第17話 救いたいなら
「フィールド[世界樹の森]をセット!!」
それに伴い、純冷の後方に大きなうろを持つ巨木が現れた。
「世界樹……」
「貴方たちエルフが崇めていた神木。このカードで、私は貴方の過ちを正す! 更に[ドライアード]をアブソープション」
世界樹のうろから美しい少女が現れる。森の深緑の髪、鮮やかな花々で飾られたドレスを纏い、優雅にRainyに歩み寄ってくる少女。その手足が蔦状の枝でなければ、人間と相違ない。
樹木の精霊ドライアードだ。
イリュージョナルスターが彼女に手を振り、Rainyの纏う水に溶け込んで消える。代わりにドライアードがRainyの隣に並び立った。
「ドライアードのアビリティで山札から一枚選び、リバースバックアップとしてセットする」
純冷はサイドに[シルフィード]をアドベントし、バトルシーンへ。
「世界樹の森のアビリティで、フェアリーアーミーはパワープラス5000だ」
まずはシルフィードの攻撃。
ナルはまだノーダメージ。防ぐことはしない。
「シルフィードの攻撃ヒット時、山札の一番上を確認。志願兵か奴隷のアーミーなら、バックアップにセットし、それ以外ならチャームゾーンへ」
純冷は無言で山札を捲る。そのカードはシルフィードの後方へ。
「リバースバックアップ、セット」
そして、Rainyの攻撃。
「シェルターはしない……」
「コマンドチェック──ドローコマンド」
ナルに二ダメージ目が入る。
「ターンエンド」
「ターンアップ、ドロー……」
ナルはアリを見る。
「アリ……」
消え入りそうな声で名を呼ぶ彼は切なげな表情をしていた。
「ナリシア、お前は、妹を救いたいとは思わないのか?」
純冷は今一度問う。ナルは純冷の視線から逃げるように自陣に目を落とす。
「……逃れられるのなら、そんな運命から、逃がしてやりたいよ……」
「まるで、その方法がないとでも言いたげだな」
「……ぼくには、わからなかった」
小さな小さな声で、ナルは言葉を紡いだ。
「姫巫女ヘレナが戦争を終わらせるために編み出したカードゲームブレイブハーツ。それは戦いを終わらせるどころか悪化させた。その戦いで賢王だったセアラーの王が死に、豊かだったホシェフの大地は枯れ果て死者の都と化し、精霊の力で外界の影響から逃れてきたこの街も徐々に綻びつつある……この状況をどうしたらいい? どうすればいいんだ? ……ぼくにはわからない。わからなかった……! ……ぼくはアリを守りたい。でも、同胞を見捨てることなんてできない。なら、……なら!」
「仕方ない……とでも言いたいのか?」
純冷は低く問うた。
ナルは掠れた声で返す。
「他に方法があるなら……教えてくれよ……」
ターンが進む。
ナルは庭園の守り人をアブソープション、[風の守り人]をアドベントし、バックアップを一枚セットした。
「風の守り人で攻撃!」
「アリシアでシェルター!!」
「センター!」
「イリュージョナルスター! チャームチャージガード!!」
コマンドはブランク。
「ターンエンド」
純冷にターンが回る。
「……ナリシア」
純冷は手札を置き、ネクタイを結び直す。その動作の意味を捉えられず、ナルは純冷を凝視する。
「……私にも、守りたい家族がいる。ちょうど、アリと同じ年頃の弟だ」
襟を整え、手札を持つ。
「本当は、こんなところで世界を救うためなんかに召喚されて、カードゲームなんかするより、あの子を側で守ってあげたい……」
そう言って、ナルに向けられた眼差しは。
「でも、できないんだ。あの子の元に帰る手段がない。でも、私はあの子を守るために戦い続ける! そう決めた」
蒼い焔が宿っていた。
「貴方は今、アリの側にいる。なら、守れ!! 世界がどうだとか、他も守らなくてはとか、アリ抜きで物事を考えられるほど、貴方とアリの絆は薄いのか!?」
ターンアップ、ドロー。
純冷のターンだ。
純冷は[ノーム]をアドベントした。
とんがり帽子を被った小さな老人はパワーこそないが、フェアリーアーミーの連携を支える縁の下の力持ちだ。
世界樹の森のアビリティでフェアリーアーミーのパワーは飛躍的に上がっている今、ノームのパワー不足もさして気にならない。
「……行くぞ、ナリシア。ノームの攻撃!」
「受ける」
ナルのダメージは三に。
「ここでノームのアビリティ。攻撃終了後、相手に自陣のリバースバックアップを一枚指定してもらう。そのカードを開き、それがフェアリーアーミーなら、アビリティは発揮されないが、アドベントできる。他ならチャームゾーンへ移動」
変わった能力であるが、使い方次第では連携の軸になる。絶対にこのカードを選ばせたいというのがある場合は、リバースバックアップを一枚にしておけばいいのだから。
しかし、今の純冷のサークルにはリバースバックアップが二枚。選ぶナルには選択肢がある。
「どちらを選ぶ?」
純冷の挑戦的な問い。ナルはじっと純冷のカードを見つめた。
彼はなんとなく、伏せられたカードの正体を察していた。アイゼリヤにおいて何者も及ばぬほどの叡知を備えたナルは当然、ブレイブハーツのカードも一通り記憶している。故に、現在純冷がセットしている世界樹の森の隠しアビリティも知っているのだ。
ナルの予想が正しければ、片方がナルにとって詰みになるカードで、もう一方が純冷の状況を停滞させてしまうカードなのだろう。
「ナリシア。この選択に、アリがかかっている。だから敢えて私はこう示そう」
純冷は右側のカードを示した。
「こちらを選べば貴方はアリを街に連れて帰ることができる」
すっ、と示す手を左側に向ける。
「こちらを選べば、私がアリを連れ去る。おそらく今の貴方なら、前者を選んだ場合、アリは生け贄にされて終わり。後者の場合は……私を信じてもらう外ない」
心理戦、というほど、挑戦的な色はなかった。純冷はナルを試しているのだ。
「……選ぶ前に一つ教えてほしい」
「何?」
ナルは蒼い瞳を純冷に真っ直ぐ向けた。
「もし、あなたがアリを連れていくとして、あなたはアリを救う方法を知っているのか?」
「違う」
純冷は即答した。
「方法とは言えないが、考えはある。けれども私が言いたいのは、救えるかどうかじゃない──救いたいかどうかだ」
ナルは胸を衝かれた。
救いたいかどうか──
「ならぼくは、あなたに賭ける」
そう言ってナルは左側を指定した。
わかった、と頷き、純冷は左側のカードをオープンする。
「ウンディーネ──アドベントだ」
ナルは純冷の宣言に静かに頷いた。
「……ということは、そちらはあのカードだね?」
「ああ」
ナルに応じながら、純冷はもう一方も開く。カードの正体がばれたからではない。オープン条件が整ったからだ。
「志願兵[サラマンドラ]──オープン条件は隣のリバースバックアップが開くこと」
そしてその能力は、四大精霊への加護。
「自身を含めた四大精霊、ノーム、シルフィード、ウンディーネ、サラマンドラのパワーアップ」
更に、サラマンドラとウンディーネの登場で、世界樹の森は隠しアビリティを発揮する。
攻撃時、五大精霊にクリティカルを一加える。
「受け止めてもらうぞ」
怒涛の攻撃。
勝敗は決した。
「……カホール」
氷の礫がナルを襲った。
けれども、ナルは何か吹っ切れたような清々しい表情だった。




