第29話 合流
「く、うぅぅ……」
黒い触手に締め付けられ、アミが苦鳴を上げる。ほどなくして触手は消えたが、手足にはくっきり締め付けられた跡が残っていた。
「けほっけほっ」
「アミ、大丈夫!?」
崩れ落ちたアミ。心配してサバーニャが駆け寄る。
「んなわけあるかど阿呆!!」
……と、アミは勢いよくサバーニャにアッパーを食らわせる。色々とあんまりな不意討ちにサバーニャは「ふにゃっ!?」と吹き飛ばされた。
「うう、気持ち悪かった。何あの触手。触手ってだけで気持ち悪い。カードもそうだけど、黒属性って趣味悪いわね」
「そうですか? おじさん的にはアンデッドはキタコレ! なんですが」
「おじさん言う割に現代人の言葉使うわよね……」
自分より背の低い自称おじさんのモリさんにアミは若干引く。
そんなことより、とモリさんは人差し指を立てアミを叱る。
「駄目でしょう、お仲間さんを殴り飛ばしちゃ。元気なのはいいことですが、大切な情報屋さんです」
「う、そのとおりだけど……」
「それと、ここはおじさんの管理する墓場です。勝手に荒らしてはいけません。だからさっきのはお仕置きです」
荒らし……アミは自分のツァホーヴを思い出し、苦虫を噛み潰す。ゲームが終わり、元の景色に戻ったが、辺りは変わらず焦土。墓地と言われたこともあり、さすがに反省する。
「ごめんなさい」
「はい、素直な子はおじさん大好きです」
「自称おじさんに大好きとか言われると鳥肌が立つ!」
「……素直すぎるとおじさんちょっと傷つきます」
しょんぼりするモリさん。白髪が赤い右目を隠した。
そこでモリさんの顔をまじまじと見、アミは眉をひそめる。
「モリさんってこんな容姿設定だったかしら?」
記憶を探るが、アミはブレイブハーツをさらっと一周しただけである。一人一人の容姿などきちんと覚えていない。メインキャラクターの英雄騎士シエロの姿すら覚えていないくらいだ。
アミの記憶力は悪くはないのだが、覚え方が少々特殊で、その人物の仕種、言い回し、周囲の状況やエピソードなどで覚える。故にモリさんも話しているうちにわかったわけだが。
「墓守には決まった容姿などない」
聞いたことのない少年の声が介入してきた。声の亡に向くと黒いマントを纏った見覚えのない少年と、探し人のうち二人。
「昴! 裕弥!」
「アミ! 無事だった……その赤い腫れは?」
「ちなみに今は俺、千裕な」
昴と裕弥(千裕)がそれぞれ答える。
昴の問いかけには穏やかな笑みを浮かべてモリさんが応じる。
「それはですね、先程おじさんが住処を荒らされたのでお仕置きしたところです」
「遅かったか……」
黒マントの少年ががっくり項垂れる。
「わあっ、モリさん? 貴方本物のモリさんですかっ?」
「んー? おじさんに本物も偽物もありませんよ? はい、おじさんがモリさんです」
「わあぁぁぁっ、本当に会えるなんて! 思ってなかった! すっごい嬉しい! 握手してください!!」
「う、うん……」
昴のハイテンションにさすがのモリさんもちょっと引いていた。
しかし昴……初見でモリさんと見抜くとは、カードゲームだけでなく、そっちのブレイブハーツ馬鹿でもあったらしい。
「で、アミは一体何を?」
「ツァホーヴでね、この辺一帯を焼け野原にしちゃったの。やんちゃなお嬢さんですねぇ」
「や、焼け野原……」
千裕が顔をひきつらせる。見渡せば、所々草の焦げ跡が残っていた。
「それで昴、そいつ誰?」
バツが悪くなり、アミは話を反らす。黒マントの少年を示すと昴は満面笑顔で告げた。
「この人はアイゼリヤにおける[黒の王]──またの名を[魔王]。であり、黒羽っていう俺たちと同じく召喚されたテイカーの一人だよ」
「なんですって!?」
アミよりも早く反応したのは、アミに吹き飛ばされたのから復活したサバーニャだった。
黒マントの少年を一睨み、威嚇する。
「こいつが、かつてヘレナさまを拐った……」
「サ、サバーニャ? 落ち着いて」
昴が間に入る。しかし、サバーニャが殺気を収める様子はない。
黒の王は無感動にサバーニャを見つめ、ふいっと視線を外した。
「魔王、あんたはシエロさまたちに倒されたはずでしょう? なんで生きてるの!?」
「オマエは何か勘違いしているようだが、オレを阻んだ勇気ある者たちはオレを[倒した]のではない。アイゼリヤを守るためにオレを[説得した]のだ。そしてオレはそれに[納得した]だけ。死んでなどいない」
「そもそも魔王とは永久不滅の存在ですから、死んだらおかしいんですよ」
モリさんが黒の王の言葉に重ねて説明する。
「まあ、[魔王]の真の存在理由を知る者は少ない。知らぬのも無理からぬことだ」
「そんなあんたが、今度はアイゼリヤに何する気!?」
毛を逆立てて猫のように警戒する(いや、事実猫獣人だが)サバーニャを昴がまあまあと宥める。
「しかし、遅かったか。オレがもう少し正気を保っていられたら、間に合ったかもしれない」
「そう重く考えないでください、魔王くん。ここの管理はこの墓守のモリさんのお仕事です。今の魔王くんは何かと不自由な身なのですから、まずはそちらを片付けましょう」
二人の会話に今度は何故かアミが苛立つ。
「ちょっと、二人だけで話を進めないでくれる? こっちは何もわかんないの。しかもそいつが魔王で異世界からのテイカーって、わけがわからないわ。さっさと説明してよね」
横柄。
場の誰もがそう思った。
けれど、色々と説明すべきなのは確かだ。そう気を取り直して昴が語り始める。
「モリさんを知ってたってことは、アミ、魔王のことは当然知ってるよね?」
「ええ。ブレイブハーツのラスボスでしょ?」
「じゃあ、アミはクリア後の隠しシナリオはやった?」
「何それ?」
「なるほど」
昴はアミの返答にこの先の説明を考え、続けた。
「魔王には魔王としての特別な役割があって、あの騒動を起こした。隠しシナリオをクリアするとそれは明らかになるんだけど、あまり人々に知られてはいけないことらしいから説明は省くよ。で、今回の[ブレイブハーツウォーズ]が始まってから、またその役割を果たさなきゃならなくなったから魔王は再びアイゼリヤにやってきた。ブレイブハーツウォーズを終わらせようと思ったけれど……巻き込まれたんだ」
「巻き込まれた?」
サバーニャが胡乱げな声を上げる。アミが一睨みすると萎縮して縮こまったが。
昴は続けた。
「俺たちと同じようにヘレナ姫に召喚された黒羽って男の子と魔王の魂が召喚術の副作用で引っ付いちゃって、魔王もブレイブハーツウォーズに参加するしか手がなくなったんだ」
「魂が引っ付いた、ね……」
アミが考え込む。ちらりと千裕を見やった。
「魔王とその黒羽って子の人格が共存してるって感じかしら?」
「うん」
アミは少し躊躇った後、千裕に向かい告げた。
「裕弥と千裕も、そういう感じなのかもね」
「そんなわけ……!」
「可能性の一つよ。あんたたちが記憶を取り戻せば全部わかるわ。それはいいのよ、それは。それよりも今、あたしたちには他に片付けなきゃならない問題がある」
「えっ?」
その場の誰もが虚を衝かれる。アミは宣告した。確かに、ある意味今深刻な問題を。
「ハンナはどこに行ったのかしら?」




