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Brave Hearts  作者: 九JACK
白の街セアラー
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第10話 裕弥と千裕

 アミとバイゼルの戦いが佳境を迎えていた頃。

 昴はサバーニャと共に走りながら、目的の人物を発見した。

 風がごうごうと吹き荒れ、白髪の少年と相対していた獣人の男に襲いかかっていた。

「ぐあぁぁぁっ!!」

 男が叫びを上げ、倒れると、風は止み、辺りは嘘のように静まり返った。

「裕弥」

 昴が呼び掛ける。白髪の少年はゆっくりと振り向いた。

「……昴」

 振り向いた顔は確かに裕弥だった。なんとなくだが、千裕ではないとわかった。

「エシュにいたんじゃなかったの?」

「君を探してここまで来た」

 裕弥ははっとし、目を伏せた。……おそらく、思い当たったのだろう。

「聞きたいことがある」

「……だろうね。でも、僕は答えたくない」

「なら、聞かない」

 昴のあっさりとした返事に裕弥が目を丸くして昴をまじまじと見る。

「いいの?」

「うん、千裕のことは聞かない」

 昴がそう限定したため、裕弥は解きかけた警戒心を結び直す。

「……じゃあ、何か聞きたいの?」

「うん……俺は、裕弥が……できれば千裕も……戦っている理由を知りたい。本当は千裕が誰なのかも知りたいけど、今はいいよ」

「どうして?」

「今は、裕弥がどうして化け物扱いされるくらい戦い続けているのかの方が気になる」

 昴は頭にきていた。

 裕弥について、情報提供してくれた人は皆、口を揃えて裕弥を化け物と表現した。それが気に食わなかった。

「そのためにはどうしても千裕の話をしなくちゃならない。だから、話したくない」

「なら、俺と戦って」

 それが昴の交換条件だった。

「いいよ。勝ったら何も聞かないで。負けたら、話すから」

 テーブルが現れる。二人はデッキをセットした。

「Brave Hearts,Ready?」

「「Go!!」」


 白属性[Knight]。

 赤属性[BURN]。

 裕弥の先攻だ。

「ドロー。フィールド[境界の王国]をセット」

 やはり、アブソープションもエボルブもしない。

「バックアップを二枚セットし、ターンエンド」

 バックアップがセットされた時、[境界の王国]のアビリティでセンターのKnightのパワープラス5000。

 Knightのノーマルパワーは7000だから、これでフィールドが破壊されない限り常にパワーは12000となる。

「俺のターン。ドロー」

 アブソープションもエボルブもしない。それが裕弥のプレイスタイル。その分、フィールドやバックアップによる補助アビリティが豊富な白属性デッキ。

 しかし、白属性の真髄はそこではないと昴はアミから聞いていた。

 アミは白属性と相性が悪いらしい。

 白属性の特徴は[相手の行動の制限、妨害、カウンター]だ。黄属性と相性が悪いというわけではないが、攻撃的な能力の多い黄属性は能力が一方通行になりがちでカウンターにはめっぽう弱い。

 考えればいくらでも手はあるのだが、そういうのを考えるのが苦手なのだろう。という結論に昴は至ったが。

「エッジスナイプドラゴンをアブソープション。アビリティで山札の一番上を公開。[ブレイドブレイクドラゴン]をアドベント!」

 ブレイドブレイクドラゴンのアドベントアビリティ。

「炎竜の振るう剣閃は、姿なき敵をも切り裂く」

 相手のリバースバックアップを一枚破壊できる。

「……リバースバックアップ、オープン」

 指定されたカードがオープンされる。

 昴は慌てない。昴も[炎霊 かぐら]という破壊に指定された時にオープンされるカードがあるからだ。

 しかし、現れたカードに昴は動揺した。

「奴隷アーミー[藍染AIZEN]」

 それは、青属性のゴーストアーミー……純冷の使っていた、ヒーリングコマンドを持つ奴隷アーミーだった。


「な、なんで裕弥がAIZENを……?」

 AIZENは青のアーミーだったはずだ。

「もしかして、青のAIZENに会ったことがあるの?」

 裕弥の問いに昴がこくこくと首を振る。

 そこで、裕弥はオープンしたAIZENのカードを昴に見せた。しばらくカードとにらめっこし、ふと気づいた。

「絵柄が違う?」

「属性もね」

 昴のいた世界でも、絵違いで同じ名前のカードがあるカードゲームはあった。しかし、藍染AIZENの違いはそういうものではない。

「同じ名前だけど、青のAIZENとは違うカードだよ。……夫婦なんだ」

 そう、純冷が使っていたAIZENは女の霊だったが、こちらは男で白属性。

「AIZENは特殊アーミー。白のAIZENは青のアーミーとしても扱われるし、青のAIZENは白のアーミーとしても扱われる。ヒーリングコマンドなのも一緒。違うのは、細かいアビリティ。──AIZEN、我に徒なす者に戒めを」

 AIZENの手にある藍い染布がエッジスナイプドラゴンをアブソープションしたことによって追加されたBURNの装備に巻きつく。ぎりぎりという音がしたが、壊れたのはBURNの武装の方だった。

「なっ……」

「AIZENは孤独を好み、絆を疎む。固く結ばれた縁を壊さずにはいられない、哀しき魂。故に、君のBURNと結ばれた絆は一時的に断たれる」

 エッジスナイプドラゴンのアブソープションによって得たパワーがなくなる。

 白のAIZENは、破壊に指定された時オープンし、次の相手のターンまで、相手のアブソープションを無力化するのだ。

 BURNのパワーは一気に届かなくなる。

「そしてAIZENはダウンチャームには行かず、山札へと戻る」

 これで、ヒーリングコマンドとしての役割を果たす可能性が上がる。

「まだ始まったばかりだよ、昴。驚くのは早すぎる」

「……ん、そうだね」

 昴はカードを一枚掲げた。


「フィールド[荒れ果てた荒野]をセット!」

 そして、リバースバックアップを一枚セットし、バトルシーンへ。

「ブレイドブレイクドラゴン、Knightを攻撃!」

 裕弥はシェルターせず、ダメージコマンドを確認。ブランクだ。

「BURN!」

 アブソープションを無効にされたため、BURNはノーマルパワーの6000にフィールド効果によるパワーアップしかない。

 まだ序盤であまり展開していない状況ではパワーもさして上がらない。BURNのパワーは僅かにKnightに届かない。

 けれど、その差を[僅か]にまで縮めたことに意味がある。

 センターの攻撃時には、出ればパワープラス5000のコマンドチェックがあるのだから。

「コマンドチェック!」

 出たカードは志願兵[火種の竜 アラク]。──コマンドではない。

「……ターンエンド」

 昴は一ダメージしか与えられなかった。

 これが、裕弥の強さ。

 戦いは始まったばかりではあるが、昴は深く実感した。


「ターンアップ、ドロー……リバースバックアップを一枚セットし、バトルシーンへ」

 この時、Knightは自らの能力でパワープラス5000。フィールドの能力も合わせ、単体で17000のパワーだ。

 昴はシェルターせず、受ける。裕弥のコマンドチェックはブランクだ。

 しかし。

「[鎖使い《チェーンマスター》Knight]……?」

 見たことのないカードだ。昴は裕弥が対戦しているところを何度か見ているが、裕弥のデッキに入っているところを見たことがない。

 裕弥を見ると、彼自身、驚いているようだった。

「千裕……」

 ゆらり、と裕弥の体が傾ぐ。昴がカードを放り出して駆け寄ろうとしたが、裕弥は踏みとどまった。

 裕弥の視線がゆっくりと昴に向く。

 裕弥じゃない──昴は直感的にそう思った。

 前に見たことがあるのだ。

「……ああ、お前か」

 それは、千裕だった。


「君……千裕?」

 昴が念のため訊くと、彼は嬉しそうに微笑んだ。

「ああ。裕弥と区別してくれて嬉しいよ」

 まるで別人であるかのように同じ顔で笑った。

「どうして、俺の前に現れたの? 裕弥は知られたくなかったみたいだけど」

 [何を]の部分は敢えて伏せた。

 裕弥の事情はよく知らないが、昴は千裕がどういう存在なのか、すぐにわかった。

 千裕は、もう一人の裕弥だ。

「裕弥がお前を信じたからだ」

 千裕は[鎖使い Knight]を片手で弄びながら答えた。

「裕弥が……俺を?」「ああ。森で倒れている裕弥に、心配して近づいてくれた。声をかけて、話を聞いてくれた。だから、赤の街に着く頃にはもう、心からお前を信じていた。初めての友達だ。だから──知られたくなかっただろう、俺の存在を」

 千裕は人差し指の先に器用にカードを立てた。ぴん、と親指でカードを軽く弾き、回転させる。

「だから、あの時、深くは明かさず、お前の前から去った。裕弥の友達として本当に信じていいのか、俺はまだ疑っていたからな。……その必要も、もうないと思ったから、出てきた」

 ぴたり。カードの回転を止め、千裕はカードを昴に差し向けた。

「勝負はお預け。別に勝たなくても話すよ。お前が知りたいこと」

「えっ?」

 昴は呆気にとられた後、困ったような表情になった。

 千裕は怪訝そうに眉をひそめる。

「なんだ? 何か問題でもあったか?」

「ええと……」

 アミがいたら間違いなく「あんたって本当に、ブレイブハーツ馬鹿ね……」と呆れられるだろう。

「千裕、このブレイブハーツ、決着着けない?」

 きょとん。

 狐につままれたような顔でまじまじと昴を見つめる。

「いや、決着つかない状態で終わるのってなんだか気持ち悪くてさ」

 少し頬を掻きながら昴が続ける。千裕は数秒黙り込んだ後、噴き出した。

「ははははははっ、お前って本当面白い。けど、悪いな。これは裕弥のデッキだ。俺は俺のデッキじゃないと戦えない」

 また今度、と千裕は言いながら、デッキを片付け、そして周囲を見回す。

「それと……悪いけど、付き合ってくれる? 最近、人気者で困ってるんだ」

 昴もはっと気づいた。

 何十人とが二人を囲っていた。

「ブレイブハーツなら、いくらでもやれるよ!」

「おう、頼もしいな」

 千裕が屈託なく笑う。

 二人は向かってくる者たちに相対した。


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