4.約束通り?
ジョージは呆然とした状態でシティーカーに乗って去って行った赤の母親を見送っていた。
ここ暫くいや今始めて女性と言われる人物からほとんど興味を示されず、むしろ無視されるようにして去って行かれた。
あまりの事態に何をしていいのかまったく考えられず彼は思考停止に陥っていた。
最初はジョーがいなくなってきっとベタベタと迫られるだろうと身構えていたのだが赤の母親は娘を見送った後ジョーの父親であるジョージにはそれ以上興味をしめさず、会話もほとんどないまま建物を出てそのまま車に乗って去って行った。
何か用事でもあったのだろうか?
きっと仕事好きな黒の国の人間のことだ。
これからホテルに戻って仕事でもするのだろう。
そう言えば明日は何時に迎えに行けばいいんだろうか?
一応、息子にも頼まれているし行きたいところは確か有名どころの美術館だったか。
それなら美術館が始まる前にホテルに行ってカウンターで連絡してもらえば問題ないだろう。
ジョージがそこまで考えた所で秘書のキャサリンがやって来た。
一応、義娘の母親に迫られた時も考えて彼女を呼んでホテルまで一緒に送って行こうとしたが結局それも今回は必要なかったようだ。
キャサリンはジョージの周囲をキョロキョロと見てからどうしますかと聞いてきた。
俺だってどうしたらいいかわからんよ。
一瞬、そう思ったがある意味、秘書である彼女を休みの日に呼び出してしまっていたので仕方なく労うために彼女を食事に連れ出した。
なんだが本末転倒な気もしないでもなかったがとても嬉しそうにしている秘書を連れて高級レストランに向かった。
「社長、この食事は舌が蕩けそうですね。それにこっちは、・・・」
ジョージはその日、隣で色々としゃべりまくるキャサリンの話に適当に相槌を打ちながら何でか心の中は先程シティーカーで去って行った赤の母親でいっぱいだった。
考えても考えても、彼女のあの行動の意味が理解出来なかった。
食事の後、秘書を送ってから豪邸に戻って休み、朝食の時間も考えて翌日は少し早めにホテルに迎えに行った。
フロントで彼女を呼び出して貰おうとすると本人はすでに美術館に向かったと言われた。
「なんだと、もう行ったのか?」
「はい、ご伝言を承っております。」
フロントでメッセージカードを受け取った。
そこには”フロントで行きたい場所までカードに記録して貰ったのでガイドはなくても大丈夫です。”と書かれていた。
俺が必要ないだと!
言葉も話せないのに本当に大丈夫なのか?
ジョージはプライベート情報だからと渋るフロントの人間に支配人を呼び出すように言うとこの会社のオーナー権限で赤の母親が向かった場所を調べさせ、慌てて乗って来た車に戻った。
車には昨日の女性秘書が乗っていて彼を待っていた。
今回も一応、迫られた時を考えて同乗させたのだがこれでは何のために来てもらったのかわからない。
一人で出てきたジョージを見て彼女は怪訝な顔をした。
ジョージはそんな秘書の様子を無視するともう一人の男性秘書に赤の母親が向かった美術館に行くよう指示を出した。
「畏まりました。」
すぐに車が美術館に向かって走り出した。
すぐに美術館が見えてきたがまだ開館していないので建物前はがらんとしていた。
どこに行った。
ジョージがイライラしながら周囲を見ていると車を止めて戻ってきた秘書に公園ではないかと言われた。
「なんでそう思うんだ?」
「ここの公園では開館前にアイスクリームを買って待つの見学者が多いんです。それにかなり美味しいと評判ですので間違いありません。」
やけに自信たっぷりに言う秘書の言葉にジョージが公園に向かうと果たして彼が捜していた女性は確かに公園でアイスクリームを食べていた。
それはもう美味しそうな顔で食べている。
ジョージはホッとして息を吐き出すと彼女に声をかけた。
「なんで先に行ったんだ?」
「えっ?」
目線を上げた彼女がジョージを見てキョトンとした顔をした。
もしかして憶えていないのか?
ジョージは自分は憶えているのに相手が全くこっちを憶えていない彼女にもう一度自己紹介をした。その自己紹介自体が腹正しかったがアイスクリームを食べ終わった彼女の手を引いて美術館の入り口に向かった。
ジョージがチケットを買うように先程の男性秘書に声をかけると彼女は何を思ったのか美術館内の案内は入らないからとまた言い出した。
なんなんだこの女は。
俺がせっかく案内してやろうとしているのに。
彼女の言葉に秘書の高梨が困ったような顔でジョージを見た。
そこに車で待っていた女性秘書のリリアーナが現れた。
ジョージの隣にいる彼女に気がついて近づいてくるとサッと自己紹介を始めた。
「初めましてジョージ様の秘書をしておりますリリアーナです。」
秘書のあいさつに片言の発音で彼女は答えていた。
「アオといいますぅー。」
「高梨です。」
男性秘書の高梨が彼女の惑星の言葉で話すとパッと笑顔になった彼女がそこにいた。
そのうち高梨と彼女は美術館所蔵の絵画の話で盛り上がる。
「もしよろしければ、私がご案内致しましょうか?」
おい、なんでそんな話になるんだ。
いや、あまりにも迫ってくるなら高梨に割り振ろうとしていたがあくまでそれは迫ってくるならであって俺だって一応息子に頼まれた責任がある。
案内するなら俺がする。
そうジョージが言いおうと口を開く前に高梨の提案を青の方が断っていた。
「いえ、けっこうです。人が隣にいるとなんだかゆっくり鑑賞出来ないんで。」
ある意味ザマーミロと心の中で思っていると高梨は何を思ったのか彼女にスッとカードを差し出した。
「終わりました頃、こちらにご連絡いただければ車を回しますので。」
青は嬉しそうに頬を緩めると頷いてそれを手に取った。
彼女はいつの間にか高梨が手配していたチケットを受け取ると美術館の中に消えた。
おい、俺の存在はなんなんだ。
思わずムスッとしていると秘書が不思議そうな顔で彼女の後姿を見ていた。
「変わった人ですね。」
それは俺が言いたいことだ。
結局、三人は高梨の案内で近くのレストランの個室に向かってそこで食事をすることにした。
二人っきりでの食事ではないとは言え、昨日に引き続きなんで俺は今日も秘書とこんな所で食事をしているんだ。
ジョージは機嫌よくしゃべる女性秘書の話を聞きながら美術館で鑑賞中の青を思い浮かべていた。




