第28話 墓守のモリさん
アミは元の世界でもアイドルだった。ブレイブハーツが発売されたあたりにデビューをしている。
彼女はブレイブハーツの制作に一部携わっている。というのも、ブレイブハーツのテーマソングを歌ったのだ。まだ無名のアミが歌ったあの曲は今や誰もが知る名曲となっている。
まあ、そんなわけで、アミはゲーム制作に携わった者としてブレイブハーツのソフトをもらったのだ。
アミは幼い頃からアイドルだったため、テレビゲームなどやる暇はなかったし、あまり興味もなかった。だが、ブレイブハーツが爆発的な人気となったため、話題に乗るためにプレイしてみることにした。
勇者が魔王を倒す──ありふれたストーリーのRPGだったが、キャラクターデザイン、背景グラフィックス、キャスト、そのどれを取っても秀逸な作品だった。興味のなかったアミがどはまりしそうだったくらいだ。
と、それはいいのだが。
魔王と友達。
……とか言う目の前のこいつは一体何なんだ!?
いや、待て。
「魔王の友達で墓守……?」
何か聞いたことある。
ブレイブハーツにおける何かと重要人物。
「墓守の……モリさん!!」
「おお、ご名答。こんな可愛らしいお嬢さんがおじさんの名前知ってるなんて世も捨てたもんじゃないね」
その一人称[おじさん]というのはどうにかならないのか。
お世辞は完全スルーでアミが半眼になる。
胡散臭いが、確かに墓守のモリさんという人物はこんな感じだった。
「え、アミ? あなた知ってたの?」
サバーニャも驚いている。仕方ないだろう。
「墓守のモリさんはアイゼリヤの北部地方の墓地に住んでいてそこから滅多なことじゃ出てこない。故にアイゼリヤの住人ですらその存在を知らない者の方が多いっていう人物よね」
「おお、おじさんそんなに有名人ですか、ちょっと嬉しいです」
「いや、有名じゃないって言ってんのよ」
ばっさり斬るアミ。墓守のモリさんは少ししょんぼりしたようだ。
一方サバーニャはアミの解説に驚いた。情報屋の自分より詳しいかもしれない。
「驚いた。アミがモリさんを知ってるなんて」
「まあ、元の世界のゲームとリンクしてるからね。ここ」
モリさんといえば、勇者がラスボスのところに向かう際案内として現れた謎人物だ。そのとき魔王の友達だとも話していた。
「けれど、私を知っているということは危険ですね。あれに関わっているということだ」
「……あれ?」
何を指しているのだろうか。
しかしそこからは答えず、モリさんはターンを進める。
「さて、バトルシーンに移りましょう。moriticianはベリアルクロウのアビリティにより3000パワーアップ、更に自身の能力を発動。墓場にいる黒属性のカードの数だけパワーが2000ずつ上がります」
今モリさんのダウンチャームにあるのはエボルブによって送られた先のセンター[墓守]と手札から捨てた一枚。合計二枚×2000でパワープラス4000。
序盤だからわざわざシェルターする必要はないが、これは後々厄介な能力だ。条件の中のカードは[黒属性]という指定だけ。ブレイブハーツで混色デッキを使う者は見かけない。すると当然この人物も黒属性単色デッキなのだろう。
リバースバックアップだろうと、フィールドだろうと手札だろうと、破壊されればダウンチャーム行き。フィールドの効果のように任意で送る方法もあるようだし、何よりシェルターに使ったカードはダウンチャームに送られる。
しかもアミの使う黄属性は破壊特化。敵センターの強化を手助けしてしまう。
だが。
「それがどうしたっていうのよ?」
アミは屈するどころかその瞳に炎を灯した。
「上等じゃない。全部完膚なきまでに破壊しつくしてやるわ!」
アミに再びターンが回る。
「ターンアップ、ドロー。[光の加護]のアビリティ発動!」
山札の上五枚を公開。出てきたのは[大天使 ミカエル][大天使 ガブリエル][疾き翼 ゾフィエル][暁の子 ルシフェル][仮面の道化師 アザゼル]──全て天使アーミーである。
「このフィールドの能力はね、公開した五枚の中の天使アーミーの数だけ相手のカードを破壊できるの。破壊に指定できる相手のカードってのはね、サイドやアブソープション、フィールド、バックアップに限らず、山札とか……手札でもオッケーなの」
にやり。アミがいい笑顔を浮かべる。
「というわけで、あんたの手札、全部破壊☆」
アミの宣言に応じ、五人の天使が舞い降りる。その羽ばたきが突風を起こし、モリさんの手札を全て吹き飛ばす。モリさんの手札はちょうど五枚。すっからかんである。
「……鬼……」
味方であるはずのサバーニャさえ、思わずそんな一言をこぼした。
やられた本人は感心している。
「いやぁ、凄まじいまでの一撃。おじさんの手札をすっからかんにしただけでなく、自陣を一発で整えますか。いやぁ、見事としか言いようがない」
サバーニャがはっと気づき、唖然とする。公開された五体のアーミーは皆センターの下に集い、並び立っていた。これも光の加護。破壊に成功した枚数だけそのままアドベントできる。
空きサークルが僅か一手で埋まった。
「しかし、五枚が五枚とも望むカードで出揃うとは、相当な運の持ち主だ」
「運? まあ、確かにそうとも言えるわね。これは起こるべくして起こった偶然だわ」
「んん?」
アミの物言いにモリさんが疑問符を浮かべる。
「起こるべくして起こった? 必然ではなく偶然、と」
「ええ。あたしの今のデッキは天使アーミーとヒューマンアーミー、三枚のフィールドで構成されているわ」
フィールドは元々、一つのデッキに三枚までしか入れられないルールである。
それはいいとして。
「今回は偶然、残り二枚のフィールドと残り三枚のヒューマンアーミーが出てこなかっただけ。だから一体も欠かすことなくアドベントできた。ね? 起こるべくして起こった偶然、でしょ?」
偶然、の部分をアミはわざわざ強調したが。
それ偶然じゃないから! ただ詰んでいるだけだから! ……とサバーニャは猛烈に突っ込みたかった。
しかし、説明を受けたモリさんがなるほどなどと抜かすので気が抜ける。
「さあ、あたしの可愛い天使さんたち、敵のゾンビをフルボッコにしてきてちょうだい」
バトルシーン、天使たちがそれぞれ攻撃にかかる。アザゼルがガブリエルに仮面から放出した魔力を送り、ミカエルはルシフェルから投げつけられた剣をぱしっと受け止め──ちなみに受け止められなかったら、確実に心臓直撃だったように思う──センターはゾフィエルの風による後押しでパロエと共に突き進む。
そのとき。
閃光が場の全員の目をやく。
「リバースバックアップ、オープンですよ」
モリさんののほほんとした声が宣告した。
「奴隷アーミーの[ミイラ盗り]さんです。オープン条件は手札0の状態でセンターが攻撃されたとき、です」
[ミイラ盗り]と呼ばれたアーミーが姿を現す。というか、ガブリエルの攻撃が薄汚れた包帯の壁に阻まれていた。
ガブリエルが怪訝そうな面持ちで攻撃を収めると、包帯がしゅるしゅるとその持ち主の下へ巻き戻っていく。その先にいたのは……ミイラだった。
全身ぐるぐる包帯巻きのミイラだった。
アミはそのアーミーの名前を思い出して顔を引きつらせる。[ミイラ盗り]、だったわよね。
どんな洒落だ。
「はい、ミイラ盗りさんは手札がないおじさんのために一度だけ攻撃を無効にしてくれます。なので、ガブリエルとアザゼルの連携攻撃は水の泡、ということになりますね」
「なんかその言い方むかつく」
「で、ミイラ盗りさんはそのまま呼ばれるでもなく去るでもなく、またリバースバックアップに戻るのでした」
「はぁっ!?」
アミのがなり声にサバーニャが眉をひくつかせる。アミはもう、自分がアイドルであることを忘れているんじゃなかろうか。
けれど、アミがそうなるのも仕方ない。ミイラ盗りがリバースバックアップに戻るということは、また同じアビリティで攻撃を防がれてしまう。
緊張感漂う場に当事者であるはずのモリさんの声が、やはりのほほんと響く。
「そう警戒しないでください。ミイラ盗りさんのこの能力はターンにつき一回しか発動できません」
だとしても警戒するがな! と心中で盛大な突っ込みを入れつつ、アミはLightningの攻撃のコマンドチェックを行う。
「[煉獄の番人 ウリエル]──クリティカルコマンドよ」
Lightningが2ダメージ。更にパワーアップしたミカエルが1ダメージ加え、モリさんのダメージはあっという間に4。モリさんはヒーリングやドローなどめぼしいコマンドも引けず、手札0、ダメージはリーチという状況でターンが回ってくる。
「わぁ、ピンチですねぇ」
言う割、声は呑気なままだ。
「余裕ね」
「大人ですから。伊達に長生きしてませんよ」
アミの地雷を平気で踏み抜く自称[おじさん]にサバーニャは呆れると同時、苦々しい表情になる。モリさんの実年齢を知っているが故。
「けれど、色々、このドローにかかっているでしょうね。これでも緊張しているんですよ? でもまあ、進めましょう。──ターンアップ、ドロー」
モリさんは引いた手札をまじまじと見つめる──こともなく、即捨てる。
「フィールド[墓場の月夜]のマニュアルアビリティで一枚捨て、二枚ドローです」
がくり。アミがずっこけた。「このドローで自分の勝敗が〜」というようなことを言ったのに、舌の根も乾かぬ内にフィールド効果で手札交換とは。いや、その能力を忘れていた自分も自分だが、しかし、おいおいと思わずにはいられない。
再び能力発動、一枚捨て、二枚引く。その動作を三回ほど繰り返し、モリさんはふむふむと頷いた。
「では、バトルシーンに移りましょう」
絶体絶命のピンチの割に展開しないモリさんに驚くアミ。手札交換能力をマニュアルなのをいいことに何度も使うから、手札を整えているのだと思っていたが。
「では、攻撃です。このとき、moriticianのアビリティ発動。墓場の黒属性の数だけパワーアップ」
現在のダウンチャームの枚数はなんと十一枚。11×2000で22000パワーがプラスされる。
単体パワーが凄まじいことになっている。が、アミの脅威ではなかった。アミはまだ1ダメージ。受けても支障はない。
「アンシェルター」
「ではコマンドチェック。クリティカルコマンドですね」
「くっ」
2ダメージ、3ダメージ目が入る。ふぅ、とアミが息を吐くが。
「ダウンチャームの墓守のアビリティ。センターのバトル終了時に手札を三枚破棄することでセンターにエボルブします」
「なっ!?」
エボルブしたことでアップ状態になる相手センターにアミは絶句。アップしたということは、もう一度攻撃が来る。
「それだけじゃありませんよ。更に二枚破棄することで、前のセンターのパワー、クリティカルを引き継ぐことができます」
22000のパワーアップに、クリティカルコマンドの5000パワープラスの状態、クリティカルは2。
「それと、ベリアルクロウのアビリティ。アブソープションに舞い戻り、更に3000パワーアップ」
「鬼!!」
叫ぶアミ。お前が言うか、である。
アブソープションによりアミのLightningのパワーは11000。墓守は合計44000。
アミは受けるわけにはいかない。相手はクリティカル2なのだ。受けてしまえば負ける。
合計六枚の手札をシェルターサークルに展開する。シェルター値は35000。足りているのだが。
「クリティカルコマンドゲット」
「んなっ!!」
コマンドのパワーアップでぎりぎり壁を超えられる。しかもだめ押しとばかりにプラス1ダメージ。
ダメージコマンドはブランク……
「はい、ではおじさんがお灸を据えましょう。シャホール」
黒い触手がアミを捕らえた。




