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【連載版】「すまない」で済まされた令嬢の数奇な運命【電子書籍化】  作者: 玉響なつめ
第二章 モーリス・モルトニア

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19

 アナの二度目の婚約解消は、すぐに知れ渡った。

 王子の婚約者として公表されたジュディスの兄が足繁く学園に通い、アナと共に過ごしていたことを知っている人が多かったからだ。


 しかし、モルトニア侯爵家からアナに落ち度は何一つないこと、侯爵家の一方的な問題での解消であると非を認める発言が行われたことで彼女の名誉は傷つかなかった。


 ――表向きは。


 実際に、アナとモーリスの関係は両家合意の元でモルトニア侯爵家が全面的に悪いと認めた解消である。

 アナ個人に落ち度はなかったし、モーリスの隣に新しい恋人の姿があることから何があったのかを察する人も少なくないはずだ。


 しかし、この短い期間に二度も婚約解消されたという経歴は、アナ個人を酷く傷つけるものであった。

 彼女個人をよく知らない人間からすれば、被害者だという話を耳にしても、噂はどうしたって止められるものではなかった。


『いくら彼女が礼儀を守っていたんだとしても、二度も婚約者がほかの女性に目移りしたのは事実なんでしょう?』


『ってことは、彼女自身に女性としての魅力がないのかしら。見た目は可愛らしいのに』


『付き合ってみないとわからないことってあるだろうしなあ』


 喩え二度の婚約解消が、相手の責任であったとしても。

 そうなる理由が、彼女にも何かしらあったのではないか?


(……もう、王都にいない方がいいのかしら。でも、きっと今後は結婚だって望めないに違いないわ……それなら進学して、少しでも就職に有利になるよう学ぶべきなのか)


 ジュディスは兄の行動にとても腹を立てており、彼女は三年で卒業した後に王子妃となるべく王城に上がるのでその際アナを侍女として連れて行ってもいいと言ってくれた。

 それに甘えてもいいだろうかと思うが、それはそれでモルトニア侯爵家の罪悪感につけいった行為だと後ろ指をさされるのではないかとアナは困っている。


 実際、ジュディスの申し出はありがたいが、その申し出だって彼女が申し訳ないと思っているからこその話だ。

 ジュディスが王城に上がる際にはモルトニア侯爵家の中でも選りすぐりの侍女たちと、そして王城では王子が選別したという侍女たちが仕えることになっていることを考えればアナは異質な存在に違いない。


 かといって領地に戻って仕事をするならば、今後独り身でも十分に生きていけるよう、家族に迷惑をかけないだけの何か技術を手に入れたいとも思うのだ。


 二度の婚約解消は、年頃の女性としてどうあったって悪い経歴にしかならない。

 良くてどこかの後妻か、あるいは問題有りの家かになってしまうことは誰の目にも明白だ。


 アナだって自分が悪いとは思わない。

 いいや、婚約者として足りないことはあったのかもしれないと思うが、それでもアナ自身でどうにかできる範疇の話ではなかったと思うからこそ、そんな未来はごめんだった。


 モルトニア侯爵家からは謝罪と共に代わり(・・・)の縁談も用意すると言われたが、それはそれで悔しいではないか。あまりにも惨めではないか。

 勿論、それが善意の申し出であり、きっと良縁であることはアナにだって分かっている。


 だが彼女は年頃の少女でもあるのだ。

 恋に夢見るほど幼くはないが、それでも淡い恋心が砕けたばかりの、多感な年頃の少女であったのだ。


(……くたびれた顔をしているわ)


 静かな図書館の窓ガラスに映る自分の顔を、アナはぼんやりと眺める。

 その姿を、ジュディスとヨハンが泣きそうな顔で見ていることを彼女は知らなかった。


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