第28話:強すぎないか
「「こ、コウガ!? なぜあなたがここに!?」」
リリーとルルーが双子らしく声をハモらせて驚いている。うん。正直オレも驚いている。
しかし、あれだけ徹底していた「……にゃ」を付けないで話す二人が新鮮で、こんな場面だというのに思わず口に出してしまった。
「へ~、語尾に『……にゃ』付けないで話すこともあるんだな?」
「「なな、何のことですか!? ……にゃ!?」」
なにか「淑女の嗜みが」とか呟いているのが気になるが、どうも魔獣は待ってくれないようだ。
「黒闇穿天流槍術、【雷鳴】!」
雷槍『ヴァジュランダ』で放つ【雷鳴】は、その名の如く雷と化してゲルロスを襲った。
「ギガガガガァ!?」
こちらに迫ろうと駆け出したところでカウンター気味に【雷鳴】を喰らったゲルロスは、一〇メートルほど吹っ飛ぶばされて穿たれた肩から血を流し、倒れて痺れに苦しんでいる。
「アシッドワイバーンでも貫通したのに頑丈なゲルロスだな」
そう呟きふと二人を見ると、目を見開いてリリーとルルーが固まっているのに気付いた。
先日までの雷鳴しか知らないリリーとルルーにしてみれば、まるで別の技のような威力に驚いているのだろう。
「あぁ~あれだ。ちょっと色々あってな。少しばかりパワーアップした」
「ど、どこが少しですか!? なんですか、あの雷は!?」
「そもそもパワーアップって何ですか!? それにさっき炎のブレスをシレッと槍で切り裂いていましたよね!?」
語尾語尾、語尾忘れてるよ……。
「はははは……と、とりあえず後でいろいろ説明するから」
これぐらいで驚いてたらショック死しないだろうか……? 主に伝説の邪竜てきななにかで。
「じゃぁ待ってる間に私が説明しておきますね! コウガ様はササっとそちらの魔獣を!」
いつの間にか ちびっこい巫女がいる……そりゃオレに抱きついてたんだから一緒に転移してきて当然か。
しかしなんだろう? ちょっと嫌な予感がする?
「「え!? 誰この幼女は!? 今、空間から湧いて出ましたよ!?」」
「幼女ではありません! こう見えてもあなたたちより年上ですよ! だいたい一二〇〇歳なんですから、もう立派なレディです!」
一二〇〇歳がレディかどうかは置いておいて、さっそく話がややこしくなった……。
「とりあえずオレがちゃんと後で説明し直すから、今はその子……リルラと一緒に安全な場所に移動して魔法の治療を受けておいてくれ!」
未だ事態を飲み込めていないリリーとルルーはリルラに任せ、オレは立ち上がって此方を睨んでいるこのゲルロスを片付けてしまうとしよう。
◆◇◆◇ ???視点 ◆◇◆◇
隠れて様子を伺っていましたがこの展開は予想外デス。
「これはトッテモ不味い状況デスネ。あの人間ハ完全に想定外デス。S級冒険者とかいう奴デスカネ」
カウロの身体を捨てて元の身体に戻ったワタクシは、ゲルロスが双子を片付け次第、サッサと魔王軍と合流しようと思っていたのデスが、あのモノに魔王様の使い魔が倒されてしまいそうデス。
「このママだとワタクシの首が魔王様に飛ばされそうデス。まぁくっ付ければ良いデスが、痛いのは嫌デスからネ」
ワタクシはそう言えばアレがあったと、その呪具を取り出す。
これは先日同じ魔将の知り合いから賭けで奪った呪具ですが、一度使ってみたかったのですよね。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「黒闇穿天流槍術、【月歩】!」
一気にゲルロスに近付くと、そのまま三段突きを放って怯ませる。
「黒闇穿天流槍術、【鹿威し】!」
雷槍ヴィジュランダを大きく振り上げ、そのまま全ての力を乗せて振り下ろす。
ただそれだけの単純な技にして奥義の一つ。
ただし、その威力は小さなクレーターを作り上げた。
ドゴォン!!
自分でもちょっと驚くほどの威力だ。
しかし、そこにゲルロスの姿は無かった。
はやい!
オレは警戒を一段階ひきあげ、技後の硬直からの反撃を警戒する。
しかし、襲ってきたのはゲルロスではなかった。
まるでこの隙を狙っていたかのようにオレの警戒をすり抜け、顔に迫ってきたのは鈍色の大剣。
「くっ!? なんだ!?」
目一杯背を反らして何とか大剣を避ける。
「おっと、これを避けマスカ」
お返しとばかりに石突きで牽制の突きを放ち、そこから反転させる様に薙ぎ払うがどちらも手応えはなかった。
「誰だ!?」
魔物ではない人の動きに思わず誰何するが、返ってきたのは似たような質問だった。
「ソレこそ私があなたに問いたいデスヨ。あなたいっタイ何者デスか? 人にしてはヤケに強スギまセンカ?」
声の聞こえた方へと視線を向けるとそこには……。
「魔族……」
それは一目見ればわかった。
下顎から突き出た鋭い牙に頭には渦巻き状の二本の角。腕も四本あり、こんな人間もちろん存在しない。
母さんから聞いていたとある魔族の特徴とも一致する。
魔族。それはこの世界の人類共通の敵。
人よりも優れた肉体と豊富な魔力を併せ持つ種族。
強敵だし、滅多に遭遇するような相手ではない。
だが、そういう意味ではもっと邪竜ジルニトラ存在と遭遇したばかりなので、そこまでの驚きは感じていなかった。
それよりもなぜこのタイミングで魔族が襲ってきたのかがオレにとっては謎だった。
後になってこのゲルロスが魔王軍に属する魔獣だと聞いて納得できたが、この時のオレはゲルロスのことを単なる醜い犬の魔獣だと思っていたからな。
「オレは危ない犬がいるって聞いて駆けつけた保健所の者さ」
「ホケンジョとは何デスカネ? よくワカリませんが、どうモ馬鹿にしているようデスネ。とりあえずゲルロスは回収させて頂きマスよ」
「させるとでも?」
さっきの奇襲は一瞬肝が冷えたが、正面から戦うならそこまで分の悪い戦いにはならない気がする。
オレはイタズラを思いついた子供のようにニッと笑うと【月歩】を左右ジグザグに連続発動して魔族に一気に詰め寄ると……。
「はぁっ!」
音速に迫る突きを放ち、二つの大剣で十字受けした魔族を突進力を利用して体勢を崩した。
続いてそのまま薙ぎ払いから突きを放って突き上げ、反転させて袈裟斬りにするのだが……いつの間にか手にした二つの盾で受け流されてしまった。
それならばと今度は一旦距離をとって【雷鳴】を放つと、それを追いかける様に【月歩】で詰め寄り、雷と同時に三段突きから回転させて石突きで顎をカチ上げるように振り上げた。
だけど……その全ての攻撃は、巧みに二つの剣と二つの盾に阻まれてしまった。
つ、強い!
ジルによって上がったステータスそのままでは扱いきれないので抑えてもらっているが、それでもその能力はもはや人のそれを超えている。
その上で母さん仕込みの技や奥義を繰り出したというのに攻めきれなかった。
そもそも雷槍ヴァジュランダで思いっきり突いて貫けない盾というのも予想外だ。すくなくとも同じ神話級か一つ下の伝説級の装備ではないだろうか。
魔族というのはわかっていたが、それこそさっきのコイツの言葉じゃないが強すぎないか?
「これは驚きマシた。強いトハ思ってましたガ、思ってた以上デス」
「いや、それはオレが言おうと思ってたんだけど……」
魔族は手を抜いている感じではないが、どう見てもまだ全力じゃない。
これは中々骨が折れそうだ。
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