第70話 最終予想
昴の放った一言に時間が止まったような錯覚を覚える。
それから、ナターシャがあっと声を上げた。
「魔王は世界の死神……その世界が世界としての役目から外れたとき、世界に終焉をもたらすもの……」
「そ。だから神様にとっては最後の切り札だったんだよね。どうにもならなかったら世界を滅ぼすしかない。それくらい、アイゼリヤの役目は重要なものなんだ」
「まあ、異世界に飛ばされるなんて、本の中の出来事みたいなものだ。登場人物は悉くばたばたと走り回らされる。本なら読めるが、実際にやるのはたまったもんじゃない」
そう、大人になりかけた年頃の昴たちは知っている。漫画やゲームの中の主人公やヒーローは所詮創作物でしかなく、現実には決してあり得ないのだ、と。そうして夢を捨てて大人になっていく。
(本当は結芽と冒険してみたかった、なんて、言えないよね、この年で)
昴も諦めた一人だ。そうしてそんな夢を捨てるためにこの世界が存在する。
皮肉なものだ。自分の夢を否定するために存在する世界で、物語の主人公みたいに動くなんて。
でも、それは世界を一つ賭けていいほど大切なことだ……とアイゼリヤの神は考えているのだろう。
「おそらく、魔王や千裕、アミだって同じはずだ。二重人格にされたり、己の果たすべき役目を奪われたり、運命を弄ばれたり……散々と称していいほどの目には遭ってきた」
「夢を奪っておきながら、夢を見させられたりね」
ナターシャは昴の笑みにぞっとした。昴は温厚と言わないまでも激怒することは少ない。ただ、今の笑顔の裏には激怒程度では生ぬるい、憎悪のようなものが垣間見えた。
異世界から来たテイカーたちの知るアイゼリヤは架空の世界で、先の魔王との戦いのことをゲーム化したものだという。幼い子どもが英雄に憧れたり、魔法に興味を持つのは当たり前のことだ。自分でもできるかもしれないと信じてしまう時期があるのは仕方のないことだ。
それを虚構だと理解して、現実に向き合おうとした矢先に、憧れの世界に召喚される。それは一見夢と希望に満ち溢れているようで、既に夢を諦めた者にとっては残酷以外の何者でもない。
世界を救うためなんて甘言に踊らされて、自分たちは結局、神が使うための駒にされただけ。ヘレナから約束された夢も叶えてもらえない。
それなら、一体何のために戦ったらいいのか。
そこでナターシャは昴の本質を知る。
純冷には守りたいものがあり、アミには周りをぶち壊したい衝動がある。魔王にはできるなら白の王を蘇らせたいという目的があり、千裕は裕弥を守りたいという意思がある。
だが、昴には何もない。もう夢を諦めてしまった昴はがらんどうなのだ。
ブレイヴハーツはカードゲームとして楽しいからやっている。同じ異世界から来た仲間と絆を結ぶことで主人公の真似事をしているに過ぎないのだ。
何を置いても、異世界組の中で、昴が一番異常だったのだ。
──叶えたい夢なんて、なかったから。
だからこそ夢を探すためにブレイヴハーツウォーズに参加した。けれど、ヘレナには夢を叶える気など毛頭ない。
「何のために、俺たちは戦わなきゃならないのかなぁ」
昴の一言は静寂の中でやたら響いた。
「だが、このくだらん戦争を終わらせるために私たちが召喚されたというのなら、戦争を終わらせる方法を考えなければならないな。そこでアイゼリヤの神が施した術が生きるのだろう」
「例えば?」
純冷は迷いなく告げる。
「精霊王がいなくなれば、一つの国は滅びるだろう。天使の長がいなくなれば、天使の統括が危うくなる。獣王がいなくなれば、王国の者たちは路頭に迷うだろう。それをヘレナに伝えるために私たちの中に消えた王たち宿したのだとしたら……ヘレナは自らの過ちを実感すると思ったのではないか?」
アイゼリヤにおいて、王がキーパーソンであることは明らかだ。王と冠するからこそ、影響力が強い。
「だからこそ、私たちは最終的に誰かに願いを託さなければならない……これはもう戦争ではないよ。大多数が気づいていないだけだ」
純冷は言う。
「ヘレナとてアイゼリヤの民なのだから、……ヘレナとブレイヴハーツで決着をつけるための人々の意思を背負った一人を決めるのが、このゲームの目的なんだ」




