6.母娘と父息子

　ジョージは青と別れた後自分のペントハウスに戻ると広々とした窓辺でアルコールが入ったグラスを持ち、いつもならその自慢の夜景を堪能するはずが今日はそれを見ながら悪態を吐いた。

「なんであいつは俺が心配していることがわからないんだ。ここは平和な国じゃないんだぞ。くそっ。」

　ジョージが悪態を吐いて酒を乱暴に煽ると傍のテーブルに置いてあったカードが振動した。

　画面を見ると息子からのようだ。

　ムスッとした顔で画面をタッチした。

「なんだ？」

　不機嫌な声で出れば息子はさっきのやり取りを見てきたような様子で彼の状態を的確に言い当てた。

「その様子からして振られたんじゃない？」

「何の話をしてるんだ？」

　しらばっくれたが未だに通話の向こう側では笑い声が響いていた。

「そうか、やっぱり振られたんだ。」

「何を訳のわからないことをいいながら笑ってるんだ。いいからこっちに連絡してきた理由を話せ。」

「うーん、あんまり嬉しくない話なんだけどこっちでテロが起こったんだ。それで行こうって思ってた場所が閉鎖されたんで予定より早く切り上げてそっちに戻るってことにした。」

「そこでテロだと大丈夫なのか？」

「ああ、泊ってる所は大丈夫だけど観光するのはちょっと無理そうなんで今回は早めに戻るよ。」

「わかった。迎えはどうする？」

「うーん、問題なければお願いしたいかな。」

「すぐに手配しよう。」

「助かるよ。じゃ。」

　そこで通話は切れた。

　ジョージは明日青に話しかけるきっかけが出来てホッとした気持ちになった。

　なんでホッとしなけりゃいけなんだ。

　俺は何を考えている？

　ジョージは自分の気持ちに蓋をすると強い酒を何杯も一気に飲み干すと倒れるようにベッドに入った。

　眩しい光が窓越しに広い部屋に差し込んで来た。

　光はほとんど家具が置かれていないベッド上にも容赦なく降り注いだ。ジョージは強い酒を飲んだせいでムカムカした気持ちのまま呻き声をあげた。

　久しぶりに嫌な飲み方をしたせいで気分は最悪だ。

　気合を入れて寝返りを打つと眩しい光がまともに目に入って慌てて体を動かすと今度は激しい頭痛でうめき声をあげることになった。

「くそっ、久々に飲み過ぎた。」

　重い体を起こすと洗面所に向かった。

　顔を洗ってシャワーを浴びた後戸棚を開けた。

　小さな茶色の小瓶を手に取ると蓋を開けた。

　物凄い匂いが周囲に広がった。

　自業自得で文句も言えないな。

　自嘲気味にそう呟いた後ジョージは薬を煽った。

　薬を飲んだ後も何も食べる気になれず、栄養剤の瓶の蓋を開けるとそれを飲み込んだ。

　何とも言えない気持ちが残ったまま取り敢えず着替えると昨日の件を伝える為、青が泊まっているホテルに向かった。

　まだ朝早い時間だったので道路が空いていて思ったより早くホテルに着いた。カウンターから青の部屋に電話を掛けようと歩いて行くとちょうどそこに部屋から降りて来た青と出くわした。

　彼女に声を掛けようと歩き出すとそれより早く何でか彼の秘書である高梨が彼女に駆け寄って行った。

　なんであいつがここにいる。

　ムッとした表情でいると青がジョージに気がついてこっちにやって来た。

「おはようございます。どうかしたんですか？」

「社長、なんでこちらに？」

「朝食に行くぞ。」

　ジョージは無言で歩き出した。

　固まっている二人にジョージは食べたのかと聞くと二人とも黙ってついて来た。

　ホテルのラウンジに向かうと気を利かせたウエイターが個室を用意してくれた。

「あのー、赤たちに何かあったんでしょうか？」

　青が不安そうな顔でジョージに聞いて来た。

　ジョージが直接ホテルに来たので何か重要なことが起こったと思ったようだ。

　俺がたんに会いに来たとか考えないのか？

　最初の思いはどこへやら、自分の秘書である高梨に嫉妬していることに気がつかないままジョージは赤たちが向かった先でテロが起こり、急遽予定を早めてこっちに帰ってくれることを伝えた。

「良かった。あの子たちに何かあったのかと思って・・・。」

　ジョージの言い方に涙ぐんだ青を隣にいた秘書の高梨がハンカチをサッと出して慰めている。

　いつからお前らそんなに仲良くなったんだ。

「社長、言い方が少し紛らわしいです。」

　秘書の高梨から苦情が来たがお前の知ったことかという思いにジョージはそのままの彼の意見は無視した。

　だか今の状況は自分の方が二人を邪魔しているようだ。

　邪魔なのは親族ではないお前の方だ。

　思わず口に出しそうになり慌ててウエイターを呼び止めるとコーヒーを持ってくるように言う。

　アツアツのコーヒーを飲んでやっと落ち着いたところに秘書の胸ポケットに入っている電話が鳴った。

　彼は席を外すと通路に出て何か話している。

　やっと青と二人きりだ。

　ジョージは機嫌よく青の好みを聞くと料理を注文した。

　注文した料理がそろってやっと食べようとしたところで秘書が戻って来てジョージに耳打ちした。

　取引相手が急に来訪しジョージに会いたいと言ってきているらしい。

　そう言えば青に言い寄られないようにそんな用事を入れていたんだっけ。ジョージは席を立つと目の前に座っている秘書を伴なってその場を離れた。彼は今日休暇なのになんで仕事をしなければならないのかとブツブツ文句を言っていたがお前をここに置いておくと青に迫られそうで嫌だったジョージは社長権限で彼の文句を封じるとそのまま引きずっていった。

　残された青は大量の料理を前に途方に暮れた。

　いくらなんでもこれを私一人で食べるのは無理なんですけど、どうしょう。

　途方に暮れながら青はテーブルに置かれた料理の数々を見つめた。