3.約束通り
二人を乗せたエレベータが最上階ついて扉が開くと黒い執事服を着た人物が二人を出迎えてくれた。
「赤は来てる?」
ジョーの問いに執事が頷くと先程からお待ちになっておられますと答えた。
彼が隣を歩いていた父親を見てどうだと言う顔でニヤリと笑った。
「どれくらい前から待っているんだ?」
彼がそう言うと時間の5分前には来ていたと答えた。
珍しい女もいるもんだと呟いて長々とした通路を歩いて式場に足を踏み入れた。
式場にはすでに民族衣装である豪華な着物を着た女性と黒い家紋がついた着物をきた中年の女性がそこに立っていた。
「赤!」
ジョーは花嫁となる女性に走り寄った。
「遅かったわね。着飾っていたの?」
赤は不満そうに頬を膨らませた。
「ああ、待ち遠しくて。昨日は寝られなかったからな。」
赤は嬉しそうに頬を染めるとジョーを見つめた。
自然とお互いの顔が近くなっていく途中に隣から待ったがかかった。
「それは式が終わった後にしなさい、赤。あちらで人が待っているわ。」
赤の母親である青がそう言うとジョーの父が彼女の隣でムッとした顔をした。
赤はそれには気がつかず、母親の言葉にハッとすると慌ててジョーから顔を離した。
ジョーも真っ赤になった彼女から顔を離すとその代わりに腕を差し出した。
二人は頷き合って祭壇に向かった。
式は神官の前で書類に署名をしてすぐに終わった。
書類は30分で処理され晴れて二人は夫婦になれる。
四人は一旦、最上階の式場を出るとレストランに向かった。
受理される間の待ち時間でお互いの家族を紹介し空腹を満たすためだ。
すぐに四人は下の階に移動した。
そこには四人用の食事が載った個室のテーブルがすでに用意されていた。
赤の母親は席に着くと目の前に座った娘を眩しそうな顔で見るとお祝いを述べた。
「おめでとう、赤。」
赤は目線を母親に向けるとありがとうと短く返事をした。
二人の様子を隣で見ていたジョーが自分の父親を紹介した。
「初めまして赤の母の青です。」
青は右手を差し出した。
「ジョーの父のジョージです。宜しく。」
ジョージは抱き締めようとした手を慌てて止め、右手を差し出すと彼女と握手した。
父のその動作に気がついたジョーが面白そうに隣でその様子を見ていた。
青はそんな二人に気がつかずに主役の赤たちを見ると時間を気にして声をかけた。
「まだ時間は大丈夫なの?」
赤は母の心配そうな顔を見てコーヒーを置いた。
「ママ、ここは黄の国なのよ。ママがいつもいる黒の国とは違って結構時間にはルーズだから大丈夫よ。それに今回はジョーが乗り物を貸し切ってくれたからそこは心配しないで。」
「そうだったわね。」
赤がそう話し終えた時にちょうど書類を持った人物がやって来た。
「お待たせしました。おめでとうございます。」
黒い執事服を着た男がそう言って書類を二人に渡した。
四人で書類を確認した所でちょうど二人が新婚旅行で乗る乗り物が建物の屋上に到着したようで違う黒服を来た執事が二人を呼びに来た。
四人は席を立つと屋上に向かった。
屋上には透明なシールドに覆われたドームがあってそこに流線型をした少人数乗りの宇宙艇が停まっていた。
宇宙艇からジョーの友人で今回の飛行パイロットの男が二人を出迎えた。
「よっ、早かったな。」
ジョーは肩を竦めて男と手を打ちあわせると赤をエスコートして宇宙艇の中に消えた。
赤が窓から手を振っている。
青は赤に手を振ってから離発着場から建物の中に入った。
透明なシールドが開いて宇宙艇が飛び立った。
通路にあるマイクから娘の声が聞こえた。
「じゃ、ママ。行ってくるわね。」
「気を付けてね。」
青はそれだけ言うと黙って離れていく宇宙艇を見送った。
一瞬涙が込み上げそうになりそれを気合で押しとどめると、隣にいる男性に会釈をして歩き出した。
二人でエレベーターを降りて建物の外に出ると青はそのまま外に停まっていたシティーカーに手を伸ばした。
一応、ジョーの父親に会釈してそれに乗り込む。
なんでかそれを見ていた彼の父親は始終怪訝な顔だったが青はそれを無視してそのまま自分が泊まっているホテルに向かった。
この国の車のいいところは乗っている乗り物に自分が泊まっているホテルのカードを翳せば、そのホテルまで無料で送って貰えることだ。
明日もホテルのカウンターで行きたいところを書いて置いて、それをカウンターで入力してもらえばその場所までは簡単に行けるだろう。
まっ、チケット買うのは大変そうだけどそれも身振り手振りで何とかなる。
青はそう思うと外に景色に目を向けた。




