表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Brave Hearts  作者: 九JACK
青の街マイム
19/127

第16話 蒼い森の守護者

 身構えていた純冷の予想に反し、二人を探し出したのは一人の少年だった。

「ナル!!」

 少年の姿を見、アリが叫ぶ。察するに、この少年がアリの言っていた[ナル]という人物らしい。

「アリ……無事だったんだね」

 アリに微笑むとナルは純冷を見る。辺りの木々と同じ蒼い色の両の目が真っ直ぐ純冷を貫いた。

「あなたは?」

「純冷という。通りすがりだ。そういう貴方は……」

 何者だ、と問おうとして引っ掛かりを覚える。

 澄んだ蒼い瞳のエルフ族の少年。──いや、エルフだから、実際は何百年と長いときを生きているかもしれないが──見覚えが、ある。

「ナル……蒼い森の守護者ナリシアか!!」

 元の世界でのゲームブレイブハーツに出てきたエルフ族の英雄。齢はまだ百に達していない、エルフ族にしては若い彼だが、その叡知は他のエルフたちに引けをとらない。にも関わらず、探求心をなくすことなく、勉学に励み続けている。

 また、閉鎖的なエルフ族では珍しく、他種族との交流も積極的に行っているという。

 話が通じる相手かもしれない、と期待を抱く純冷の一方で、その言葉にナルが表情を険しくする。じり、と間合いを探るように足を動かした。

「確かに、ぼくはナリシアだけど……まあ、いいや。アリを返して」

 蒼い瞳が険しいまま、純冷に要求する。

 純冷はアリを庇うように一歩前に出た。

「それはできない。貴方はこの子がどうなるか、知っているんじゃないのか? この子があの街に戻ったらどうなるか」

 アリの口振りから、てっきりナルはアリの家族か何かだと思っていたのだが──いや、と純冷は思い直す。儀式から逃げるのは裏切り者。家族でも殺す……アリのそんな説明が浮かんだ。

「アリがどうなるかは…………知っているよ。でも……! ……行きずりのあなたには関係ないはずだ。返して」

 ナルは冷たく言い放つが、台詞の前半に、葛藤が見え隠れする。

「……確かに行きずりの関係ではあるが……私だって、街を通りすがっただけで助けようなんて思わない。彼女が助けてほしいと声を上げていたから助けたんだ。だからそう簡単に引き渡すわけにはいかない」

 さっき守ると決めたばかりなのだから。

「……こちらだって、引き下がれない理由はある。精霊王のことは世界の命運にも関わってくることなんだ」

 言い募るナルに純冷はすっと目を細める。

「それは生きているものを生け贄にしていい言い訳にはならない」

「わかっている! わかっているよ……でも、他にどうしようもないんだ……!」

 ナルが苦しげだ。アリが純冷のブレザーの裾をきゅっと握る。純冷はそっとそれに手を添え、離した。

「……本当にどうしようもないなんて言うのなら、私を負かして見せろ」

 手にしていたデッキをナルに突き出す。

「わかった」

 決然と頷き、ナルも自らのデッキを取り出す。スタンバイ、と唱え、現れたテーブルにセットする。

「行くぞ」

「いつでも」


「Brave Hearts,Ready?」

「「Go!!」」


「Rainy」

「古書の守り人」

 共に青属性。

 純冷のRainyは水を纏った精霊。一方ナルの古書の守り人はフェアリーが多い青属性には珍しいヒューマンアーミーだ。エルフ族の彼が使っていること自体も驚きだが。

 純冷の先攻。

「ドロー。[イリュージョナルスター]をアブソープション。バックアップを二枚セットし、ターンエンド」

 純冷は普段は序盤はあまり展開せず、手札の温存に努めるのだが、手札温存のための軸となるフィールド[水霊の集い]を引いていなかった。あまり使わない戦術だが、カウンター重視で行く布陣だ。

「ぼくのターン。ドロー」

 カウンターは白属性の十八番だが、それに次いで青属性はカウンター戦術に富んでいる。果敢に攻めるというよりは守りを固め、相手の隙を突く戦術だ。

 黄属性使いのアミ辺りなら、嫌がるに違いない戦法である。

「フィールド[神秘の書庫]をセット」

 純冷の眉がぴくりと動く。ぼんやりとだが、ナルの戦法が見えてきた。

「[庭園の守り人]をアブソープション」

 間違いない。──純冷はこの一手で確信した。ナルの使おうとしている戦法は、今の純冷とは相性が悪すぎる。

 まず、神秘の書庫は名に[守り人]と入っているアーミーが場に出たとき、一枚ドローできるという能力を持つ。

 それに今アブソープションした庭園の守り人はイリュージョナルスターと同じ能力を持ち、チャームゾーンに入り、場のアーミーたちをシェルターする。

 カウンターは搦め手な分、純粋な防御の壁には弱いのだ。

 おそらく、ナルのデッキは[守り人]アーミーで固められているだろう。名称連携はブレイブハーツの中でも様々あるが、守り人アーミーは中でも強力だとされている。

「続いて[霊樹の守り人]をアドベント。霊樹の守り人でRainyを攻撃」

 霊樹の守り人は正規兵アーミーでノーマルパワーは9000。Rainyはノーマルパワー6000とアブソープションによる付加パワー3000により合計9000。チャームゾーンにカードがあれば、更に3000パワーアップする能力を持つが、残念ながら、チャームは0。同じパワーでは攻撃側が通る。

「庭園と古書の攻撃。コマンドチェック……奴隷アーミー[ローレライ]。霊樹をアップ、再攻撃リプレイ!」

 手札の少ない純冷は受けるしかない。ダメージコマンドは──

「……ドローコマンド。Rainyにパワーを与え、一枚ドロー」

 ドローしたカードはフィールドカード。しかし[水霊の集い]ではなく、純冷はあまり使ったことのないカードだ。

 だが、今の戦術にはうってつけだ。

 それに。

「リバースバックアップ、オープン」

 前のターンに伏せたカードのうち、一枚が開かれる。現れたのは[精霊の巫女 アリシア]。奴隷アーミーで今しがた引いたドローコマンド持ちだ。

「アリシア……!」

 ナルが驚愕している。そう珍しいカードでもないはずだが……扱いづらいから、使用者が少ないのかもしれない。

「アビリティは知っているな?」

「……ああ」

 自分のリバースバックアップを一枚破壊し、相手のサイドを破壊する。この能力により、 ナルの霊樹の守り人はダウンチャームへ。

 純冷の戦術はそれだけに止まらない。

「破壊に指定されたため、もう一枚のバックアップもオープンする」

「えっ!?」

 二人の戦いを見ていたアリが声を上げる。

「オープン条件は[破壊に指定されたとき]だからね。自分が指定しても条件の対象になるんだ」

 ナルが説明する。

 基本的にカウンター目的のリバースバックアップは自発で発動することが少ない。けれども、確かに能力の記述には[相手の]という指定が入っていないものが多い。思い込みを逆手に取り、自分に有利な状況を作る。これが青属性のカウンターだ。

「[ウンディーネ]のオープン時アビリティは、センターが青属性アーミーなら、ドローできるというもの。そちらに影響はないさ。能力発揮後、ウンディーネはダウンチャームへ」

「ターンエンド」

「では、私のターンだ」


 純冷は一枚ドローしつつ、ナルを見た。

「……聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「どうぞ」

 警戒の色がまだ濃い蒼い双貌が先を促す。

「アリと貴方はどういう関係なんだ?」

 純冷の問いにアリの肩がぴくんと跳ねる。ナルはそんなアリを悲しげな面差しで見やった後、答えた。

「家族だよ。血の繋がりはないけれど……大切な、妹だ」

 大切な──その言葉に純冷の中からふつふつと沸き上がるものがあった。

「わからないな」

 少々ぶっきらぼうに言い捨てる。──純冷は憤りを覚えていた。

「家族なら、何故守ってやらない? 何故大切なものが何かの犠牲になるのをよしとする? それで蒼い森の守護者だと? ふざけるな!! 家族一人守れず、何が守護者だ」

 純冷は言いながら、その言葉がそのまま自分に返ってくるのを感じた。──私は、こんなことをしている場合ではないんだ。本当は元の世界で鍔樹を守らなくてはならないのに……

 でも、この二人を放ってはおけない。

 鍔樹と同じ年頃の少女が、世界の犠牲になるなんて、それを本当は守りたいと願っているのに、そうしない兄をそのままにするなんて、できはしない。

 私と鍔樹のようにさせはしない──純冷はそんな思いでナルと対峙していた。

「……アリを、守りたい……」

「なら!」

「でも!」

 ナルは強くこう返す。

「でも、アイゼリヤで起きている事変を止めるためには……精霊王の力にすがるしか、そんな方法しか今のぼくには見つけられないんだ!!」

 血を吐くようなナルの叫び。純冷は静かな眼差しを彼に向けた。

「本当に、そう思うのか?」

 静かな、低い問いかけ。

 ナルは純冷を見た。

「本当に、そう思っているのか?蒼い森の守護者、ナリシア!!」

 叫びとともに、純冷は一枚のカードを掲げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ