第29話:魔界門
持てる技の全てをもって魔族に猛攻をかけるが、相手が守りに徹しているのもあり有効打を出せずに時間だけが過ぎていた。
「くっ!? 【雲海】!」
それに、守りに徹しているといっても隙をすこしでも見せようものなら攻撃に転じてくる。まるで母さんを相手にしているみたいだ。
「ホウ。今のを防ぎマスか。しかし……モウ十分時間を稼げマシた」
「なに? どういうことだ?」
魔獣は逃がさないように牽制しているし、今もこの魔族の後ろにいる。
他にもなにかあるのか。
オレは槍を振るい続けながらも見落としがないか探ってみるが、不審なところは見当たらなかった。
「ハハ。周りを見テモ何もないデスヨ。準備してたノハ私の身体の中ですカラ」
は!? 魔族のお腹の辺りが光っている!?
「な、なんだ!? ……って、気持ち悪いな!?」
なにごとかと警戒していると、お腹辺りが光に沿うようにゴポッと膨らみ、そのまま食道付近を通って口から吐き出されたのだ。
前世で見た蛇が卵を丸呑みする映像を逆回転再生させたような感じだ。
ただし、それをしているのが魔族とはいえ人の姿をしたものがやっているのだ。
す、すごい気持ち悪い……。
「失礼しまシタ。最初は手で持って魔力をコメテタノですが、あなたガ思いのホカ強いモノデスから、飲み込んでお腹で魔力をこめてタノデス」
と言って、今度は吐き出した鈍い光を放つ球体を無造作に後ろに放り投げた。
嫌な予感がしたオレは、なにかが起こる前にその球体を潰そうとしたのだが、ここに来て魔族が攻撃に転じてきた。
「サセませんヨ?」
四本の腕から繰り出す攻撃に防戦一方となり近付くことができない。
「っ!? こっちは武器一本……なんだっ……すこしは手加減……く!? ……して欲しいな!」
結局後手に回ってしまったオレは懐に入り込まれ、こちらの間合いに持っていけないまま時間を稼がれてしまう。
そして……とうとう時間切れのようだ。球体が弾け、巨大な魔法陣が出現してしまった。
「くっ!? これはいったい!?」
怪しげな光を放つ魔法陣を警戒して一旦距離を取ると、魔族はその隙に魔法陣上空へと飛び上がり、突然現れた大きな扉の上へと降り立った。
「なんだこの扉……」
街の門に匹敵する巨大な扉からは禍々しい気配が漏れ出ており、迂闊に近寄るのは憚られた。
「一度コレヲ使って見たかったのデスよ。コレ、魔界門って言うんデスガネ、相手に不足スルことはないと思うノデせいぜい頑張って下サイ。それジャァ、ワタクシはコレで失礼シマス」
あまりの禍々しい気配に気圧され、咄嗟に行動に移すことができない。
「ソうソう。アナタ頑張ったのでワタクシの名前をオ教えしてオキマしょう。魔王軍六魔将のひとり『技巧のアモン』とイイマス。それではマタ会いまショウ。あナタがイキテいればネ」
このままでは逃げられる! いや、それよりも扉が先か!
あの扉は開かせちゃダメだ!
オレは混乱しながらも優先順位を決め、すぐさま行動に移した。
「ちっ!? 黒闇穿天流槍術、【雷鳴】!」
何かが起こる前に扉を壊してやる!
「【鹿威し】!」
使える奥義の中で最も威力の高い【雷鳴】や【鹿威し】を放ってみるが、なにかの呪術により概念的な強化がされているようだ。
「くっ……傷一つつけることが出来ないなんて……!?」
オレは魔族の将だという『技巧のアモン』より、この魔界門の方が危険だと判断して扉の攻撃に専念したというのに無駄に終わってしまった。
こんなことなら魔界門を無視して魔族か魔獣だけでもしとめておけば……。
ジルを従えて自身も力を手に入れられたことで、実力を過信してしまっていたようだ……。
「コウガ! これはいったいなに!? ……にゃ」
「さっきまでこんなの無かった!? ……にゃ」
そうこうしているうちに、リリーとルルーがリルラの魔法治療を終えて戻ってきた。
「ん~と……これは特殊な転移門ですね」
さすが一二〇〇歳の美幼女。
「リルラは魔界門がなにか知ってるのか!」
「知っていると言いいますか、見れば何となくわかりますので。これは何かの呪具や供物を捧げて呼び出した転移門の一種ですね。開いた後に一定時間で役目を終えればまた閉じますが、魔に連なる者が使ったのだとしたら魔物が……」
そこまでリルラが話したところで、ゆっくりと地響きを立てて扉が開き始めてしまった。
「「コウガ! 門が開く! ……にゃ」」
門が開きその中からは……無数の魔物が溢れ出してきた。
現れた魔物の名は『スケルトン』。それが無数に出てきたのだ。
ぼろい剣を持ってるスケルトン。
ぼろい棍棒を持ってるスケルトン。
ぼろい槍を持ってるスケルトン。
ぼろい斧を持ってるスケルトン。
ぼろい短剣を持ってるスケルトン。
ぼろい何かを持っているスケルトン。
ぼろい何かすら持っていないスケルトン。
「「スケルトン一体ずつならそこまで強くないし、手分けすればなんとか……にゃ」」
「「でも、なんて数のスケルトンなの……にゃ」」
うん。リリーとルルーが驚いているところ悪いが、オレはさっきまでの緊張感を返せと言いたい。
なぜなら……こんなのに負ける気が微塵もしない!
「リリーとルルーは下がって休んでて、これぐらいならオレひとりでなんとかなるから」
「うわぁ。何かいっぱい出てきましたね。コウガ様。私は手伝っても良いのでしょうか?」
リルラも余裕なのだろう。
気軽に手伝ってくれると言ってくれている。
だがここは……オレの八つ当たりの場にさせて貰おう。
「リルラ。悪いけど習った魔法の練習がてら、オレに任せてもらってもいいかな?」
オレにも魔法が扱えるというジルの言葉を聞き、居ても立っても居られなくなったオレは、ジルが扱う竜言語魔法というものがいったいどういった魔法なのかをさっそく教えて貰っていた。
しかし、世の中そんな甘い話ばかりではなかった。
どの魔法も尋常じゃない魔力制御を必要とし、簡単なものでも数年単位での練習が必要なことがわかったのだ。
だけど……例外的に三つの魔法だけは、大雑把な魔力制御でも発動できるものがあった。
だからこれだけはすぐに覚えることができた。
この竜言語魔法だけは!
≪我、世界の覇たる竜を従える者として、その理に異を唱える!≫
通常の詠唱とも精霊魔法のような祝詞とも違う、竜に類する者だけが扱える竜言語で、世界の理を覆す。
それが竜言語魔法。
邪竜の加護によって膨大に膨れ上がったオレの魔力をほとんど持っていかれるが、なんとか耐えて最後の力ある言葉を告げる。
≪付き従え! 『竜牙兵』!≫
ありったけの魔力を込めて発動された竜言語魔法は、オレを中心に無数の魔法陣を展開すると三〇体の『竜牙兵』を創り出した。
「わぁぁ! 召喚魔法とはぜんぜん違いますね! やっぱりコウガ様は凄いです~!」
ぶっつけ本番にしては上出来だ。
まさか三〇体もの『竜牙兵』を創り上げることに成功するとは思わなかった。
見た目は骨騎士といった風貌だが、身体は竜の牙で出来ているので骨より圧倒的な硬度を持っており頑丈だ。
その上、動きはとても素早く、一体一体がかなりの強さを誇っている。
この竜言語魔法は『竜の牙』を触媒にして発動するのだが、この触媒に魔力を込めればいいだけなので複雑な魔力操作が必要なく、いきなりオレでも使えたというわけだ。
先ほどリルラが召喚魔法と比べていたが、この魔法は創造魔法に分類され、竜の牙一本で一体の『竜牙兵』を創りだすものなので、呼び出すわけではない。
だから倒されれば触媒ごと砕け散ってしまうのだが、無事に役目を終えればまた牙に戻して再利用可能だ。
ちなみにこの触媒の竜の牙はジルから貰ったものなのだが、ジルは牙が抜けた事がないらしく、貰った牙は下位の竜の物らしい。
と言っても竜には違いないので、とてつもなく貴重なのだが。
ちなみに他に上位竜の牙も二本だけ貰っているのだが、恐ろしく魔力を必要とするので今回は使用を控えた。
今のオレの魔力では、そこそこ強い三〇体か、すごく強い二体かのどちらかしか呼び出せないからな。
さぁ……そろそろ殲滅といこうか。
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