第76話 王の容姿
顕現した[天使の長たる者 アンナ]の容姿は金髪ツインテールで、アミを少し大人っぽくしたような容姿である。アミのカードなので詳しくは見ていないが、アミ曰く、死んだ母と同じ名前でそっくりなのだそう。
ここまでヘレナがどこまで仕組んだか、という可能性について話してきたわけだが、そこまでヘレナが仕組む意味がわからない。まるで、アミがこの世界に来ることを予期していたようだ。
「ヘレナの元にいるアルーカの言い様だと、誰が召喚されるかまではわかっていなかった節がある。けれど、これをただの偶然と捉えるにはできすぎている、と私は思う」
「うん、なんか偶然でここまで揃うのは変って俺も思うよ」
アイゼリヤの住民なら、ヘレナが把握していてもおかしくはない。だが、純冷がアルーカから聞いた話だと、彼女らは[どんな人物が来るのかわかっていなかった]と捉えられる。
ましてや異世界人だ。いくらアイゼリヤの役目で外の世界を見ていたとはいえ、特定の一個人まで把握できるだろうか。
そこでふと昴が気づく。
「そういえば、[白の王]は千裕にそっくりなんでしょ? それも気になるよね」
「ああ……私たちはブレイヴハーツでの獣王しか知らないから、ビジュアルはわからないんだがな」
そう、獣王のビジュアルは公開されなかった。他にも、あれだけ引っ掻き回しておきながら、天使長のビジュアルも公開はなかった。勿論、精霊王も。
「俺が引っ掛かるのは各属性の[王]と呼ばれる人たちのビジュアルが公開されていないこと……まあ、魔王は例外だけど……それと俺たちが召喚されたことにはやっぱり理由があるんじゃないかな?」
天使長、精霊王、獣王。この三人は全くビジュアルが公開されなかった。ナレーションに登場したり、作中で登場は確かにしているのに姿を現さなかったのは、裏の立役者だから、などといった解釈がされ、それはそれで人気となったが、ビジュアルは登場しないでも気になるという声や人気はあったため、一切の発表がないのは不自然だった。
ただ単に決まっていない、という可能性もあったが、獣王や天使長などは物語への干渉度が凄まじかったため、ファンブックや外伝、続編などが期待されたことを昴もよく覚えている。昴も待ち望んだ一人だからだ。
「アイゼリヤのキャラクターはみんな魅力的だからね。箱推しできる!!」
純冷は昴の変なスイッチが入ったことを察した。目の輝きが違う。
「各国の王に関しても色々考察とか飛び交ってにやにやしたなぁ!! 本当に楽しいゲームだったよ。ブーム終わってからも百回くらい周回したもんね!!」
知らない人間からするとドン引きレベルのゲーマーである。百周とはどういうことか。純冷の記憶ではこれといったコレクト要素はなかったように思うが……いやいや、そういう場合ではない。
暴走気味の昴を止めなければ。
「きもっちわるいくらいのブレイヴハーツ馬鹿ねっ!!」
がっ。
「いっ」
とても痛そうな音を立てて昴の頭にたんこぶを作ったのは、見た目は非力そうな少女、アミである。
ツインテールで、小学生と見間違えられそうな見た目のアミだが、口ばかりでなく、物理的な強さも兼ね備えているらしい。踞った昴がなかなか起き上がってこなかった。
これが一世を風靡した歌手だというのだから信じ難い。純冷はそういう娯楽に疎い方だが、弟の買ったブレイヴハーツテーマソングの[Ami]にはどはまりした記憶がある。アイゼリヤでもアイドル活動をしていたらしいので、歌が聞きたかったという思いは僅かながらにある。
──ではなく。
「すまない、アミ」
「手加減したら駄目よ、純冷って言ったかしら? こいつのブレイヴハーツ馬鹿度合いは全世界がドン引きするレベルだから」
「ゲーム一つ好きなだけでひどい言われようだよ……」
昴が殴られた(勿論グーで)部分をさすりながら起き上がる。アミの言い分もわかるが、かなり痛そうなので昴に同意してしまう部分もある。
「ところで、もういいのか?」
純冷は頭を切り替え、アミに尋ねる。
アミは母の面影を持つカードを大切そうに眺めていたので、空気を読んだ一同がそっとしておいたのだが。
するとアミは、ふっと不敵に笑う。
「平気よ。親離れもできない年じゃないわ」
昴はアミらしいさばさばした物言いだな、と微笑んだ。
「それより、話に混ぜてもらってもいいかしら?」
「ああ、それは勿論」
「じゃあ、言わせてもらうけど……」
カードを一枚取り出し、アミが続ける。
「これ、私のお母さんだわ」
それは[天使の長たる者 アンナ]のカードだった。




