第42話 探索の先に
昴は地面……というか建物の中なので床、の固い感触を確かめ、ほっと一息吐く。背中に裕弥がいるのを確認してから、他の面々に目を向けた。
尻餅をついたらしいアミがぶつくさと何やら言っている。おそらくモリさんに対する文句だろう。目が半眼だが、手はしっかりとハンナを抱きしめたまま。いくらか可愛げがある。
そんなアミの向こう側にはサバーニャべしゃっと床とキスしていた。「うにゃ」という呻きが切ない。
一方、視線を大きく振ると、魔王もとい黒羽が瞑目し、腕を組んだ状態で壁に寄りかかっていた。貫禄というか、余裕というか。転移にはかなり慣れているのだろう。
すまし顔の黒羽の足元でシエロが踞っている。漏れ聞こえる声色は低く、怨嗟を含んでいるように思えた。「モリの野郎……」と呟いているあたり、アミと同様、文句なのだろう。
ともあれ、全員無事に転移できたようだ。ここがどこだかわからないのだが。
昴は先程とは別の目的で辺りに目を配る。
高級感のあるクリーム色の壁、赤いカーペット。壁には所々凝った装飾が施されている。鎧姿の騎士シエロがいても違和感のない様相だ。城だろうか。
ずり、と落ちかけた裕弥を負い直して、昴は一同に歩み寄る。
「ここ、どこだろうね」
誰にともなく放った問いに恨み言を吐き続けていた二人が立ち上がる。
「オールじゃないの? でなかったら詐欺だわ」
「モリの野郎、厄介なとこに飛ばしやがって」
昴はシエロの台詞の方に反応した。
「シエロはここがどこかわかるの?」
「いや……ただ」
「無数の魔力の気配がする。オレも知っているものだ」
シエロの言葉を次いだのは黒羽、というか魔王だった。
魔王が知っている魔力の気配。
まさか。
「ナルとターシャ、だろうな」
昴の思考を読んだようにシエロが告げる。昴は目をきらきら輝かせた。
「ええっ! あの二人がここにいるの? すごい、探そう!」
「おい」
警戒心はないのか、とぼやくシエロにアミは呆れ顔で宣告する。
「あいつ、[ブレイブハーツ馬鹿]だから。二重の意味で」
「は……?」
シエロは意味がわからずアミを見るが、アミは浮かれ気味に廊下を駆け出す昴を追いかけていた。──二重とはどういう意味だろうか。
「考えても仕方あるまいよ。オレたちはそこへ行くべきだ。行くぞ。……立てるか、獣人」
魔王が壁から離れ、まだ立ち直っていないサバーニャに手を貸す。サバーニャは魔王を嫌ってか、その手をぱしんと払った。
腑に落ちない部分はあるが、シエロも昴たちを追って歩き始めた。
探索し、この建物についてわかったことがいくつかある。
一つはここが二階らしいこと。窓からの景色でわかった。外の景色でここがどこかを断定することはできなかったが……窓から覗いただけでは断定まではできないが、大体昴が想像したとおり、ここは城のような建造物であるようだ。三階以上はある豪奢な建物だ。
また、部屋がいくつもあるが、誰も使っていないらしいこともわかった。綺麗に掃除はされているが、どこも使用感がない。しかもかなり歩き回ったが、誰とも出会さなかった。
それと、問題なのが。
「階段がないな」
シエロがこぼしたこの一言である。
ここは二階であるはずだし、上の階もある。だが、いくら探しても階段が見つからない。
よくわからない城で迷子、だろうか……
「いや、俺、このマップ知ってる……」
昴は遠い記憶を手繰り寄せる。もちろんここはアイゼリヤなのだから、ブレイブハーツのマップだ。街マップではなく、建物、あるいはダンジョン……
だが、城というと獣人国の王城しか思い浮かばない。獣人国の王はあまり贅沢を好まない人物だったはず。ここまであからさまな豪華仕様の城ではなかった。
ん、獣人国? 豪華な城?
「そうだ! アグリアル・タイラント!」
昴の挙げた名にシエロがぎょっとする。直後にその表情はげんなりしたものに変わったが。
「あいつかよ……」
「いる?」
「確かに近くにやつの魔力を感じる。覚えがあると思ったら……」
嫌そうな顔をするシエロ。無理もない。シエロの属していた獣人国とは因縁浅からぬ人物である。
だが、この城の持ち主が中にいるとわかった今、その人物の元に向かうのがいいだろう。
「そこに魔力の気配が全員集っているぞ」
シエロが顔をしかめて捕捉する。なんとなく昴が予感していたとおりだった。そこに行かなければならない。
「その魔力の集っているところって」
「だから、そこだ」
シエロが示したのは本当にすぐそこ。何もない通路だが。
「シャホール」
「え?」
静かに紡がれた呪文が、その場所を破壊する。がらがらと崩れたのは壁でも床でもなく、空間だった。
崩れた空間の先には全く違う景色。
昴とアミは特に絶句した。そこに広がる風景は、どこか見たことのあるものだったから。
川があり、土手を挟んで民家が建ち並んでいる。住宅街の向こうにはちらほらと高層建造物の姿も見えた。元の世界の街だ。
土手の上に誰かいるようだが、それよりも目を奪われるものがあった。
昴とアミ、二人が思わず息を飲んだのは。
ごうごうと街が燃え盛っていたこと。
ブレイブハーツの魔法で擬似的に作られた景色なのだろう。
昴はかろうじてそこまで理解できた。
しかし、他の現象は信じられないことばかり。
「アドム、アドム、アドム!」
愉しげに赤の魔法を唱える初老の男。おそらく彼がタイラントだろう。手札を持っているのと、テーブルが目の前にあることから、誰かと対戦していたことがわかる。
その誰か──タイラントの向かい側のテーブルではブレザー姿の人物が項垂れていた。
昴はその人物の名を知っていた。それだけに、今のこの現状が信じられなかった。
「純冷……?」
名を呼ぶ声に反応はない。
青木 純冷は敗北していた。
どうしてこうなってしまったんだろう……?
カードシーン……カードシーンが書きたい……




