第47話 勝負の行方、そして
ドローコマンド。二枚目のコマンドが出たため、パワー合計値は34000対34000。同じパワーの場合は攻撃が通る。
更に今、攻撃側の[異形の狂戦士 ゼウス]はクリティカルもプラスされている。昴のダメージは3。この攻撃を受けることで一気にダメージは5となり、昴の敗北だ。
助かる方法があるとすれば、二回あるダメージコマンドだ。そこで一枚でもヒーリングコマンドを引ければ、乗り切ることができる。
しかし、ヒーリングコマンドは──昴はダメージゾーンの三枚目を見る──先程のチェックで出たばかりだ。
「ダメージコマンドチェック」
一枚目を開ける。[エッジスナイプドラゴン]。コマンドではない。
リーチがかかった。
昴は、数分前に啖呵を切ったことを思い出す。タイラントと戦って、純冷のデッキを取り戻さなきゃいけないのに。
こんなところで終われるか!
意を決し、昴は二枚目を開いた。
「昴!」
アミが悲鳴のような声を上げる。昴は思わず閉じていた目を恐る恐る開いた。自分は、何を引いたのだろうか。
目を開くと向こう側で、何か満足げなアルセウスの顔。
カードをめくった右手に視線を落とすと。
「[炎霊 ほむら]……?」
体の透けた小さな女の子のイラスト。間違いなく、[炎霊 ほむら]──ヒーリングコマンドだった。
「!! ダメージを一枚回復、センターにパワーを!!」
信じられないといった面持ちで、昴はコマンドを割り振った。
「見事だよ。ターンエンドだ」
アルセウスは何故か嬉しそうにターンを昴に渡した。
「ターンアップ、ドロー!」
昴は展開はせず、そのままバトルシーンへ移行した。
アルセウスの手札は三枚。うち二枚は先程のコマンドチェックで引いたクリティカルコマンド[フレイムサラマンドラ]と[異形の悪鬼 ハデス]である。残る一枚のシェルター値はわからないが、少なくとも、アルセウスは昴の攻撃を一度は止められるはずである。
アルセウスのダメージは4。一度でも攻撃を通せれば昴の勝利だ。
「[ブレイクフレア]で攻撃!」
「ハデス、サラマンドラでシェルター」
「シドナラク!」
「アフロディテとガイア!」
アルセウスの手札が空になる。さあ、最後の一手だ。
「BURN、行け!!」
炎竜が飛び立ち、咆哮する。
「アンシェルター」
異形の竜人に向け、炎を噴き出した。異形たちが炎に包まれる。
アルセウスのダメージコマンドは。
アルセウスがデッキから一枚取り、まじまじと見つめる。ほんのりと苦みを帯びた笑みを浮かべ、公開したそのカードは。
[異形の悪鬼 ハデス]
「見事だよ」
その笑みに昴も笑顔で応えた。
「ありがとうございました!! アドム!」
異形の獣人もまた、炎に呑まれた。
炎の消えた後、アルセウスの前には昴が立っていた。
す、と差し出された手をアルセウスは不思議そうに見つめる。
「ありがとうございました。あなたとのブレイブハーツ、すっごく楽しかった」
アルセウスは一瞬目を見開き、自分の人間の手と昴の笑顔を交互に見る。──握手を求められたのなど、いつ以来だろうか。
アルセウスは口元を優しく綻ばせ、その手を取った。
「おれも、楽しかったぜ。やるな、小僧」
「わ、そう呼ぶって知ってたけど、やっぱ実際呼ばれるのやだ! 俺、紅月 昴。名前で呼んでよ」
おう、と応じ、その名を呼ぼうとして、アルセウスは固まった。
かちり、と歯車が噛み合う音が聞こえた気がした。
「なんでお前がここにいる!?」
驚愕に満ちた声でアルセウスは叫んだ。がっしりとした手が昴の肩を揺する。
アルセウスの中で、ゲーム中に覚えていた既視感の正体がわかったのだ。昴はある人物にあまりに似すぎていた。故に、信じられなかったのだ。
「お前は赤の」
しかし、告げようとした言葉は不自然に途切れた。
アルセウスの胸を氷の剣が貫いていた。
「なっ!?」
ごぽりと赤いものをこぼす異形の獣人の後ろには、氷の剣を持つ老齢の人間──アグリアル・タイラントがいた。
「役立たずの忌々しい異形めが。負けたばかりか余計なことまで口にしようとするとは。もう要らぬ。失せよ」
乱雑に剣を振り払う。アルセウスの体がとさりと、いつの間にか城の中の光景に戻っていた床に打ち付けられる。
あまりの出来事に周囲がついていけない中、タイラントは氷の剣をしげしげと眺めて嘯く。
「うむ、青の魔法も悪くないな」
その一言に昴の頭に血が上った。
「タイラント!」
昴はその襟首を掴まえ、持ち上げて怒鳴り付ける。
「何故こんなことをした? ゼウスが何をしたっていうんだ!」
「何もかにも、こやつは負けたではないか。その上、この醜い見てくれで、我輩に今まで生かされていたことを感謝してほしいものだ。こやつは強くて良い門番じゃったが、小童ごときに負けるようでは話にならん。要らんから捨てた。何かおかしなことでもあったか?」
「人を物みたいに……!」
「人? こやつがか?」
昴の反論をタイラントは鼻で笑った。
「人というのは[人間]のことを指すんじゃよ。獣人、竜人、エルフにドワーフ……アイゼリヤには様々な種族が存在しておるが、どれも半端に人間の形を取った人間ではない、気味の悪い生き物じゃ! 人間以外を尊ぶ必要がどこにある?」
タイラントの哄笑が場に轟く。
「その中でも見てみろ、こやつは異形だぞ? 同族にすら見放された異端。なんと滑稽な生き物か。見世物小屋に入れられるところを我輩が買ってやり、長年使ってやった。普通、こやつの状況ではあり得ぬほどの施しを与えてやったのだ。充分すぎるではないか」
ぎり、と昴は拳を握りしめた。しかしそれを振るうことはなく、タイラントを下ろした。
代わり、怒りに燃え立つ焔を灯した目でタイラントを見据える。
「もういい。……俺が今すべきことは、ブレイブハーツであんたを倒すことだ」
昴は軽く後ろに振り向き、ターシャにアルセウスの回復を頼んだ。
「くくっ、小童ごときが、我輩に敵うと思うてか」
デッキを握り、スタンバイ、と唱えようとした昴を、後ろから伸びてきた手が止める。
予期せぬ制止に振り向くと。
「その役目、私に譲ってくれ、昴」
純冷が目に確かな焔を灯して立っていた。




