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Brave Hearts  作者: 九JACK
白の街セアラー
14/127

第11話 アミvs千裕

 アミは走っていた。

 辺りは人っこ一人いない。彼女についてくるハンナだけだ。

 アミが走り出したのは、五分程前のこと。バイゼルを蹴散らし、昴はどっちに行ったのだろう、と悩んでいたときだ。

 どぉぉぉんっ!!

 爆音が轟き、大地を揺らした。現在位置から北東方面から、火の手があがっている。

「嘘……何よ、あの炎」

 それを見てアミはすぐさま昴を連想した。昴は赤属性使い。炎の魔法[アドム]を使う。──昴に何かあったのだろうか。

 そして、アミは不安を抱えながら、その方角へ走っているのである。

 人はいない。不自然なまでに。

 しかし、それは幸いだ。 ブレイブハーツを挑んでくる者がいないため、スムーズに進める。

「まだなの!?」

「距離的にはもうすぐのはずですが」

 ハンナが答えてから、あっと声を上げる。

「誰かいます!」

 爆発の余波で残っていた煙が薄まっていく中に、二つの影が見えた。

「昴!」

「……アミ?」

 昴の声が答えた。アミはほっと一息吐く。

 煙が晴れてきた。そこにいたのは昴と昴に抱えられた白髪の少年だった。

「サバーニャは?」

「街の中央に行ったよ。情報を仕入れるって」

「素晴らしい情報屋魂ね。で、あんたは? なんでこうなったの? っていうか、その子誰?」

「うーん……何から説明しようか……」

 とりあえず、と昴は更に向こうを指差し、提案した。

「合流できたから、サバーニャのところに行こう」


 街の中央──というのはただの呼び名で、そこはセアラーの北側にある。

 そこはこの街で唯一、建物がある場所だ。ブレイブハーツで勝ち抜いた者たちだけがそこで暮らす特権を得ている。負ければ、すぐに他の者に奪われるのだが。

「一部例外があるわ。それはカードショップを筆頭にこの街で営まれている店の店主よ。店の経営なんて、そんじょそこらの人ができるもんじゃないからね」

 サバーニャはカードショップで待っていた。街らしいところがあるのね、と呟いたアミにサバーニャが説明した。

「まあ、わたしはこの街よりも昴が連れてきたそっちの男の子の方が気になるけど」

 サバーニャが裕弥を見やる。昴は苦笑いをして、ゆっくり語り出す。

「彼は裕弥。白のテイカーだよ。サバーニャは見てたろ?」

「まあね。でも、あなたたちがどうしてその子を探していたのか──あの現象は何なのか、そろそろ教えてくれない?」

 あの現象、という言葉にアミが反応する。

「そうよ、あんた、説明しなさい。あの爆発は何だったの?」

「うーん……」

 問い詰められて、昴は困ったような笑みを浮かべた。ちらりと隣で眠り続ける裕弥を見やる。目を覚ます様子はない。

「まあ……俺もよくわかってないんだけど」

 昴は一連の出来事を思い返した。


 千裕と囲んできたものたちに相対し、幾度となくブレイブハーツを繰り返した。

 その最中、勝ち続ける千裕に対し、いかさまだと暴れ始めたものがあった。千裕の挑発的な言動もあり、騒ぎはあっという間に全体に広がってしまった。

 千裕は自分を取り囲む人だかりから抜け、昴に合流すると、こんな提案をした。

「昴、アドム、出せる?」

「え? あれってブレイブハーツで勝ったときしか出せないんじゃ?」

「自分のリバースバックアップを手にして念じればできるはずだ。俺もラヴァンを使う。これでこいつらを撒こう」

 そんなことができるのか、と思いつつ、人だかりを見て意を決する。逃げるにはそれが一番手っ取り早い。

 昴たちが何かしようとしているのに気づいたのか、人だかりが昴たちに襲いかかる。

「今だ!!」

 千裕が叫ぶ。そして昴と千裕は唱えた。

「アドム!」「ラヴァン!」

 炎が生まれ、疾風がそれを巻き上げる。

 炎の影に二人は隠れ、逃げようとした。

 が、

 こんっ、こんこんこん……

 何かが地面に投げられる音がした。

「まずい、昴、伏せろ!!」

「えっ?」

 訳がわからず、反応できずにいる昴を千裕が庇う。

 瞬間、爆発が、二人を吹き飛ばした。


「……で、結局あの爆発は何だったの?」

 聞き返すアミに、昴は肩を竦める。実際、彼も何故爆発したのかよくわからないのだ。千裕は何かわかっていたようだが。

「……多分それ、手榴弾ね」

 サバーニャが言った。あまり馴染みのない言葉に昴はきょとんとする。

 手榴弾。知識としては知っているが。

「なんでそんなものが?」

「忘れた? アイゼリヤは元々、戦争してたのよ? ブレイブハーツできる前は武器を使って、互いに殺し合っていたの。その名残が今の昴の話に出てきた手榴弾ね」

「えっと……魔法戦争とかではなかったの?」

 昴の記憶では、ゲーム[ブレイブハーツ]のアイゼリヤは魔法の発展した世界で……という設定だったはずだ。

「魔法戦争はなかったわよ。代々姫巫女様が、人を傷つけるような魔法は禁じてきたし、例外的にそういう魔法を使える特権を持つ魔法使いっていうのがいるけど、それも片手で数えられるくらいしかいないわ」

「でも、俺たち、ブレイブハーツで魔法を……」

 あ、と昴は気づく。

 アルーカは[魔法はヘレナが特別に追加したルール]というようなことを言っていた。

 つまり、元々魔法は主流ではなかったのだ。

「なるほどね。じゃあ戦争は普通に大砲だの戦車だの、物騒なものをぶっぱなしてやってたわけか」

 アミの言葉にサバーニャが頷く。

「まあ、最近はめっきり見なくなってたけど、それを一瞬で見抜いたのはすごいわね」

「お誉めにあずかり光栄だよ」

 昴はそこで隣の少年が目を覚ましたことに気づいた。

「千裕!」

「よう、昴。どうやら生きてたらしいな。ところで、こいつらは?」

 昴は千裕にアミ、ハンナ、サバーニャの順で紹介する。

「昴、なんか聞いてたのと雰囲気が違うんだけど?」

 アミが千裕を見て言う。そういえば、アミには裕弥の方についてしか説明していなかった。──確かに千裕は記憶喪失でどこか気の抜けた感じは微塵もない。

「……ええと……千裕、話していい?」

「話すに値するならな」

 辺りの空気が険しくなる。緊張感がぴりぴりと皮膚を焼くような感覚に昴はいずまいを正した。

「何、ですって?」

 真っ先に声を出したのは、アミだ。低い声。昴には覚えがあり、うわー、と心の中で呟く。

 ……アミって堪忍袋の緒、短いよね……

「……あんた、情報屋のサバーニャ?」

 千裕はアミを無視し、サバーニャを見る。サバーニャはええ、と短く答える。

「なら、俺が言いたいこと、わかるよな?」

「ちょっと! 何無視してんのよ!?」

 アミが射殺さんばかりに千裕をねめつける。

「まあ、アミ。落ち着いて。この子は真っ当なことを言おうとしているだけだから」

「何よ、サバーニャ!」

 サバーニャが宥めて、溜め息を吐く。

「わたしがあなたたちと初めて会ったときに言ったのと同じよ。情報を得るに値するか、彼はまだ納得していないの」

 む、とアミが引き下がる。千裕を睨んだままだが。

「で? じゃあ、あんたはどうしてほしいの? どうしたら、教えてくれるわけ?」

「簡単だよ」

 刺々しいアミに千裕は柔らかな笑みさえ浮かべて答えた。

「ブレイブハーツだ」


 とてつもなくやる気満々だったアミの表情が、固まった。

 そういえば、千裕は白使い。アミは白属性が苦手だって言ってたっけ。

「い、いいわよ。喜んで相手するわ!」

 お誂え向きに、ここはカードショップだ。アミと千裕はテーブルに移動する。

「準備はいい?」

「いつでもいいわよ」

「じゃあ……Brave Hearts,Ready?」「「Go!!」」

 千裕は白属性[鎖使い《チェーンマスター》Knight]。

 アミは黄属性[Lightning]。

 千裕の先攻。

「ドロー。リバースバックアップをセット。ターンエンド」

 エボルブもアブソープションもしない白属性独特のプレイスタイル。その扱いづらさから、白使いは少ないが、ものにすると強い。アミは数多のテイカーと戦ってきたが、白属性とは相性が悪い。黄属性の破壊系アビリティに対して、てきめんに白のカウンター戦術は相性が悪いのだ。

 のっけから展開しない千裕に不気味さを覚え、アミの顔は若干ひきつっている。

「あたしのターン。ドロー。[エンジェルナイト パロエ]をアブソープション」 パロエのアブソープションアビリティで、フィールド[光の加護]をセットする。

「リバースバックアップをセットし、バトルシーン!Lightning、Knightを攻撃!」

 コマンドは両者ともブランク。

「ターンエンド」

「……ドロー。フィールド[CHAIN ROAD]をセット。[小刀の鎖使い《チェーンマスター》ウォシェ]をアドベント」

 鎖使いKnightの隣に灰色の毛並みの子狼が並び立つ。

「CHAIN ROADのアビリティ。場に鎖使いが現れたとき、その鎖使いにパワー5000を与える」

 千裕の攻撃。

 鎖使いKnightは、他の鎖使いがいるとき、常に12000パワーだ。

「くぅっ!」

 デッキは同じ白でも、裕弥とは全く違うカードばかりだ。しかし、白属性独特のプレイスタイルを見事に駆使している。

「アミ、千裕のバックアップを気にしているもんね」

 アミは下手に展開せず、アブソープションとリバースバックアップ、フィールドのセットだけに止めている。

 けれど、それでは勝てない。昴が対戦したのは裕弥だが、基本的にプレイングは同じだ。

 昴の対戦は途中で終わったが、あれは自分のペースを乱される。そして、ブレイブハーツ中にペースを乱されると、カウンター戦術にはまり、自分のプレイができなくなる。

「アミ……」

 昴はアミを見る。二ダメージが入った。

「ターンエンド」

 千裕が淡々と告げ、アミにターンが回る。

「ターンアップ、ドロー。光の加護のアビリティで、山札の上五枚を公開。天使は[大天使 ミカエル]、[記録者メモライザー ラドゥエリエル]、[仮面の天使 アザゼル]の三体。よって、ウォシェとリバースバックアップ、フィールドを全て破壊!」

「リバースバックアップ、オープン」

 千裕の静かな宣言に、アミはぐっと空いている手を握りしめる。やはり、破壊指定がトリガーだった。

「[聖盾の鎖使い《チェーンマスター》 イオ]。破壊に指定されたとき、他のカードに加護を与える。イオ、ウォシェを守れ」

 現れた小さな女の子が、鎖でくくりつけられたいかにも重そうな盾を背負わされている。これこそが、白の奴隷アーミーのイオだ。

 その盾をもって他の仲間を守る。盾は聖盾で、防御力は最強クラスだが、幼い彼女は盾を使いこなせず、仲間を守るとすぐに退却してしまう。

「くっ、そんなのあり……!?」

 破壊アビリティを無効にされ、一枚はアドベントできずダウンチャームへ。

「ミカエルとラドゥエリエルはアドベント!ラドゥエリエルのアビリティ。ミカエルに加護を」

 記録者 ラドゥエリエルは大天使の名を冠する天使のパワーを上げる能力を持つ。

「さあ、攻撃よ!」

 ミカエルの攻撃。

「[囚われの姫君 ディーヴァ]でシェルター」

「Lightning! コマンドチェック。リプレイコマンド! ラドゥエリエルにパワー5000プラス、ミカエルをアップ」

「……ドローコマンドゲット」

「くっ……」

 パワーアップが相殺され、せっかくアップしたミカエルの攻撃も通らなくなる。

「……ターンエンド」


「ターンアップ、ドロー……ねぇ、お前はどうして戦うんだ?」

 不意に千裕が問いかけた。アミがきょとんと目を丸くする。

「へ? 何言ってんの? この喧嘩ふっかけてきたのはあんたでしょ?」

「いや、そうじゃなくて。──ブレイブハーツウォーズに参加しようと思った理由」

 アミがぴくん、と手を震わせる。

「そ……そんなこと聞いて、何になるのよ?」

「別に何も。ただ……もういいかな、と思っただけ」

 アミが眉をひそめる。

「まさかあんた、この勝負を途中で投げようってんじゃないわよね?」

「まさか! 中途半端は気持ち悪い。俺が言ったのは、もう、俺と裕弥のことを教えてもいいかなってことだ」

「へ、ぇ?」

 随分と態度が違う、何かいいカードでも引いたのだろうか?

 千裕の様子を伺うと、ドローしたカードを手札と別にしたままだった。──あれがキーカードか何かかしら?

「……リバースバックアップ、セット」

 千裕はそのカードをバックアップに置き、フィールド[時止まりの古城]をセットした。

「俺は、裕弥を守るために戦う。ずっと戦ってきた。だから、裕弥のためなら、いくらでも戦う。裕弥が望むことのために」

「……よく、わからないけど……あんたがそこまで教えてくれるんなら、あたしも…………あたしは」

 昴も固唾を飲む。

 アミは一気に吐き出すように言った。

「あたしは全部壊したい。あたしの、息苦しい日常を。……それが正しいかどうかなんて知らないけど」

「そう……」

 千裕は、これまでになく、優しい微笑みを浮かべた。


「もしかしたら、僕と、同じ願いなのかもしれないね」


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