第18話 森の向こうへ
蒼い森の中、ナルの案内で辿り着いた大木の洞に純冷、アリ、ナルの三人は身を潜めていた。
純冷とナルのブレイブハーツが終わって、そう時は経っていない。しかし、ナルが戻らないとなれば、いつ次の追っ手が来るかわからない。
ヘレナがブレイブハーツを広めるまで、魔法文化が栄えていなかったアイゼリヤで、唯一、魔法を扱っていた種族がエルフ族だ。
基本的に人々はブレイブハーツ以外で使う際には魔法に何らかの制限がかかっている。純冷が以前、獣人に使ったのも青の魔法カホールだが、おそらく傷つけることを目的としていなかったから使えたのだと思う。実際、森の植物を刈るために元の世界のゲーム[ブレイブハーツ]で出てきた水圧で切る剣のようなものを作ろうとしたのだが、できなかった。
しかし、エルフ族の魔法はヘレナがアイゼリヤの人々に与えたものだけではない。元々エルフ族が確立した魔法だってあるはずだ。それに青の魔法しか使えない純冷が魔法で太刀打ち、など無謀である。
もちろん、そんな無謀な真似をするような純冷ではない。
「……それで、策って?」
「話すが、お前の協力が必要だ。頼めるか? ナリシア」
純冷がナルの青い瞳を覗き込む。
「……アリを、助けられるなら」
迷いのない瞳に、純冷は頷き、話した。
策、といっても、そんな大層なものではない。純冷は至極あっさりと言った。
「この森の結界を破ってほしい」
「……え?」
あまりにも簡単な頼みにナルは思わず目を丸くした。
「私は精霊の導きとやらでアリの元に辿り着いたが、それはこの森に入ってからのこと。この森は、外に繋がっているんだろう? お前が蒼い森の守護者なのは、お前がエルフの中でも優秀で、世界を救った英雄の一人だからだけではない。……外と繋がりを持つ、数少ないエルフだからだ」
違うか? と純冷が問う。それにナルは、微笑みで答えた。
「……すごいな、きみは。驚かされてばかりだ。うん、蒼い森の結界を解くのは簡単だ。問題はその後。きみはアリを連れて逃げるつもりだろうけど、ぼくはともかく、他のエルフたちが簡単にそれを許すとはとても思えない」
怪訝そうな顔でナルは純冷を見つめる。
純冷はあっさり言った。
「だから、貴方も一緒に来てくれ」
ナルがきょとんと目を見開く。純冷は続けた。
「貴方なら、エルフに対抗できるだろう?」
貴方が、アリを守って──
言葉の裏のメッセージを読み取り、ナルははっとした。
「は、ははっ……」
片手を額に当て、笑みをこぼす。今いる森と同じ色の瞳が純冷を見つめた。
「きみは……最初からぼくに助けさせるつもりだったんだ」
「当然だ」
純冷は真っ直ぐ、彼を見つめ返す。
「大切な人を助けたいと願っている人から、その役目を奪いたくはない。私は家族を大切にする人の味方だよ」
そう言った表情は柔らかい。
けれど、家族と口にすると、つい鍔樹のことを思ってしまう。──自分は今、上手く笑えているだろうか。せっかく決意を固めたナリシアに心配なんてかけたくない。
「きみにも、大切な家族がいるんだね」
ナルは微笑んで言った。純冷は頷きながら、すっと表情が消えていくのを感じた。
だめだな、やはり。鍔樹を思うと、辛くなる。
「……守りたいなら」
ナルの呟きに純冷は顔を上げる。
「守りたいなら、守ればいいんだよ。きみが言ったんじゃない。側にいないなら、側に行けるように、方法を探そう」
ナルはとん、と自らの胸を叩く。
「微力ながら、この蒼い森の守護者も協力するよ」
純冷ははっとした。ナルは一緒に行こうと言っているのだ。英雄である彼が一緒とは、微力なんてとんでもない。
そこに、ナルの隣にいたアリも続ける。
「スミレ、わたしも一緒。精霊の巫女、アリシアも」
「……えっ!?」
アリの発言に純冷は驚きを隠せなかった。ナルが来るのなら、アリが来るのは当然だ。それより──
「アリが[精霊の巫女 アリシア]?」
[精霊の巫女 アリシア]は純冷のデッキにも入っているブレイブハーツのカードと同じ名前だ。
「ぼくも驚いたんだ。きみがアリシアのカードを出したとき。ぼくはブレイブハーツのほとんどのカードを把握しているつもりだったから。アリシアと同じ名前のカードがあるなんて、知らなかった」
それであのとき、あんな反応をしたのか。
純冷もなかなか動揺から抜け出せない。
アイゼリヤで実際に生きている人物がカードとしてある。予期せぬ事態ではあったが、それはもしかしたら、この世界を救う手掛かりになるのではないか。
まだ、どうすればいいのか、見当もつかないが。
ただ、ブレイブハーツに勝てばいい。これは、そんな戦争ではないのかもしれない。
となると、アリの存在は重要だ。
「ありがとう、二人とも。一緒に行こう」
純冷の言葉に二人は力強く頷く。
「まずはどこに行く?」
「そうだな。エルフから逃れるのが第一の目的だから」
ナルの問いかけに純冷は少し考え、すっと指を西に向ける。
「黄の街オールに行こう」




