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Brave Hearts  作者: 九JACK
黄の街オール編
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第38話 思惑

 アリが言った、にはちがいないが。

「アリ?」

 雰囲気が違う。触れたら壊れそうな儚さが薄れ、確固たる意志を感じさせる真っ直ぐな眼差しがあった。ぽそぽそと喋っていたときとはまるで別人のようなはきはきとした声音。

「アリ、なのか?」

「そうであり、そうではありません」

 わけのわからない返答が本人の口から返ってきた。

 胡乱げに見つめる純冷にアリは続ける。

「アリシア・ナジェリは精霊の巫女。その身に精霊を宿す巫女。あたしはそんな精霊の一部」

 [精霊の巫女]。その単語に純冷の眉がぴくりと跳ねた。ナリシアと戦った際に確認したことだが、純冷のデッキには[精霊の巫女 アリシア]というアーミーがいる。そのときアリ自身の肩書きも[精霊の巫女]であることを知らされていた。

 色々と疑問点はあるが、今は元の話を進めよう。

「それで、ブレイブハーツの魔法が普通の魔法と違うとはどういうことだ?」

「スミレ様がその魔法を使えるということでおわかりかと思いますが、[魔力を利用して成す術]が魔法の定義であるなら、あれは魔法ではありません。あれは魔力ではなく、[願う力]から成される術なのです」

「願う力?」

 ナリシアはいまいちぴんとこない様子だが、純冷はブレイブハーツウォーズのルールを思い出す。

 終わらせた者は一つ願いが叶えられる。

 己の願いを叶えんがためにこの戦いは繰り広げられている。願いの力とはそこから生まれるものではないか?

「願いの力とは、願いを叶えたいと思う心の力──か?」

「そのとおりです、スミレ様」

 様付けがむず痒いが、有益な情報だった。

「ブレイブハーツという名にも意味があるのです。[Brave Hearts]とは[勇気ある心]。この戦いは、人々の[心]が試されているのです」

 未だに疑問符の取れないナリシアにアリは一つ指を立てる。

「例えば、あなたの[妹を守りたい]という願い」

「っ!!」

 ナリシアに動揺が走る。妹本人に指摘されたのだから仕方あるまい。

 アリは次いで純冷を見る。

「あなたの[弟を守りたい]という願い」

 純冷の動揺も少なくなかった。

 見据えるアリの瞳はただただ黒い。

「様々な願いの交錯、祈りの連鎖がアイゼリヤの戦いを形作っています。

 アドム、カホール、ツァホーヴ、ラヴァン、シャホール。この五つの魔法は姫巫女ヘレナが独自に生み出した新たなもの。ヘレナは並行世界管理の要。故にこれまでたくさんの異世界を見てきたはずです。スミレ様のいた世界には殊更感化されていたのではないでしょうか。

 それゆえに、スミレ様たち──異世界人に使いやすい新たな術を生み出し、異世界人に助けを求めたのでしょう」

 それではまるで。

「ヘレナ姫は異世界人を召喚することを前提にブレイブハーツを作った、のか?」

 純冷の推測にアリは悲しげに眉をひそめた。曖昧に首を振る。

「正確なことはわかりません。ヘレナに悪意があるのかないのか、気持ちというのは本人にしかわからないものです。

 けれど、一連のことから、一つだけわかることがあります」

 わかること? と純冷は首を傾げる。ナリシアを見ると彼もわからないらしい。

 が。

「……ヘレナ姫はどうあれ、この戦争にかこつけて、世界を滅茶苦茶にしようとしているやつらのことね」

 そう答えたのは、ナリシアの腕からむくりと起き上がったターシャだった。



「世界を滅茶苦茶に?」

 起き上がったターシャに純冷はおうむ返しに訊ねた。ターシャはゆるりと頷き、悔しげな表情で答える。

「口に出してまとめてみるまで気づかなかったわ。おかしいじゃない。[何故賢王がホシェフに行ったのかわからない]なんて」

 ターシャの発言に純冷はこれまでの話を振り返ってみる。

 魔王侵攻が収まり、賢王はアイゼリヤの北部に魔王を招いた。

 けれど竜国がそれを承服せず、北部──現在のホシェフに攻め入ろうとして、進路上の中央神殿とぶつかったのが戦争の発端。獣人国が止めに入るも泥沼化。

 そんな最中、アイゼリヤの異変を察知した魔王がアイゼリヤの地に踏み込む。そのことを知った何者かが賢王に進言し、魔王のいるホシェフへと向かわせた。

 確かに、不明瞭だ。一体[誰が]賢王を魔王の元へ向かわせたのか。まだ推測の段階で、決定的な根拠は何もないが、何か不穏なものを感じる。

「ホシェフに行かなければ、賢王は死ななかったわ。賢王が死ななければ、アイゼリヤはもう少しましな状態を保てたと思うの。

 ……わたしの憶測だけれどね。裏でてぐすねを引いている誰かが()()()()()()消したのかもしれない」

 聞いていた中で、世界をどうにかしたいのなら、各国の長の中で最も影響力のある賢王は確かに邪魔だろう。

「だが、賢王をわざわざ魔王にぶつける必要はあったのか?」

「大アリよ。魔王に手を下させれば、魔王も使いものにならなくなる」

 つまり、魔王の存在も邪魔だったのか。

 そこまで考えているのだとしたら、そいつは狡猾──

「いや、狡猾まではいかないか。姑息なだけだ」

 純冷がそんな呟きを発した瞬間。

 ドカァンッ

 部屋の壁が吹き飛んだ。ターシャが蒼白になる。

「な、なんでここの結界が破られたの?」

「隙を突かれたみたいだね」

 ナリシアの指摘にターシャと純冷は同時に気づく。

 おそらく、先程までターシャが気絶していた影響だ。それぞれに気まずそうな雰囲気が漂う。

 壁が砕かれ、ものものしい音がしたが、結界だからなのか実際の被害はなく、普通の薄暗い裏路地のような空間に純冷たちはいた。

「意外と質素なところで生活してんのな、天使サマって」

 知らない男の声に純冷が目を向けると、ばかでかいハンマーを携えた獣人がいた。




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