第22話:神獣の試練
◆◇◆◇ 引き続き、リリー視点 ◆◇◆◇
いったいどれぐらい気を失っていたのでしょう。
気がつくと手枷をはめられ、どこかの地下牢に閉じ込められてしまっていました。
「ん……!? いったいここは……リリー? え……? あ痛っ!? ぅぅぅ……」
ルルーがようやく気がついたようですが、手枷に気付かずに起きようとしてバランスを崩し、顔面を強打しています。
私にしか見せない双子の妹の素の表情は素晴らしく可愛らしいのですが、残念ながら今はそのようなことを言っている状況ではありません。
「ルルー、どうやらゲウロに嵌められたようです」
「なるほど……まさか今まで優しく接してくれたカウスが裏切るなんて……」
「とにかくここから脱出するために誰かにこの状況を伝えないと」
私たちがこれからどうするかを相談していると、カツカツと誰かが近づく足音が聞こえてきました。
「話の続きはまた後で……」
そう言って話を打ち切って待つこと十数秒。
鉄格子の前に現れたのは、予想外な人たちでした。
「ザザークさん!? え? セドナさんまで!? ……にゃ」
驚きにそれ以上言葉が続きません。
この二人がここにいるという意味……それは裏切り。
これから脱出の助けを求めようと考えていたのが、この犬獣人族と猫獣人族の族長の二人だったのに……。
個々の戦う力こそ他部族に劣る二部族ですが、数が圧倒的に多く、最も発言力の強い部族でもあります。
これは思っていた以上にかなり不味い状況のようです……。
「どうして……あなたたちまで……。ゲウロの口車に乗せられたの? ……にゃ」
ルルーが問いかけるが、二人は気まずそうに目を逸らして俯くばかり。
その時、一番聞きたくない嫌らしい声が聞こえてきました。
「はっはっは。口車に乗せるとか心外ですなぁ。あなたたちが神獣の試練から逃げださないよう、ちょ~っと明日の試練が始まるまでこちらでお過ごしして頂こうと。いやはや、ただそれだけの意図ですよ?」
「「ゲウロ!!」」
私たちは感情が高ぶり、淑女の嗜みである語尾の「にゃ」もつけずに立ち上がって詰め寄ります。
だけど……ゲウロの続く言葉に何もできなくなってしまいました。
「明日、試練に挑んで頂くことは族長会議で決定しました。この意味……わかりますよね? つまり、全族長の総意なのですよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇
眠れない夜が明け、神獣の試練の日。
いくら考えても打つ手は思いつかず、なにも出来ないままとうとう『試練の地』にまで連れてこられてしまいました。
いよいよ覚悟を決めないといけないかもしれません……。
神獣の試練とは、結界で囲われた『試練の地』にある祠で祈りを捧げるだけ……なのですが、そこにはある強力な魔獣が待ち受けているのです。
その魔獣の名は『ゲルロス』。
大昔、私たちの住む森に一匹の魔獣が現れました。
そのゲルロスという魔獣は、二つの頭を持つ大きな狼のような姿をしており、当時世界を恐怖に陥れていた魔王の使い魔だったそうです。
あっという間に三つの部族が滅ぼされた獣人達は、神獣様を祭る祠で救いを求めて祈りを捧げました。
すると我々の祈りが届き、神獣『セツナ』様が顕現されたのです。
しかし……ゲルロスの強さは私たちの想像を超えていました。
守り神である神獣セツナ様の力をお借りしても倒し切れず、苦戦を強いられてしまいます。
長い膠着状態が続き、疲労が嵩んで焦り始めたその時、私の祖先である白き獣の獣人の夫婦が、セツナ様が作り出した隙をつく形で自らの命を贄にした結界を張ったのです。
その結果、ゲルロスを完全に封じ込めることに成功しました。
多大な犠牲は出しましたが事態がようやく収束したのです。
危機が去ったことにみんな歓喜しました。
ただ……その結界が張られた場所が問題でした。
そこは神獣様を祭る祠のある場所であり、その祠には獣人族の力あるものが『神獣の加護』を受けるために必要な祭具などが収められていたからです。
それでも当時の戦いを知る獣人たちは、場所を選んで結界を張るような余裕はなかったのを理解してくれており、仕方がないと許してくれたそうです。
しかし時が経ち、戦いの記憶が薄れていくにしたがって、私たち白き獣の獣人に対する風当たりは強くなっていきました。
私たち白き獣の獣人に連なる者だけが結界の中に自由に入れることも原因の一つでしょう。
試練に挑むことで私たちだけが『神獣の加護』を授かることができるのですから。
しかし今、セツナ様が姿を消されたことで、この地の守りは弱まっています。
そしてここは深き森。
神獣様の守りがなければ周りにいる強力な魔物により、やがて大きな被害が出ることでしょう。
族長たちもそれがわかっているからこそ、神獣に変わってこの地を守る存在を欲し、ゲウロの提案を飲んだのでしょう。
それにゲウロは試練は必ず成功すると言いくるめたようです。
私たちは姉妹。二人いるのだからと。
そしてこれに関してだけはあながち完全に嘘というわけでもありませんでした。
ゲウロの提案してきた作戦は、リリーが囮になりルルーがその間に祠で祈りを捧げて加護を授かるというものでしたから……。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ふぅ……とうとう時が来てしまったようです。
「準備はできましたかな? 獣人の各部族に伝わる秘宝級の武器や装備まで揃えたのです。リリー様ならきっと祈りに必要な時間を稼ぐことが出来るでしょう」
「ゲウロ! 私はこんなことは認めない! リリーを囮になんて絶対に許さない!」
ルルーが先ほどから必死に抗議をしていますが、私はもうここまでくれば覚悟を決めています。
本当は二人でコウガに嫁いで資格を分け与え、三人で協力すれば犠牲を強いずに魔獣を倒せるのではないかと考えていました。
まぁそうでなくても私の……いいえ、私たちの想いはすでにコウガへと向いていました。
せめてもの救いは、条件を飲む代わりにコウガ様宛に手紙を出すことを許して貰えたことでしょうか。想いは伝えられたでしょうし悔いはありません。
「ルルー、よしなさい! 私の覚悟はもう決まっています!」
「リリー! ダメです! 囮になるなら私がなります!」
「残念ですが私の方が少しだけ強いです。囮をするなら私が適任です……にゃ」
ルルーは中々納得してくれませんでしたが、ようやく覚悟を決めて試練に臨むことを承諾してくれました。
「話は纏まりましたかな? 私たちもここで成功することを祈っております。さぁ、どうか試練を乗り越え、加護を手に入れてお戻りください」
カウスが試練にまつわる祭事を終わらせると、振り返ってそう告げました。
その顔に満面の笑みを浮かべて。
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