいないこと……無事なことはわかりました。よかったよかった♪
よし! これからもしっかりと監視していきますよ!
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