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34話 ババーン!!!!!


 ということで。


 部下達とルルスの励ましによって自信と自分を取り戻した肥満の騎士団長は、ルルスにふたたび向き直った。


「いいか。まだお前たちの疑惑が解けたわけではないからな」

「そうですよ、団長!」

「その通りです、騎士団長!」

「そうであるぞ! 元気を出さんか!」

「わかったから! うるさいぞ!」


 いまだに部下二人とゴルティナに気を遣われている団長は、やりにくそうに続ける。


「まだ聞いてないことがある。その娘……ゴルティナといったな?」

「我がどうかしたか?」

「ダンジョンで育ったといったが、一体どういうことだ?」

「そ、そそそそそそそそそそそんなことは言っておらぬわ」

「落ち着いて、ゴルティナ。普通に言ったから」

「そうであったか」

「ずっと思ってたが、その子尋問に弱すぎない?」


 最高黄金精霊の、最大の弱点を見破られてしまった。


 しかし、とルルスは思い悩む。


 ゴルティナの正体がバレると色々と極大に面倒なことになってしまうのは確実だが……色々と、もう既にかなり面倒なことになってしまっているのも確か。

 というよりも、これはもはや面倒事を通り越して、大陰謀に巻き込まれつつある。


 一歩間違えれば、長期拘留間違いなしの立場。

 さらに間違えれば、このまま逮捕されて、裁判にかけられてしまってもおかしくない立ち位置だ。


 自分たちの手には負えないかもしれない。

 いや、絶対に負えない領域まで、足を踏み入れてしまった感がある。

 否、巻き込まれつつあるという方が正しいか。

 ここはひとつ……彼らには正直に、話してしまった方が良いか……?


「わかりました」


 ルルスは一息吐き出すと、騎士団長の垂れ気味の目を真っすぐ見つめた。


「正直に話します。このゴルティナは、地下領域で育ったと言いましたね?」

「そう聞いたな。どういう事情なんだ?」

「彼女は実は、精霊なんです」

精霊(スピリット)?」

「だよね、ゴルティナ」

「およ? 正直に話してもよいのか?」

「うん」

「面倒事は、嫌いなのでは?」

「ここまで大事になってしまったら、逆に隠しておく方が後々のためにならないと思う。彼らには正直に話そう」

「わかったぞ! それでは、ピッカピカに申してやろうではないか!」


 バーン! という効果音が出る勢いで、ゴルティナは誇らしげにふんぞり返った。


「我こそは最高黄金精霊(ゴルド・スピリット・プライム)! 前任者(イラクリオン)の後継にして黄金(ゴールド)の顕現! この世のあらゆる金属を照らし従わせる支配者!! 精霊ゴルティナとは我のことであるぞ!」


 ババーン! という効果音が出ていたような気がする勢いで、ゴルティナがそう宣言した。


「…………」

「……」

「……」


 数秒の沈黙があってから、ルルスが口を開く。


「ということなんです」

「いや、全然わからないんだけど?」

「ということで、地下領域で育ったんです」

「いや、何がということでなの?」

「逆に何がわからないのだ?」

「わからないことしかないよ?」


 状況がわからなすぎる太った騎士団長が、理解不能すぎて微妙に幼児退行してしまった。

 彼はふたたび頭を抱え込むと、彼なりの解釈を書類に書き始める。

 彼の表情は憔悴し始めていた。


「ええとつまり……その子は自分のことを精霊だと言い張っている子であって、地下領域出身だと言い張っている子なんだな?」

「そういう解釈でも大丈夫です」


 こっちは正直に話したのだから、どう解釈してもらっても構わない。

 雰囲気から察するに。

 団長のゴルティナを見る目は、重要参考人を見る目から、微妙に可哀そうな子を見る目に変化していた。


「その子とは、いつ頃からの知り合いなの?」


 騎士団長の尋問が、かなりフランクになり始めている。

 彼も彼なりに、疲れているのだろう。

 部下の突発性集団バックステップ事件もあったし。


「わりと数日前です」

「それで、戸籍まで用意してあげたの?」

「しました」

「大変だねえ、君も」

「大変なのは事実です」

「なんか、我の予想していたリアクションと違うんだけどもー?」


 団長は何かを書きつけた書類をパチンと綴じると、それを部下に差し戻した。


「君たちへの質問は……一旦だが、これで以上にしよう。ご苦労」


 そう言って立ち上がった団長は、彼らに視線を振った。

 今度はあくまで厳し気な、警戒心を解かない目だ。


「しかし解放は許可できない。ここでしばらく、待ってもらう」

「まだ疑いは、解けていないということですか?」

「それもあるが。少し、手伝ってもらうことがある」

「手伝うこと?」


 ルルスがそう聞き返すと、団長は部屋から出るために扉を開けさせながら、顔だけで振り返った。


「君はあのアシュラフの、元パーティーメンバーだ」

「追い出されましたがね」

「今回、奴だけは拘束していない。わざと捕え漏らして、泳がせてある」

「アシュラフを、泳がせている? 何故ですか?」

「昇格のその日にこういった事態になった以上。奴は不安がり、あの教王と接触しようとするはずだ。今すぐでなくとも、必ずもう一度接触しようとするだろう。その直前で奴を確保し、癒着の証拠を押さえる。徹底的に尋問して、何らかの自白を引き出す」

「そう上手く、いきますかね?」

「なに。すでに、他の証拠も掴んでいるのだ。あのアシュラフはいつでも拘束できるが、これは駄目押しにすぎん。そして確保の際には……奴の元パーティーメンバーである、君にも協力してもらおうと思っている」

「ぼ、僕ですか?」


 ルルスは思わず、自分のことを指さした。


「その通りだ。最初は君が、あのアシュラフや教王と繋がっているものと思っていたが……違うのかもしれないとも思い始めている。しかしどちらにしろ、奴らの確保には協力してもらうぞ。君は奴のパーティーの行動パターンや、メンバーの情報を詳しく知っているはずだ」

「まあ……知ってはいます」

「奴らの周辺について、洗いざらい話してもらおう。必要であれば、確保のまさにその時にも協力してもらう。まだ疑いが解けたわけではないから、それまでは身柄を拘束させてもらうが。ここで有益な働きをしてくれれば、待遇も考えよう」


 団長は、「どうだね?」とでも言いたげな表情でルルスのことを見つめた。

 どうやら、彼らに協力するほか無さそうだ。


「……わかりました。協力させて頂きます。それで、僕らの疑いが晴れるのであれば」

「よし! わかったぞ! 協力しよう!」


 ゴルティナが元気に言うと、団長は「えっ」という顔をした。


「君も……協力するの?」

「当然であろう?」

「でも君……あのアシュラフとは、多分あんまり関係ないよね?」

「関係ないかもしれぬが、ルルの行くところに我ありであるぞ!」


 ギュッ、とゴルティナがルルスに抱き着いた。


「我の花嫁であるからな!」


 その強固な申し出に、団長が不安気にルルスを見る。

 歩く不安要素だった。


「その子抜きで……できない?」

「不可能だと思います」


 ルルスはあくまで、正直に事実を伝えた。


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本作の(遠い)子孫世代のお話、本日から投稿を始めました!

誰と誰の子孫かは……読んでみると、大体わかるかも!


タイトルは、『法術大戦 ~世界を救って死んだ英雄、復活した世界で再び伝説に~』です!


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