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Brave Hearts  作者: 九JACK
獣王国編
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第84話 忌み嫌われても

 音のした方の部屋へ三人は急いだ。

 何事か、と思って見てみると、千裕があらゆる楽器の下敷きになっていた。

「何がどうなったらこうなるんじゃい」

 ツッコミを入れつつ、アミが楽器を壊さないように丁寧に避けていく。

 ピアノ椅子やら電子ピアノやらシンバルやらが散らばっていた。ドラムセットは滅多なことでは倒れないため、アミの言う通り、何をどうしたらこうなるのか気になるところだ。

 せっせと片付けていく昴たちの中に、魔王が混じる。どうやら傍らで見ていたらしい。

「何があったの?」

 昴がそっと聞くと、魔王は苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。

「記憶が戻ってきているのだろう。まだ自分が[裕弥]ではなく[千裕]なのが受け入れられないらしい……違う、ともがいて暴れた」

 魔王が俯く。

「こんなことなら、黒羽が先に召喚された方がよかっただろう。辛い思いをするのは、あいつじゃなくてよかったはずだ」

 過ぎたことを言っても仕方ない。けれど、魔王は言葉の裏で別なことを言っているのに昴は気づいた。

「それは違うよ。……辛い思いをするのが、魔王だけでよかったとか、そういうのは違う」

 昴の言葉が予想外だったのか、魔王はぴたりと動きを止める。それから泣きそうに顔を歪めながら、作業を続けた。

 魔王は自分の手で数少ない理解者を傷つけたことを後悔している。ついさっきまで殺してしまったと思っていたのだ。その心情は推し測って余りある。

 これだけでもう充分辛い思いをしているというのに、友と見知らぬ少年を思い、更に重圧を増やそうとしているなんて。……魔王という仰々しい肩書きの割に、人間臭いというか。

「……ずっと聞いてみたかったんだけどさ」

 昴が切り替えるように話題を振る。

「魔王は[世界の死神]なんでしょ? 今まで色んな世界を消してきたと思うけど……世界を消すってどんな気持ち?」

 魔王は少し黙った。黙々と立て直されるドラムセットやピアノのかたかたという音がその場を満たす。何も言わないが、純冷やアミも気になっているようで、ちら、と魔王を見ていた。

 あらかた片付け終わって、手近なソファに千裕を寝かすと、ぽつぽつと魔王は語り始めた。

「世界を終わらせるとき、どう思うか、か……考えたこともなかったな。道を外した世界を消すのは役目であり義務だ。特に何も感じなかった。……世界が終わるという絶望の声は耳にこびりつくほど聞いたが」

 世界を終わらせる。それは人類も含め、数多の命を奪うということだ。世界を葬り去るためだけに存在する魔王にとって、それは感情を抱くほどのことでもない日常茶飯事で、何も思っていないという。

 そりゃ、死んでいく命に対して、いちいち何か思っていたら、心が壊れてしまうだろう。それとも、魔王は人間じゃないから、感情なんてわからないのだろうか。

 純冷が口にする。

「なら、なんでこのアイゼリヤで、獣王と出会って、心を開いたりなんかしたんだ?」

「……」

 魔王は答えず、獣王と瓜二つであるという千裕の顔を見つめた。それは優しい顔だった。とても、無情に世界を滅ぼす魔王になんて見えなかった。

 きっと、魔王にもわからないのだろう。何故自分がここまで一人の人間に肩入れするのか。今までになかったことだから。

「オレは、世界を滅ぼす魔王だ。忌み嫌われこそすれ、好かれることなんてなかった。だというのにあいつは……」

 魔王は千裕から目を逸らす。獣王と重ねてしまうからだろう。

 隠しシナリオも踏襲済みの昴たちにはわかった。世界を滅ぼす魔王はこれまでたくさんの人に恨まれながら、世界ごと殺してきたはずだ。それが、文通相手を見つける、とは。

 きっと、獣王は魔王のことが好きだったのだろう。それは魔王が向けられたことのない感情だった。戸惑ったことだろう。

「魔王は世界が嫌いだったり、自分が嫌いだったりする?」

 昴の問いに自嘲のような笑みを浮かべながら魔王はああ、と頷く。

「あいつと出会うまでは好きとか嫌いとか、そういう感情はなかった。世界を滅ぼすことは役目で義務だった。それを悲しいだとか虚しいだとか、思ったことはなかった」

「獣王に会って変わった?」

「ああ。随分見える世界が変わったよ。……だから、あいつを取り戻したい」

 魔王が自分の意志をはっきり示したことに昴はきょとんとする。それから、微笑ましそうに笑った。

「取り戻そう。俺が会った[裕弥]が獣王だったのかはわからないけど、俺も会ってみたいんだ」

 獣王はブレイヴハーツの中でもキーマンで、キャラクターデザインが出ていない中でも人気のあるキャラクターだった。昴が憧れたのはその人に仕えるシエロだったわけだが、シエロに会いたいというのはもちろんのこと、シエロが慕う人物をこの目で見たかった。

 それにもし、獣王が[裕弥]だったのなら、友達になりたいと思うのだ。

「さぁて、そのためにはあんたにも手伝ってもらう必要がありそうね」

 そうして世界の死神たる魔王をあんた呼ばわりしたのはアミだった。アミに手を取られ、立たされた魔王は目を白黒とさせている。

「あんたはベースね!」

「べ、ベース? 音楽には疎いのだが」

「嫌でも覚えてもらうわよ!! 何せ、今回のライブにはあんたの力が必要不可欠なんだから」

「ブレイカーアミの名だけで充分売れると思うが」

「あんた馬鹿?」

 アミはずい、と魔王に顔を寄せる。

「なんのためにライブやると思ってんのよ。あんたの大好きな獣王を復活させるためでしょうが。あんたが呼び掛けなくてどうすんのよ」

 今回のライブの目的。それはアミの歌を聞いてもらうことではない。獣王がまだ生きているかもしれないという一縷の望みに賭けたライブなのだ。

 獣王の復活。それを誰よりも望んでいるのは魔王他ならない。

「音楽はリズムとメロディとハーモニーがあれば成り立つわ。その理論でいくと、ベースなんてあってもなくても一緒なの。なのに何故ベースなんてパートがあると思う?」

 これは魔王のみならず、昴も純冷もさっぱりだ。アミは何が言いたいのだろう。

「それはね、目立たないかもしれないけど、陰で支える役っていうのが大事だからよ。その役目は魔王であり、世界の死神であるあんたが適任よ」

「何故……?」

「あんたが世界を支えているからに決まってるでしょ!!」

 アミは決死の表情だった。

「忌み嫌われていたって、何だって、あんたは世界のバランスを崩さないために、これ以上世界を滅ぼさないために、役目を全うしてきたんでしょう? 誇りなさいよ」

 アミは語るうちに目頭が熱くなってきたのか、声に涙が混じってきた。

「嫌われたって、認められなくたって、あんたが成してきたことに意味はあるわ!! 誰が文句を言おうと保証してくれる、そういうやつをあんたは取り戻すのよ!!」

 自分と重なったのだろう。[アイドルになりたい]という夢を叶えたアミも、妬まれて疎まれて、幸福ばかりではなかっただろうから。

「……そうだな」

 今回のライブはデモライブだ。何に対するデモかといえば、ヘレナに対するデモである。つまりこれからアミたちはこのアイゼリヤに喧嘩を売るのだ。

 その陣営にかつてアイゼリヤを滅ぼそうとした魔王がいるというのは、なかなかな話ではないだろうか。

「舐めた真似をしたこの世界の姫巫女にも、礼をせねばな」

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