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コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~  作者: 北乃ゆうひ
Fail.5:潔癖汚染 - ブリーチング・マリスエル -

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その後 2


 桜谷駅前 ドールトール・カフェ。


「この度はご迷惑おかけしました」

「散々謝ってもらったから、もう良いって」


 打ち合わせ前に、鷸府田(シギフダ) 祀璃(マツリ)が頭を下げると、眼鏡を掛けた女性――小説家の草薙(クサナギ)先生は苦笑して手を振った。


「でも、家の片付けまで手伝って貰ってしまって……」

「乗りかかった船だよ。事件解決とはいえ、罰と言うにはだいぶしんどい羞恥刑くらってたんだし、それでいいんじゃない?」


 羞恥刑という言葉に、自分に何があったのかを思い出して祀璃は俯きながらも顔を真っ赤にした。


「そういえばアリカちゃんだっけ? 身体張って君を助けてくれた子。退院したの?」

「あ、はい。記憶もほとんど回復して退院されたと聞きました」

「ほとんど、か」

「どうにもケッペキ様と戦ってた辺りのコトだけは回復しなかったみたいです」


 祀璃の言葉に、草薙先生は少し思案すると、自分なりの結論を出してうなずく。


「消し飛ばされて修復してを繰り返してたみたいだし、そもそも戦闘時のコトを正しく記憶されてなかったんだろうね」


 そこ以外に問題がないなら良いか――と、草薙先生は小さく嘆息すると、アイスコーヒーを一口含んだ。


「あの……草薙先生はオカルトに詳しいみたいなので、聞いてもいいですか?」

「何をかな?」

「結局、ケッペキ様って何だったんですか?」


 祀璃の問いに、草薙先生が何か考えるようにしながら、自分の口元に手を伸ばす。

 ただそこに何もなかったからか、所在なさげに下唇だけ撫でて、手をアイスコーヒーへと向ける。


 確か彼女はヘビースモーカーだったはずだ。

 考え事のクセかなにかで、タバコを求めて口元に手を伸ばしたのかもしれない。


「答える前に、先に聞いてもいいかな?」


 祀璃がうなずくと、草薙先生は気楽な調子で訊ねてくる。


「君は何だと思った?」

「……わかりません。天使のような姿をした天使では無いモノ……だとは思うのですけど」

「うん。あれを天使ではない何かと認識できてるなら、良い傾向だな」


 そう言って、草薙先生はアイスコーヒーをグビリと一口飲んだ。


「アリカちゃんのところの上司さんと少し話はしたんだ。そしてある程度の結論はでている。もっとも、これはあたしと探偵さんの推理によるモノでしかないけどね」


 草薙先生はそう前置く。

 それに祀璃はうなずいて先を促す。


「あれは穢れの一種だよ。本来はスライムやアメーバ、あるいは霧のように形の乏しい、人格もチカラもない(ケガ)れ。それがケッペキ様の正体だ」

「え? でも、ケッペキ様は間違いなく形を持ってた危険な存在でしたよね?」

「そうだね。その通り。それでも本来はレベル1の村人でも倒せるような穢れだったのは間違いないと思うよ。

 ただケッペキ様はいくつかの要因が重なりカイザーとがグランドとか、そういう枕が付くような存在へと進化していたんだよ。こうなるとレベル1じゃあ太刀打ちが出来なくなる」

「要因、ですか?」

「ああ」


 草薙先生はうなずくと、タバコでも吸っているかのように人差し指と中指の隙間を口に当てた。


「大前提としての話をするんだけどさ。穢れって何だと思う?」

「え?」


 あまり予想をしていなかった問いに、祀璃は目を(しばたた)く。

 その様子を見た草薙先生は、敢えて祀璃の答えを待たずに口を開いた。


「今回の事件には二つの穢れが存在しているんだよ。

 一つは、不浄そのもの。分かりやすい汚れやゴミもそうだし、それだけでなく、性欲やら強欲やらの七つの大罪的だったり百八個あったりする的な煩悩の類い。あるいはそれらによって傷つけられた過去の汚点その他諸々のコト。

 もう一つは、穢れと呼ばれる悪霊とか妖怪とかそういう類いの怪異のコト」


 ここまで良い――と問われて、祀璃は首肯する。


「二つの穢れは別物だけど、決して無関係なワケじゃあないんだ」

「えっと、欲望が強すぎれば怪異としての穢れが現れるとか、そういう話ですか?」

「そう。そんな感じ」


 草薙先生に肯定はされるものの、祀璃はピンと来ないので首を傾げる。


「でもそれらってケッペキ様と真逆じゃないですか?

 ケッペキ様って、確かに汚れを誤魔化してはいたけど、基本的には綺麗好きな怪異だったように思えるんですけど」

「うん。その感想は間違っていないよ。あれは綺麗好きな怪異(穢れ)だったからね」

「???」


 まるで存在が矛盾しているようだ。

 先生が何を言いたいのか分からず、祀璃は疑問符を浮かべている。


「物質的な穢れ、あるいは精神的な穢れ。それらは怪異的な穢れを呼ぶ。

 でも基本的に寄ってくる怪異的な穢れはレベル1どころかレベル0のような存在なんだよ。それらは悪さするチカラはないし、現実に干渉する能力も基本的に持たない。霧や霞のような存在だ」

「それってケッペキ様の元の存在と同じようなモノですか?」

「その通り。人間は基本的に、そういうレベル0の穢れと共存しているのさ。

 三大欲求はもちろん、七つの大罪だとか百八の煩悩だとか、そういうモノを抱いている限り、それは防ぐコトのできない事実だ」

「でもレベル0だから悪さはしないので、つきまとわれているだけ……みたいな感じなんですよね」

「イエス。そして穢れは人間だけでなく部屋にもやってきて住み着いたりする。

 片付いてない部屋ほど穢れは寄りやすいが、部屋の模様やインテリアの配置、なんなら住んでるヤツの影響で穢れが寄ってくるから、大なり小なり穢れは住み着く。むしろ住んでない部屋はまず無い」


 話を聞きながら、祀璃はぼんやりとケッペキ様について分かってきた気がする。

 それでも、答えが分かったワケではないので、少し温くなってきたホットコーヒーを啜ってから、草薙先生に話の先を促した。


「そして、穢れはナワバリ意識みたいなのが強い。

 例えばアダルトグッズをコレクションしているような部屋に住み着く穢れは、エロいコトの好きな穢れだ。だから、ケッペキ様みたいな穢れを追い出そうとする」

「まぁ対極みたいな存在ですからね」

「同じ属性の穢れが集まればレベルが上がる危険性はあるけど、一方でコレクションを丁寧に扱い常に家やコレクションルームを清潔に保ってるとなると、そこにケッペキ様的な穢れが入り込む余地ができる」

「もしかして、本来はそうやって複数のレベル0の穢れがナワバリ争いをしているから、わたしたちは何も知らないまま生活できてるんですか?」

「正解。あたしらの趣味や趣向、主義思想、自宅の使い方。そういうのが複雑に絡み合ってるから、レベルの穢れ0同士がケンカし、結果として健全な生活が保たれてるワケだ。

 あるいは、一部の強い穢れすらも追い返してくれるコトがある。邪魔者が入る余地を防ぐっていうのも、それはそれで大事な防衛手段だからね」


 そう言って、草薙先生はアイスコーヒーのグラスからストローを引き抜くと、その水滴を一つトレイに落とす。


「例えば……だけど、このトレイが部屋だとして――広告という穢れが間にいるから、水滴が落ちても、トレイは広告からしみ出した分の被害だけ済む。少量の穢れや汚れなら、共存しているレベル0の穢れでも対処できるし、なんなら人間自身が無意識に持つ抵抗力で追い返せたりするワケだ。

 でも、広告という穢れがなければ、直接水滴が落ちてトレイが大きく汚れるだろ?

 穢れも、これと似たようなところがあるんだよ。大きな汚れはレベル0の穢れや、人間の無意識による抵抗力では太刀打ちできない場合があるわけだしね。

 だから行き過ぎた掃除も過剰な断捨離もあまり良いとは言えないのさ。穢れを祓うと言えば聞こえはいいけど、本来自分を守ってくれていたモノまで片付けちゃうのはよろしくない」


 そう説明されると段々とケッペキ様についての理解ができていく。


「つまりケッペキ様っていうのは、わたしの強迫観念じみた潔癖症が呼び寄せた穢れということですよね?」


 広告がなく、垂らされたコーヒーがトレイの中で溜まって大きくなっていくように、自宅に穢れが溜まっていって大きくなったというのなら――


「その状態で目につくモノ全てが穢らわしく感じて、極端な断捨離をし始めてたから……ケッペキ様一強の状態を作ってしまった、と」


 ――そういうことになるだろう。


 趣味のマニュキュアコレクションだとか、性癖的な漫画コレクションだとか、そういうのは本来のところはわたしを守ってくれる穢れの住処でもあったということだろうから。


 でも――


「完全に排除してないのに、ケッペキ様は出てきちゃいましたけど」


 先生の話を信じるのであれば、祀璃の部屋にはまだ漫画やマニュキュアは残っていた。だというのに、穢れがケッペキ様へと成長してしまったのだ。


 そんな祀璃の内心を見透かすように草薙先生は笑う。 


「そこは君の精神的な部分の影響もあるんだろう。捨てる気まんまんだったんだろ? 家にあるモノの多くをさ。

 その時点では未来の後悔すら脳裏に過るコト無く、今この瞬間は捨てたくて仕方がないってやつだ。

 強い潔癖症の穢れが、ほかの穢れを駆逐しはじめるだけのチカラを持ったというのもあるだろう。

 そして、卵が先か鶏が先かの話になるんだけど、君自身にも潔癖症由来のオカルト的な超能力が備わってしまっていた」


 草薙先生が目を細める。

 次の瞬間、テーブルの上に、草薙先生の肩に、祀璃の周囲に、大量のカタツムリが出現した。


 背中の殻がインク壺のようになっている、どこかメカニカルな奇妙なカタツムリの群れに、祀璃は顔を引きつらせる。


「やっぱり視えてるね。安心していい。これはあたしの分身みたいなモノだ。

 そして、同じような能力を持っていないと、視認するコトのできないシロモノだ」


 アリカちゃんも能力者だよ――と言いながら、草薙先生は笑う。


 そして、先生の言葉を証明するように、彼女の近くに現れた巨大なカタツムリの中へと、小さなカタツムリたちは帰っていく。

 そして、巨大なカタツムリもまた、草薙先生に吸い込まれるように消えていった。


「そんなワケで、鷸府田ちゃんの持っていた超能力の才能。当時の精神状態。拗らせた潔癖症。そこに集まってきた綺麗好きの穢れ。

 それらが噛み合って穢れはレベルアップし、心身疲弊によって心に隙のあった君に取り憑いた。

 取り憑いた穢れは君の持つ超能力を利用してより成長を果たし、部屋中の自分以外の穢れの全てを排除し、同類の穢れの天国へと変えていった――というのがコトの顛末さ」


 草薙先生が説明を終える。

 それを聞いて、祀璃はなんとも惨めな感情が湧き出してきて、俯いた。


「……だとしたら、結局はわたしのせいですよね……わたしは、どれだけ人に迷惑をかければ……」

「違う」


 けれど、草薙先生は一刀両断する。


「少なくとも君を精神的に追い込んだ原因は、未遂とは言え君を押し倒した、自称元彼のクズだ」


 本当に刃のように鋭い声色で、先生はキッパリと言い切る。


「だから記憶の漂白というチカラがケッペキ様に宿ったんだろうよ。

 鷸府田ちゃん――君は、忌まわしい記憶と共に、穢れた自分自身も消してしまいたかったんだろう?」


 その通りだ。

 潔癖症が拗れていったのも、僅かでもあの男が触れたモノ全てが汚らわしく見えてしまったから。


 ケッペキ様が(はら)われたからか、そういう感情はすっかり落ち着いているのだが、それでも当時は間違いなくそうだった。


 けれど、肯定も否定もできず、祀璃は固まってしまう。


 草薙先生の見透かすような視線が恐い。

 自分のそんな矮小な望みが、こんな事件になるなって思ってもいなかったから。

 そんな思いを抱いたのが悪いと、叱責されているようで、とても恐い。


「でもね。そんな君に消えてほしくないと思った人たちがいる。

 事情を知っている弟くんや、六綿さんは、だからこそ無断欠勤を叱ったりするのではなく、心配によって鷸府田ちゃんの様子を確認しにいった。

 そして、弟くんはアリカちゃんを、六綿さんはあたしに声を掛けた。それってようするにオカルト事件に巻き込まれた君を助けたかったからに他ならないだろう?」

「…………」


 祀璃は顔を上げて、目を瞬く。


「あたしもそう。そして、特に君との関わりのなかったアリカちゃんも、ね」


 先生の言葉に、そういえば――と思う。

 弟は分かる。六綿編集長も分かる。草薙先生も自分の関係者だ。


 だけど、音野 在歌――彼女だけは違う。

 彼女はそもそも弟の友人というだけで、自分とは無関係なはずなのに――最終的には一番ボロボロになりながら、自分を助けようとしてくれた。


「……あの子はどうしてあんなになってまでわたしを助けてくれたんでしょうね」

「そういう子だからだろ」


 キッパリとそう告げて、先生はにひひと笑う。


「似たような知り合いが何人かいるけどね。

 彼女らにとって人助けっていうのは理屈じゃないのさ。自分が助けた(そうした)かったから――ただそれだけだよ。

 物語の主人公みたいな連中なのさ。学生時代だけでなく社会人になっても、その芯というか軸みたいなとこは、まったく変わらないんだから恐れいるよな」


 その知り合いとは仲が良いのだろう。草薙先生は上機嫌でそう告げる。

 あるいは、草薙先生はそういう人間が好きなのかもしれない。


「ところで、鷸府田ちゃん、気づいてる?」

「なにをですか?」

「君の肩にずっといるんだけどさ」

「?」


 指を差されて、自分の左肩を見る。

 すると、そこには手の平サイズで愛らしい姿になった三ツ目のケッペキ様がそこにいた。


「……ッ!」


 思わず声が出そうになるが、ここがカフェであることを思い出して口を噤む。


「落ち着きなって。鷸府田ちゃん。それに対して心の中に戻れって念じてみな」

「……?」


 ともあれ、言われた通りにやると――本当に、心の中へと戻ってきた感覚がある。


「逆に心の中から出て来いって念じて」

「…………」


 言われた通りに念じると、心の扉を開いてテーブルの上に小さなケッペキ様が降り立った。


「これって」

「さっき言ってた君の能力だね。あたしのカタツムリと同じようなモノさ」


 開拓能力(フロンティアスキル)――というらしい。


「その子に何が出来るかとか、どう扱うかっていうのはあたしに相談しないでくれよ。

 能力の扱い方を正しく知りたいならアリカちゃんとか、アリカちゃんのところの探偵さんに聞いた方がいい。向こうは本物の専門家だ」


 あたしは独学のオカルトスキーでしかない――とは、草薙先生本人の弁だ。


「とはいえ、名前は今のうちに付けておいた方がいいな」

「ケッペキ様じゃダメなんですか?」

「ダメ。あの漂白の怪異にケッペキ様って名前が付いちゃったからね。同じ名前にすると、結びついて、同じような事件が起きかねない。見た目や由来も近いからなおさらね」

「そういうモノですか」


 あまりピンとくる話ではないが、それが超能力や怪異との付き合い方というのであれば、従った方がいいだろう。


「恐らくは漂白する能力が備わってるはずだから、とりあえず、感染する潔癖(ブリーチング・マリス)ってのはどうかな?

 見た感じ、まだまだ能力としては弱いし、今後進化して姿も能力も変わっていくはずだから――もっと天使らしくなったなら、天使を意味するエルをつけて、ブリーチング・マリスエルとでも呼べばいいんじゃないかな。

 人型になるようなら、それこそウリエルとかガブリエルとか付けてやればいい」

「ブリーチング・マリス……ブリーチング・マリスエル……」


 不思議としっくりくる。

 人型になるようならブリーチング・マリス・○○エルとかがいいのかな?


「じゃあそれを採用します。マリスって呼びやすいですしね」

「それと、一応言っておくと、開拓能力――マリスは君の心が実体化した存在でもある。

 ケッペキ様のような暴走現象が起きると、本来は消えてしまうモノだけど、それが残っているというコトは、君には心身疲弊による暴走を経てもまだ未知なる道へと一歩踏み出す意志が残っているコトに他ならない」

「そうなんですか?」

「現代の開拓者(フロンティア)精神(スピリッツ)。それが形になった存在と言われているからね開拓能力は。

 なのでまぁ、その心の在りようは失わないようにしなよ。自分の心に嘘をついたり、疑ったりしはじめると、マリスが暴走してケッペキ様化しちゃったり、能力そのものが消滅しちゃう可能性もあるからね」

「それって、常に自分の心と向き合い続けろって話と同じでは?」

「そうだよ?」


 そんな簡単に肯定しないで欲しい――そう思いながらも、祀璃は理解を示してうなずいた。


「色々ありがとうございます」

「別に構わないよ。ところで、そろそろ仕事の話……しない?」

「はい。長々とすみませんでした。では次巻についてなんですけど――」



  ・

  ・

  ・



「在歌、どうしたの?」


 私がスマホの画面を見ていると、綺興ちゃんが声を掛けてくる。


 ケッペキ様との戦いでダメになってしまっていたらしい私のスマホは買い換えとなった。

 お高いスマホにどうしたものかと嘆いていたら、綺興ちゃんと祀璃さんがお金を出してくれて購入と相成ったのである。


 さすがに二人で折半してくれるとはいえ、高額のスマホだ。

 私はだいぶ遠慮したんだけど、二人の圧が強くて折れちゃったというのもある。


 無いと不便だから、買って貰えて助かりはしたんだけどね!


「祀璃さんから、Linkerにメッセージ来てて」

「なんだって?」

「ケッペキ様の影響で開拓能力者として覚醒しちゃったらしいから、色々教えて欲しいって」

「それはまた難儀というか羨ましいというか」


 あるいは、あの女なり策略か――と小さく呟いている。

 策略ってなんのだろう?


 っていうか、病院で鉢合わせて以来、どうにも綺興ちゃんは祀璃さんを警戒してる感あるんだよねー……。


 相性が悪いのかな?


「綺興ちゃん、能力が羨ましいの?」

「苦労があるのは分かるんだけど、在歌の悩みを正しく知りたいっていうのもあるの」


 そう言って貰えるのは嬉しいんだけど、綺興ちゃんには能力者になって欲しくないんだよなぁ……。


「うーん、能力者仲間が増えるのは良いんだけど、それはそれとして綺興ちゃんには、そのままで居て欲しいかなぁ」

「そうなの?」


 不思議そうに私を見てくる綺興ちゃんに私はうなずく。


「能力者になっちゃうと、なんていうかオカルト側の存在の仲間入りってコトでしょ?

 綺興ちゃんにはノットオカルト側にいて欲しいというか……綺興ちゃんは、ノットオカルト側というか日常側にいて、オカルト側で何かあった場合、帰る時の道しるべというか、帰るべき場所として居て欲しいというか……」


 自分でもうまく説明できなくて、歯切れ悪く説明する。

 けれど、綺興ちゃんにはちゃんと通じてくれたらしい。


「そう。在歌がそれを望むなら、わたしはそういう存在で居続けてあげるわ」


 何やら上機嫌に弾んだ声でそう笑う。


「今日はバイト無いのよね? どこか食べにいかない? 退院祝いってコトで奢るわよ?」

「いやぁスマホまで買ってもらってそれは……」

「いいのいいの。わたしが奢りたいんだから、奢らせなさい!」

「えー……」


 そんな感じで、綺興ちゃんは私の腕を取ると強引に引っ張って歩き出す。


「何がいい?」

「じゃあ、えっと……とりあえず、タピオカで」


 遠慮がちにそう答えた結果、ドリンクバーでタピオカドリンクを作れる、ちょっとお高めの中華ビュッフェレストランに連行されることになるのだった。




 中華粥も春巻きも、餃子も炒飯も、炒め物やサラダも、小籠包も――全部美味しかったです。

 なお、ドリンクバーでタピるのは忘れました。


 これにて潔癖汚染編 完結です٩( 'ω' )و

 おつきあいありがとうございました。


 また何かネタが出てきたら、ちょっとだけ再開するかと思います。

 その時は、またよろしくお願いします٩( 'ω' )و

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