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28話 まだピカピカじゃなーい!!!


 ゾイゼン率いる鎧鍛冶のギルドから頂戴した金貨の山を、全員で山分けした翌朝。


「えーっ!? まだ足りないのであるかぁー!?」


 ベッドの上に座り込んだゴルティナは、大量の金貨に埋もれながらそんなことを叫んだ。


「うん。足りない」

「だって、こんなに金貨があるのだぞぉー!? ピカピカでキラキラだぞぉー!?」

「まあ僕らからしてみれば、大金なのは間違いないんだけど……」


 残念ながら、貴族の爵位を買うレベルの大金ではない。


 もしかすると、潰れかけの弱小貴族の家くらいなら……いや、それにしても滅茶苦茶に足りないだろうと推測される。相場を知っているわけではないが、これくらいのお金で爵位を買えるのであれば、その辺の小金持ちは貴族になりたい放題だ。それだけのお金を払うだけの価値があるかどうかは別として。


「なあんだー。これくらいあれば、ちょちょいと買えると思ったのにのぅ」

「その辺に出かけて買ってくるようなものではないしね」


 露店でゆで卵と一緒に売っているような代物ではない。


「つまり、もっと必要なのか?」

「もっと必要だし、それに……」


 おそらく、お金だけではなく。


 貴族の爵位を買い取るには、最低限の周囲の承認が必要だろうと予想される。


 ただでさえ、金で爵位を買い取るような行為は忌避されがちだ。成金と蔑まれるばかりか、上流階級の閉鎖社会にはなかなか入れてもらえない可能性がある。そしてそれ以前に、何の実績も名も無いような人間がとつぜん大金を積んだからといって、貴族になれるようなものでもない。


 最低限の莫大なお金と、最低限の承認が得られるような大きな実績。


 ゴルティナが希望しているような、毎日美味しいお肉や料理を食べてみんなから尊敬されてピカピカでキラキラな毎日を送る貴族になるためには、最低限その辺りが必要だろうと思われた。というよりも、ピカピカキラキラな感じの貴族になりたいという希望自体が漠然としすぎていて、最早よくわからないわけではあるが。


「実績って、どうやったら付けられるのだぁー?」

「僕たちの最短なら……やっぱり、Aランクパーティー?」


 他にも色々とあるだろうが、力はあってもコネは無いルルスとゴルティナ二人組。


 ある程度パワーでゴリ押しできるその辺が最短に思える。


「うぬー。遠いー」

「とりあえず、冒険者ギルドでもいってみる?」

「行ってどうするのだー。また薬草でも狩るのかー?」

「薬草でも狩りながら、また別の装飾品を作ろうよ」

「またであるかー。またみんなでよいしょよいしょって、鎧をガチャガチャ運ぶのかー?」

「あんまり『究極の闇』のみんなに手伝ってもらうのは悪いから……今度はネックレスとか? それなら二人でもいけそう」

「うぬぬー。金貨でたくさんピカピカできるのはよいが、何だか果てしない作業に思えてきたなぁー」


 寝転がってゴロゴロと転がりながら、ゴルティナは唸っている。


「なんか嫌であるなーこの感じ。好きなことを仕事にしてしまうのは、あんまり良くないのかもしれぬなー」

「他にも、良いクエストがちょうどあったりしたらさ。ピカピカっと活躍できるかもしれないじゃん」


 ん。


 ルルスは思わず、パッと手で口を塞いだ。

 いつの間にか、口癖が移っている。



 ◆◆◆◆◆◆



 冒険者ギルドに足を運ぶと、何やら催しが行われているようだった。


 ギルド加盟員が総動員とは言わずとも、そこには大勢の冒険者や各ギルドの幹部、伝達員に教会の説教師の姿なども見える。そんな大勢に囲まれる中には、あのアシュラフが立っていた。


「うん? アシュラフ……?」


 ゴルティナと一緒に何の気なしにやって来たルルスは、人混みの外側からつま先立ちで立って、その様子を眺めてみる。背の低いゴルティナは、その中心で何が起きているのか見えないようだ。


「どうしたのだ? ちょっと背を伸ばしてもよいか?」

「いや、背って必要に応じて伸びなくない?」

「金属でグイーンって」

「ハイヒールみたいに?」

「そうそれ」

「みんなビックリしちゃうからやめておこう」

「じゃあやめておこう」


 彼女はこの短期間の間に、むやみやたらに人をビックリさせると良くないということを学んでくれていた。これは非常に意味のある成長である。


 誇らしげな表情で立つアシュラフは、ギルドの幹部から何やら証書を受け取っていた。

 その幹部は彼の肩をポンと叩くと、にこやかに皆の方へと振り返る。


「我々冒険者ギルドは、このアシュラフ・ヒルデスリーをAランクの冒険者パーティーの長として承認する。これは彼の実績と、そのさらなる活躍に期待を込めるものである」


 それを聞いて、アシュラフは受け取った証書をみなに見えるように開いた。

 遠目からではわからないが、それはギルド公認のAランクパーティーとしての証明であるようだ。

 数秒その証書をみなに見せてから、アシュラフは口を開く。


「本日はこれだけの人々にお集まり頂いて、光栄です。若輩者ではありますが、このアシュラフ。冒険者ギルドの新鋭として、より一層! この都市と国家のために活躍できればと思っております」


 言い終わった瞬間、アシュラフは群衆の外側に立つ、ルルスの視線に気付いたようだった。

 彼は一瞬だけルルスの顔を見止めると、憎らし気にウィンクを返して視線を逸らす。


「…………」

「エーランクパーティーって聞こえたぞー?」

「……新しく、公認パーティーが昇格したのさ」

「そうなのか。我々も頑張らねばならぬな! もっとピカピカになって、もっとキラキラに活躍してくれるぞ!」

「……そうだね」


 ルルスはそう返しながら、自分が一体どういう気持ちでいるのか、わからなくなった。


 嫉妬、憎悪、羨望……いや、そのどれとも違う。

 ルルスの心中にある一番大きな感情は、違和感と疑問だった。


 アシュラフが、Aランクパーティーの長に?


 たしかに彼はBランクだったし、実績と勢いのある若手冒険者だったが……こんなに早く?

 そもそも。

 Bランクはそこそこの数が居るのだが、Aランクになるとその数が激減し、少ない時では指数本で数えられるほど希少な存在になる。それは冒険者ギルド側が、Aランクという最上級パーティーの信用と質を保持するために、数を絞って承認を極めて厳しくしているからだ。


 通常は、いくら実績のあるBランクパーティーと言えども……こんなに早くは昇格しない。実力派のパーティーとして継続的に功績を打ち立てながら、周囲からも実力や実績を認められて認知され、昇格はいつかと何年も焦らされて焦らされた末に、何かの決定的な大業績と共にやっと昇格する類のものなのだが。


 つまりは「彼らにはAランクとしての実力があるかもしれない」と周囲に広く認知された上で、それが「彼らがAランクじゃないのはおかしい」という確信と期待まで高まった末に、誰もが認めざるを得ないようなタイミングで承認されるものなのだ。

 長年Aランクへの昇格を切望されながらも、その中途で大失態をやらかしてしまい、永遠に承認の芽を摘まれてしまった者たちだっていくらでも存在する。それくらい厳しい物なのだ。


 だからこその最上級パーティー。


 疑問の余地が挟まれぬ強者共。

 冒険者ギルドが擁する最高戦力にして広告塔。

 ギルドの運営にすら意思決定権を持つ、選ばれし者たち。


 それこそが、すべての冒険者たちの憧れであり絶対的成功者である、Aランクパーティーたる由縁なのだが……。


 ルルスがそんな疑念を抱いていると、周囲からもその声が聞こえて来た。


「最年少での昇格じゃないか?」

「こんなに早くなんて、ありえるのか?」

「なにか意図があるんだろ」

「まだ公開されてない実績とかがあるのかもな」

「…………」


 ルルスが押し黙っていると、アシュラフは大勢の人に囲まれながら、その一人一人と挨拶を交わし始めた。各ギルドの長たちと面識を深め、一般には募集されない極秘のクエストなどを依頼されるためのコネ作りをしているのだ。


 そんな慌ただしいギルドの待合室で、いきなり扉がバンと開かれた。


 開かれたのは、地下領域(ダンジョン)への侵入口に繋がる通路の扉。


 出てきたのは、侵入口を管理する大柄な守衛と受付嬢。


「大変です!」

「た、大変です! えらいことになりました!」


 受付嬢と守衛が、次々に口を開く。


「ダンジョンの侵入口が、ボスモンスターとその群れに突破されました!」

「こちらに向かってます!」


急に自炊が面倒くさくなってしまう現象、名前を付けたい。


ブックマークは、きちんと食材を買い溜めてから!

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