第12話 隠しアビリティ
千裕のバトルシーン。
「ウォシェ、鎖使い Knight、行け」
「ウォシェの攻撃はシェルターするわ!」
シェルターサークルにサイドのラドゥエリエルが移動する。ウォシェの牙はLightningに届かない。しかし、鎖で剣と結ばれた騎士が斬りつける。
「コマンドチェック……クリティカルコマンドゲット」
「くっ……」
アミに二ダメージが入る。ダメージコマンドは二枚ともブランクだ。
「フィールド[時止まりの古城]のアビリティ発動。……白属性のセンターの攻撃が通ったとき、ブレイブポイントを二使用することで、センターのアーミーを一体選び、アップする」
「なんですって!?」
もう一度、センターの攻撃。千裕の鎖使い Knightは単体で17000のパワー。更に先程のコマンドでパワーアップされた上、クリティカル二も健在だ。
「……でも、あたしだって、ただやられるばかりじゃないわ! リバースバックアップ、オープン!!」
現れたのは[暁の天使 ルシフェル]。
ルシフェルといえば、神に背いた堕天使ルシファーとして有名だ。黄属性のこのルシフェルは堕天使になる前、まだ神に仕えていた高位の天使だった頃の彼だ。
それはさておき、ルシフェルのアビリティ。ルシフェルのオープン条件は[相手より自分のダメージが多く、相手センターが攻撃してきたとき]である。
「ルシフェル、天使の祝福を、センターに!」
センター以外の場の天使の数×5000、センターにパワーを与える。
場の天使はミカエルと今現れたルシフェルの二体。よってLightningに10000パワーがプラスされる。
アミのLightningはノーマルパワーが7000。アブソープションで3000アップし、10000。ルシフェルの能力で合計20000だ。鎖使い Knightは22000。そのパワーの差はかなり縮んだ。アミの手札にはまだ余裕がある。充分シェルターは可能だ。
しかし、千裕は信じられない言葉を口にした。
「リバースバックアップ、オープン」
「「えっ!?」」
アミが驚く。同時に、開かれたカードの名に昴が驚く。
オープンしたのは[Knight]──裕弥のリバースメインアーミー。
「……千裕……いや、…………裕弥?」
昴がKnightをオープンし、俯いたままの彼に声をかける。
顔を上げた彼の顔つきに、アミがはっと息を飲む。サバーニャとハンナも同様だ。
「……ん、やあ。昴」
柔らかく昴に微笑む彼は千裕と全く同じ姿をしながらも、全く違う笑い方をしていた。
「裕弥」
「さっきは途中でごめんね。千裕が勝手に……」
「いや、それはいいけど、アミとのゲームの途中だよ?」
昴は千裕に切り替わったことで中断された自分と裕弥の戦いを思い出す。ここで続行不能なんてなったら、アミは……この上なくキレる。間違いない。
「問題ないよ、昴。僕のデッキを千裕が使うことはできないけど、僕はこのデッキでも戦える。……これは、僕が望んだデッキだから」
望んだ……? と、昴は首を傾げるが、すぐ意識を目の前の戦いに戻す。
「Knightのオープン条件は[相手のバックアップが開かれたとき]。そしてそのアビリティ──ルシフェルを強制ダウン。次のターン、アップシーンではルシフェルはアップできない」
センター後方のルシフェルが無力化される。アミが唇を噛む。カウンターに対するカウンター。
なんて徹底的なんだ。
「でも、攻撃しているセンターのパワーが上がったわけじゃないわ!」
「……どうかな」
アミがシェルターとして[煉獄の番人 ウリエル]をアドベントする。ウリエルは奴隷アーミーでシェルター値は10000。コマンドが出ても通らない。
「コマンドチェック……よく来たね、ディーヴァ」
[囚われの姫君 ディーヴァ]。クリティカルコマンドだ。「何よ、コマンドが出たところで、このシェルターは越えられないわ」
「……いいや」
裕弥は時止まりの古城を示して言った。
「時止まりの古城のアビリティがここで発動する」
「どういうこと?」
「……ピンポイントアビリティ」
それは特定の環境下で、特定のアーミーが出揃ったときにのみ発動する、隠しアビリティだ。アミがバイゼルとの戦いで使った[天使たちの演舞]もそう。
「古城に住む歌姫が姿を現すとき、その歌声が優しい絶望をもたらす。──コマンドチェックで[ディーヴァ]の名を持つアーミーカードを引いたとき、場にいるヒューマンアーミーを一体選び、チャームに置くことで、センターはチャームに入れたアーミーのパワーを得る」
「なっ……!」
裕弥が引いたのは奴隷アーミー[囚われの姫君 ディーヴァ]。そして場にいるヒューマンアーミーは今出たばかりの[Knight]。Knightのパワーは7000。22000に7000上乗せすると、29000。アミのLightningはルシフェルのアビリティで20000のパワーを得、シェルター値10000のアーミーが呼ばれている。合計30000パワー。僅かながら裕弥のセンターのパワーは届かない。
しかし、それはまだ、コマンドのパワーを参照していない。裕弥が引いたのは、奴隷アーミーのディーヴァだ。彼女はーークリティカルコマンド持ち。
「くぅっ!?」
アミは三ダメージを受ける。ヒーリングコマンドが二枚引けないと、彼女の敗北は必至。
「…………」
一枚目、ブランク。
二枚目、ヒーリングコマンド。
「ダメージを一回復」
そして、三枚目。
「……っ……!」
[道化の堕天使 アザゼル]──ドローコマンドだった。
「あたしの……負けよ」
「……ん、ありがとうございました」
項垂れるアミに裕弥が行儀よく一礼する。それからアミに手を差し出した。
「……何?」
「握手。楽しかったから。あと、本当の思い、話してくれて、ありがとう」
「…………大したこと言ってないわよ?」
アミはどこか恥ずかしそうに応じた。
「ううん。僕にとって、[嘘じゃなかった]ってだけで充分、大したことだよ」
そう言ってアミに微笑むと、今度はサバーニャとハンナに目を向けた。
「変に時間を取ってしまってごめんなさい。改めて自己紹介します」
裕弥はテーブルのカードを片付けると、いずまいを正し、名乗った。
「僕は裕弥。苗字は思い出せないんだけど、異世界から来た白のブレイブハーツテイカーです」




