第64話 裕弥を知るために
朝、夜更かしをした割には、すんなり起きた異世界組。といっても、魔王は眠りが必要がないため、眠ってすらいないのだが。
「あなたたち、タフねぇ」
感心したのはナターシャである。天使もほとんど睡眠が必要ないため、ナターシャもすっきりした顔をしている。
まだ眠そうなのはナリシアとアリのエルフ二人組だ。まあ、昨日だけで色々あった。考えてみれば、タイラント戦から一夜しか過ぎていないのど。本来なら、疲れきっているのが正解なのである。
シエルもホシェフで合流してから、休みなしだったはずだが、そこはさすが伝説の騎士というか。疲れを表に出さない。
「ふにゃぁぁ……」
エルフ兄妹より眠そうな声が一つ。それは猫獣人のサバーニャである。そういえば猫って夜行性だっけ、などと昴は考えていた。
「結構な大所帯になっていますね」
辺りを見回してそう言ったのは、ホシェフから眠り通しだったハンナである。久しぶりに声を聞いた気がする、と昴が思っていると、隣にいた少女がたたたっと駆けていって、ハンナに飛びつく。
「ハンナ!!」
アミがアイゼリヤに来てからずっと共に行動していた人物だ。ずっと眠っていたので、心配はしていたのだろう。……昴の憶測だが、名前の音が、アミの母親に似ているから、無意識に求めてしまっているのかもしれない。
いきなり抱きついてきたアミにハンナは驚いたようだが、しっかり受け止め、頭を丁寧に撫でる辺り、母性が垣間見え、アミも顔を緩めている。
「さて、色々事情聴取したいのだけれど」
「無理だな」
ナターシャの提案を純冷がばっさりと斬る。ナターシャがかなり不服そうな顔をした。
「何故そんなにきっぱり言えるのかしら?」
明らかに不機嫌になった天使に臆する様子もなく、純冷は続ける。
「貴女に情報を提供する理由がない。それに、まだ、私たちから完全な情報は渡せない」
そう告げて、純冷はちら、と千裕を見やる。千裕はびくん、とその視線に反応する。
「千裕の記憶の混濁──それに、貴女は知りたいはずだ。アイゼリヤの[ユーヤ]がどうなったか」
その言葉に動揺を見せたのは、魔王だ。それもそうだろう。ユーヤ……白の王は、自分が殺してしまったはずなのだから。
ナターシャは胡乱げに目を細める。
「まるで白の王が生きている、とでも言いたげね」
ナターシャの言葉に、純冷がきょとんとした顔をする。
「言いたげも何も、そうだと言っている」
「えっ!?」
何人かの声が重なった。昴やアミが驚いている様子がないのは、予め話されていたか、察していたか、のどちらかだろう。
「考えてもみろ。私が知っている範囲では、[久遠裕弥]という人物は存在しないんだ。そして、私たち異世界から召喚されたテイカーには、それぞれの色を司る王の魂が宿っている可能性がある。その証拠が魔王が宿った黒羽だ。それなら千裕に白の王である[ユーヤ]が宿っていないと考える方が難しい」
名前の一致が偶然とは思えない、と純冷は告げた。
「だったら、千裕と[ユーヤ]に思い出してもらうより外ない。自分が何者なのか」
千裕が顔を歪める。
「そんなこと……」
「いい加減、現実から逃げるなよ、千裕。私の顔だって、お前は知っているんだろう?」
「やめろ、純冷!!」
千裕が叫び、そこで口を押さえた。ほらな、と純冷は言う。
飛び出た言葉こそが真実を物語っている。これまで行動を共にしたことのない純冷の名前を知っているなど、元の世界からの知り合いであるという可能性しかない。
なんで、と呟く千裕。誰も答えず、沈黙が落ちる。
「つまりな、気高き天姫さまよ、まだこいつが認めない現実を突きつけてやる必要があるんだ」
「どうやって……それに、スミレ、あなたはナリシア共々指名手配されているのよ? 中央神殿の外に出れば、安全な場所なんてないのよ?」
ナターシャの指摘に、純冷はふっと笑う。
「安全? 安全な場所など、そもそもこのアイゼリヤに存在しないだろう?」
「それは……」
「ここにいても、私たちの扱いは、ナターシャの発言一つで変わってしまうのだ。そうして、私が指名手配犯とバレて、魔王まで同行しているとなったら……どうなるのだろうな?」
挑戦的な笑みを浮かべ、純冷はナターシャを真っ直ぐに見る。ナターシャはたじろいでいるようだ。
「まあ、簡単に言うのなら、私は貴女を完全に信用していないし、貴女に実権を握られているこの状況が気に食わないのさ。それに、マイムにさえ行かなければ、別に隠れて中央神殿で過ごす必要はないからな」
ぎり、と手を握りしめ、ナターシャは悔しそうに純冷を見る。情報収集のために招いたことすら、この聡明な純冷にはバレバレということだ。
「でも、それならあなたたちはこれからどこに向かうというの?」
そう、そこが一番の問題だ。ナターシャに実権を握られていたくないというのなら、中央神殿を出て、別な場所に向かわなければならない。
だが、言うくらいなのだから、この純冷が無策なわけもない。
「なんだ、わざわざ言わないとわからないのか? 充分な説明もしたというのに」
「まあまあ、意地悪な言い方はその辺にしなよ、純冷」
昴が割って入る。それから、純冷が言わんとするところを代わりに宣告した。
「[ユーヤ]の情報を仕入れるんだから、白の街[セアラー]以外に選択肢はないと思わない?」




