第48話 デッキ譲渡
お久しぶり!
「純冷!?」
出てきた人物の姿に昴は目を見開く。
表情は見覚えのある凛々しい面差しを取り戻していたが、明らかに完全復活ではない疲労感が挙動の端々に見える。
しかし、純冷の決然とした表情は揺らがず、昴を真っ直ぐと見据えた。ちら、と下卑た笑みを浮かべるタイラントへ、鋭い一瞥を送った純冷の瞳には、焔が灯っているように見えた。
その燃えたぎる焔に宿る感情は一体何なのだろうか? 憎しみ、というほどではないにしろ、強烈な怒りの気配を感じ、矛先でないにも拘らず、昴は若干たじろいだ。
自分が出していたオーラの強烈さに気づいたのか、純冷はすまない、と少々目元を和らげ、昴に告げる。
「譬、幻影だとしても、あんなやつに弱味を利用されて負けた自分が許せない。それに、やつの手にあるのは私のデッキだ。……自分のものは、自分で取り返す」
純冷の主張に、昴には異論はなかった。しかし、
「取り戻すって言ったって、一体どうやって? 純冷のデッキを持ってるのは、あいつだよ?」
そう、どうしてタイラントなどについたかわからない、デッキ所有権の剥奪能力。爛れた手で、まさしく身を持って知った昴は、不安を隠せない。
だが、不安の色かまだ抜けない昴の瞳を純冷は真っ直ぐ射抜いた。
「……手を貸してほしい」
端的にそう告げ、純冷は昴の手を取った。
いやいや、言葉通りすぎやしないか、と昴は若干驚きつつも、純冷の行動を窺う。
「今、私は青属性のデッキ所有権を剥奪された。つまり、強引に考えれば──」
純冷がすっと昴の手からデッキを抜き取る。
「……今の私は[無属性]。デッキ所有権を剥奪されたタイラントがどの属性も使いこなせることから浮かんだ推測だが、当たりのようだ」
手にした昴の赤属性デッキに目をやり、純冷は得意げな笑みを浮かべる。
「アルーカが言っていた。最初に選んだ属性が運命になる、と。昴や、他のテイカーたちは不思議に思ったことはないか? 何故カードショップでカードを買っても、自分の属性しか出ないのか?」
思い当たった昴とアミが息を飲む。黒羽こと魔王は静かに聞いていた。他の面々は少々混乱しているようだ。
アイゼリヤには「カードゲーム」が「ブレイヴハーツ」しか存在しない。しかし、昴たちの世界は違う。
多数のカードゲームがあり、各々に属性がある。カードはパックを開けるまで何が出るかわからない。そのドキドキ感はトレーディングカードゲームの醍醐味の一つだ。
自分の使う属性なんかを決めてはいるが、望む属性がいつも出るとは限らない。所謂あぶれカードで別属性デッキを作成、なんて例は多々あるし、混合属性なんてものも存在したりする。
しかし、アイゼリヤにはそれがない。
昴は赤属性、アミは黄属性のカードしか手にしたことがない。偶然にしてはあまりにできすぎている。まあ、アイゼリヤ側の人々にとってはそれが普通であるから、不思議とは思わなかっただろう。
昴も薄々不自然とは感じていた。最初の頃なんかは他属性はどんなのだろう、とかウキウキしながらパックを開けたものだ。
だが、アイゼリヤに来てから、赤属性以外引いたことがない。
つまりはこれがアルーカの言っていた[運命]。
カードゲームとしての面白味は少々欠けるが。
「まあ、今は運命どうこうはどうでもいい。昴、お前のデッキ、借りてもいいか? いや、違うな。
──私と一緒に、戦ってくれ」
純冷の強さは、昴が身をもって実感している。
敵となると手強いが、これ以上となく、心強い味方だ。
迷いなく頷く。
「うん、一緒に戦おう!!」
昴が同意を示した瞬間、純冷の手の中の昴のデッキが炎のような赤い輝きを放つ。その赤は純冷の全身を柔らかく覆った。
現象の意味がわからず目を白黒させる昴たちの中で、ぽつりとナターシャが呟く。
「デッキの所有権の譲渡、ですって……!?」
アイゼリヤの管理者に近い天使のナターシャは現象を理解したらしいが信じがたいようだ。
まあ言葉から察するに、昴のデッキを純冷が使えるようになったことを示すのだろう。
昴と純冷は不可解な現象よりも、今は倒すべき敵を見据えた。
「純冷、策はあるの?」
「もちろん。あれは私のデッキだ。自分のデッキのことは自分が一番理解している。もちろん、弱点も、な」
口角を上げ、不敵に笑む純冷に昴も闘志を燃やした瞳で頷く。
そのやりとりをタイラントは鼻であしらった。
「ふん、自分の属性でもない、初めて使うデッキで吾輩に刃向かうなど笑止千万」
「……伊達に進学校通ってる頭じゃないんだ。鍔樹の遊び相手だって、十年以上している。
初めて扱う属性だから弱いなんて世迷い言は、勝ってから言え」
「小童がっ!」
純冷の挑発にタイラントが唾を吐き捨てる。純冷と昴は息の合ったようにぴったりと、同時にタイラントを嘲った。
純冷がデッキを構え、不敵に告げる。
「私を[小童]なんて呼んでいるうちはお前の言うこと成すことは全て寝言と変わらない」
「何っ!?」
「だね」
絶妙な間合いで昴がクスクスと合いの手を入れる。
動じるばかりのタイラントなどお構い無しに、純冷は唱えた。
「スタンバイ」
いつの間にか消えていた対戦テーブルが、純冷とタイラント、それぞれの前に現れる。
戦いの火蓋が、切って落とされた。
「Brave Hearts,Ready?」
「「GO!!」」




