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Brave Hearts  作者: 九JACK
獣王国編
91/127

第88話 コトカタの夢

更新再開します!

これまでのお話、総括して矛盾点が多いと思うのですが、ひとまず完結を目指してがしがし更新していきます!!

矛盾点の修正、整合性をとるのは完結してから!!

もう100話近いので、修正してたら話を進められないと思い、このような措置を取ります。

今後もよろしくお願いいたします。

 アイゼリヤの南。かつては竜国と呼ばれた炎竜の谷。

 そこでは宴が行われていた。

 その中心にいるのは何故か……竜人族ではないアルセウスだった。アルセウス自身も戸惑った表情を隠せていない。

 今では数の少ない竜人族たちは酒を煽り、肉を焼いて、てんやわんやの大騒ぎである。まるで、めでたいことがあったみたいに。

「ゼウスさまの帰還に万歳」

「万歳!!」

「乾杯!!」

「乾杯!!」

 ゼウスとは、アルセウスの渾名であり──かつて竜人族を栄えさせた英雄の名前であった。


 時は遡る。

 アルセウスはエシュから森を越えた更に向こうの渓谷に来ていた。昴たちに恩を返すためだ。

 ブレイヴハーツの仕組みに干渉し、異端な力を振るって人を傷つけていた人間史上主義のアグリアル・タイラント。それはアルセウスの飼い主の名前だった。アルセウスはその戦闘力により、護衛役としてタイラントから一目置かれていた。ブレイヴハーツも強く、赤属性でありながらコールアビリティを持つ[コトカタシリーズ]を使いこなす猛者だ。

 それで、タイラントに与していたとされたアルセウスだったが、情状酌量の余地があるとされ、中央神殿で咎めを受けることなく出てこられたわけだが、その影には異世界からやってきた子どもたちの証言があったという。

 昴、純冷、アミ。この三人の子どもによると、アルセウスは差別思想を強く持つタイラントに蔑まれ、従わされていた、ということになるらしい。

 アルセウスは自分の腕を見つめる。それは虎猫の獣人であるはずの自分が持つ[人間の腕]と形容していいものだった。

 獣人には人間の体に耳や尻尾だけがついた者、二足歩行ができる獣の容姿を持つ者の二種類が主に存在する。そんな中、二足歩行ができる獣の容姿を持ちつつ、腕だけ完全に人間のものであるアルセウスは同族の間でも、異形、異端とされ、遠巻きにされた。

 ばしゃりと頭から家畜の小便をかけられたのを思い出す。それが日常だった頃。その日暮らしもままならなかったアルセウスは、腕っぷしだけはあって、それを生かしてありとあらゆる仕事をした。その仕事の中には当然悪とされるものもあったが、選んでいられなかった。

 誰かのために何かをすることで、自分という存在は初めて価値を持つ。陰口を叩かれても、後ろ指を指されても、その日暮らしに足りるくらいの小銭を稼げる価値が。

 だが、結局、仕事先の依頼主に騙されて、アルセウスは奴隷商に売られた。異形のものたちばかりを取り扱う特殊な奴隷商だ。つまりは見世物代わりである。人間の中には異形の存在を好む者がいて、そういう好き者のためにこんな商売が成り立つのだ。

 だが、売り飛ばされてきたアルセウスは不気味な腕を生やしていたため、商品にすらされなかった。雑用を押しつけられ、高値をつけられる美しい奴隷たちから唾を吐きかけられ、他の奴隷たちからはねずみの糞をかけられ、商人からも出される食事は良くてカビの生えたパン一個だった。

 良いことをすれば待遇もよくなるだろうと信じていた時期がアルセウスにもあった。だから雑用も他が嫌がる臭い仕事を率先してやり、不届きな輩の始末や脱走者の捕縛、馬車の護衛など、できることはなんでもやった。それでも、アルセウスに与えられる食事は蛆の沸いたスープや真っ黒に焦げて廃棄されるだけのパンばかりだった。

 アルセウスはそれでも生きたかった。親の顔も知らないから、母親から温かい言葉をもらったり、父親から志を教えられたりしたわけじゃなかった。

 生きたいという動物的生存本能。それのみがアルセウスの支えであり、今日までアルセウスを生かしている。

 アルセウスの腕っぷしは下手な用心棒を雇うよりよっぽど役に立った。何せ商品なので金を払う必要がない。そうして、商人たちはアルセウスを重用し続けた。

 そんなアルセウスの前に現れたのがタイラントだった。

「ほぉ、キメラを一撃で伸すのか。貴様、名前は?」

「た、タイラントさま! こやつは奴隷の奴隷であるゆえ、名乗る名など持ち合わせておりませぬ!」

「……アルセウス」

 当時の彼は、確かに名前を持っていなかった。上等でもない商品に固有名詞は必要がない。

 だから、彼は勝手に名乗ることにした。奴隷たちにびりびりに破かれて、虫に食べられ、土になっていくのを見ていたお気に入りの絵本に出てくる、英雄の名前。誰が何をしようと、彼の記憶の中の宝箱にまでは手を出せない。

 彼は名乗った。誰も知らない英雄の名を。

「アルセウス・マードリックだ」


 タイラントはアルセウスの容姿こそ嫌ったが、その腕っぷしと従順なところは認め、手元に置き、アルセウスに初めてカビの生えていない普通のパンと余計なもののない薄味なものの普通のスープを与えた人物となった。

 そもそも身を置いていた環境が劣悪だったアルセウスは、まともな飯にありつけただけで、タイラントは仕えるに値する人物となった。何なら恩人と表現してもいい。

 タイラントは腐っても貴族だ。召使いなど何人もいた。全員、人間だったが。

 誰がタイラントの元から去っても、アルセウスだけは残り続けた理由はまともな飯にありつけるからだった。

 そんな理由で、あの差別主義者を守り続けた自分をあの子どもは憧れの存在だと言った。

 英雄だと、言ってくれた。

 それならそれに報いたい。英雄と呼ばれたことは、初めて普通のパンを食べたときよりも、情状酌量で減刑されたことよりも、アルセウスの心に力を与えた。

 英雄。それはアルセウスがずっとなりたかったものだ。どこかで諦めていた夢だった。

 この異形と謗られる不気味な手でも、成せることがあるのなら、とアルセウスはもう一度、夢に向かって歩いてみることにした。それが昴たちに協力する理由だ。

 竜国にアルセウスが遣わされたのには理由がある。アルセウスの使うコトカタシリーズが竜人族のものであることは、実はあまり関係ない。

 竜国に行くまでの道のりには当然だが、竜が住んでいる。竜は強い。単純に竜と遭遇し、戦うことになったとき、渡り合えるレベルの力を持つのがアルセウスだったからだ。

 体格のいい青年より一回り大きいくらいのハンマー[ライナセラス]を振り回すことができる膂力、長年の用心棒生活で培ってきた経験、タイラントのような嫌われ者を匿い続けてきた知恵。アルセウスは生存本能で生きてきた上で、頭が回るからずる賢いのだ。竜をやり過ごすには充分な能力だろう。

 そろそろ竜国に入るか? ときょろきょろしながら位置を確認していると……

「ゼウスさま……ゼウスさまだ!!」

 そんな声と共に、人間と竜人がぞろぞろとアルセウスの前に出てきて、アルセウスに飛びついた。

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